第111話 ベントのお受験
いよいよベントの受験が来週に迫ってきた。アーノルドとベントは王都に行く準備を進めていた。どうやらサラも付き添うらしい。
受験日前々日に到着し、試験日の2日後の発表を見てから帰って来るらしい。
「明日、朝飯食ったら出発するからな。馬車の点検をしっかりしておくように言っておいてくれ」
アーノルドはセバスに指示を出している。俺はブリックに言って験担ぎに出発日の朝食にカツ丼を頼んでおいた。ほとんど口をきかなくなってしまったがこれくらいはしておこう。もしかしたら朝からカツ丼とか嫌がらせに思われるかもしれないけど。
ふとベントを見ると最後の追い込みで受験勉強をしていたのか青白い顔をしていた。
予備校とか対策問題集とかない世界でどんな勉強してたんだろね?
出発日の朝、頼んでおいたカツ丼は皆には好評だったがベントには重かったようで味噌汁だけ飲んで出発していった。
「ぼっちゃま、ベント様召し上がられませんでしたね。」
「そうだね、かなり寝不足みたいだったし、緊張してるみたいだったから食べられなかったんだろうね」
験担ぎだから一口でも食べてほしかったんだけど、あの様子じゃ仕方がないか。
「ミーシャもお昼ご飯に作ってもらうといいよ。材料はみんなの分あるから」
やったーっと喜ぶミーシャは肉食なので気に入るだろう。
さて、俺たちは来年に向けて田んぼの拡張をしないとね。ドワンも張り切ってたからザクザクと開拓していこう。
ミゲルにウィスキーを借りて農地を開拓していく。これで米作りが軌道にのればあちこちに田んぼが出来ていくだろう。米がディノスレイヤ領の特産品になるかもしれないな。
それと俺が酒飲めるようになるまでに日本酒も作れるようにしなければ・・・
あー、刺身とキリッと冷やした冷酒、おでんに熱燗をキューっ、雪が降る温泉につかりながら・・・
「おい、坊主!坊主っ!」
はっ
「なななに?おやっさん」
「ったくボーッとヨダレ垂らした間抜けヅラしやかって」
「ごめん、ちょっとね。」
いかん、ヨダレまで垂らしてたのか。
「せっかく農地を開拓するんだ、米以外になんか旨いもん作れないのか?」
「まぁ、この辺で取れるものは他の農家が作ってるからね。なんか美味しい果物の苗か種があればいいけど、冒険者してるときに美味しい果物とかなかった?」
「ぼっちゃん、それならいくつか食べたことあるが名前は知らねぇな」
「そうか、じゃあ冒険者ギルドに依頼をだそうか?美味しい木の実の採取依頼を」
「そうだな、狩りのついでに採ってくる奴がいるかもしれん」
「じゃあ、取りあえず1種類銅板5枚、俺らが気に入ったら追加報酬とかでいい?」
「あぁ、物を指定しないならそれでも十分だろう」
「届け先は商会にしてもらって楽しみに待とうか」
この時期だと梨とか柿があるかもしれないな。これは常駐依頼にしておこう。季節によって色々手に入るかもしれないし。どんな物が集まってくるか楽しみだね。
ー王都に到着したディノスレイヤ家の馬車ー
「ここが王都・・・」
「そうだデカイだろ?うちとは違って立派な壁や門があって変な奴は門番が入れないようにしてるからな」
「うちの領は門とか無いですよね」
「元々は小さな村だったしな。どんどん人が増えて大きくなってるから壁とかまだまだ必要ないんだ。まぁ、王都以外で壁まで作ってる領地は王家直轄地か大貴族領くらいだがな」
そんな話をしながら王都に入り、試験がある学校近くの宿屋へと向かった。
「さ、ベント様。最後の追い込み勉強を・・・」
宿屋に着くなりベントに勉強をさせようとするサラ。
「おいおいサラ、熱心なのは良いがまずは疲れを取って体力を回復させるのが先じゃないか?」
そう言われてぶすっと膨れるサラ。
アーノルドはベントの顔色が悪いのを心配していた。
「さ、ベント。お前まともに飯も食えてないだろう? 甘いものでも何でもいいから食べられそうな物を少し食べて寝ろ。いまお前がすることは勉強でなくて受験に実力をだせるようになることだ。」
ベントはジョンやゲイルばかりをかまうアーノルドが自分の事を見てくれていることを知り嬉しかった。
「わかりました。スープは飲めると思うのでそれを食べて寝ます」
「そうだな、下の食堂で美味しそうな物を頼もう」
スープを飲んだその夜、ベントは久しぶりにゆっくりと眠る事が出来た。
翌朝、宿屋の朝食を食べる3人
「ここのパン美味しくないですね」
固くもそもそとしたパンはちぎってスープに入れないと飲み込めない。
「あぁ、前までうちで食べていたパンと同じだ。しかし、来年になればパンが美味しくなってると思うぞ」
「どうしてですか?」
「今年の社交界でロールパンが発表されるみたいだからな。そのあと街にも少しずつ出てくるだろう」
なぜうちのパンが社交界で?と疑問に思ったが、そういうものかと考えないようにした。
「さ、ベント様、お食事の後は今まで勉強した復習を行いますよ」
サラが顔色がいくぶん戻ったベントをさっさと部屋に連れていってしまった。
「では始め!」
試験が始まった。騎士学校と違い実技は無しの筆記試験のみだ。
受験生は100名強、合格者は20名前後。倍率5~6倍だ
「それまで!合否発表は2日後に掲示板に張り出す」
「ようベント、出来たか?」
「はい、難しかったですがなんとか全部答えは書きました」
「そうか、よく頑張ったな。今日はゆっくりと休め。明日、旨いもんでも食いに行こう」
やりきったベントはその夜は泥のように眠り昼まで起きて来なかった。
「頭が痛いです」
ようやく起きてきたベントは寝すぎて頭が痛いようだ。
「ほら、これをゆっくり飲め。そうすれば落ち着くから」
常温の水をベントに飲ますアーノルド。ごくごくとそれを飲み干すと少し頭が痛いのがマシになった。
「どうする?このままゴロゴロしてるか?それとも街をぶらつくか?」
「いえ、ここに居ても落ち着かないので街を見学したいです」
ベントはアーノルドと二人で街をぶらついたが試験結果が気になって何も目に入ってないようだった。
合否発表日
ほとんど眠れなかったベントは掲示板の前に陣取り、結果が張り出されるのを待った。
紙を持った試験官が現れる。
(どうか合格してますようにっ!)
するするっと名前の書かれた紙が張り出される。
ベント・ディノスレイヤ
ベント・ディノスレイヤ
ベント・ディノスレイヤ・・・
必死に自分の名前を探すベント。
が、何度見ても自分の名前はそこには無かった・・・
ベントはその場で崩れおちるように座り込む。
嘘だ・・・な、名前が無い・・・
あれだけ頑張ったのに落ち・・た!?
張り出された紙を見上げても自分の名前は無い。
ぼーぜんとしながら宿屋に戻るベント。ここまでどうやって帰ってきたのか記憶に無いが目の前でサラが泣き崩れ、アーノルドが残念だったなと肩を叩く姿がある。
あぁ、自分は受験に負けたんだなという実感が込み上げてくる・・・
うっうっうっうっ
どうしようもないものが目から溢れ出て来た。
うわぁぁぁぁ~ん
そして大声を出して泣く自分を知らない自分が見ているように思えたのだった。
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