第119話 孤児たちの行方

「ゲイル、改めてあの子達がここに来た経緯を話してくれないか」


まずアーノルドが話を切り出した。


「珍しい果物の採取依頼をギルドに出したんだよ。なんか面白いものあるといいなぁってだけで」


「それで?」


「初めに持って来てくれたものが良かったから、もっと取って来てくれって指名依頼出した。そしたらそれが騒ぎになったらしく、その話を聞いたあの子達が椎の実を持って来たんだよ」


「あのドングリみたいなやつか?あんなのどこにでもあるだろ?」


「ドングリと似てるけどあれはちょっと違って食べられるんだよ。で買い取ることにしようと思ったんだけどどうみても冒険者じゃなかったからね。他の冒険者に直接取引先してると思われたらまずいからこっちに直接来るように言った」


「それだけで直接屋敷に来いと言ったのか?ベントならこういう場合どうする?」


「はい、元々直接依頼をしていたのならいいですけど、ギルドに出した依頼を冒険者でも無いものから買い取りしません。ばれるとまずいから違う場所でというのはもっと良くありません」


「そうだな、ギルドに出した依頼をギルドを通さずにやりとりするのは良くないな。ゲイルもドワンやダンと一緒にいることが多いんだからその辺は良くわかってるだろ?」


知ってるよとうなずく。


「分かっててやったのか?どうしてだ?」


「まぁ、子供だったし汚れてたから訳ありなのかなと思ったからかな。訳があったとしても俺が解決出来る事でもないからね」


「ベントは汚れた子供が金稼ぎにくるのはどんな訳があると思う?」


「貧しい家の子だと思います」


「そんな子がお前のところにこれを買ってくれと来たら?」


「価値があるものなら買うかもしれませんし、無いものなら買いません。お金が無いのはその家の責任です」


「そうか。ゲイルは何を想像したんだ?」


「貧しい家、育児放棄、孤児かな。貧しいだけなら椎の実拾いでも自分で稼げばいいとは思った。農家や商家の子供が仕事手伝うのとかわらないからね。そうで無ければ俺には解決出来ないとおもった」


「ならなんでその場でその子に聞かなかったんだ?」


「言いたく無い理由かも知れないし、自分より小さい子供に助けを求めるわけないと思ったから」


「そうか。でギルドのルール違反と知っててここに呼んだのか」


「そうだね、妹がいるのは初めて知ったけど」


「それで実は孤児だったと」


「家が無いって聞いた段階で母さんを呼んだ。小遣い稼ぎうんぬんじゃなくなったからね」


「わかった。説明ありがとう」


「じゃ、俺はここで・・・」


部屋を出ようとした俺の頭をむんずとアイナに掴まれた。


やめて、そんな怪力で掴まれたら新しい顔が必要になってしまう。


「どこ行くの?」


「俺の話は終わったから部屋に戻ろうかと」


「あなたが連れて来たのよ。最後まで話を聞きなさい」


いいよ、後で結果だけ教えてくれればと言い掛けるより前にアイナクローが俺の頭を締め上げる。


わかりましたと返事したことで解放された。頭蓋骨歪んだんじゃなかろうか・・・


「さて、事の経緯が分かったところであの子達をどうするか決めよう」


「ベントはどうするべきだと思う?」


「どこか面倒を見てくれる家を探せばいいと思います」


「それは誰が探すんだ?その方法は?」


「そ、それは・・・」


「ゲイルならどうする?」


「それは領主である父さん達が考えなよ。俺の出る幕じゃない」


「そんな事はわかってる。お前に決めろと言ってるんじゃない。お前の考えを聞かせてくれと言ってるんだ」


なんだよー、フツー3歳児に孤児の扱い聞くかよ・・・


「もー、あの子達だけの問題ならベントの案でもいいと思うよ。将来働き手が欲しい所なら面倒見てくれるところがあるだろうし。但しその時は兄弟バラバラになる可能性がある。一人ならいけるけど二人は無理だとか、男だけとか女だけとかあるだろうからね。ただ、孤児の問題は今回だけとは限らない。これだけ人が増えて来たら孤児が増える可能性が高い。その度に引き受けてくれる家を探せるかどうかだよ」


「それで?」


まだ言わすのかよ?


「領地として孤児院の設立。そこで農業、商業、料理人とかの職業訓練を行い成人したらすぐに自分の力で生きていけるように教育を行う。冒険者を希望するものは冒険者育成学校を作りそこに入学させる。冒険者学校は年齢問わず入学出来るものとし、正しい採取、魔物の倒し方、パーティーを組む重要性等を叩き込み依頼成功確率をあげるとともに生存率向上を目指す。これで満足?」


俺の話をベントはぽかんとして聞いていた。孤児院くらいしか理解出来てないらしい。


「いつそんな事を考えてたんだ?」


「さあね、田植えや稲刈り手伝ってくれた冒険者見てたらすぐに死ぬかもしれないなぁと思っただけ。鎌で稲刈るだけで音を上げてたからね。ギルドは領とは別組織だけど冒険者の街と呼ばれるくらいなんだから連携が必要なんじゃないかと思う。それと家が貧乏とか育児放棄、孤児になってしまうとかは子供の責任じゃないから国とか領とかがなんとかするのは当たり前でしょ。なんのために税金取ってんのって話。生まれて来る子供は自分で環境選べないんだから。」


俺は一気にまくし立てるように自分の考えを言った。


「あ、あぁ、お前の考えは分かった」


ここで冒険者育成の話までは必要無かったな。まぁいい、いずれしようと思ってた話だ。


「取りあえずあの子達をどうするか、これからどうするか決まるまでダンとミーシャと俺で面倒みるよ。ミーシャも他人事じゃないと思ってるだろうから。それでいい?」


「ゲイルお願い出来るかしら?」


「子供にも出来ること手伝ってもらうからいいよ。ただ来年の春までになんとかしてね」


じゃ、と言ってアイナクローが炸裂する前にさっと部屋を出た。最後まで話聞いてたら切りがない。ミーシャとダンのところへ話をしにいこう。



「ベント、ゲイルの話は理解出来たか?」


「孤児院を作るというのはわかりました。あとは良くわかりません」


「あぁ、そうだな。孤児院は俺達も考えてたんだ。ある程度の領地には必ずあるからな」


「他領はそんなに孤児がいるのですか?」


「他の領は少なくなったとはいえ戦争まではいかないが小競り合いで両親が無くなることもあるからな、それなりにいる」


「ここはそんなこと無いですし、孤児と言っても領民でない冒険者の子供ですよ。領の税金を使って養う必要は無いんじゃないですか?」


「理屈ではな。だかお前がもし孤児になって家も何もかも失ってしまったらどうする?食べるものもお金も無い、頼れる知り合いもない。一人で生きていけるか?」


「そ、それは・・・」


「誰もがそうなる可能性を持っている。そんな時に見捨てるような事をお前はするのか?」


決まりや法律などの受験勉強をしてきたベントには決まりと感情と理屈が入り交じり何も答えが出せなかった。




まずは食堂に行って誰かいないか探そう。俺がいきなり使用人のとこに行くと宜しくないからな。


あ、良かったブリックが居た。


「あれ、ぼっちゃん、夜食でも探しに来たんですか?」


「いやいや違うよ。あ、今日はいきなり子供達の食事用意してくれてありがとね」


「そんなのお安いご用ですよ。あの子供達相当飢えてたみたいですね。ものすごく喜んで食べてましたよ」


「あぁ、そうみたいだね」


「孤児ですか?」


「まだ確定じゃないけどね。多分そう」


「そうですか・・・。で、何か用件があったんじゃ?」


「ちょっとダンとミーシャ呼んで来てくれる?俺があっちに行ったら皆驚くだろ?」


「構わないんじゃないですか?たまには使用人の食堂でも覗いて見てください。これからダンとこいつでいっぱいやるつもりなんです」


あ、残りの銀杏をダンが持って来たんだ。おやっさん怒ってるだろうな。


「これ何か聞いた?」


「いや酒に合うぞとしか。焼くだけらしいのでつまみに手軽でいいみたいですね」


「そうだね、つまみにとかちょっとした料理のアクセントとかに使えるよ」


「アクセントですか?」


「そうそう、味もそうだけど見た目も綺麗だからね」


「ただの薄茶色い木の実ですよ」


「後でわかるよ」


そんな話をしながら使用人の食堂へ向かった。


「おぅ、ぼっちゃん珍しいな」


「悪いね皆の所に来ちゃって」


「なーに言ってるんだ。全くこっちは問題無いって」


「そう?そう言ってくれると助かる」


「で、何の用だ?あいつらの件か?」


「そうだよ。ミーシャも呼んで来てくれないかな?こっちは銀杏の食べ方をブリックに教えとくから」


「了解」


「じゃ、ブリック、銀杏を焼こうか」


教えると言っても焼くだけだ。


「パチッて殻が口開いたら焼き上がり。ほら綺麗だろ?」


「うわっ、綺麗な緑色してますねぇ。宝石みたいだ」


「な、見た目のアクセントにもバッチリだろ?」


「そうですねぇ、料理の回りに並べて彩りに使ってもいいですね」


「これ一度にたくさん食べるのは良くないから1日に5個くらいまでにしておいてね」


「そうなんですか?気を付けます」


「わぁ、ぼっちゃまがここに来るなんて珍しいですね」


ミーシャがやって来た。


「たまにはね」


「あの二人は?」


「ぐっすり眠ってます。よっぽど安心したんじゃないでしょうか。建物の軒先を転々としてたみたいですし」


「あぁ、辛かっただろうな。まだこの季節だから耐えられたんだろうな」


「ま、飲みながら話そうぜ。おやっさんの所で食べてから酒飲みたかったんだ」


「そのエールを炭酸強化する?」


「お、やったぜ!」


魔力が上がったのと精度が増したお陰で木のジョッキでも炭酸強化出来るようになっていた。


ダンは銀杏に塩をたっぷり付けて口に放り込み、一気にエールを飲み干す。


「カーっ!旨ぇ!」


「この銀杏ってのは少しほろ苦くて面白いですね。ぼっちゃんの言った通り味のアクセントにも使えそうです」


ブリックはつまんで楽しむよりも味の確認をしていた。良い傾向だ。そのうちお前は指導者になるんだから頑張れよと心の中で呟いた。


「で、ぼっちゃん、あの二人はどうすんだ?」


「多分、領で孤児院を作ることになると思う。父さん達もそのつもりだろうから」


「多分?」


「なんかね、勉強のつもりなのかベントと俺にどうすべきか聞いて来るんだよ。3歳児に孤児の扱い聞くなってんだよな」


俺は酔ってもいないのに愚痴りだした。


「で、ベントはなんて答えたんだ?」


「面倒見てくれる家探せって」


「まぁ世間知らずのベントならそんなもんだな。見知らぬ孤児を預かるような所は奴隷の様に扱うに決まってる。」


だろうね。


「で、ぼっちゃんはなんて答えたんだ?」


「孤児院作ってそこで職業訓練して成人したら自分の力で生きていけるように力をつけさせるってのと、冒険者になりたい奴は冒険者の育成学校作ってそこで依頼成功率と生存率を上げる教育が必要って言っておいた」


「冒険者の話までしたのか?」


「簡単に稼げると思って冒険者になるやつ多いみたいだからね、本当はギルドがやることなんだろうけど、やらないからこれから孤児増えるかもしれないなって」


「そうだな、孤児になっちまった奴の扱いと孤児を作り出さない為の対策か。いいじゃねぇか」


「他の領ならともかく、冒険者出身の父さん達なら出来ると思うんだよね。ギルドも父さん達となら連携出来るだろうし」


「そうだな。他の領ならギルドに口出ししたら大揉めだからな。しかし、ぼっちゃん領主目指してんのか?」


「そんな面倒臭いの目指すわけないじゃん」


「は?ぼっちゃんのやってることはそうは見えんぞ。米もそうだし、今回の果樹園とかもそうじゃねぇか。領直轄の食堂とかもアーノルド様じゃなしにぼっちゃんの考えだろ?」


「いや、俺が美味しいもの食べたいだけだよ」


「それならあんな広い果樹園とか要らねぇんじゃないか?自分が喰うだけなら2~3本植えりゃ済む話だ。屋敷の敷地内に植えれば済む」


「たくさん植えたら売れるじゃん」


「売ってどうすんだ?ぼっちゃんは金にあんまり興味ねぇだろ?領の名産にするつもりなんだろ?それになんかあった時の非常食がどうとかも言ってよな。誰の為の備えだ?自分だけなら何とでもなるだろ?」


「そ、それは・・・」


「な、言ってる事とやってる事が違うんだよ。誰がどうみてもベントよりぼっちゃんの方が領主向きだ」


・・・・


「責めてるわけじゃないぞ。端から見てりゃそう見えるって事だ。このままだと自分の意思とは別にぼっちゃんを領主にって声が必ず大きくなっていく。領主になるつもりがないならなんか対策考えておけって事だ」


そうか、自分の意思とは関係無しにか・・・


「ぼっちゃまが領主様になれば私は領主様付きのメイドになるんですねぇ、大出世ですぅ~ふふふ」


あー、ミーシャの能天気な発言に一気に気が緩んだ。


「ダン、ありがとうね。何か考えておくよ。あ、あの二人の事なんだけどしばらく俺達で面倒見るから。ミーシャもいいよね?」


「はい大丈夫ですよ。兄弟が出来たみたいで嬉しいです」


「まぁ、そうなるだろうな。何やらすんだ?」


「明日二人に何がしたいか聞いてみるよ。それから決める」


「そうだな、まぁなんとかなるさ。それよりぼっちゃん、エール作ってくれ」


はいよ、とそれから何度も炭酸強化させられたのだった。







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