第99話 農地開拓

年が明けてジョンが王都に旅立つ日になった。アーノルドとアイナも付き添いで王都へ向かう。


「ジョン、寂しくなるね」


「そうだな。森へ行くようになって楽しかったからな。それに馬に乗れなくなるのも残念だ」


「騎士学校でも馬に乗る授業あるんじゃないの?」


「シルバーやハートみたいに何でも言う事を聞いてくれる馬はおらんと思うぞ。他の馬は別物だと思って乗らないとダメだろうな」


「そうだね、あぶみを持って行っとく?」


「いや、実戦で取り入れられるまでは使えないだろう」


「それもそうか。あ、馬車にスプリングマットを積んであるから寮で使ってね。あとパンのレシピをジョンの名前で登録してあるから、商業ギルドで口座作って。ドワンがそこにお金を預けるからって」


「何から何まですまないな。口座が出来たら手紙を送るよ」


「じゃあ頑張って来てね」


あぁ、と手を振りながらドワンに貰った剣を腰に差したジョンが馬車に乗り込むとゆっくりと動き出した。。


「ジョンが居なくなると寂しくなるね」


「そうだな、ジョンが森に来るようになってからよくしゃべるようになったしな」


毎日のように一緒に狩りをしていたダンも少し寂しそうだ。


ジョンを見送った俺とダンはシルバーとハートに別れて乗り、ドワンの元へと向かった。ダンがハートに乗り、シルバーに俺が乗るのは逆のような気がするが仕方がない。俺が他の馬に乗るとシルバーの機嫌が悪くなるのだ。



「おやっさんいる?」


「坊主か、ジョンは王都に行ったのか?」


「おやっさんに貰った剣を持ってさっき出たよ」


「まだ剣に身体が追い付いておらんからまともに扱えるようになるには2~3年掛かるだろうがな」


「ジョンならそんなに掛からないよ。すぐに扱えるようになると思うよ」


「あいつは根性もあるからの、そうなるかもしれん」


ドワンは少し寂しくも嬉しそうな顔だ。


「坊主の馬具が出来て来とるぞ。早速つけるか?」


「え、もう出来て来たの?つけてつけて」


やった!専用の馬具だ。これで全力とは行かないまでもシルバーを走らせる事が出来るかもしれない。


ドワンとダンにより椅子タイプの専用馬具がシルバーに取り付けられた。シルバーにハーネスのようなベルトで固定された馬具は安定感もありそうだ。ママチャリに付けられた子供の椅子みたいだけど。


ほれ、とダンが椅子に座らせてくれる。座る所には厚目、背中には薄目のスプリングクッションが付けられており座り心地も抜群だ。あぶみのような足場も付いているので中腰にもなれる。


まず椅子に座ったままシルバーに歩いて貰う。フワンフワンとした乗り心地だ。これで遠出したら眠ってしまうかもしれない。次に中腰になってみる。自分の足がサスペンション代わりになり、走れそうな感じがする。


「おやっさん、バッチリだよ!」


「なかなか様になっとるの。シルバーも痛がったりしてないようじゃし問題なさそうだな。あと背もたれの横を前に倒すとひじ掛けになるぞ」


え?そんな仕掛けもあるの?

背もたれの横をくっと動かすとひじ掛けになった。ひじ掛けに手を乗せてみる。うわ、めっちゃ楽。


「おやっさん、これめっちゃ楽チンだよ。大人でもこんなのが有れば売れるんじゃない?」


「どの馬もシルバーみたいなら売れるじゃろな」


そうか、普通は脚で合図したり、手綱で合図したりして馬に指示する必要があるもんな。誰かが馬を引いてくれるなら可能かもしれないが、それなら馬車に乗るだろう


「そうだね、シルバーと俺専用だね」


「そういうこった」


がっはっはっはとドワンは笑った。


「後、そろそろ農地の開拓もしたいんだけど、ウィスキーを借りてもいいかな?」


「そいつはミゲルに聞け、地下室の工事もミゲルがいなくても大丈夫になって来たから問題ないだろうが」


「じゃあ、親方に聞いといて、森の帰りにまた寄るから」


帰りにその椅子の使い心地を聞かせてくれとドワンに言われた後、森に向かった。



小屋まで来てシルバーを駆け足程度に走らせる。カッカッカッと走るシルバー。中腰で乗ると衝撃で揺さぶられることなく走れる。問題なさそうだな。もう少し速く走るのは明日オーバルコースで試してみよう。


「ぼっちゃん、大丈夫そうだな」


「うん、明日オーバルコースでもう少しスピード出して試してみるよ」


「そうだな、ここだとそれ以上は危ないからな。オーバルコースなら落ちても下が柔らかいから安心だな」


落ちるの前提かよ。


シルバーから降りて柵の中で自由にさせておいてから蒸留酒作りと地下室作りを行う。


魔石から魔力を吸い取るのは直接触れてなくても出来るのがわかったから、ポケットに入れてある。地下室を作ってクラっと来た瞬間に魔力を吸い取れば魔力総量も増えるし楽チンだ。


イチイチ自分の魔力を確認しなくてもいいので作業もはかどる。吸い取ったら魔力回復の為に他の作業や剣の稽古、蒸留酒作りをする。


寒くなり、獲物が少なくなっているので昼飯は持参だ。


森での日課を終えて再びドワンの所に行き、椅子がバッチリだったこと、ミゲルにウィスキーに農地開発のお願いをした。


今週中に開発する場所を決めて、来春から作業に取りかかることになった。ウィスキーと一緒に開拓を手伝ってくれるらしい。


夜寝る前に魔力総量を増やすのを繰り返してから寝る。


数日後、今日は農地にする場所探しだ。屋敷を中心に拡大していってるディノスレイヤ領は東は商業地区と高級住宅街として拡大を続け南は住宅街と農地、北側は住宅街と農地や家畜を育てる場所として広がっていっている。西側は魔物が出る可能性があるので人気が低い。街中も冒険者用の店ばかりで宿も食堂も安い。治安が悪いわけではないがガラは悪いのだ。


「どこに開発しようね?屋敷の近くだと便利なんだけど」


「屋敷の辺り一帯は開発禁止になってるぞ。領が発展したときの為に色々な施設を作るための土地だからな。この春から商業ギルドも来ることになっただろ?そういう物の為に開発せずにおいてあるんだ」


それで屋敷の側にはアーノルドの職場しか無かったのか。発展した時の為によく考えてあったんだな。セバスの発想かもしれん。


「そうだったんだね。よく牧場作れたよね」


「その辺は屋敷の土地ってことにしてあるんだろな」


特権てやつかな?まぁ、うちの屋敷は貴族の屋敷としてはショボいし、牧場くらい問題無いのかもしれないな。


「じゃあ、農地の多い南側がいいかな?」


「北側も南側も農地開拓が進んでるからな。今作る所だけでいいなら問題ないが、これからも広げていくなら飛び地になる可能性が高いぞ」


今は田んぼ4枚くらいで作って、籾種が殖えたら大規模にしたいのだ。飛び地は困る。


「じゃ、残るは西側だけだね」


「そうなるな。南や北に行くより、森からも近い方が俺達には都合がいいと思うぞ」


「それはそうだけど、西側は魔物に荒らされたりする可能性があるんだろ?せっかく作った物が収穫前に無くなるとか嫌だよ」


「米が自生してた所を思い出してみろ。人気の無い所なのに全部下に米が落ちてただろ?米を食いにくる魔物なんて居ないからだと思うぞ」


なるほど、そうかもしれん。元の世界でも荒されるのは畑だからな。米の敵は病気とスズメくらいか。


「そうか、それなら西側でも問題ないね。米は水がたくさん必要だから、水が引ける場所を探そう」


開発地探しは西側に決まった。いつもの森に近い草原を開発する事にした。ここには近くに川もあるし、平地だし使い勝手が良さそうだ。誰も開拓してないからどんどん田んぼを広げても問題なさそうだし。


「ダン、ここにするよ。条件もばっちりだ」


「じゃあ来週からここを開発する事で決まりだな」


無事土地を見つけられた。年が明けて3歳になった俺は家と農地を持つ幼児だ。


「俺は開拓王になるっ!」


「なんだそれ?」


「ちょっと言ってみたかっただけだから気にしないで」


ダンにかわいそうな子を見る目で見られた。



農具に台車を着けたウィスキーを連れたミゲルと一緒に開拓予定地に来た。


「本当にここを開拓するのか?」


「条件はばっちりなんだよ。米は魔物も食わないみたいだから荒らされる心配もないし」


「そういや米の自生地にも魔物はおらんかったの」


「そう、ダンが気付いたんだ。それに今回はそんなに広い土地じゃないけど、今後開拓地を増やしていくなら西が良いって」


「そうじゃな、この辺を通るのは冒険者ぐらいじゃしの」


「じゃあ、こんな形で土地を耕して行こう」


「うっかりしとったわい、ウィスキーが居るから人手はいらんと思っておったがどうやって農具を台車から外すか問題じゃな」


ダンとミゲルも力持ちだが、二人で農具を持ち上げて台車を外すのは難しい。


「俺が魔法で手伝ってみるよ。俺が農具を魔法で持ち上げるサポートするからダンが持ち上げて。浮いたら親方が台車外して」


「そんな事出来るのか?」


「やってみる。それでもダメなら誰か呼んでこよう」


じゃ、やってみるかと準備に入った。


ダンが金色の光に包まれていく。身体強化して持ち上げるつもりだ


「じゃ行くよ、せーのっ」


俺は魔法で農具を持ち上げるイメージを持ち魔力を流す。ダンが力を込めようとした時にフワッと農具が浮いた。


ミゲルがさっと台車を外す。


それを見て魔力を解除するとドスンと農具が地面に刺さった。


「上手く行ったようじゃの」


「ぼっちゃん、俺いらなかったんじゃねーか。せっかく闘気まとったのに」


「ごめん、あんなに簡単に持ち上がるとは思わなかったんだよ」


「なんじゃ、坊主の魔法だけで出来たのか?」


「そうみたい」


「お前さんがいると便利じゃの。大工になってくれれば材木の積み降ろしが楽になるわい」


俺を重機扱いするんじゃない。


農具がちょっと深く刺さり過ぎたみたいでウィスキーが歩き出せない。ウィスキーが引っ張るタイミングにあわせて農具を少し持ち上げてやった。


ウィスキーが歩き出すと石と枯れた草の根ごと土がもりもりしていく。それを取り除いて行くミゲルとダン。


「石は後で使うからまとめておいて。草は燃やしちゃうから違う場所にまとめて」


現場監督のように指示する俺。


まとまった枯草をゴウゴウと燃やし、ほとんど燃えたら水をかける。田んぼにするなら土を均さないとダメだから別の農具を作ってもらわないとダメだな。またドワンに依頼しておこう。


もりもりと土を耕すウィスキー、石と枯れ草を取り除く二人。農地開拓は順調に進んでいったのだった。


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