第113話 グルメシティ

夕食を食べ終わった後に外が騒がしくなってきた。ベント達が帰ってきたのかもしれない。


玄関に向かうとアーノルド達が入ってきた。


「お帰りなさい」


「ただいま」


俺にそっけなく返事をするベント。疲れているようだがあの顔を見ると合格したようだな。験担ぎのカツ丼食べられなかったからちょっと心配してたけど余計なお世話だったみたいだ


「おう、ゲイル。戻ったぞ」


「ベント受かったの?」


「あぁ、なんとかな。それより誰かアイナを呼んでくれないか?」


合格したと言うのになんとなくアーノルドの様子が変だな?


ベントはサラがさっさと部屋に連れて行ってしまった。真っ先にアイナに報告しにいきそうなもんだけど。


ミーシャがアイナを呼びに行き、アーノルドとアイナは執務室に向かった。



「ぼっちゃま、ベント様の受験どうだったんですか?」


自分の部屋に戻るとミーシャがこそっと聞いてきた。


「あぁ、受かったみたいなんだけど、ちょっと様子が変だね」


「えぇ、旦那様も少し険しい顔をされてましたね」


「まぁ、合格したんならいいんじゃない?どんな勉強してたか知らないけど頑張ってたのは確かだし」



ーベントの部屋ー


「サラ、本当に領主育成コースに入学していいのかな?あんなに学費が高いなんて・・・」


「旦那様が良いとおっしゃったのですから問題ありません。領主たるものあれくらいの金額を出せなくてどうしますか。仮に無理をされているのいうのならば領地経営が上手く出来てないということです。」


「でも・・・」


「ベント様が領主になられた暁にはあれくらいの金額をポンと出せる領地経営をすれば良いのです。言わば学費は投資です。ベント様がなすべき事は子供が学費を心配するような思いをさせない領主になることです」


「そうだね。頑張るよ」


「お分かり頂ければ宜しいのです。もうお疲れでしょうから後は私に任せてお休み下さいませ」


「サラ、いつもありがとう」


「私はベント様にお仕えする身でございますから当然です。それと合格おめでとうございましたベント様」


「うん」


改めて合格おめでとうと言われ、心が緩んだベントは眠りについた



ー執務室ー


「金貨90枚・・・」


「エイブリックから子供に持たせる金も入れたら最低金貨100枚は必要だろうと言われたよ」


「子供にそんな大金・・・」


「周りは代々貴族のやつらばかりだからな。金銭感覚がまるでちがうのだろう。それにあわせたら足らんくらいかもしれん」


「私たちの蓄えから出すしか無いわね」


「あぁ、すまんな。残りは大丈夫か?」


「生活していくには何も問題無いけど、領地の為には無駄使いは出来ないわね。領地立ち上げの時に結構使ったから」


「そうだな、これからは俺たちの蓄えで備えるより何か領地で新しい事業をやらないとダメかもしれないな」


「どんどん領地の規模も大きくなってるしね。もう私達個人でどうこうは無理よ」


「あぁ、そうだな。ゲイルにちょっと聞いてみるか」


「ゲイルに?」


「俺達は冒険者あがりだからあまり物を知らんだろ。あいつはお告げで色々知ってたりするからな」


「3歳の子供に頼るなんて・・・」


「まぁそういうな。ジョンの小遣いもゲイルが授けたレシピで潤ってるからな。あいつは欲が無い割に金儲けの才能がある。ドワンの所から貰うあいつの配分もすごいことになってるぞ。ほらっ」


「えっ!?こんなに?」


「あぁ、このままだとゲイルなら余裕で自分の稼ぎで領主コースもいけるな」


「私達が命がけで冒険してた稼ぎを越えそうね」


「俺達の稼ぎは俺達だけにしか入らんかったが、ゲイルの稼ぎは周りの皆も潤ってるからな。そう考えたらもう越えてるさ」


「そうね、ゲイルが一番領主らしいかもしれないわね」



翌朝、朝食後にアーノルドから執務室に来てくれと言われた。


「え?領主育成コース?政治学コースを受けたんじゃないの?」


「あぁ、そうなんだが、政治学コースはダメでな。その代わりに領主育成コースにスライド合格になった」


「へぇ、そんなシステムあったんだね」


「俺も知らなかったんだがエイブリックが教えてくれてな。政治学コースはコネが無いと成績が良くても難しいらしい」


あー、なるほど。出来レースの受験だったのか。


「それでも良かったじゃない。」


「ただな、領主育成コースは代々領主をしている子供達が行くところらしくてな・・・」


「金持ってるやつらの集まりなんだね?大丈夫?そんな所にベントを通わせて?学費も高そうだよね」


「3年間で寮費入れて金貨90枚だ」


げっ!金貨90枚? 日本円に換算したら9千万円・・・

完全にアホボンが行く学校じゃん。成績云々より金だけあれば入れるんじゃ・・・


「す、凄い金額だね。もちろん払えるだろうけど、小遣いとかどうするの?周りは金持ちばっかりだよね」


「3年間で最低金貨10枚は必要らしい」


たかだか10歳やそこらの子供の小遣いが年間340万くらいか。いったい何に使うんだか・・・


「父さんや母さんが良いと思ったんならいいんじゃないの。俺には理解出来ないけど」


「まぁ、そう言うな。これから貴族としてやっていくには必要かもしれん。アイナや俺は貴族としての力は無いからな」


そう言う考え方もあるのか。元々庶民の俺には分からない感覚だけど。しかし、貴族としての力は無いか。わざわざそんなことを言うところを見ると貴族絡みでなんかあったんだろな。


「うん、どれも俺が口出すことじゃないしね。ベントがそれを生かしてくれればいいや。それでここに呼んだ理由はなに?」


「そうだな、領地のことなんだがな、今までは領地の立ち上げや補填に俺達の蓄えを使ってたんだが、これからはそうも行かなくなっていくと思ってな」


「どんどん人も増えてるし領地広がってるからね、個人の蓄えで何とか出来る規模じゃないよね」


「お前、領地がもっと潤う良い方法なんか知らないか?」


は?何言ってんのアンタ?


「父さん子供に何聞いてるの?馬鹿じゃない?」


「いや、俺達と違ってお前は色々物知りだろ?なんか良いアイデアないかなと」


「いやいやいや、領地経営なんてしたことは無いんだからそんなの知らないよ」


「そうか、そうだよなぁ」


「ブランデーが日の目を見るのはもっと先だし、米の量産も時間かかるしね」


「米の量産ってなんだ?」


「米旨かったでしょ?」


「あぁ、あれは驚いたな。カツ丼とか最高だったな」


「あれ元々は自分が食べたいから作ってみたんだけど、農業って慣れた人がやらないと効率が悪いんだよね。それで来年から誰かにやって貰おうとおやっさんと算段してるんだよ。それで田んぼも拡張してるところ」


「ほうそんなことになってるのか」


「でね、稲刈りに冒険者雇ったんだけど、冒険者としてはダメそうなんだけど農業に慣れたら使いものになるかなあって。ちなみに見込みのない新人冒険者はどれくらい稼ぐの?」


「見込みの無い新人か。そんな奴らはほとんど稼ぎないぞ。安宿の一部屋にパーティーが雑魚寝して串肉食えたらいいとこだな」


「そういう人たちが行きつく先はどんなの?」


「家業継いだり細々と採取依頼だけこなしたり、悪いやつは盗賊になったりとかだな。うちの近所だとすぐにほかの冒険者に駆除されるから盗賊は無理だが」


「そういう冒険者って各地にいるんだよね?そんな人達に農地と家貸したらどんどん田んぼ広げても大丈夫なんじゃないかなぁって」


「そうか米か」


「そう、小麦はどこの領地でもあるけど米を量産してるところは無いからね。名産になればどんどん売れる。売るためには美味しいと知って貰わないといけないからレシピ開発と料理人を増やして食事処を増やす。ディノスレイヤ領に行けば旨いもの食べれるぞとかなれば観光客も来ると思うんだ。王都とディノスレイヤ領に馬車の定期便を出せば人も来やすくなるよ」


「お前、やっぱり凄いな」


「米とか食事処とか領直轄運営でもいいけどちゃんと分け前貰うからね。あと田んぼとかはおやっさんとやってるから事前に相談必要だよ」


「わかった。料理のレシピは頼めるか?」


「俺が食べたいものならいいよ。あとブリックもうちのお抱え料理人じゃなくて領直轄の料理人にしてもいいかもね」


「なに?うちはどうするんだ?」


「ブリックに育てて貰えば良いんだよ。本人が望めばだけどね」


「そうか。色々とすまんな」


「いや、勝手にお金が入ってきて食べたいものが食べられるようになったら俺も嬉しい」


「こいつちゃっかりしてやがる」



やることが見えてきたアーノルドは上機嫌だった。

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