第106話 テイウマー

アーノルドが買った馬が運ばれて来た。シルバーやハートの様に言葉を理解するわけでもない普通の馬だ。


「アーノルド様は良い馬を選ばれましたね。4頭とも素晴らしいですよ」


ソーラスが新しい馬を見て褒めた。俺には馬の良し悪しはわからないからどこで判断しているんだろね?


「ソーラス、最終の調教がまだ終わってないんだ。問題無いように頼む」


「わかりました」


アーノルドとアイナは馬の名前はまだ考えているようだ。ダンの馬は他のより大きくなる可能性が高い馬を選んだとのこと。シルバーやハートは言葉を理解するのは初めからだったのだろうか?


「なぁ、トム。ハートって初めから言葉理解してた?」


「いえ、気付かなかっただけかもしれませんが、ぼっちゃんと出会ってからじゃないでしょうか?」


やっぱりその可能性が高いよね。恐らくシルバーもそうだ。俺と出会ってから言葉を理解するようになったんじゃなかろうか?


この前ジャックにテイムする方法を聞いて思い付いたことがある。


「ダン、ちょっと試したいことがあるんだ」


「何するんだ?」


「馬の名前は考えた?」


「まだだ。こういうの苦手でな。ぼっちゃん考えてくれないか?」


ダンの馬は黒に近い茶色で顔に白い十字架みたいな模様がある。


「クロスってどう?」


「お、いいね、それで行こう」


「クロスはダンの言うことを理解してる?」


「シルバーみたいにはいかんぞ。乗ったら言うことを聞くと思うが、言葉では無理だな」


じゃ実験開始だ。ダンに黒砂糖を渡してクロスに与えて貰うところから始めてみよう。


まだ繋がれているクロスの所にダンが近寄ると見慣れぬ人間が近付いて来て恐がってるのか興奮している。ダンはゆっくりと黒砂糖をクロスに近付けるとふんふんと臭いを嗅いだ。


「食べていいぞ」


ダンはそう言いながら黒砂糖をグッとクロスの顔に差し出した。恐る恐る口に入れるクロス。


少し間があって首をブンブンと縦に振る。ダンを美味しい物をくれる人と判断したようだ。


「ダン、馬に少しずつ闘気を流してみて。少しずつだよ」


いきなりドカンと流しそうで怖いけど慣れてる身体強化魔法なら大丈夫だろ。


ダンは言われた通り少しずつクロスに闘気を流し出した。


「そのまま馬に名前つけて」


「お前の名前はクロスだ。これから宜しくな」


クロスがぽうっと光ったような気がする。


「ダン、クロスを放牧してから呼んでみて」


クロスを牧場に放すとキョロキョロとしながらその辺をトコットコッと走る。


「呼び戻してみて」


「クロス、こっちに来い」


ダンに駆け寄ってくるクロス。


「ソーラス、まだ子供の馬だけどダンが乗っても大丈夫?」


「はい、いきなり走らせたりしない限り大丈夫ですよ」


「クロスに乗って言葉で歩いたり止まらせたりしてみて」


ダンはクロスの身体をポンポンと叩いてからまたがる。


「クロス、ゆっくり歩いてみてくれ」


トコトコと歩き出すクロス。


「はい、止まれ」


ピタッと歩くのをやめる。思った通りだな。


「ぼっちゃん、どういう事だ?こいつはいきなり言葉を理解したぞ」


今の出来事を見てジャックとソーラスが目を丸くした。


「ゲイルぼっちゃん、今何が起こってるんだ?」


「ゲ、ゲイル様、今何をしたんですか?」


「ダンが馬をテイムしたような状態になったんだよ」


は?


「ゲイルぼっちゃん、ダンがテイムした?呪文も何も唱えて無かったぞ」



あー、魔法の所から話さないとダメだな。このメンバーにはいつまでも隠せないだろうし。


「今から説明すること絶対内緒に出来る?」


「そんな大事の話なのか?」


「うん、誰かにしゃべったりしたら父さんが許さないと思う。本当は父さんの許可無く話すとまずいんだよね」


「ぼっちゃん、アーノルド様が来てからでいいんじゃないか?昼休みにでもアイナ様と一緒にこっちに来て貰うわ」


「そうだね、父さんと母さんにも試して貰いたいからそうしようか。みんなごめんね、詳しくは後で話すね」


今すぐ聞きたそうなジャックとソーラス。


ダンはクロスにまたがりアーノルドの職場に行った。実際に見て貰った方が信じて貰えるだろうとのこと。



まだ昼前なのにアーノルドとアイナが来た。よっぽど気になったようだ。


「おい、ゲイル。何したら言葉を理解するようになるんだ?」


アーノルド必死。


「まず、馬の名前考えて」


「え~、そんなすぐには無理よ。ゲイル考えてくれない?」


アイナがそう言うとアーノルドはウンウンと頷いた。自分の馬の名前くらい考えてやれよと思いつつ名前を考える。アーノルドの馬は黒に膝下だけ真っ白の馬だ。靴下→ソックスだな。アイナの馬は芦毛のだ。白いからブランでいいか。


「父さんの馬がソックス、母さんの馬はブラン。これがダメなら自分で考えて」


「それでいいぞ。呼びやすくていいじゃないか」


「ブランもいい響きね」


はい、決まり。


「じゃあ、馬にゆっくり近付いて黒砂糖をあげてみて」


2頭共クロスが食べたのを見てたからか、戸惑うことなく食べて喜ぶ。


「父さんは闘気を、母さんは治癒魔法を馬に流して。そっとね」


言われた通りにする二人。


「はい、名前付けてあげて」


「お前の名前はソックスだぞ」


「あなたの名前はブランよ」


2頭共ぽうっと光る。


「多分成功したよ。馬に命令してみて」


アイナはスカートで来たのでまたがるのにまた面倒臭いやりとりをしないといけないので命令だけにする。


牧場に連れて行き、おいでとか色々試してもらった。


「ゲイル、言葉だけで言うことをきくわよ。すごいわみんなシルバーみたい」


「ゲイル、これはどういう事だ?」


「うん、みんな知りたいみたいだから魔法って何かということから話す必要があるんだよ。それで話していいかどうか聞いてからにしようと思って」


「あー、そういうことか。お前ら秘密は守れるか?」


コクコクと頷く。


「これは脅しじゃなく覚悟の問題だと思ってくれ。今からゲイルが話すことを漏らしたら斬る。それでも聞く覚悟の有るやつだけに話す」


斬ると言われて少し怯んだがみんな覚悟を決めて聞くことにしたようだ。


「じゃあ、説明するね。今のは馬をテイムしたみたいなもんなんだよ。テイム印はないけど似たような感じだと思う。屈服させる代わりに黒砂糖をあげてすごく嬉しいことをしてくれる人と思わせる。次に魔力を流してやることで意識が繋がるんだと思う」


「ゲイルぼっちゃん、アイナ様は呪文唱えて治癒魔法を使ったけど。アーノルド様とダンは何もしてなかったよな?」


「父さんとダンは闘気と呼ばれる身体強化魔法を流したんだよ。魔力だったら何でもいいみたいだよ」


「その身体強化魔法ってのは呪文がいらないのか?」


「いや、魔法って呪文いらないんだよ」


「呪文がいらない?」


「そう、こうなれってイメージを強く持って魔力流すだけ」


信じられないという顔をするみんなに手からじょぼじょぼと水を出して見せる。


「詠唱しなくても魔法で水が出たでしょ」


あんぐりするジャック。ソーラスは魔法が使えないからいまいち理解してないようだ。


「じゃあ、テイムするときも呪文いらないのか?」


「呪文を詠唱して魔法を使ってた人は詠唱が染み付いてるから難しいよ。ドワンのおやっさんは火を点けるのは詠唱無しで出来るのにファイヤーボールは無理だったからね」


「なんてことだ・・・」


「ジャック、アーノルド様が他言無用だと言った意味がわかったろ?こんな事がみんなに知れ渡ったらどうなるか想像がつかんからな」


「あぁ、冒険者を引退してからこんな事実を知るとは皮肉なもんだな」


「世の中そんなもんだ」


「まぁ、ぼっちゃんは色々とすげえから慣れとけ」



アーノルドとアイナは嬉しそうに馬と戯れていた。残る1頭が可哀想だな。


「ダン、今からおやっさんを呼びに行こうか。1頭だけ仲間外れみたいでかわいそうだし」


そうだなと言って呼びに行ってくれた。クロスではなくシルバーに乗って行った。ドワンを乗せて帰ってくるつもりなのだろう。


ソーラスとジャックはそれぞれ新しい馬をアーノルド達と可愛がって楽しんでいる。


みんなお昼ご飯食べてないけど大丈夫かな?



しばらくしてダンがドワンと一緒に帰って来た。


「ワシの馬が来たんじゃろ?どいつだ?」


「おやっさん、興奮して大声で近付いたら親方と同じ事になるよ」


そうじゃったと我に返るドワン。


「おやっさん、火魔法以外に魔法か闘気って使えたっけ?」


「いや火魔法だけじゃ」


馬に火魔法なんて使えないからな。


「おやっさん、そこの農機具持ち上げてみて」


ウイスキー用の農機具を持ち上げさせてみる。何するつもりじゃとブツブツ言いながら農機具に手をかけ、フンッと言いながら力を込めるとうっすらドワンの身体を金色の光が包む。


「ありがとうおやっさん」


「何させるつもりじゃったんじゃ?」


「おやっさん、身体強化魔法使えるよ」


「ワシが身体強化魔法?闘気のことか?ワシは使ったこと無いぞ」


「今使ってたよ、農機具持ち上げようとした時。今までも知らずに使ってきたんじゃない?強い相手にハンマー振り回す時とか」


「気合い入れると力がみなぎってくるのは・・・」


「それが身体強化魔法だよ」


「し、知らなんだ。ワシは魔法を使っておったのか・・・」


「ダン、ゲイルぼっちゃんはなんで魔法使ったとか分かるんだ?」


「ぼっちゃんは魔法の色が見えるんだと」


「魔法が見える?そんな事があるのか?」


「あるから分かるんだろな。慣れろと言っただろ。わからない物を考えても解決しないんだ」


・・・・


「<ぼっちゃんだから>これで全て収まる」


「そうだな。そう思うしかない」



ドワンは意識せずに身体強化魔法を使ってたため、俺がサポートしながら馬に身体強化魔法を流した。


「お前の名前はウォッカだ」


名前だけ先に決めてたみたいだ。強い酒ならなんでも良かったのだろう。


ドワンの言う事を聞くようになったウォッカ。ミゲルも帰ってきたら同じ事をしてみよう。もう名付けてあるけど順番が変わっても大丈夫なのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る