第101話 新型馬車はスーパーカー
ミゲルとの釣りは3月末頃に行くことになった。竿とリールの手配もしてあるし、あとは新型馬車が間に合うかどうかだな。試作品の街中用馬車は上手く行った。二人乗りで荷物が積めるお買い物用馬車だ。ブリックとミーシャがそれに乗って買い物に行くと注目を浴びたらしく、いくつか注文が入ったとドワンが言っていた。小金持ち用のタウンカーみたいな感じになるのかな?
ボロン村の馬が増えたら乗り合い馬車とかあってもいいな。庶民には馬車は買えないから乗り合いバスみたいな感じで移動手段があると領民も便利だろう。今度アーノルドに言っておこう。
ドワンの所に馬車の進捗を聞きに行く。
「おやっさん、うちの馬車どうなってる?」
「おう坊主か、馬車本体は出来とるぞ」
おぉ、金属フレームにコイルサスペンションになんちゃってダンパーが付いた馬車だ。中の椅子はスプリングマットが組み込まれている。6人乗りだがゆったり乗るには4人が最適だな。御者が座るところにも座面と背もたれにも硬めのスプリングマットが入れられており、肘掛けも付いている。
「おやっさん、後どこが出来てないの?」
「車輪の取り付けてあるところと車輪にこいつを付けてやれば尚いいんだが、ちょいと脆くてな」
茶色っぽい塊を出してくる。
「これなに?」
「木から取れる汁を固めたものでな、クッション性があるんだが上手く伸ばせないんじゃ」
これってゴムじゃん。生ゴムってやつだな。
「おやっさんこれゴムだね。生ゴムだよ」
「そんな名前なのか?」
「これに炭素と硫黄混ぜたら上手くいくかもしれない」
確かタイヤが黒いのは炭素が入ってるからだったはず。それに硫黄を入れたら伸縮性が増したような・・・
「炭素ってなんじゃい?硫黄はあの臭いやつじゃな」
「そうそう。炭素は木とかの燃える成分だよ。宝石のダイヤモンドは炭素の塊だね」
「どうやって作るんじゃ?」
墨とかに使われるのは蝋燭のススだったよな?油を燃やしたら取れるのかもしれない。暖炉とかのススでもいけるのかな?
「よくわかんないんだけど、暖炉とかにススって溜まるじゃない?あんな感じで油を燃やした時に出る奴を集めればいいかな」
「油を燃やすのか」
「た、多分」
「量はどれくらいまぜるんじゃ?」
「ごめん、そこまでわかんないから、ちょっとずつ入れて試してもらうしかないや」
「よし、取りあえずやってみる。間に合わなかったらそのまま普通の車輪じゃ。釣りに行くときに馬車使いたいんじゃろ?」
「当たり!」
「ったく、アーノルドに言っとけよ」
「わかった」
これでゴムが素材として普及していけば色々な物に応用出来る。ぜひ成功させて欲しい。
俺が馬車や馬とか乗り心地にこだわるので色々な素材を探してくれてたようだ。その一つがゴムだったらしい。どこから手に入れたかわからないけど、探せばあるもんなんだな。
晩飯の時にアーノルドに釣りに行く事とそれに新型馬車を使うとことを話した。
「馬車を使うのは構わんが、また釣りに行くのか?」
「前に行った時に親方が行けなかったから、親方が行きたいんだって」
「いつ行くんだ?」
「今月末の予定だよ」
末かぁ、末ならなんとかぶつぶつ・・・釣りの予定日を聞いて自分の予定を確認し出すアーノルド。
「今回は親方とおやっさん、ダンの4人で行くよ」
えっ!?と驚くアーノルド。ベントを誘いたくないので仕方がない。
「父さんは月末に使用人の建物の確認とか新しい使用人が来たり、ボロン村から馬が来るかもしれないし忙しいでしょ」
うんうんと頷くアイナ。
もっともらしい理由を付けてアーノルドを誘わないのを正当化する。
「もっと暖かくなれば家族で行けばいいじゃない。だから父さんは留守番ね」
愕然とするアーノルド。そうよと笑顔のアイナ。これでミッション完了だ。
「釣りで馬車の試運転も兼ねるから、問題無ければそれに乗って王都に馬を買いに行けばいいじゃない。春に買いに行くと言ってたでしょ。おやっさんも早く馬欲しいんじゃないかな?」
「そうだな、馬を買いに行かないとダメだな」
「あなた、ジョンの様子も見に行きたいからそうしましょ」
馬の購入する話でアーノルドの機嫌も直った。いい馬が買えるといいね。
ご飯を食べ終わった後、日課の魔力総量上げをしてから寝た。
3月末が近付き、突貫工事で作っている使用人の建物も完成間近だ。冬の間仕事の無かった大工達が大勢来てたから早かったな。後は内装だけか。
ドワンの所に馬車が間に合うか聞きに行こう。
「おやっさん、馬車出来た?」
「お前見張ってるのかというくらいタイミングがいいな。後はこいつを取り付けるだけじゃ」
そう言って車輪を持ち上げた。木の車輪からアルミ合金製の車輪に変わってる。回りには黒いゴムがはめられていた。
「ゴムってやつも取りあえずは形になったからな、車輪もそれにあわせて金属のにしてみたぞ。こいつは木より軽いし丈夫だ」
チューブとか入ってないただのゴムだがこれで騒音も衝撃も緩和出来る。
「これ、今から試していい?」
「構わんがどっちの馬が引くんじゃ?」
シルバーとハートを見るドワン。シルバーがブンブンと首を縦に振った。
「シルバーが引いてくれるみたい」
ドワンがさっそくシルバーに馬車をつなぎ、ダンが御者台に座り、俺とドワン、ミゲルが馬車に乗り込んだ。
シルバーは俺が馬車の中に入ったのが気にくわなかったみたいだったがダンの指示により歩き出した。
スッと動きだす馬車。あのガタガタという音がしない。尻に伝わる衝撃もない。
「おやっさん、これめっちゃいいよ」
「坊主がこだわってたのも頷けるな。こりゃ快適だわい」
「兄貴、これなら馬車の中でも飲めるぞ」
「そうだな」
ガッハッハッハ
馬車の中では飲まさないからね。
街行く人もあまり音のしない金属フレームを持った馬車に二度見するどころか三度見する始末。田舎街にスーパーカーがやって来たみたいな感じだ。
ダンはそのまま街を出て開拓地の横を通ってスピードを上げた。どこんどこんと車輪を突き上げている音がするが、馬車の中は快適だ。
スピードを落としてUターンするダン。馬車の前輪は左右に動くようにしてあるので小回りも利く。
店の前まで戻って馬車から降りた。シルバーも疲れた様子を見せないので引くのも軽いのだろう。
「おやっさん、バッチリだったね」
「そうだな、思ってたより良かったわい。後は車輪のゴムの予備を何本か作っといてやる。アーノルドにこの馬車は金貨20枚と言っといてくれ」
2000万円か、そりゃこの世界の初めてが詰め込まれた馬車だからな。これでも安いのかもしれない。
「わかった。近々払いに来て貰うよ」
「で、この馬車はどうするんじゃ?」
「持って帰って父さんに見せるよ。釣りの時にまた乗ってくる」
おうと返事したドワンにお礼を言って店を出た。
シルバーから馬車を外してハートをつなぐ。俺はシルバーにダンは御者台に座って屋敷まで帰った。
ハートも問題なく馬車を引けるので次にアーノルド達が王都に行くときはハートが引いて行くだろう。
屋敷まで戻り、馬車用に建ててあった倉庫へと運んだ。
晩飯時、
「父さん馬車出来たから持って帰って来たよ。金貨20枚だって」
「えっ?金貨20枚?ずいぶん高いじゃないか」
金額に驚くアーノルド。普通の馬車が金貨5枚程度、貴族が乗るような馬車で金貨10枚、王族が乗るような様々な飾りが付けられた超豪華仕様で金貨20枚くらいらしい。
値段の違いはクッションや装飾が違うだけでどの馬車も基本性能は変わらない。
今回の新型馬車は見た目はさほど豪華ではないが、基本性能は段違いだ。羊の皮を被った狼ってやつだな。
「父さん、乗ったら分かるよ。あの馬車に乗ったらもう他の馬車には乗れないから覚悟してね」
「そんなに違うのか?」
「ドワーフの最新技術が詰め込まれてるからね。王族なら金貨200枚くらい払っても欲しがるんじゃない?王都で盗まれないでね」
「よし、今から乗るぞ」
「もう暗いからダメ。馬が危ない」
「そうよ、あなた。明日乗ればいいじゃない」
「ぐぬぬぬ、明日朝から乗るからな!」
アーノルドは子供だなぁ。
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