第110話 米騒動

その後数日間、馬に乗ったり森で狩りをしてディノスレイヤ家での休日を満喫したアルファランメルは冬休みにも絶対来ると言ってジョンと共に王都へ戻って行った。


「アルっていい人だったね、身分が高そうな人だけど気さくだったし」


「身分が高そうってお前なぁ・・・」


アーノルドが呆れたような顔をしているが、まぁ俺には兄貴の友達でしかないからどうでもいいや。


「もうすぐ受験シーズンになるけどベントはどうするの?」


「あぁ、王都の政治学学校を受けるつもりみたいだ」


「政治学?」


「王都の財務や法学とか中枢の仕事に就くための学校だな。いわゆる官僚コースってやつだ」


「ずいぶん難しそうだね」


「大半が親が中枢の仕事をしている法衣貴族の子供が行くための学校だな。貴族以外は受験すら無理だしな」


「なんかウチには似合わない学校っぽいけど大丈夫なの?」


「さぁ?本人がやりたいならやってみればいいさ。中枢のやつらは俺やアイナには苦手な奴らばっかりだ」


脳筋夫妻にはそうだろうけど、領主としてはそれはどうかと思うぞ。


しかし、この世界でも政治ってドロドロしてんのかね?選挙とかないからほとんど世襲だろうし、学校に合格しても余程優秀じゃないと中枢の仕事に就くことなんて無理だろうな。仮にその優秀な者になれてもやっかみとかで息苦しそうだ。



「ベント様、あと数ヵ月で受験ですよ。領主として政治とはなんたるかを学ぶ為に絶対合格しなければなりません」


「わかってる。絶対に合格してみせるよ」


ベントは言われるがままにサラに出される問題を勉強していた。



ー秋ー


おぉ、田んぼが見事に黄金色になって穂が垂れている。実るほど頭を垂れる稲穂かなって奴だな。


さて米の収穫だ。待ちに待った米の収穫!冒険者ギルドに依頼を出して人手を確保してきたのだ。


「では皆さん、この鎌で刈り取りをしていきます。これくらいの束にしてここに交互に掛けていって下さい」


米は刈り取りしたあとに乾燥させる必要があるからすぐに食べられるわけではないのが残念だ。


「腰痛えぇ、もう握力がねぇ」


慣れない農作業に冒険者が悲鳴をあげる。


「お前ら、そんな軟弱なこと言ってたらゴブリンすら狩れんぞ!修行のつもりでやれ!」


そういってダンがゲキを飛ばす。そう、手の空いてる冒険者=初心者や弱っちい奴らばっかりなのだ。足腰も弱いし刃物の扱いも下手だ。


「最近の冒険者は軟弱じゃのう。冒険者をやめて農作業しとる方が身のためじゃ」


呆れたように呟くドワン。確かに稲刈りは慣れてないとしんどいが、これしきで音をあげるようじゃ冒険者なんて過酷な職業は無理だろうな。アーノルドに言って冒険者育成機関とか作った方がいいんじゃないか?このままだとザクザク死んで行きそうだ。


ダンとドワンに尻を叩かれながらなんとか一週間かけて稲刈りが終わった。冒険者が10人、一人当たり1日銀貨1枚。3日間で30枚を予定してたけど、支払いが70枚か。赤字だなこりゃ。来年からは固定で依頼しよう。そうすれば早く終われば冒険者も得だしな。


そうだ干した稲に雨が降っても大丈夫なように土魔法で屋根だけ作っておくか。


「おい、坊主。このあと米はどうしていくんじゃ?」


「稲から米だけ取る脱穀っていうのをしてから籾ずりと精米だね」


「何かさっぱりわからんぞ」


「そうそう、簡単な機械をおやっさんに作ってもらいたいんだよ」


商会に戻ってから脱穀機と精米機の説明をする。


人力で動かす機械だとそう難しいものでも無いらしく、米が乾燥するまでには仕上げてくれることになった。


「ぼっちゃん、米の保管場所はどうすんだ?」


「そうだねぇ、全部で300キロくらいありそうだから、森に保管室作るよ。冬の間はいいけど、気温が上がると虫が沸いたりするから地下室がいるね」


「取りあえずブランデーのとこはダメなのか?」


「食べる分を取り出しに何度も出入りするから別の方がいいと思うんだ」


「どうせ作るのはぼっちゃんだからな、好きにすればいいさ」


ぐぬぬ、そりゃそうだ。


しかし、魔力アップ訓練している俺は米の地下室くらいちゃっちゃとできるので問題なしだ。


一週間で米の保管室を完成させ、いよいよ脱穀だ。


「ダン、これをぐるぐる回して」


脱穀機についたハンドルをダンが回し始める。


「ミーシャはそこのぐるぐる回ってるところに稲の穂を当てて」


「わぁ、どんどん実が落ちていきますよぉ」


せっせと籾を量産していき、二日で籾を取り終えた。


「ふぅ、あの冒険者達じゃないが農作業ってのは疲れるな」


「そう、重労働なんだよ。それに籾から米を取り出す籾ずり、取れた米を精米する作業とかもあるからね」


「まだあるのか・・・。これ、毎年するのか?」


めっちゃ嫌そうな顔をするダン。


「俺しか米食べないとそうなるね」


ニヤッと笑いながら答える。


「どういうこった?」


「米が旨かったらどうなると思う?」


「げっ!もっと作るのか」


慌てるダン。


「そう、たくさん必要になる。でも旨かったら売れるだろ?そしたら米作る農家が出てくるよ。そうなれば農家に任せて出来た奴を買えばいいと思うんだ」


「そういうことか。驚かせんな」


「籾すりってのは今回魔法でやるけど、米が売れそうならおやっさんに機械作って貰うよ。脱穀機、籾すり機、精米機と新商品ザクザクだね」


「まったく、この坊主は・・・」


呆れるドワン。


「米が旨かったらの話じゃろ?ほら作業進めて食ってみなけりゃわからんじゃろ」


そりゃそうだ。じゃ籾ずりしますか。


臼で籾ずりするのは気が遠くなるからジェット式で一気にやる。


「おやっさん、今からやる作業を機械で出来るかよく見ててね」


土魔法で弾力性を持たせた壁を作り、風魔法で籾を壁にぶつけていく。割れすぎないように少量ずつ風の強さを変えて試す。


よしこれくらいの強さだな。


シュドドドっ


マシンガンの玉を撃つように壁に籾を当てていくと籾が割れて米が出てくる。割れた籾と米を別の所にためながらシュドドドっと。


さすが魔法だあっという間に完了。次は風魔法で籾だけを吹き飛ばしていく。


「はい完了!これが玄米だよ」


「ほう、これが米か。どうやって食うんじゃ?」


「米は炊いて食べるんだけど、このままだと栄養価は高いけど味はいまいちなんだよね。おやっさんに作って貰った精米機で米ぬかってのを削り取ってからの方が旨いよ」


早くみんな食べたそうなので玄米を麻袋に摘めてウィスキーに森まで運んで貰った。


「じゃ精米していくね。米は精米したらすぐに味が落ちていくから食べる分ずつ精米するのがおすすめだよ」


ダンに精米機のハンドルをぐるぐる回してもらって少しずつ機械に玄米を入れていく。


おぉ、夢にまでみた白米だ。やっと食える。


米とは別に出てくる糠をドワンが捨てようとするのを慌てて止める。


「おやっさん、それも使い道があるから捨てないで!」


「こんな粉も食えるのか?」


「これ自体は食べないけど、野菜を漬けると旨くなるんだよ。好き嫌い分かれるかもしれないけどおやっさんは好きだとおもうなぁ」


「それを早く言え!」


自分が好きそうなものが出来ると聞いて慌てて集めだした。


よし、5合くらい精米出来たな。


「ダン、もういいよ。それじゃ米炊くね」


米をざっと洗い少し水に浸けておく。土鍋に洗って水切りした米を入れて等量の水を入れて蓋をする。土鍋で炊くのはちょいと難しいんだよね。


米を炊いている間に持ってきた豚肉を味噌焼きにしてもらった。


「よーし、炊けたよ~!」


蓋を開けると新米らしい艶々とした米から湯気が立ち込める。


「ほう、これが米か」


「さ、食べよう」


ミーシャに全員分よそって貰って頂きますだ。


パクっ


おぉ、米だ。白飯だ。わけもわからずホロリと涙がこぼれる。


「はふっはふっ ほんのりと甘い気がしますけど、あまり味がないですぅ」


「ぼっちゃん、泣くほど旨いか?確かに不味くはないが・・・」


「坊主、なんだこれは?食感は確かに面白いがお前さんが今まで作って来たものと比べると・・・」


なんか期待したものと違うとブー垂れる3人。これだから米を食ったことのない奴らは・・・


「みんな、豚の味噌焼きを食べながら米食ってみて」


これならロールパンの方がとかぶつぶついいながら味噌焼きと米を頬張る3人。


「ぬぉ!こ、これは」


おやっさんがガツガツと食い始めた。


ダンも無言で味噌焼き→米→味噌焼き→米のコンボを始めた。


「わわ、ぼっちゃま。米と味噌焼きを一緒に食べると止まりませぇん」


そうだろうそうだろう、うんうん。そのうち米だけでも食うようになるぞ。


おかわりじゃぁ!


全員がガツガツ食べて5合の米があっという間に無くなった。


「坊主、今回作った米はどれぐらい持つんじゃ?」


「このペースで食べたら半年持たないよ」


「まだ籾とやらのままのもあるじゃろ!」


「あれは来年米にするための種にするから食べちゃダメ。今年くらいの出来なら、来年は5倍くらい出来るけどね」


「よし、商会で農地をもっと広げよう。毎年どんどん広げるぞぉ!」


あー、そうしてくれると助かります。


そして米騒動は屋敷でも起こり、米は半年持たない事が確定したのだった。



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