第115話 秋の味覚
「あなた、ゲイルが魔法学校に興味があるなんて知ってた?」
「いや、初めて聞いた。俺達はゲイル自身のことあまり知らないのを痛感したよ」
「そうね、まだ3歳なのに私達は頼ってばかりね」
「ベントが家を出るまでにまた家族でどこかに行こうか」
「そうね、そうしましょ。そこで色々と話を聞きたいわ」
「おやっさん、どうだった?」
「なんだ坊主こんな所で待ってたのか?」
「気になってたからね。」
「あぁ、渋々だが許可出たぞ。俺の地元に行くまでは大変だから覚悟しておけ」
「わかった、明日ダンにも伝えておくね。馬車どうするの?うちのは借りれないよね。」
「またどこかで借りればいいんじゃろが」
げっ、ノーサスの木の車輪馬車で片道1ヶ月・・・しかもドワンが御者をしたら・・・
「おやっさん、ど、ドワーフの人達にも新型馬車見て貰った方がいいんじゃないかな?こんなのも作ってるぞとか実物見て貰った方がいいし」
「それもそうじゃが・・・、また作るのがな」
「大丈夫だって、冬の間暇じゃん」
「バカもん!冬の間は酒作らにゃならんだろ」
「何言ってんの?おやっさんが酒作りに入り浸ったら味見で飲んじゃうでしょ!もう任せておけるくらい作業してきてるんだからおやっさんは酒作りには不要。それと自分達であんまり飲んじゃだめだよ。ドワーフの国にも持って行くんだから」
「何?あの酒を持って行くのか?」
「当たり前でしょ。うちに来ればこんな酒あるぞってだけでザクザク希望者出るんじゃない?」
「かーっ!お前ってやつは。ドワーフのワシよりドワーフの事を知ってやがる」
いや、誰でもわかるでしょ・・・
「わかった。酒は確保しておこう」
「あと片栗粉とか味噌とかも持っていかないとね。むこうで旨いもん作って飲んでをすれば聞く耳持ってくれるだろうし。ミンチ作る機械とかもまた作っておいてね。道中でソーセージも作るから。あ、ミゲルの親方にもスモークチップ確保しておいて貰おう」
「どうやって説得するか考えておったが、どうやらワシは道中の安全だけ考えとけば良さそうじゃの」
「うん、馬車とか宜しく。馬はシルバーとおやっさんのウオッカ、ダンのクロスと3頭いれば大丈夫だね。春だから道中に草もあるし、飼い葉もほとんど必要ないしよね。水は俺が出せるから」
「ちっ、わかった。商会の馬車として作るワイ」
「宜しく~!」
これでマシな旅になるだろう。一安心だな。
ー翌日森へ向かう途中ー
「ダン、俺も一緒にドワーフの国に行くことになったから宜しくね」
「えっ?アーノルド様はともかくアイナ様も良いって言ったのか?」
「そうみたいだよ。詳しく知らないけど許可出たっておやっさんが言ってた」
「えっ?ぼっちゃまどこかに行くんですか?」
俺と一緒にシルバーに乗ってるミーシャが聞いてきた。
「来年の春におやっさんとダンと一緒にドワーフの国に行って来るよ」
「どこにあるんですか?」
「よくは知らないんだけど馬車で片道1ヶ月はかかるって言ってたよ」
「そ、そんな遠くに行くんですか?え~、ハチミツとか足りるかなぁ?」
ん?
「ハチミツなんて持って行かないよ。持って行ってもそんなにみんな甘いもの食べないし」
「え~、毎日の楽しみですよぉ。道中で何壺あればいいかなぁ」
何か話が噛み合わないな。もしかして付いてくるつもりじゃないだろか?
「言っとくけど、ミーシャはお留守番だからね」
「えっ?」
「えっ?」
お互い顔を見合わせる
「どうしてですか?私はぼっちゃま付きのメイドですよ」
「そうだけど、道中はかなり危ないらしいからミーシャは連れて行けないよ」
「でもでも・・・」
ちょっと泣きそうな顔をするミーシャ。飼ってた犬を思い出す。出掛けるときにお留守番って言われた時の顔とそっくりだ。
「ミーシャ、俺はぼっちゃんの護衛として同行するだけだ。遊びに行くんじゃないぞ」
「・・・・」
ダンに言われて尚シュンとするミーシャ。かわいそうだが仕方がない。俺もどんなところか知らないからな。盗賊とか出たら真っ先に俺とミーシャが狙われるだろう。俺はなんとかなってもミーシャは自衛出来ないから危険過ぎる。
「なんか珍しい物があったら買ってきてやるから今回は諦めてくれ」
「・・・・はい」
今にも泣き出しそうなミーシャは小さく返事をした。少し心が痛い。
商会に到着。今日はドワーフの国へ向かうまでのスケジュール確認だ。
時期的に田植えと重なるかもしれないから、もしそれまでに帰って来れなかった時の為に誰に何をしてもらうか決めておく必要がある。
「おやっさん来たよ」
「おう入れ。もうダンには話したな?」
「うん、来る途中でね。」
「そうか、じゃあダン。お前の武器も新調しておくか」
「おやっさん、俺はこの剣があれば問題な・・・」
「お前は元々大剣使いじゃろ?一番得意な得物を持って行かなくてどうする」
「大剣・・・」
「お前に何があったのかは知っとるが坊主の護衛じゃろ。今度こそ守り抜け」
「おやっさん・・・」
そう言われたダンは苦しそうな顔をした。
今度こそか・・・
冒険者時代に亡くなった仲間のことを言ってるんだな。ダンに取っては辛い思い出が大剣に詰まってるんだろう。
「ダン、無理して大剣を持たなく・・・」
「いや、つまらん感傷だな。おやっさんの言う通りぼっちゃんは必ず守ってみせるから安心しろ。おやっさん、最高の大剣作ってくれ」
「馬鹿もんが、ワシの作る武器はどれも最高じゃわい」
そう返事したドワンは少し嬉しそうだった
「すいませ~ん!誰か居ますか~?」
商会の入り口から声が聞こえる。誰か来たようだ。
「なんじゃい!?」
ドワンが対応に出た。
成人したてくらいの少年2人と少女2人、合計4人が訪れて来たみたいだ。
ドワンの対応にビクビクしている。なんじゃいっ!ってガチムチ親父に凄まれたら普通はああなるよな。
「あ、あの俺達はレッドウルフと言います」
勇気を振り絞って一人のリーダーらしき少年が自己紹介を始めた。
「冒険者パーティーか?お前らみたいなコワッパどもに売る武器は無いぞ」
「い、いえ、ぶぶぶ武器ではなく・・・、それにとてもじゃないけど名匠ドワンさんの武器は高くて買えません」
「ならなんじゃいっ!こっちは忙しいんじゃ」
ビクビクビクビク
あー、ダメだよ。完全にびびって青くなってるじゃないか。これは助け船を出してやらないと。
「レッドウルフのおにーさん、どうしたの?」
「へ?子供?・・・・ あぁ、ここはぶちょー商会であってるかな?」
「そうだよ。なんの用件?」
「ギ、ギルドに収穫依頼が出ててそれを持って来たんだけど」
「なんじゃ、それならそうと早く言わんかっ!さっさと出せっ!」
す、スイマセンと謝る4人。いやいや悪いのドワンだから。
「こっ、これです」
リーダーらしき人が出して来たのはオレンジ色の懐かしい果物だった。
「なんだクソまずい奴じゃねぇか」
ヒッ!
ダンが奥からぬっと出て来ると4人は更にビビる。熊かと思ったんだろうね。
「クソまずい?どういうこと?」
「ぼっちゃん、こいつはな旨そうに見えてめちゃくちゃ渋いんだ。一口噛んだらしばらく口の中が麻痺するくらいだぞ」
(ほら、やっぱりダメだったじゃんっ、アタシ達が無理だってあれだけ言ったのにっ!)
(なんだよ俺のせいにするなよっ、依頼票には珍しい木の実や果物って書いてあっただろ?旨い不味いは関係ないじゃないかっ)
ヒソヒソ話が丸聞こえだ。
「あー、レッドウルフの皆さん、採取ありがとうございます。これで大丈夫ですよ」
「ホントっ!? やったー!それ見ろ俺の言った通りじゃないか」
「ところでこの実はまだたくさん残ってた?」
「あ、はい。不味いから誰も取らないから大量・・・」
(馬鹿っ!不味いとか言っちゃダメじゃない)
いや、もう知ってるから。
「それなら指名依頼出すからあるだけ採って来てくれない?1個に付き銅貨1枚でどう?」
「えっ?1個銅貨1枚?一人100個持って来れば・・・え~っとえ~っと」
指を追って数え出すけど指足らんだろ・・・
「一人100個、4人で400個なら銀貨4枚だよ」
「そ、そんなに貰えるんですか?しかも初めての指名依頼!やったー!」
新人冒険者なのだろう。まだ稼ぎもほとんど無いくらいだからちょうど良い仕事だな。
「他には何か無かった?」
「あ、ありますありますっ!」
「ちょっ、あんなイガイガしたやつダメに決まってんじゃん!」
イガイガしたもの?
「それってこんなのか?」
板に絵を書いて聞いてみる。
「そうです、これです」
「じゃあそれも持ってきて。それも1個銅貨1枚で買い取るから。但し、オレンジのこれは木に成ってるもの。落ちてるのは不可。イガイガしたのは逆に茶色くなって落ちているもの。まだ木に付いてる緑のはダメだよ」
「わかりました!早速行って来ます!」
元気よく4人は飛び出して行った。
「ダン、これ持って来た依頼完了のサインとかいらないの?」
「いやいるぞ。それを持っていかないと依頼達成にもならないし金も貰えない」
そうだよね。
「あの~」
こそこそと4人組が戻って来たのでドワンが完了のサインをしてやっていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます