第104話 馬の世話人

今回も疲れたなぁ。


新型馬車なので荷馬車よりはるかにマシだが、疲れるものは疲れる。


大量に捕ったシジミはドワン達と半分こした。凍らせてあるけど早めに食べてねと言ったがすぐに無くなると笑ってた。


馬車を小屋に収納してシルバーを牧場に連れていく。ご褒美に黒砂糖をあげてあとはトムに任せた。ダンも疲れたようですぐに部屋に帰っていった。


「お帰りなさいぼっちゃま」


ミーシャが出迎えてくれる。


「前みたいに釣れなかったけど、シジミって言う貝を持って帰って来たから、晩御飯を楽しみにしててね、ブリックにバター炒めにしてもらおう」


「わー、どんなのかわかりませんが楽しみにしてますね」


使用人達がたくさん食べても余るくらいあるから、明日の朝はシジミの味噌汁にしてもらおう。ブリックにシジミのバター炒めと味噌汁の手順を伝えてから風呂に入った。


身体がだるいので熱い湯にする。ぬるいお湯に長時間浸かる方が疲れが取れるらしいが、体感的には熱い湯の方が疲れが取れるような気がする。科学的なものより体感を優先しよう。


ゆでダコみたいに赤くなるまで浸かった後に冷えた牛乳を飲んだ。本当はコーヒー牛乳が飲みたいところだ。


部屋で身体を冷ましてたらうとうと寝てしまったらしく、ご飯ですよとミーシャが起こしに来てくれた。



「ゲイル、釣りはどうだった?」


「前みたいにたくさん釣れたわけじゃないけど釣れたよ。親方が釣った鯉も鍋にして食べた」


「鯉も釣れたのか?しかしあいつはあんまり旨く無いだろう?」


「池にいるやつはね。湖は水もキレイだし、臭み対策もばっちりしたから美味しかったよ」


ふーんとあまり羨ましくなさそうなアーノルド。


「あとシジミっていう貝も捕れたから後でご飯に出て来るよ」


「あら、あそこで貝が捕れるの?」


アイナの目が輝く。どこかで貝を食べたことがあるのだろう。


「湖にもいるからね。向こうでも食べたけど美味しかったよ」


メイドが料理を運んできたのはシジミのバター炒めとマスのカルパッチョだ。向こうで帰る前にクリーン魔法を掛けてから塩で水分を抜いて軽くスモークして冷凍して持って帰ってきたのだ。


「お、この貝旨いな。こぼれた汁にパンを浸けて食うと旨いぞ」


アーノルドがアイナに貝の汁を浸けて食べてみろと進める。


「あら本当。やっぱり貝は美味しいわねぇ」


ほぅとほっぺたに手をやるアイナ。貝の汁は正義だからな。


「この魚は生か?」


「軽くスモークしてあるから半生ってところかな。クリーン魔法と冷凍したからお腹痛くなることないから大丈夫だよ」


産卵を控えたマスは脂乗りもよく、スモークマスはとても旨かった。でもスモークサーモンの方がいいよねやっぱり。


シジミとマスのカルパッチョも好評で、あっという間に全部無くなってしまった。ご馳走様でした。



月が替わり、馬の使用人達がやって来た。テイマーのジャックと軍馬調教師のソーラスだ。新しい使用人の建物も完成してスプリングマット全室完備だ。二人はえらく喜んでくれた。


屋敷のベッドはすべてスプリングマットに変わっていて、ドワンの所に王都から注文が入って来ているらしい。ジョンのスプリングマットを見た生徒達から広まっているようで、便器とスプリングマットの注文を捌くのに大変だと言っていた。春になって一気に動き出した感じだな。


ウィスキーも毎朝ミゲルが迎えに来て連れていく。木材を運ぶのに重宝しているようだ。



「ジャック、魔物をテイムするってどうやるの?」


「まず魔物と戦うところから始まります」


「敬語使わなくていいよ。冒険者は敬語使うの苦手でしょ」


「しかし・・・」


「ダンも普通にしゃべってるから気にしなくていいよ」


横に居るダンも大丈夫だぞと頷く。


「では、お言葉に甘えて・・・。おほんっ、まず魔物と戦うところから始まってな、相手が抵抗出来なくなったら、自分の魔力を相手に流しながら呪文を唱えるんだ」


<我に屈伏しものよ我の力となり我の命に従え テイムっ!>


「とまぁ、こんな感じだな。強い魔物だと抵抗出来なくなるまで弱っても呪文を受付なかったりするから、全ての魔物をテイムできるわけじゃない。テイムが成功したら印が浮かび上がって言うことを聞くようになる。テイム印が薄くなって来たら魔力を流してやらないと消えちまって言うことを聞かなくなるから要注意だ」


「無理矢理従わせる様なイメージ?」


「そうだな、だから強い魔物ほどテイム印が薄くなるのが早いんだ。運良く強い魔物をテイム出来ても維持するのが大変だし、テイム印が消えたら襲われる可能性があるから、身の丈にあった魔物しかテイムしないのが普通だな」


「じゃあ、戦わないような魔物、例えば馬とかはテイムする時はどうするの?」


「馬とかは弱らせると使い物にならなくなるだろ?せっかくテイムしても死んだり走れなくなったら意味がないからな。普通は戦闘用の丈夫なやつしかテイムしないんだ」


「一度に何匹もテイム出来るの?」


「テイムするだけならな。その後の維持が出来ないから実質1匹だな」


「なるほどねぇ。テイムした魔物とは仲良くなれるの?」


「仲良くなれるか・・・、どうだろうな。相手は無理矢理従わされてるようなもんだから恨んでるんじゃないか?テイム印が消えたら逃げたり襲われて殺されたりするからな。テイマーが自分のテイムした魔物に殺される事は結構あるんだよ」


そうなのか、思ってたのとちょっと違ったな。魔物と意志疎通が出来て仲良くなれるのかと思ってた。


「ただテイマーは馬とか人間と共生出来る魔物と仲良くなるのは上手いヤツが多いぞ。テイマーになるような奴は元々生き物が好きなヤツがなるからな。それが実際にテイマーとして冒険者をするとどうしても戦う武器が魔物になるだろ?だんだん道具のように扱うようになってしまう。情が湧くと戦わせるのに躊躇してしまって危なくなるからな」


なるほどね。俺は魔物を従えて戦う必要ないし、テイマーになることはないな。


「色々教えてくれてありがとう。ジャックは馬好きなの?」


「あぁ、戦わせる必要がないから心を痛めることも無いしな。テイムしなくても繋がりを感じられるから好きだぞ」


それは良かった。


「うちは馬も家族みたいに思ってるからそのつもりで世話してね」


わかってると頷くジャックだった。



「ゲイル様、私にシルバーを任せて頂けないでしょうか」


ソーラスがシルバーを任せて欲しいと言ってきた。


「シルバーは俺が外に行くとき一緒に行くから、牧場にはほとんどいないよ」


「え?そうなんですか?」


ソーラスにも普通にしゃべっていいよと言ったが、敬語が身に付いてるらしくこのしゃべり方の方が楽らしい。


「シルバーを置いていくと拗ねるんだよ。牧場にいる時は乗ってもいいけど」


シルバーに乗っていいと言うと、目をキラキラさせるソーラス。


「是非乗ってみたいです」


「シルバー、ソーラスが乗ってみたいって、いい?」


ブンブンと首を縦に振るシルバー。


「ダン、シルバーにソーラスを乗せるから普通の馬具とあぶみを持って来て」


ダンは新人二人を連れて馬具の保管場所とあぶみの使い方を教えた。


「シルバー、宜しくね」


身体をポンポンと叩き、ソーラスはシルバーに乗った。


「このあぶみと言うのがあると乗るときも楽だし、すごく安定しますね」


ご機嫌なソーラス。


「シルバー、コースを軽く走っておいで。無茶はしたらダメだよ」


俺にそう言われたシルバーはオーバルコースに向かって歩き出す。ソーラスはまだ何もしていないので驚く。


「普通の馬と同じようにしても言うことを聞くから」


一応そう言っといた。


オーバルコースを走り出すシルバー。徐々にスピードを上げていく。結構スピード出てるけどさすがは軍馬調教師だ。安定した走りなので見ていてもハラハラしない。俺が走らせるとシルバーは気を使って俺が落ちないように走るからな。


シルバーとソーラスはコースを一周して戻ってきた。


「やっぱりシルバーは凄い馬ですよ。乗ってみて実感しました。安定感が半端じゃないし、まだまだスピードも出せそうです」


すごく嬉しそうなソーラス。


「もうすぐ父さんが騎馬を3頭買ってくる予定だし、ボロン村からも大きい馬が来るかもしれないから、馬の種類で担当を分ける?ハートと大きい馬はトムとジーム、騎馬はジャックとソーラスで」


はいと全員返事した。


これからは皆で相談して交代で休み取るように言っておく。しかし、早く馬が増えないと暇だろうな。アーノルドはいつ馬を買いにいくんだろ?


どんな馬が来るか楽しみだな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る