第118話 俺は領主じゃない

採取の査定も終わったので合格したものを持って食堂へ出掛けた。商会の従業員に指名依頼を出してもらうと共に常駐依頼の取り下げもお願いした。毎日あんな状態になったらたまらんからね。ドワーフの国から帰って来たら改めて出そう。


「で、坊主どれが何か教えろ」


「初めのドングリみたいなやつは椎の実って言って食べられるんだよ。ドングリも食べられるんだけど、アク抜きにものすごい手間が掛かるからパス。椎の実はアクが少ないんだ。それと豚に食べさせると豚が美味しくなるからね。通常は豚の餌にしたり、なんかあった時の非常食にしてもいい」


「ドングリ食ってるボアみたいなもんか?」


「そうそう。高級豚を育てるのにいいと思うよ」


「なるほどな。旨いものを育てるか」


「で次はこれね。ブルーベリー。このままでも食べられるけどジャムに使える」


「わぁ、ジャム食べたいですぅ」


「あの臭いのは置いてきたけど銀杏って言うんだ。これは育てて木にしてもいいんだけど外で大量にとれるなら毎年採取依頼出せばいいかなと思ってる」


「あんな臭いものを食うのか?」


「臭いのは実だけでその実は食べないよ、直接触ると手がかぶれるくらいだから。あれは種だけ食べるんだ。おやっさんとか好きだと思うから後で処理して味見しよう」


「ほう、ワシが好きそうということは酒に合うんじゃな?」


「おつまみだね。大量に食べるもんじゃないから」


「それでこれはザクロ。この小さい粒々をチマチマ食べる。それか絞ってジュースだね。そこまで甘いものじゃないけど美容にいいんだよ。女の人で歳取ると怒りっぽくなる人いるけどああいうのもマシになる」


「そんな効果があるのか?」


「薬じゃないから飲んですぐ効くわけじゃないけどね。毎日少しずつ飲んでれば効くと思う。美容に良いと言えば女性に、奥様の怒りっぽさがマシになると言えば男性に売れると思うよ。」


「うわ~、ぼっちゃまが悪どい顔してます」


してない。ミーシャよ、そんな事を言わないように。


「最後のこれは梨。梨にも色々な種類があるけどこれは当たりだね。歯ごたえも甘さも充分だ」


切った残りを皆に分けて試食させる。


「おいひぃ~!」


「お、これ旨いな。似たようなの食ったことあるがもっとぐにゃっとしてたぞ」


「ほぅ、これは旨いの」


「これだけ糖度があるなら熟し過ぎて柔らかくなったやつをジュースにすれば酒も作れると思うよ。ワインみたいなやつ」


「よし、これは大量に植えるぞ」


「おやっさんがいじめた冒険者が持って来てくれたらね」


「なんじゃとっ!いじめたのは坊主じゃっ!」


「けしかけたのはおやっさんだろっ!」


う~~。おやっさんとにらみ合う。


「二人とも止めろ、みんな見てるぞ」


あ、ここ食堂だった。


「ぼっちゃん、心配すんな。あの手のタイプはまた来る。もう一度戦えってな」


え~~っ 面倒くせぇ~。さっさと金払って終わりにするほうがよっぽどマシだ。わざと負けてやろうか・・・


「坊主、わざと負けてもあいつの為にならん。すぐに死んでもいいなら構わんがな」


げっ、なんで分かったんだ?


「お前さんのやりそうな事じゃ」


考えがすぐに読まれるとは・・・。まぁ、それだけ一緒にいる時間が長いってことかな。




商会に戻って銀杏の処理をする。果肉を取るのをクリーン魔法の応用でやり、水魔法で洗い、風魔法で乾かした。俺って便利だな・・・



出て来た銀杏を炭火で炙ってパチンと弾けたら焼き上がりだ。


中から綺麗なヒスイ色の実が出てくる。それを塩に乗せてはい出来上がり。


「おほっ、これはなんとも・・・」


ゴッゴッゴッ ぷはーっ!


「おやっさん、これ食べ過ぎると毒だから1日5個までね。」


「思ってた味と違いますぅ。少し苦いです」


ミーシャはあまりお気に召さなかったようだ。


「ぼっちゃん、これは大人の味だな。アーノルド様も好きそうだ」


「そう?じゃ指名依頼で持って来たら屋敷でも出してみるよ」


「これは売らんのか?」


「これある場所には大量にあるから食べられるとわかったら皆取りに行くから商売にならないよ。自分達が食べる分とそのうち領直轄の食堂が出来た時の隠し素材にするよ」


「領直轄の食堂?」


3人の声が揃った。


「米も領直轄になるでしょ?冒険者の街だけの領から他の売りも作っていかないとね。美食の街とか人が集まってくると思うんだ・・・・って父さんが言ってた」


「坊主が領主みたいじゃの」


「いや、単にいつでも美味しいものが食べたいだけだから。」


それを聞いてもおやっさんはふっふっふと笑うだけだった。


翌日以降指名依頼の物が届いたら商会で処理してもらうことにした。椎の実だけはこっちでするけど。



帰り道にぶつぶつとこれからやることを考えていた。今まで農地開拓は田んぼしか考えてなかったけど、果物作るならまだまだ開墾しないといけない。陽当たりも考えると少し傾斜のあるところがいいかな。


え~、栗と柿と梨、ザクロ、ブルーベリー、椎は雑木林みたいなもんでもいけるな。


どこにするかちょっと見て回わる必要があるか。それと植木鉢作って種植えて苗作りっと。ブルーベリーは牧場とかに植えてもいいかな。取りあえず屋敷で食べる分くらいしかないだろうから。


あー、それと畜産をするかどうかだなぁ。牛も豚も高級な奴がいるといいな。和牛やブランド豚みたいに。しかし、自分で管理するの面倒だからどっかの畜産してる人に委託した方が・・・


「ぼっちゃん、着いたぞ」


「あ、もう屋敷か。ダン、明日なんだけど開拓地候補を探しに行けるかな?」


「田んぼ以外にか?」


「そうそう。少し傾斜があるところがいい」


「分かった、じゃ明日はミーシャはお留守番だな。俺とぼっちゃん二人で馬に乗って走る方が早い」


「と、言うわけでミーシャごめんね」



その夜アーノルド達と果樹園の話をした。ボロン村のワインが届いた時にシルフィードの力を貸して貰いたいからだ。


「お前、またなんかするのか?」


「うん、美味しい果物が食べたいなと思って。冒険者に採取依頼出したんだよ。いくつか面白いのが手に入ったから育ててみようかと思って」


「そんなの食いたきゃわざわざ育て無くてもまた採取依頼かければいいじゃないか」


「採取だと当たりハズレもあるし、毎回手に入るとは限らないからね。育てた方が確実かなと」


「お前は面倒くさいことをするな。で用件はなんだ?」


「そろそろボロン村からワインが届くでしょ?その時にシルフィードに手伝いを依頼して欲しいんだ」


「シルフィードに?」


「うん、果物を種から実がなるまで育てようと思うと10年単位になっちゃうからね。植物魔法ですぐに出来るんじゃないかと思って」


「なるほどな」


「それで俺も植物魔法教えて貰いたいんだ」


「お前、植物魔法使えるのか?あれはエルフしか使えんぞ」


「そうかもしれないね。試してみてダメだったら諦めるよ。」


「分かった。シドが来たら頼んでみる」


「あ、手伝いと魔法を教えて貰う謝礼ってどれくらい支払えばいいの?」


「あんまり聞いたことないな。アイナは魔法を教えてもらうことに報酬いくらぐらいか知ってるか?」


「さぁ、どれくらいかしらね?お金払って教えて貰うとか聞いたことないわね。学校に行くか弟子になる事が多いから」


あー、相場が無いのか。まぁ、手伝いと謝礼で金貨1枚くらい用意しておこう。足りなそうなら追加で払えばいい。


「分かった。謝礼の件はおいといてシルフィードへの依頼お願いね。出来れば今年中に来てくれると嬉しいな。来てくれたらうちに泊まって貰ってもかまわないよね?」


「それは構わんぞ」


じゃお願いねーと言い残して部屋に戻った。



さて日課の魔力アップでもしますか。

毎日欠かさず魔力アップをして来たので総魔力量が3000を越えていた。回復スピードも早くなってるのでまず残ってる魔力を1まで減らす作業が面倒なのだ。壺に入れた水に魔力を流し込む。


残量1まで減らしたら魔力を0にした魔石に充填ー吸収ー充填ー吸収っと。


今日はこれくらいにしておくか。しかし、魔力の込められた水も増えたな。何度も水に魔力を流し込んで行くとだんだんドロッとした状態になってあまり魔力を吸わなくなるのだ。


別に捨ててもいいんだけどなんかもったいない気がして溜め込んでいる。そのへんに捨てて魔力スポットとかになっても嫌だしね。



翌日、俺がいない間に椎の実を持って来たら買い取るようにミーシャにお願いしておく。子供でも使いやすいように銅貨150枚にしておいた。銀貨とか持ってたら危ないからね。


その後、果物の木を植える場所を探す為にシルバーにダンと2人乗りしてあちこちを見て回る。


「ぼっちゃん、あの辺が条件に合うんじゃねーか?」


山とは言えない丘くらいの高さの緩やかな傾斜が南向きに広がっている。


「バッチリだけど条件がいいからめっちゃ木が繁ってるね」


「まぁ開墾しやすいところは既にされていってるからな」


「ミゲルの親方に頼んで伐採してもらったらどれくらいかかるかな?」


「あそこの木全部切るのには相当時間かかるだろうな。少しずつやって行けばいいんじゃないか?」


「そうだよねぇ。一応親方に見て貰って相談しよう」


「あぁそうだな。じゃあ取りあえず今日は帰るか」


一応候補地を見つけたので帰ることにした。



ーその頃の冒険者ギルドー


「今日こそは指名依頼貰えるようなもの採ってくるぞ!」

「おぉ、昨日も何人か指名依頼出たみたいだからな」

「あの紫の小さい実持っていったやつ、指名依頼で銀貨10枚になるって騒いでたぞ」

「なにぃーー!あんなものが銀貨10枚?俺が持って行くんだったーっ」

「おいっ!常駐依頼のところから依頼消えてるぞっ!」

「何っ!この前出たばっかだったじゃねーか!?」

「嘘だ!なんでだ!常駐依頼じゃなかったのかよっ」

「あ、あれじゃねーか、騒いで殴られた奴が居ただろ?あれで依頼主怒っちまったんじゃねーのかっ?」

「何っ?あいつのせいなのか?」

「あぁ、アイツのせいに違いない」

「アイツ、色んなとこでえらそーにしてやがるからな。きっとアイツのせいだ」

「おい、皆っ!あんな美味しい依頼を無くした奴を許せるかっ?」

「許せるかよっ!」

「おーし、皆でアイツを探し出せっ!」

「おーーー!」




「ただいま~」


「あ、お帰りなさいぼっちゃま。ちょうど良かったです」


「なんかあったの? あ~、椎の実の」


そこには小汚ない少年ともう少し小さい女の子が椎の実でいっぱいになったかごを持ってきていた。


「ありがとうね、銀貨1枚と銅板5枚。使いやすいように銅貨150枚にしてあるけど、銀貨のほうがいい?」


どさっと銅貨150枚が入った袋を見せる。


「こ、こんなに貰えるのか?」


ん?初めに金額言ってあったよね?


「おにぃちゃん、これで今日はちゃんとしたご飯食べれる?」


「ああ、大丈夫だ。」


嫌な予感はしてたけど、やっぱりなんかわけありそうだな・・・


「あのさ、君たちどこに住んでるの?」


「特に決まってない」


・・・

・・・・


「お父さんとお母さんは?」


「母さんはこいつが生まれてからすぐに死んだ。父さんは1ヶ月くらい前から帰って来てない」


あー、あれだミーシャと同じパターンだ。横で聞いてるミーシャも悲痛な顔している。


「ミーシャ、ちょっと母さん呼んで来て」


俺だけでは処理出来ない問題だな。この領地に孤児院はない。そもそも孤児がいないからな。流れの冒険者が冒険者のまま家庭持ってる人も少なそうだし。


「ゲイル、何かしら?」


「母さんこの子達の話を聞いてやってくれない?この実を採って来て貰ったんだけど訳ありみたいなんだ」


今聞いたことをざっと説明する。



「お父さんが居たときはどこに住んでたの?」


アイナがしゃがんで目線を合わせて少年に質問し始めた。


「宿屋に居た。父さんが帰って来なくてお金払えなくて追い出された」


「この領にはいつ来たの?」


「1ヶ月前くらい。ここに来て父さんがいなくなった」


「お父さんは冒険者?」


こくっと頷いた。


元々、王都よりむこうの村に住んでたみたいだけど生活が苦しくなり村を出てこの領にたどり着いたみたいだ。素人が冒険者になって一旗あげるつもりだったのだろう。無謀な賭けだ・・・


「事情は分かったわ。ちょっと考えるから今日はうちでご飯食べていきなさい。お腹空いてるでしょ?」


まぁ、そうなるよね。しかしこの汚さを先になんとかしなければな、獣みたいな臭いもするし。取りあえずクリーン魔法をこっそりかける。アイナとダンとミーシャしかいなから大丈夫だろう。


えっ?と二人は驚いた様子だが何がおこったのか分かっていない。急にさっぱりして汚れが取れたのが不思議そうだ。


「ゲイルありがと」


アイナにはばれてた。


「ミーシャ、服買いにいくから一緒に来て。ダンはブリックに子供二人分の食事追加と言っておいて。あまりがっつりしたものじゃ無くて食べやすそうなものをお願い」


ろくに食って無いところに普通の食事は良くないからな。


アイナが二人を治療院に連れて行きどこか怪我とかしてないか確認するらしい。

俺達はその間に服を買いにいく。


少しシルバーを飛ばして2人の着替え3セットと靴、寝間着を購入した。


「あの子達私と同じ・・・」


ミーシャが呟く。自分が体験したことだ。他人事には思えないのだろう。


「あぁ、そうだな。早くに分かって良かったよ。子供二人で家も無かったら冬は乗り越えられなかっただろうからね」


「あの子達はどうなるんですか?」


「まぁ、父さんと母さんがなんとかするんじゃない?」


そう、こういう問題は領主が考えて対応することだ。俺がでしゃばる必要は無い。あの子達だけでなくこれからも同じ事が出てくるだろうから。


子供達の食事は使用人のところでしてもらうことにした。ミーシャに様子を見てて貰ってたがガツガツと食事をしたと報告があった。特に女の子は柔らかいパンをいたく喜んで満面の笑顔でおにぃちゃん美味しいね美味しいねと繰り返してたそうだ。


今はお腹いっぱいになった二人は空いている使用人の部屋で眠っている。



執務室にアーノルド、アイナ、セバスでの話し合い。それにベントも呼ばれた。領主育成学校に受かったベントは卒業まで今の学校には行かなくていいのでセバスに付いて実地研修みたいなものをしているらしい。ゲイルは自分は必要ないんじゃないかと思ったけど、あの子達がここに来る経緯から聞きたいらしい。


経緯話したらさっさと退室するからね。

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