第107話 ジョン帰宅
ミゲルも無事にウイスキーをテイムしたようだ。あれだけ重い材木を扱ってるんだから、身体強化魔法を自然と使ってるのは当然だった。
それぞれの馬が主人を得たことで言葉を理解するようになり、ソーラスもこんな楽な調教はないと言っていた。
ただシルバーみたいに四六時中べったりしてないとダメということは無いみたいなのは俺が甘やかせ過ぎてるからだろうか?
それからしばらく経ち、夏を迎えて4頭の馬も日々たくましく成長したので朝飯前にオーバルコースを走らせるのが日課となった。ドワンも週に2日程ウォッカに乗っている。
「そろそろ夏休みだな。ジョンが帰ってくるかもしれない」
「いつまで夏休みなの?」
「8月中だな。いつからいつまで帰ってくるかわからんがその内帰ってくるだろう」
アーノルドと並んで馬に乗りながらジョンの夏休みの話を聞いた。
森での剣の稽古はだんだんと実戦に向けた動きになってきている。縦横斜めの後振り返って後ろの板に横斜めの、振り返らずに右横、左横もある。敵に囲まれた時の稽古だ。これがなかなか難しいが自衛の為の剣だ。手を抜かずに集中してやろう。
蒸留酒作りは次の白ワインが来るまでお休みだ。ドワン達は赤ワインやらエールを蒸留酒にして色々試している。エールからウイスキーみたいな物が作れるかもしれないね。
屋敷に帰ると応接室の前にジョンが居た。
「あ、お帰り。今日帰って来たの?」
「そうだ、さっき着いたぞ。ちょっと見ない間に大きくなったな」
そう幼児の身体は成長著しいのだ。まだまだちっこいけど。
応接室から知らない人が出てきた。その人をジョンが紹介してくれる。
「騎士学校の仲間でアルファランメルだ。しばらく屋敷に滞在するから宜しく頼む」
「アルファランメルだ。お前がゲイルか?ジョンから話は聞いている。会えて嬉しいぞ」
「ゲイルです。ジョンと仲良くしてくれてありがとう」
俺は差し出された手と握手した。
「ところでゲイル、牧場とあの周りの土地はなんだ?」
「あれね、シルバー達を安全に走らせる為に作ってもらったんだよ。オーバルコースって言うんだ」
「わざわざ馬を走らせるための道を作ったのか?」
アルファランメルが驚いて聞いてくる。
「アルファランメルさん、馬がおもいっきり走っても怪我しない為のものだよ。馬が怪我しちゃうと治せないこともあるから」
治癒魔法を使えば大丈夫なんだろうけど、怪我しないことにこしたことはない。
「ゲイル、俺の事はアルでいいぞ。ジョンの弟は俺の弟みたいなもんだからな」
名前といい雰囲気といい、身分の高そうな人だけど結構きさくだな。
「そう言って貰えると嬉しいな。じゃあ、遠慮無くアルって呼ばせて貰うね」
「おうっ! しかしずいぶんと馬を大切にしているんだな」
「馬も家族だからね。当然だよ」
「馬が家族?」
「アル、ゲイルはちょっと変わっててな、家族も使用人も馬も同じように接してるんだ。冒険者で言うパーティーメンバーって感じだな。ちなみに俺もそのメンバーだ」
「ほう、我が家とはずいぶん違うな。やっぱり二人ともアーノルドさんの息子だな」
はっはっはと笑いあう二人。
「まだご飯まで時間あるけど、馬を見に行く?」
「ああ、そうしようか。さっきはチラッと見ただけだったからな。アルがシルバーを見て驚く姿を見てみたい」
「じゃあ、見に行こう」
二人を連れて牧場に向かう。夏なのでまだ明るい、馬達は牧場にいるだろう。
「あれ、ゲイル様どうさ・・・」
俺達を見て、さっと膝をついて頭を下げるソーラス。
「良い、俺は今はただの騎士学校の生徒だ。膝をつく必要はない」
はっ、と言って立ち上がるソーラス。
アルはやっぱりかなり身分の高い家らしい。ソーラスが一目見ただけで誰かわかるくらいなんだな
「お前はどこの家の者だ?」
「ソーラス・グラッドと申します。グラッド家の四男で軍馬の調教をしておりました」
「グラッド家の者か。軍馬の調教をしていたものがなぜここにいる?」
「はい、アーノルド・ディノスレイヤ家が牧場を作り、馬の世話人を募集していた為志願し採用して頂きました」
「そうか、ここは楽しいか?」
「はい、夢のような場所です」
ずっと頭を下げていたソーラスが初めて顔をあげてにこやかに返事をした。
「ジョン、ディノスレイヤ領は領軍でも作るつもりなのか?」
「そんな話は聞いてないが・・・、ゲイルそうなのか?」
「さぁ?父さんや母さん達の馬が増えて馬の世話人増やそうってことで来て貰っただけだと思うよ」
ジャックもこちらへ来た。
「ゲイルぼっちゃん、お客さんか?」
そういやトム以外みんなジョンを知らなかったな。
「一番上の兄のジョンと騎士学校の仲間のアルファランメル」
ソーラスがあーっと慌てて手を振る。ん?アルファランメルと略さずに紹介したぞ。
「こっちはジャック、元冒険者。ソーラスはさっき自己紹介してたね、あとはトムとジーム。この4人に馬の世話をお願いしてる」
それぞれが頭を下げる。ついでにダンも紹介しておくか。トムに呼んで来てもらおう。
トムがダンを呼びに行ってる間に馬の紹介をする。
「シルバー、皆をこっちに連れて来て」
タッと駆け出し馬達を呼びに行くシルバー。
「今何をしたんだ?」
「シルバーに皆を呼んで来て貰うんだよ」
「は?馬に馬を呼びに行かせる?」
こいつ何言ってるんだと怪訝な顔をするアルファランメル。
シルバーが馬達を引き連れて帰ってきた。ウイスキーも戻ってたようで全員集合だ。
ぽかんと口を開けてシルバーを見るアルファランメル。
「こいつがシルバー、俺の馬だよ。小さい方がハート、馬車を牽いてくれてる。この大きいのがウイスキー、大工の親方の馬。ソックス、ブラン、クロス、ウォッカ。父さん、母さん、ダン、ドワンのおやっさんの馬」
ざっと紹介した。
「これが父さん達の馬か。春に買ったという馬だな」
「そうだね、まだ子供だけどソーラスが調教付けてくれてるからもう走れるよ」
「シルバー、ジョンの仲間のアルファランメルだよ。遊びに来てくれたんだ」
ブンブンと首を縦に振って挨拶するシルバー。アルはまだ固まっている。
「アル、どうした?シルバーが挨拶してるぞ」
ジョンがアルの肩をポンポンと叩いた。
「う、馬が馬を呼びに行った?それに挨拶だと? ゲイル、どう言うことなんだ?」
「シルバー達は人の言うことが分かるんだよ」
「ゲイル、シルバー達!?と言ったな、ハートは分かるが他の馬もわかるのか?」
「そうだよ。ほらみんなその場で右回りして」
俺がそういうと一斉にぐるっと回った。
「ジョン、俺は夢を見ているのか?人の言うことを理解してる馬ってなんだ?」
「俺もよくわからんが、ゲイルが家族みたいに扱ってるのが馬達もよくわかってるんだろ」
適当に答えるジョン。
「ソーラス、どういうことだ?」
「はい、先ほど夢のような職場と申し上げた通りです。こんな馬達がいる所で働けるのは幸せです」
違った方向に答えるソーラス。
「アル、ゲイルは特別なんだよ。これからここにいる間はずっと驚くことになるから早く慣れろ」
それを聞いた全員がウンウンと頷いた。
そこにトムとダンがやって来た。
「ダン、ジョンの騎士学校の仲間でアルファランメル、遊びに来てくれたんだよ。こいつはダン。俺の護衛兼世話役兼剣の師匠ってとこかな」
アルファランメル・・・ ダンが呟く。
「初めましてアルファランメル様、あっしはダンといいヤス」
おろ?ダンが敬語で挨拶したぞ?アルが貴族だとすぐにわかったのだろうか?
「アル、ダンは俺の師匠でもあり、仲間でもある。ここにいる間は一緒になることも多いと思うから宜しくな」
「ダンとやら、お前は俺の事を知っていたのか?」
「はい、お名前だけでヤンスが」
「お前も貴族なのか?」
「冒険者を引退したところをアーノルド様に拾って頂きやした」
「そうか、元冒険者か・・・。今の俺はただの騎士学校の生徒だから、畏まらなくていいぞ。それにジョンの師匠に頭を下げさせる訳にはいかんからな」
そう言われてダンは頭を上げた。
「今日はもうすぐ暗くなるから、馬に乗るのは明日にしよう」
そう言って解散した。
晩御飯は普通のご飯だった。ブリックもいきなりお客さんが来たら準備出来てないよね。
アルは満足そうに食べてたけど
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