第117話 行列
翌日、森での剣の稽古を終え屋敷に戻って来ると商会の前に行列が出来ていた。
「なんだありゃ?商会で大売り出しでもしてんのか?」
「商会で個人向けに販売してないよね?」
「そうだよな?」
「おい、坊主っ早くこっちへ来いっ!」
ドワンが真っ赤な顔をして俺達を呼んだ。行列の横を抜けて商会の中に入って行くと並んでいるのは冒険者達だった
「武器の安売りでもしてるの?」
「武器を安売りなんぞするかっ!みんなお前目当てじゃっ」
「俺?」
「採取依頼の奴らじゃ」
「えっ?採取依頼ってこんなに人気なの?」
「大方昨日の奴らを見て来たんじゃろ。ワシじゃ必要かどうかわからんからお前が見ろ」
「うわぁ、何人いるんだろ・・・」
大変だけど何があるかわからんから全部見るしかないな。
「ダン、悪いけどミーシャを連れて屋敷に帰りが遅くなるって言ってきてくれる?」
「分かった。飯はどうすんだ?」
「ん~、おやっさん、一緒にご飯食べに行く?」
「そうじゃな、使えそうな物があれば聞かにゃならんからそうするか」
「という事でおやっさんとご飯食べて帰ると言っておいて」
「私も行きたいです・・・」
どこかに食べに行くと聞いてミーシャがおずおずと呟いた。屋敷のご飯の方が美味しいと思うんだけどね。
「分かった。ダンも伝えたら戻って来てね」
了解と返事するや否やクロスに乗って消えるように居なくなった。
「じゃあ始めますよ~。珍しく無いものは依頼達成とはしないのであらかじめ言っておきまーす」
なんかダメ元で持って来てる奴も多そうだから始めに言っておかないとな。
「これです」
コロンと出して来たのはドングリだった。お前ドングリって・・・
「これは珍しく無いのでダメです」
「え~っ」
「当たり前じゃ!こんなもんその辺に落ちとるじゃろがっ!」
俺にぶーたれた冒険者をドワンが一喝する。こういう時は助かるよね。
「お前らっ!ドングリ持って来たやつらは失格じゃ!帰れ!」
後ろに並んでた何人かがぞろぞろと怒りながらドングリを投げ捨てて帰っていく。
ん?
投げ捨てられたドングリの中に少し違うのがあるので拾ってみた。これ、椎の実だよな。確かドングリは帽子被ってて、食べられる椎の実は傘被ってたはず。
「これ捨てた人誰?」
既にドングリと思って捨てたやつらは自分のかどうかわからないみたいだ。
「多分俺だと思う」
一人の小汚ない少年が前に出て来た。まだ成人してないんじゃないか?
「ホントにこれは君が持って来たの?」
「あぁ、俺のは細長かったからな」
「君、冒険者?」
「ま、まだ冒険者じゃない」
んー、こういう場合はどうすればいいんだ?
「どうやってこの依頼知ったの?」
「色んな冒険者が話してるのを聞いた」
なるほどね。
「おいっ!早くしろよっ!」
後ろのいかつい冒険者が怒鳴ってきた。
ガスッ!
あっ・・・
「うるせぇ、坊主は今こいつとしゃべってんだ、大人しく待ってろ」
ドワン、もう聞こえてないと思うよ・・・
ドワンに殴られた冒険者は泡を吹いて気絶しだ。その様子を見た冒険者達は一斉にピシッと姿勢を正して大人しくなった。
冒険者じゃない子の物を買い取るとまずいかもしれないな。他の冒険者に聞こえないように話をすることに。
「これと同じのまだたくさんあった?」
「まだまだある」
「分かった。今日の依頼代金銅板5枚と、あとこのカゴいっぱい持って来たら追加で銀貨1枚で買い取ってあげる。何回かに分けてでいいからね。あと似ててもこんな帽子みたいな物を被ってるのはダメでこれと同じ傘みたいな物を被ってるやつね。他の冒険者にバレるとまずいかもしれないから、うちの屋敷に持って来て。その時に今日の分も払うから」
「屋敷ってどこだ?」
「ディノスレイヤ家だよ。場所分かる?」
「えっ?りょ、領主様の・・・」
「そうそう。家の者に言っておくから、ゲイルの使いって言ってくれればいいからね」
「ゲイル様・・・の使い」
「宜しくね~」
少年はボーッとしながら帰って行った。
「お待たせしました」
さ、サクサクいこう
はい、ダメ ダメ ダメ。
ろくなのないな。初めが柿と栗だっただけに期待してしまったな。
「こ、これはどうですか?甘くて食えますっ」
これは・・・
「はい、合格!これどれくらいの木だった?」
「自分の背丈くらいです。周りに10本くらい生えてます」
「それって枯れないように根から掘りだせる?」
「やってみないと・・・」
「自分で掘って持って来たら1本銀貨1枚で買い取り、無理そうなら生えてる場所の情報料として銀貨1枚。どっちがいい?」
「ほ、掘って来ます。10本持って来たら全部買い取ってくれますか?」
「いいよ」
「よっしゃあぁぁぁ!」
「あっちの人に名前を伝えておいて、指名依頼出しておくから」
商会の従業員に手続きをお願いした。今日の達成のサインはドワンがしてくれる。
「次の人~」
うわっ臭っせ!そんなもん持ってくるな
と他の冒険者から怒号が聞こえてきた。
「ちょっと待って、そこに出さずにそのまま見せて」
冒険者の持って来た袋の中を覗きこむ
「はい、合格~!」
えぇ~っ!!!
周りの冒険者から一斉に疑問の声が上がった。
「これたくさん落ちてたでしょ?」
鼻をつまんだままうなずく冒険者。
「この大袋いっぱいで銀貨1枚で買い取るけどやる?」
ブンブン。
「じゃあっちの人に名前言っておやっさんにサイン貰って」
はい、ダメー、ダメー。
「はい、合格。1個銅貨2枚で買い取るから・・・以下同文」
次で最後だな。
「おっ!君やるねぇ。合格だ!」
「へっへっ~ん、当たり前だぜ。これは俺様の大好物だからな。」
「ちょっと食べてみていいか?」
「合格なんだろ?ならいいぜ」
おやっさんにナイフを借りてするすると皮を剥いていき食べてみた。お、旨い。俺の好きなタイプのやつだ。
「お前、ちっこい癖にナイフの扱い上手いな」
「おい貴様、このちっこい坊主はお前さんよりずっと強いぞ。ちっこいからってバカにしたら倒されるぞ」
「嘘つけ!こんな赤ちゃんに毛が生えたような奴に負けるわけねぇだろ!もし負けたらただでこいつをたくさん持って来てやらぁ!」
「もうっ。おやっさん、そんなのいいからっ! これ1個銅貨5枚で買い取るけどどうする?」
「ようし、俺が負けたらただであるだけ持って来てやる。その代わり俺が勝ったら1個銅貨10枚だ!いいな」
もぅ、めんどくさいなぁ・・・しかし言い出したら聞かなそうなタイプみたいだからさっさと終わらせよう。
「じゃ木剣でね」
「怪我しても恨みっこ無しだぜ。俺はお前が小さくても手加減しないからな」
はぁ・・・、まったくおやっさんのせいで・・・
「始めっ!」
「でやぁぁぁっ!」
威勢よく上段から打ち込んで来たが・・・
おっそ。
アーノルドやダンの剣と比べたら止まって見える。すっと木剣の先を喉元に寸止めする。
「それまでっ!勝者坊主!」
「なっ!まてまてまてっ!ず、ズルいぞ。合図より前に動いたんだろっ!そうじゃなきゃ・・・」
俺の動きまったく見えて無かったんだな。
「おい、往生際が悪いぞ。素直に負けを・・・」
「いいよ、おやっさん。もう一度やろう」
「ったく、お前さんは甘いのぅ。じゃ、しきり直して、始めっ!」
「でやぁぁぁっ!」
同じパターンで勝っても認めないだろうから一回避けるか。すっと避けるが次の攻撃が来ない。
「このすばしっこい奴め!」
でやっ!
でやっ!
ダメだ何度見ても連撃せずに単発の攻撃の繰り返しだ。これ以上待っても意味ないな。今度は避けずに剣を受け流してから剣を弾き飛ばして顔面の前で寸止めした。
「なっ・・・」
「分かったじゃろ?坊主が強いのもあるがお前は自分が思ってるより相当弱い。パーティー組むか、もっと修行せんとすぐに死ぬことになるぞ」
「う、うるさいっ!」
あ、走り去ってしまった。ど本命の果物だったのに・・・
「ぼっちゃん、容赦ねぇな」
「あ、ダン戻ってたの?」
「しっかり見せて貰ったぜ。稽古の成果出てるじゃねぇか」
「あんな遅い剣じゃ成果もくそもないよ」
「坊主、遅いと言うがな駆け出しの冒険者の剣はあんなもんじゃぞ。少しマシなくらいじゃ」
「そうなの?あれで魔物倒せるの?」
「いや単独だとヤバいな。パーティー組んでなんとかってとこだな」
「だよね、あっ、だから喧嘩ふっかけるようなことしたの?」
「鼻っ柱が強くてソロがかっこいいと思ってとるようなやつはすぐに死ぬからの。鼻っ柱を折るにはお前さんが最適じゃ」
「もー、別にいいけどさ、さっきの果物本命だったんだよ。あいつ逃げちゃったじゃないか」
「心配すんな、負けたらただで採って来ると言っておったじゃろ」
「言ってたけどさぁ・・・」
ホントにまた来るのかなぁ?
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