第116話 柿と栗
ドワンの使いがギルドに指名依頼を出しに行ってくれた。ギルドはなんの実績も無い新人パーティーに指名依頼を出すことに驚いていたらしい。ついでに常駐依頼のところに既に入手した物は対象外として絵を貼っておいて貰った。
「ぼっちゃん、この不味い奴なんてどうすんだ?」
「これはね渋柿っていうんだよ。イガイガしたやつは多分栗だ」
「そんな名前なのか。で、どうやって食うんだ?」
「渋柿はもっと熟すまで置いておくか、酒に浸けたり、冷凍したりすると渋く無くなるんだよ。後は干してもいいんだ」
「そんなことで食えるのか?」
「渋く無い柿もあるんだけどみんな知らないならまだ無いのかも知れないね」
甘柿は渋柿の突然変異だ。それを色々と交配させていったのが日本の柿だからな。甘柿も手入れせずに放置しておいたら渋柿に先祖返りするみたいだし、逆に言えば渋柿に何かの条件を与えれば甘柿になるかもしれない。
「まだ無い?」
やべっ
「まだ見つかって無いってこと」
「そういうことか。で、栗ってのはどうやって食うんだ?」
「現物見てからだけど茹でたり焼いたりお菓子にしたりとかだね」
「え~、お菓子になるんですか?」
パッと顔が明るくなるミーシャ。
「現物見てからだよ。ホントに栗かどうかわかんないし」
前にドングリがあったからほぼ間違いないだろうけどね。
「でも楽しみです~」
良かったミーシャの機嫌が直ったようだ。
このまま森へ向かう予定だったけど今日は出発するための打ち合わせだけをした。
夕方そろそろ帰ろうかとなった頃にレッドウルフ4人がそれぞれ大きなカゴをしょって帰ってきた。
「さっさと歩きなさいよ、だらしないわねっ!」
「お前らは軽いかもしれんが、こっちはもっと重いんだぞっ!」
「男のくせにごちゃごちゃ言うんじゃないわよっ!」
ずいぶんと賑やかだな。
男二人は柿を、女二人は栗を入れているようだ。
「と、採って来ました」
「お疲れ~」
「おい数えてやれ」
ドワンが従業員に数を数えさせる。イガ栗に悪戦苦闘しているようだ。刺さると痛いんだよね。
「このオレンジのが156個、イガイガが85個です」
全部で241個か。
「ダン、銀貨2枚と銅貨41枚払っておいて」
えっ?えっ?えっ?
驚く4人。
「え~っと、156個と85個で・・・」
だからお前の指は何本あるんだ?
「坊主の言った金額で間違い無いぞ」
「えっ?あの一瞬でこんな子供が計算したの?」
きょとんとする4人。
「誰も誤魔化しとらん。こいつは領主の息子だぞ。そんなことするかっ」
「ええっ~!? コイツが・・・、この方がアーノルド様のお子様ぁぁぁ!? し、失礼しましたー」
土下座するような勢いで謝る4人。
「気にしないでいいよ。俺が領の面倒見てるわけでもないし」
「はっ、かんだいなおこりょばありがとうござおまする」
何を言ってるかさっぱりわからんぞ。
「じゃこの金額で大丈夫だね?ダン、後払いの時はどうするの?」
「依頼書に結果と支払った金額を書けばいい。後はコイツらがギルドに報告とギルドの取り分を払って終わりだ」
そうこう言ってる間にドワンがさっさと処理していた。
「お前ら、きっちり報告しろよ。こっそり猫ババしたらバレるからな」
ドワンに釘を刺された4人はブンブンと頷いていた。報告を後回しにして飲みに行ってしまいギルドの取り分が払えないどうしようも無い奴がいるらしい。
「これまだ現場に残ってた?」
「オレンジのはほとんど採りました。イガイガはまだ木に成ってるものがありました」
「ダン、採取してきた後に依頼出したり出来る?」
「あぁ、出来るぞ」
「じゃあまた採って来たら持って来て。同じ金額で買い取るから」
わっかりやしたーっと4人は喜んで帰って行った。今日は打ち上げするんだろな。
「坊主、これどうすんだ?」
「置いといてくれる?明日ブリックも連れて来るから調理してみよう」
屋敷に戻ったあと、ブリックに明日一緒にドワンの元へいくことを伝えた。
「これが柿と栗ですか」
「まず下準備からだね。柿は皮を剥いて。栗はイガから中の身を実を取り出していくよ」
商会の従業員も手伝ってくれる。柿の皮剥きをミーシャにやらせたら身が無くなりそうなので栗の方を手伝ってもらった。
「栗はイガをこうやって踏んだら中身が出てくるから。ミーシャ、刺さると痛いから気を付けて。おやっさんとダンは実を踏み潰さないでね」
わかっとるわいと怒るドワンとダンだが言っとかないと踏み潰すのは間違いない。
「おい全部出たぞ」
栗は終わり、柿はまだ掛かるようだ。
イガから出した栗を水を張った桶にじゃぼじゃぼと入れて行く。
「何をするんですか?」
「選別だよ。こうやって水に入れて浮いた実はダメになってる奴なんだ」
しばらくするといつまでたっても沈まない実が出てくるからそれは捨てていく。
全て取り出し水気を切ってから数個を焼いてみよう。
20個ほどの実に切り込みを入れてから栗の周りに炭火を置いてゆっくりと1時間程度焼いてみる。
「なんで少し切り込みを入れたんですか?」
「このまま焼いたら爆発するんだよ。大火傷するから絶対ダメだからね」
ふんふんとうなずくミーシャ。
「ぼっちゃん、剥けました」
ブリックも終わったようだ
「お疲れ様~、次は熱湯にざっと浸けるよ」
「茹でるんですか?」
「いや、殺菌というのをするんだよ。アルコールでもいいんだけどもったいないからね、今回は熱湯でいこう」
大鍋に湯を沸かして殺菌していく。
表面が乾いたらヘタのところに棒を刺して並べてと。
「いつ食べられるんですか?」
「これはまだまだかかるね。風通しのよい所で干しておくとまわりが白くなってくるから楽しみにしてて」
そうこうしているうちに栗の匂いがフワッと漂ってきた。
そろそろ焼けたかな?
ドワンに栗を取り出してもらい風魔法で冷ましていく。
渋柿もそうだが元の世界のものよりデカい。栗もこれだけの大きさがあればチマチマ鬼皮を剥くより半分に切ってスプーンでほじる方が早いな。
ブリックに半分に切って貰ってみんなに配ってもらった。
「じゃあ食べてみようか」
一斉にスプーンでほじくりだして頬張る。
「甘くて美味しいですぅ」
「あぁ、確かに甘いな」
「ほぅ、こんな味は初めてじゃな」
ブリックは無言で味を確かめていた。
「栗はこうやって食べてもいいし、砂糖水で炊いてもいいし、色々と流用が出来る。ブランデーが出来たら一流の菓子にもなるよ」
ミーシャは目を爛々と輝かせ、ブリックはずっと考えていた。
「栗は皆気に入った?」
うんうんとうなずく一同。
「じゃこれ栽培しよう。売っていくなら採取だけじゃ足りないし、栽培して手を入れていけばもっと旨いものが出来ると思うから」
「どうやるんじゃ?」
「え?栗埋めるだけだよ」
「そんな簡単なのか?」
「これは種だからね」
「いつ出来るんじゃ?」
「植えてから3年くらいで実が成ると思うんだけど、本格的に採れるようになるには10年以上かかると思うよ」
「ずいぶんと気の長い話じゃな。もっとパーっと出来んのか?」
「農業はそんなもんだよ、すぐに出来・・・・」
ん?すぐに出来ない?ボロン村の葡萄はすぐに量産できてたな。植物の魔法使ったとか言ってたっけ?
「出来るかもしれない・・・」
「何っ?どうやるんじゃ?」
「ダン、ボロン村の」
「あ、シルフィードか」
「そうそう、あの娘が手伝いに来てくれたらすぐに出来るかもしれない」
「またボロン村に行くのか?」
「もうそろそろワイン持って来る頃だから、その時に聞いてみるよ」
「そうか、そうだな」
シルフィードが来てくれたら俺もその時に植物魔法を教えて貰おう。俺が覚えたら農作物問題が一気に片付く。
早く他にも果物採って来てくれる奴が出てくるといいな。
ー冒険者ギルドー
「指名依頼完了しましたぁっ!」
「ではこちらに完了のサインと支払いをお願いします」
レッドウルフが手続きをしていると他の冒険者がガヤガヤと騒がしい
(おい、新人が指名依頼だとよ)
(指名っていっても採取依頼だろ、あの常駐依頼の)
(ばか、あれ自体は銅板5枚だけどよ、持って行った物が気に入られたら指名依頼してくれるらしいぜ)
(しかし採取だと儲けがなぁ)
(あれ見てみろよ。ギルドに銅貨50枚くらい払ってるぜ)
(ということは・・・え~、銀貨2~3枚くらい貰ったってことか)
(何採って来やがったんだ?)
(常駐依頼の所見てみろよ、除外品の絵が貼ってあった。多分あれを持って行ったんだろ)
(何っ?あんな不味いものと食べれんような奴か?)
(おいそれなら・・・)
(あぁ、そう言うことだ)
(よし、明日から採取に行くぞ)
ヒソヒソ
ヒソヒソ
ヒソヒソ・・・・・
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