第103話 ミゲル感激

ミゲル達と釣りに行く日になった。


新型馬車をシルバーに牽かせてドワーフ兄弟を迎えに行く。御者はダン。俺はシルバーに言って聞かせて馬車に乗り込んだ。あの二人を見張っておかないと絶対飲むからな。


店の前で待ってた二人は何やら荷物の詰まった箱をいくつも積み込んでくる。きっと酒類だろう。


「さ、マスが待っとるから飛ばして行くぞ」


「そんなに急いでも倍も速くならないんだからゆっくりでいいよ」


「いや、出来るだけ速く行くぞ」


御者はダンだから無茶はしないだろうけど。


街を出るとやや衝撃が伝わってくるけど快適だ。ドワンと行った時の荷馬車とは比べものにならない。


シルバーも快調に飛ばすからずいぶんスピードが出ている気がする。それでも時速にすると30キロくらいなんだろうけど。


ガッコガッコと飛ばすシルバー。だんだんと道が悪くなってきて、新型馬車とはいえ揺れが大きくなる。尻は痛くならないけど、酔いそうだな・・・


一度目の休憩でシルバーの様子を見て異常がないか確かめる。そんなに疲れてもないし問題無さそうだ。ご褒美として黒砂糖を上げたら首をブンブン振って喜んだ。ふと周りを見ると前回昼飯を食ったところだった。


ずいぶん飛ばしたんだなぁ。このままだと2日で着いてしまうかもしれない


休憩が終わってまた馬車に揺られていく。



「到着したぞ。飯じゃ飯!」


本当に2日で着いちゃったよ。無茶するなぁ・・・


シルバーも疲れているようなので回復魔法を掛けて飯の前にシルバーの小屋を作って休ませてやろう。広めの小屋にしたから中でも自由に動けるだろ。


お気に入りの毛皮を敷いて、人間の飯の準備を始めるとするか。


「旅先での酒は最高じゃのう」


もう飲み始めてやがる・・・

あんたら旅先もクソもないだろう。


ダンが竈と薪の準備をしておいてくれたので、持ってきたハムを厚切りにして各自炙ってもらう。


「お、ハムか。これはエールに合うの。坊主いつもの頼む」


へいへいとエールの入った金属樽に炭酸を強化して冷やす。


「これじゃコレ。坊主がおらんとコイツは飲めんからな」


「かぁっーウメーっ!」


ドワーフ兄弟が盛り上がる。ダンも飲み始めたようだ。俺はじゃがいもとニンジン、ソーセージのポトフを作って行く。まだ寒いので汁物が欲しいのだ。


「お、ソーセージも持って来とるのか、そいつも炙るからくれ」


ドワンにソーセージを大量に持ってかれた。帰りの食材無くなるなこりゃ。


ソーセージ、エール、ハム、エール・・・

無限コンボで食っては飲み、食っては飲みを繰り返す二人を見ながら俺はポトフを食べた。


きっとここに来るために二人とも休みなく仕事をしてただろうから、好きに飲ませておいてもいいか、幸せそうだし。



湖のほとりまで行き、バスタブを作ってお風呂に入る。やっぱり露天風呂気は気持ちいいな。ここでビール飲めたら旨いだろうなぁ。まだ10年以上も酒はお預けだからものすごく残念だ。


風呂から上がり、クリーン魔法を掛けた服を着て寝る準備を始めよう。


3人分の小屋を作り、俺は馬車で寝る。この馬車だと小屋より快適だしな。


ぐっすり寝て暗い間に起きる。目覚まし時計が無くても自然と目が覚めるようになった自分が不思議だ。


シルバーに餌をやって小屋にクリーン魔法を掛ける。馬糞掃除とか道具も無いのにやりたくはない。


シルバーに乗り、魔法で明かりをつけながらその辺を散歩させてから餌をあげた。


「よし釣るぞ」


まずミゲルが起きてきた。続いてドワン、ダンも起きてきて、4人分の釣りの仕掛けを作らされる。


「朝ご飯はどうする?陽が昇ってないからまだ釣れないよ」


「そうなのか?」


「明るくなりだしてからだね。昨日のスープに玉子入れるからそれ飲もう」


ポトフの残り汁を温めて、ベーコンと玉ねぎを足してから味噌を入れ、溶き卵を入れて洋風味噌汁の完成だ。


「こいつぁ、暖まるのう。昨日飲んだ腹に染みるわい」


飲んだ次の日とかはシジミの味噌汁がいいんだけどね。ん?シジミか。ここにもいるかもしれないな。釣りが終わったらちょっと探してみよう。



周りが薄明るくなり、湖にモヤが立ち込めているのがわかる。ぱちゃぱちゃと水面から音がし始めた。


「さ、釣るよ」


みんなのフライを一斉に魔法で飛ばす。ミゲルにはドワンが釣り方を教えてくれるようだ。


ぐんっ!さっそくヒットだ。でも小さそうだな。糸をひょいひょいとたぐって引き寄せると30cmくらいのマスだ。小さいけどこれで坊主は免れたな。


「来たぞ!」


わーはっはっはと喜ぶミゲル

竿のしなりから見ると結構大きめみたいだ


なにくそっ、そりゃっとか言いながら魚と格闘をするミゲル。ずいぶんとトルクフルな引きを見せる魚だな・・・


「よしっ、見えて来たぞ」


なんとなく魚体が丸みを帯びている。そいつをザパッと引き抜くミゲル。


「なんじゃこいつは?」


「それ鯉だよ」


「だーはっはっはっ!こんな所まで来て鯉釣りとは物好きじゃの」


ドワンが大笑いする。ぐぬぬと悔しがって鯉を湖に放り投げようとしたのを止めた。


「親方、鯉も食べられるから逃がしちゃだめ」


おっとっとっと、と鯉を掴み直すミゲル。


「鯉なんて泥臭いじゃろ?」


「ここは水もキレイだから大丈夫だと思うよ。そこのイケスに入れといて」


すでに作ってあったイケスに鯉を入れておく。


「鯉は夜に鍋にするよ。味噌があるから蒸留酒のお湯割と合うと思うよ」


「そうか、鯉も酒に合うのか。それなら釣った甲斐もあるな」


ドワンに笑われたミゲルの機嫌が直る。


それからそれぞれがマスを釣り、60cmオーバーを釣ったダンが大物賞だった。


「いやぁ、釣りは楽しいの」


マスが釣れて上機嫌のミゲル。


「この前より釣れんかったワイ」


家族で来た時が一番釣れ、その次がドワンと来た時。今回はそれより数が少ない。


「季節も違うしね。いつも入れ食いってわけじゃないでしょ」


それはそうじゃがと若干不服そうなドワン。


「じゃあ、釣りは夕方までお休みして、シジミを探そう」


「なんじゃシジミって?」


「小さな貝だよ。それが取れれば明日の朝に美味しい味噌汁が飲める」


「どうやって取るんじゃ?」


「今から作るから皆で引っ張って」


土魔法で砂地をさらう篭のような物を作ってロープをくくり、魔法で沖まで飛ばす。


「これを引っ張ってきて、シジミが入れば捕れると思うから」


大きめの篭にしたのでドワンとミゲルの二人にズルズルと引いて貰った。


篭の中には石がたくさん入ってる。その石の中にシジミが混ざっていた。想像してたより大きい。ハマグリくらいあるぞ。もしかしてドブ貝じゃないだろうな?


その貝を一つつまんで嗅いでみるが臭くない。良かったシジミだ!


「これがシジミだよ。やっぱりいたね」


「これはどうやって食べるんじゃ?」


「味噌汁に入れるんだけど、これだけ大きいと酒蒸しやバター炒めで食べてもいけると思う」


「何っ?酒蒸しじゃと?酒をどうするんじゃ?」


「酒を少し入れて蒸すみたいにするんだよ。食べ出したら止まらなくなるよ」


「よし、昼飯はそれじゃ!」


「今すぐは無理だよ。砂出ししないと。貝の中に砂が入ってるから」


ぐぬぬと悔しがるドワン。


魔法で網と桶を作って水を入れる。薄い食塩水になるように塩を少し入れて蓋をしておいた。


「次は山菜を採りに行こう。ダンは見分けられる?」


「ある程度はな」


良かった。でも山菜はよく似た毒草もあるからな。食べる前にこそっと鑑定してみたらいいか。物にも鑑定出来たからな。


昼飯を軽く食べた後にシルバーを連れて森の中を散策する。


暖かくなって緑が増えていた。冬は葉物野菜があまり無くて根菜ばかりだったからな、何かいいのないかな?


「お、これなんかどうだ?」


ダンが指差した草みたいなもの。


「これ三つ葉だよね?」


「名前は知らんが、ちょっとクセのある草だか食べられるぞ」


姿形は三つ葉だけど、結構デカイ。試しに一つちぎって鑑定してみる。


・三つ葉


やっぱり三つ葉だね。酒蒸しにも鯉こくにも使える。


「これ沢山採って行こう。今日の晩御飯に合うよ」


手分けして三つ葉を採った。


しばらく歩くとネギみたいな物が生えている。


鑑定


・ノビル


ノビルか。根っこも緑の所も食べられるな。これも持って帰ろう。


「これ、根っこごと持って帰ろう。皆好きだと思うよ」


そうかとみんなで引っこ抜く。一応採り尽くさないように少し残しておいた。


「この2つがあれば大丈夫だから戻ろうか」


「こうくるくるしたような奴は探さんのか?少し苦くて旨いんじゃが」


くるくるしたの?ゼンマイとかかな?


「おやっさん、あれ採ってすぐには食べられないんだよ。何日か灰汁抜きしないとダメだから今回は諦めよう」


ぶつぶつと不服そうなドワンだが、今日の食料は確保出来たのでよしとする。


戻ったら魚の調理だ。まず鯉から。ダンに〆て貰って血抜きをしてから内臓を出そうとしたら卵を持ってた。そこそこ大きい鯉なので卵は固そうだけど、皆大丈夫だろうと思うので卵も使う。ミゲルは自分が釣った鯉がどう料理されて行くのか見ている。


鯉の皮も剥いで貰った。もし臭かったらいやだからね。身は豪快にぶつ切りだ。骨からも旨みが出るからな。


一応クリーン魔法を掛けてから塩を振って臭みを取っておこう。


「マスはどうやって食べたい?」


「塩焼きだけでいいぞ。骨酒を飲まんといかんからな」


ミゲルは骨酒が飲みたくてウズウズしているようだ。


小型のマスは全部塩焼きにしよう。30cmくらいなので食べ頃だ。それぞれ5匹ずつ。俺は1匹で十分だな。


全体に塩をして、ヒレには化粧塩をする。焼くのに時間が掛かるので先に火をおこして回りに並べておいた。塩焼きはドワンに管理を任せるね。


次はぶつ切りした鯉をさっと湯通しして更に臭み対策をしてから、玉ねぎとニンジンを加えて水から煮ていく。生姜が無いので代わりにニンニクをすりおろして入れておいた。邪道かもしれんが・・・

ミゲルに灰汁が出てきたら掬ってもらう。


シジミを半分持って来てクリーン魔法を掛けて瞬間冷凍してやった。こんな短時間でも凍らしたら旨みアップの効果があるかわからないが何でも気の持ちようだ。凍ったままのシジミに蒸留酒と塩を入れて火に掛けて蓋をする。


「ダン、シルバーに餌あげといて」


全員に動いてもらわないとどれもこれも無理だからな。え~、三つ葉を水洗いして刻んだものと半分にちぎったものを用意して、洗ったノビルの根っこをさっと茹でる。緑のところは半分に切っておく。やっと準備完了。ブリック連れてきたら良かったな。


「坊主、まだか?」


「もう出来るよ。ダンが戻ってきたら食べよう」


鯉こくに味噌を溶かして、三つ葉とノビルの緑のところをどばっと入れる。シジミにも刻んだ三つ葉を乗せておいた。


「さ、好きなものからどうぞ」


「どの料理とどの飲み方が合うんじゃ?」


ミゲルが聞いてくる。骨酒の前に水割りを作って渡した。初めはごくごく行きたいだろう。単なるアルコールの水割りだがどの料理にも邪魔にならない。


「まずはこれを飲んで。後からお湯割、骨酒にするから」


嬉しそうに水割りを持ちながらマスの塩焼きを齧るミゲル。


「うまーいっ!たまらんのう」


酒をごくごくと一気に飲み干す。俺がずっと作るのは面倒臭いから水と氷を出しておいた。


「次はこいつじゃ」


シジミの酒蒸しをちゅるちゅると食べる。


「なんじゃこいつは?こんな旨いもんがいるのか」


シジミの旨さに感動している。


「鯉はどうじゃ?」


鯉の身と三つ葉、ノビルを一緒に頬張る。


「鯉がこんなに旨いとは・・・」


普通の池にいる鯉は念入りに泥を吐かせないと食えたんもんじゃない。ここは水もキレイだし、念入りに臭み取りしたから別物だろう。


「じゃあワシらも食うぞ」


一応ドワンも前回ミゲルを置いてけぼりにしたのを気にしてたのか、一通りミゲルが料理を食べるのを待ってから食べ始めた。


定番の塩焼きはもちろん、このシジミがめちゃくちゃ旨い。身も肉厚で味はシジミだけど違う貝みたいだ。これは当たりだったな。


鯉こくは旨いけど、やっぱり卵は固くてぺっと吐いた。皆は平気で食べてたけど。


箸休めにノビルに味噌付けて出したらガンガン酒が進むと言ってた。無くてもガンガン飲むじゃんかよ。


ミゲルは塩焼きを食べた後の骨酒に涙を流して感動していた。


全員が気に入ったシジミを翌日乱獲して帰ったのは仕方ない。湖は広いから大丈夫だろうと心に言い訳をしたのだった。

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