第114話 ドワンとアーノルド、時々アイナ
またやることが増えてきたな。なんな生き急いでるような気がするぞ。早々にまた死ぬんじゃなかろうか?
そんな事を考えながらシルバーに乗り、ダンとおやっさんの所へむかった。昨日のアーノルドとの話を事前にしておくためだ。
「おやっさんいる?」
「今日はミゲルがウィスキーを使っとるから農地開発無理じゃと言ってあったろ?」
「ちょっと話があるんだよ」
俺はアーノルドとの話をざっくりドワンにした。
「そうか領直轄で米作りか。まぁ、ワシは米が食えるならどうでもいいわい。坊主はいいのか?」
「別に米で大儲けしようとか思ってなかったからね。俺もいつでも食べられるようになってた方がいいし、自分でやるより楽でいい」
「お前さんは他にも収入あるからな」
「そう、お金あっても買うものが無ければ意味無いし」
「そういうこったな」
「それに米作りが軌道に乗れば脱穀機とかバンバン売れるよね。生産大丈夫?」
「そのことなんじゃがな、人手はなんとかなっても技術者がどうもな」
「育ってないの?」
「いや、一度作ってしまえば後は作り方を教えてやれば出来るんだが、その初めに作るのがワシしか出来んのが問題なんじゃ」
「あー、なるほど」
「お前さんが言い出すものは未知のものばかりじゃから特にな」
「なんかごめん・・・」
「いや、突拍子も無いものも多いが職人魂を燃やす物が多いからな。それはかまわん」
「俺が魔法陣組めればもっと簡単に出来るものもあるんだけど、出来ないしね」
「魔法陣は古代のものを参考に写してるだけのものも多いからな。目的に沿ったものを組めるとは思わんぞ」
「そうなの?」
あー、それで生活に密着したものしか見たことないのか。というか魔法陣そのものって見たことないな。それに他にもあっても古代のものを参考にしてたら解析出来てないものも多いかもしれない
「おやっさん、魔法陣ってどんなのか見たことある?」
「いや、魔法陣は国の管理でな、資格を持った者しか見ることも出来んぞ。魔道具に使われてるものも見えないようにしてあるしな」
ほー、魔法陣を取り扱う資格とかあるのか。なんかヤバいものもあるのかもしれん。
「どんな魔法陣を考えてたんじゃ?」
「物をぐるぐると回転させるやつだよ」
そう、イメージはモーターだ。大小様々なモーターがあれば一気に色々な物が自動化出来る。それには魔石をバッテリーとして魔力の充填をどうするかだけど。
「ぐるぐる回転?なんの役に立つんじゃ?」
「脱穀も手で回転させてるし、おやっさんの蒸留器もかき混ぜてるでしょ?あれが魔法陣で出来れば人手を他に使える。あとパワーがあれば鉄を打つのにも使えるよ」
「ほう、そうなのか。蒸留器や脱穀機はわかるが鉄を打つのはイメージが沸かんが坊主が言うなら出来るじゃろな」
「まぁ、あるかどうかも分からないし、魔法陣を動かす魔石の確保も難しいから今のところは無理だね」
「お前さんが王都の学校で魔法陣の資格を取れば可能になるかもしれんな」
「魔法陣の学校?」
「魔法学校というのがあってな、魔法そのもの、ポーション、魔法陣のコースに分かれとるぞ。ほとんど合格者がでない難関学校じゃ」
「へぇ、魔法学校とかあるんだ。どんな事を教えてるのか興味あるな」
「坊主は騎士学校には行かんのか?剣の稽古を真面目にやっとるじゃないか。それに魔法なら教えてもらわんでも使えるじゃろ」
「剣は自衛目的だからね。騎士とか興味無いよ。それより魔法陣とかポーションの方が興味あるよ。資格がいるならなおさらだね」
「そうか、お前さんなら新しい魔法陣組めるかもしれんからな。その時を楽しみにしておるわい。」
「魔法学校は何歳になれば受験出来るのかな?」
「義務教育が終わってからじゃな。」
やっぱり10歳からか・・・
「飛び級とかあればいいのにな・・・」
そうポソッと呟いたら、
「なぁ、坊主、そんなに生き急ぐ必要はあるまい。今出来ることも十分あるしの」
はっ、そうだった。自分でも生き急いでると感じてたんだった。
「ぼっちゃん、今でも十分生き急いでるんだ、それ以上スピードあげるとこけるぞ。」
ダンにも同じことを言われる。
「わかった、魔法陣とかは10歳になるまで我慢しておくよ。それよりおやっさん、技術者どうするの?」
「それなんじゃがの、春になったら一度国に戻って誰かこっちに移住してくれる奴がおらんか探してみようと思っとる」
「おやっさんの故郷?この国とはまだ別のとこ?」
「あぁ、ドワーフ王国とか武器の国とも呼ばれとる所じゃが国ではない。国王とかもおらんしな。単に鉄とかがよく採れる鉱山近くに集まっとるだけじゃ」
「遠いの?」
「馬車で1ヶ月くらいかの」
「結構遠いね。往復で2ヶ月か。滞在期間も入れたら3ヶ月近くいなくなるんだね」
「あぁ、こっちに来てから一度も帰っとらんからな、顔見せがてら行って来るわ」
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
「俺も行こうかな」
ポソッ
「は?何言ってんだぼっちゃん、行ける訳ないだろう。遠いのもあるが危険過ぎる。道中は魔物や盗賊も出るんだぞ。このあたりとは訳が違う」
「じゃあ、ダンが護衛に付いて来てくれればいいじゃない」
「アーノルド様やアイナ様が許すはずないだろうが」
「おやっさんだけが行って誰か連れて来れると思う?ドワーフって皆おやっさんみたいな人達なんでしょ?」
「・・・・・確かにそうだが」
「きっと殴り合いの喧嘩して帰ってくるだけだって」
「坊主、お前は人のことをなんじゃと・・・」
「一人で行って誰か連れて来れる自信ある?みんな誇りを持って武器作ってるんでしょ?こっちで農機具作ってくれとか言ったら・・・」
「・・・殴り合いになるな」
フンッと横を向いて上を見上げるドワン。アンタも初めはそうだったからな。ドワンが地元のドワーフ相手に暴れてる姿が目に浮かぶ。
「俺が一緒に行ったら上手く説明出来ることもあるだろうし、俺もドワーフの国を見てみたい」
そう言った俺を見ながらしばらくドワンは考え込む。
「そうじゃな、お前さんはドワーフを乗せるのが上手いからの」
人を詐欺師みたいに言うなよ。
「おやっさん、俺が一緒に行くのは良いがアーノルド様とアイナ様が許すとは思えねぇんだけど」
「そうじゃな、米作りのこともあるしワシがアーノルドと話してみるわい。坊主、許可がで出たら一緒に行くということでいいか?」
「もちろん!」
二日後の夜にドワンがやって来た。
アーノルドと田んぼの事を打ち合わせた。開墾した農地は商会のもののままでディノスレイヤ領がそこの利用料を払い、農民の確保と作業は領直轄で行うこととなった。土地の利用料以外に米のロイヤリティとして売り上げの一割が払われる。お互いWin-Winの契約だ。
「で、他に何か話があるのか?」
「その前にアイナも呼んでくれんか?お前らに話がある」
アーノルドはセバスにアイナを呼びに行かせた。
「ドワン、どうしたの?仕事の話じゃなかったの?」
「まぁ、仕事も絡むが二人の許可が欲しくてな。実は来年の春に地元へ戻ろうと思っておってな」
「え~~~っ!」
地元に帰ると言い出したドワンに飛び上がって驚く二人。
「えっえっえっ!?お、お前、国に帰るのかっ?何かうちの領に不満でも・・・」
わたわたわたと慌てるアーノルド。
「あー、違う違う。すまん言い方が悪かった。技術者が足らんから地元で誰か探そうと思っとるだけじゃ」
「なんだ驚かすなよ。」
アーノルドはほっと胸を撫で下ろして座りなおす。
「なんだ里帰りに俺達の許可なんぞいらんだろ。うちは人の出入り制限してないからな」
「いや許可が欲しいのはワシじゃなく、坊主のことじゃ」
「坊主?ゲイルがどうかしたのか?」
「あぁ、一緒に連れて行こうかと思っとる」
「何っ?ゲイルを連れていく?なぜだ?なぜお前の里帰りにゲイルを連れていくんだ?関係無いだろう!?」
「あぁ、里帰りが目的なら関係はない。今回の目的は技術者を連れて来るのが目的じゃ」
「それはお前が頑張れば済む話じゃないか。ゲイルは関係無いだろ」
「そうよドワン、ゲイルにドワーフ王国への旅は危険過ぎるわ」
「ワシも危険だというのはわかっておる。もし坊主に何かあるようならワシが命を懸けてでも守る」
「命懸けって・・・」
命を懸けると断言したドワンを不安そうな顔で見つめるアイナ。
「ドワン、なぜそこまでしてゲイルを連れて行こうと思ったんだ?」
アーノルドはふと疑問に思った。ドワンの顔付きをみていると何か他にも理由がありそうだ。
「アーノルド、お前は領主を誰に継がせるつもりなんじゃ?」
「あぁ、それはまだ決めてないがゲイルが成人した時に誰にするか決めようと思っている」
「まだ決めて無い・・・か。長男のジョンが継ぎたいと言えば特に問題は無いじゃろがアイツは騎士になりたいと言っておったじゃろ?ワシから見ても剣の素質は十分だし、この前来ておったエイブリックの息子ともずいぶんと懇意にしている様子じゃないか。このまま行けば近衛騎士、アルファランメルの直属ということもあり得る」
「・・・・・」
「そうなった時にお前はジョンを後継に指名出来るのか?」
「・・・・・」
「次男を後継にするなら必ず優秀な者を複数用意する必要がある。お前にセバスが居たようにな。ここの領地はお前に憧れて集まって来たものが多い。お前にしか出来ない人心掌握が子供にも出来ると思うなよ」
「それとゲイルが里帰りに付いていくのと何が関係あるのかしら?」
アイナがふいに後継者の事を持ち出したドワンに疑問が沸く。
「ベントはドワーフとか亜人と呼ばれる者への忌避感が残っとるじゃろ?」
「それは・・・」
アーノルドもアイナも唇を噛み締める。
「それはどこの国に行っても変わらんからお前さんらが気にすることはない。貴族だ平民だと自分たちの中でも優劣を決めたがる世界だ。ベントが特別なわけでもないからの。そういうのもあってドワーフやエルフ、獣人達は自分達の里からほとんど外に住もうとはしない」
「それは・・・」
「逆に言えば亜人と呼ばれる者達の住む所に人は住めんからの。おあいこじゃ」
「・・・・」
「その点坊主は変わっとるの。初めからワシらに対しても人種がどうとかなんとも思っとらんかったし、ワシの作る物を凄いと褒めてくれるし、必要ともしてくれとる。ワシ自身も坊主が居なければ武器以外のものを作ることはなかったじゃろう」
「お、俺達も人種がどうとか思ってないぞ」
「そんな事はわかっとるワイ。そうで無ければパーティーも組んどらんし、ここに住んでもおらん。ワシがしてるのはこれからの話じゃ」
「お前がこの領地を王都のような貴族社会にして行くつもりならゲイルは連れて行かん。ドワーフの技術者を連れて来る必要もないしな」
「いや、そんな領地にするつもりはないぞ」
「じゃがこのまま大きくなればどこかに歪みが来る。税も安く規則も緩い。しかし飢饉とかあった時の備えとか出来てないだろ?これ以上は領として何かせねばと思って米作りを領でしようと思ったんじゃないのか?」
「その通りだ」
「米を名産品に育てて行くアイデアは誰が出した?お前が考えたのか?」
・・・・
「坊主がアイデア出したのじゃろ?どうやって米を売っていくのかまで含めてな」
「そ、その通りだ・・・」
「坊主はワシらと違って特別じゃからの。お前が坊主に頼るのが悪いとは思わん。ワシが領主だったとしても坊主に頼るじゃろうからな」
アーノルドは黙る。
「米作りにしても全て人の手でやることは可能じゃがそれだと備えまで回らん。効率をあげるのには道具が必要になる。そこまでは誰にでもわかっとるがどんな道具が必要か、どういう仕組みにすればいいかは思いつかんじゃろ?」
「そうだな」
「坊主にはそれを考え出す力がある。しかしそれを作る力は無いから作る者が必要じゃ。ワシ一人では限界がある」
「だから誰か連れて来るんだろ?ゲイルが行く必要があるのか?」
「さっきも言ったように亜人と呼ばれるワシ達が外に出ようとしないのは人族達への不信感からじゃ。ワシがいくらこの領は違うと言っても信じんじゃろ。実際に坊主を見て話してみれば信じるかもしれん」
「お前はゲイルを使って説得する為だけに連れて行くつもりじゃないか」
「というのは建前じゃ」
「なにっ?」
「ワシはの、坊主が一番領主に向いとると思っておる。」
「そ、それは・・・」
「決めるのはお前さんじゃからワシがどうこうと言うつもりはない。ただワシは坊主にドワーフ達と繋がりを作ってやりたいんじゃ」
「繋がりを?」
「そうじゃ、坊主はもっと便利な物、楽しい物を作ろうとしておる。しかしそれを実現出来る者は少ない。このままでは宝の持ち腐れじゃの。アイツが口に出してないだけでもっと色々あるのじゃろう。飛び級で魔法学校で魔法陣を学べないかなと言っておったからな。」
「魔法陣を?」
「坊主なら新しい魔法陣を組む事が出来るかもしれん。しかしそうなっても物を作る者がおらん。今の内にドワーフの技術者と繋がりを持っておけば坊主が望む物を作り上げていけるかもしれんじゃろ?それはこの領地の発展にも繋がるんじゃないか?」
「お前はそこまで考えて・・・」
「まぁ、領地が発展しようがしまいがワシにはどうでも良いんじゃが、ワシらが坊主にしてやれることはしとかんとの。アイツのお陰で旨い飯と酒が飲めるようになったし感謝しとる」
「ドワン・・・私達はゲイルに何も・・・」
「お前さんらは親じゃ、特別な事をしてやる必要はない。愛情持って見守ってるだけでいい。」
「お前、子供いないのに親父みたいな事を言うな」
「うるさい、外から見てる方がわかることもあるんじゃ!」
「ドワン、わかったわ。ゲイルを宜しくね。いいわよねあなた!?」
「あぁ。ドワン、宜しく頼む。ドワーフの国を見せてやってくれ」
こうして俺は冬が明けたらドワーフの国へ向かうこととなったのだった。
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