第95話 〆の麺

ベントの問題はなんとか収まった。


「ぼっちゃん、これどうするよ?」


ダンが鍋を指差す。


「あーあ、真っ黒焦げだね」


鍋ごとダメだな。全部捨ててやり直そう。


落ち着いたとはいえ、じゃあ今から仲良く食べようって雰囲気でもないな。


「鍋ごと作り直すから焼き肉でも食べてて」


取りあえず皆に席から立ち上がって貰ってバーベキューコンロに移動させる。


「ダン、鍋の竈から作り直すから、火も片付けて」


まずテーブルを無くして竈の火を取って貰う。


「ブリックはすりおろしニンニクと白菜よろしく」


テーブル分けたのは失敗だったな。デカい鍋を2個作って全員が同じ鍋で食べるようにしよ。


大型土鍋を2個とそれに合わせた竈、楕円形の全員座れるテーブルにする。届かない方の鍋は誰かに取ってもらえばいい。鶏ガラスープもギリギリだけどなんとなくいける。こうして味噌と塩ニンニク鍋を作り直した。


「さ、好きな所に座って」


一つのテーブルでもさっきと似たような配置だな。ダンとジョンが気を利かせたくらいか。


「父さん、乾杯やり直して」


「そ、そうだな。俺達仲間に乾杯!」


かんぱーい。


今度は皆で乾杯出来た。


乾杯後、ドワンが俺の席に来た。


「さっきの焼き肉旨かったぞ。あれが味噌ってやつの味か?」


「そう、ボロン村で分けて貰ったんだ。増産をお願いしてあるから春にまた入荷するよ」


ワシの分も取っといてくれと頼まれた。


「さあ、鍋も煮えて来たから肉を好きに入れて食べて。後でお楽しみがあるから鍋のスープ残しといてね」


それぞれ食べて移動する、食べては移動するを繰り返した。どちらの鍋も好評だ。


「おやっさん、親方、あのアルコール持って来てるんでしょ?」


「ここにあるぞ」


「お湯割にしてあげるよ。冷えてくると美味しいよ」


「あの骨酒みたいなやつか?」


「そうそうあれの骨なし。鍋にあうよ」


コップに1割くらいアルコールを入れてお湯割りにして渡す。


「骨の酒ってなんじゃ?」


釣りに行けなかったミゲルは骨酒を知らない。


「焼いたマスの骨を熱い酒に入れるんだよ」


「あれは旨かったのぅ、ダン」


「そうだな焼き魚によくあって旨かったな」


「それで飲み過ぎて朝まで水風呂に入ってたよね」


その時を思い出し、がーはっはっはと3人で笑った。


「ワシの知らん旨い酒・・・」


ミゲルは骨酒を飲んでない。


「ほら、拗ねないでこれ飲んで。まだマスの冷凍残ってるから今度作るよ」


「春に釣った魚で作れ」


そこは意地になるんだな。


「ぼっちゃま、焼き肉もお鍋もとっても美味しいです」


「味噌が気に入ったなら、今度は田楽でも作ろうか」


「何か分かりませんけど楽しみですぅ」


ミーシャとキャッキャ言いながら盛り上がる俺達。いつもなら参戦してくるアーノルドはこっちへ来なかった。



「そろそろお楽しみに行こうか。まだ少し食べれる?」


みんな食べられそうだから麺を湯がく。鍋に麺を入れてひと煮たちさせて、味噌鍋の方にはバターを入れた。


「〆の麺だよ」


「ゲイル、これはなぁに?」


「母さん、これは麺というものだよ。鍋の最後に食べると美味しいから食べて」


俺は塩ニンニクのやつを貰う。


「うまーい。やっぱり〆の麺は旨いねぇ。お酒の後にもいいでしょ」


「坊主、これはいい。鍋の後にしか食えんのは残念じゃの」


「スープ作ったら鍋のあとじゃなくても作れるよ。こんなに色々な味にはならないけど」


「また作ってくれ」


「いいよ。今度は麺パーティーにしようか。ほかの食べ方も出来るから」


「よし、そうしよう」



皆食べ終わり、暗くなってしまったが今回は帰る事にした。夜の森を歩くのは初めてだ。馬が怪我したら困るのでライトの玉を出して照らしながら帰った。


ドワンがシルバーに乗ってる俺に話しかけてくる。


「なぁ、坊主。お前は貴族だが、何にも気にしとらんのか?」


「してないよ。どっちかと言うと貴族とか平民とかそんな区分はいらないんじゃないかと思うんだよね」


「なんじゃと?じゃあ領主とかどうするんじゃ?」


「みんなが領主になって欲しい人を撰べばいいんじゃない?国を治める王様とか領地を治める領主とか、その国や土地に住む人が選ぶなら、王や領主になりたい人は選ばれる為に一生懸命頑張るでしょ」


「またそんな夢物語を言いおって」


「まぁ、俺は貴族だから平民とごはん食べちゃダメとか言われるなら貴族なんてやめていいやと思ってるからね」


「お前は変わっとるの」


「そう?普通だと思うよ」


お前が普通の訳ないじゃろがと言われた。


「ちょっと店に寄ってくれるか」


そう言ったドワンは店の奥から1本の剣を持ってきた。


「こいつをジョンに渡してくれ」


「そこにいるんだから、自分で渡しなよ」


少し悩むドワン。


「ジョン!おやっさんが渡したいものあるって」


俺がジョンを呼んだ。


「ほら、これは餞別だ。いらんかったら屋敷の武器庫にでも置いていけ」


ジョンが鞘から剣を抜くと見事な騎士用の剣だった。ジョンにはまだ大きく扱えないかもしれないが、成長した時に合わせて作ってあるようだ。


「なんと美しい剣だ・・・」


しばらく剣に見惚れたあとドワンに抱き付き礼を言った。


ドワンはこれ離さんかとジョンを押しやっていたが顔は笑っていた。


アーノルドとアイナはあれからドワン達としゃべってない。剣を貰ったのを見て頭を下げただけだった。



今日の事は尾が引きそうだな・・・


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