第94話 波乱の鍋パーティー

それぞれのテーブルに座り、俺の所にはダン、ミーシャ、ジョン、トムの6人。向こう側はアーノルド、アイナ、ベント、ドワン、ミゲルだ。


だいたい想定してた席割りだな。


「この茶色いのが味噌ベース、透明なのが塩ニンニクベースの味付けだよ。薄切りのロース肉としゃぶしゃぶ・・・もっと薄切りのがバラ肉。鶏だんごもあるから、好きなの入れて食べて。大根をすりおろしたのと一緒に食べても美味しいからね。味噌漬けにした肉もあるから、食べたい人は勝手に焼いて食べて」


鍋の説明をブリックにしてもらおうかと思ったが、徐々にベントにも慣れて貰った方がいいから自分で説明した。


乾杯の音頭をアーノルドがとる。


「え~、ジョンがもうすぐ王都に行くから、こんな風に皆揃って飯食えるのもしばらくない。今日は楽しく飲んで食べよう!乾杯!」


それぞれが酒やジュースを持ってかんぱーいと叫んだ。そんな中、一人黙ってるベント。


「どうしたベント?さ、皆で食うぞ。こいつはこの前狩ったボアだ旨いぞ」


乾杯しなかったベントにアーノルドが声をかける。


「これって同じものをここに座ってる人達と食べるんだよね」


「あぁ、そうだぞ。冒険の遠征でもこうやって一つの鍋を皆で食うんだ」


「なんでドワーフ達と一緒に食べないとダメなの?嫌だよ」


えっ!?


「お、おまっお前何言い出すんだ!?」


「この前の湖でも思ってたんだけど、貴族と平民が一緒にご飯食べるなんておかしいじゃないか」


ジョンもベントも生まれた時から貴族として教育を受けている。ジョンも初めは驚いていた。が、ベントは気になる事を先に言った。ドワーフと一緒に食べるのが嫌?


「ちょっとベント、ドワンは私達と同じパーティーだったし、親方はその弟なのよ。工事の件でもお世話になってるじゃない。そんな失礼な事を言うもんじゃありませんっ!」


アイナが怒鳴る。


「同じパーティーだったのは領主になる前の話じゃないか。工事の仕事だってお金を払って仕事やっただけだろ」


「お前、どうしてそんな事を言い出すんだ?確かにうちは貴族になったがそれは役割だけの話だ。人間の価値は貴族とか関係ないんだぞ」


アーノルドは怒りを押さえながらベントに教えを説く。


「ドワーフは人間じゃないじゃないかっ」


興奮したベントが言い返す。


バシッ


アイナがベントの頬を平手打ちした。


「誰がそんな事を言ったのっ!種族が違うだけで、ドワーフもエルフも皆人間よっ!」


目に涙を貯めながら叫ぶように叱るアイナ。


「ワシ達がここに来たのは間違いだったらしい。すっかり昔と同じ気分でおったのがダメだったようじゃの。ミゲル、帰るぞ。じゃあな、領主様と奥様」


何かが切れたような様子のドワンとミゲル。ドワンはアーノルド達に距離を置くようなお別れを言った。


とんでもないことを言い出したベント。アーノルドとアイナが先に叱ったので一歩引いたが、ゲイルはドワンとミゲルの顔を見てブチ切れてしまった。


「ベントのくそやろうがっ!」


俺は空中を飛んで身体強化しながらベントを拳で殴った。ぶっ飛ぶベント、しかし怒りは収まらない。俺はベントに馬乗りになり殴り続けた。


ベントは俺に殴られながら鼻血を出し恐怖に怯える。


「坊主その辺にしとけ、死んじまうぞ」


ドワンにベントから引き離された。ゲイルはドワンの顔を見て涙が止まらなかった。


「おやっさん、親方ごめんよ、ごめんよ・・・」


ドワンに抱き締められて泣きながら謝り続けた。


「ドワン、親方。うちのベントが取り返しの付かない事を言ってすまない。俺達の教育不足がこんな事を招いてしまった」


アーノルドとアイナは土下座して謝った。


「もう頭を上げてくれ。お前達と俺達は種族が違うのは事実だ。それに貴族と平民が違うってのもな。俺達はパーティーを組み、一緒に同じ飯を食ってたのは昔の話だ。いつまでも同じって訳にはいかんのだろう」


「しかしドワン・・・」


「お前は貴族になり領主の道を選んだんだ。そこで歩く道は変わっちまったってことよ。ただそれだけの話だ」


「待ってくれドワンっ」


立ち去ろうとするドワン。


「おやっさん、それは違う!」


たまらずゲイルは声を上げた。


「確かに父さん達と冒険者パーティーは解散したかもしれないけど、同じ道を歩いてるじゃないかっ!」


「同じ道じゃと?」


「父さん達は領主としてよりよい領地にする、おやっさん達は色々な物を作ってより良い暮らしを作る。やり方が違うだけで同じ道を歩いてるじゃないか。違う道を歩いてるなんて淋しいこと言わないでよ。俺達は仲間なんだろ?」


また涙が止まらなくなってきた。


「ったく坊主は・・・」


ドワンとミゲルの目にもうっすらと涙が貯まっている。


「旦那様もおやっさんもぼっちゃんの言う通りだぜ、もう冒険者じゃないが同じパーティーメンバーじゃないか。なぁジョン」


「そうだよ父さん。ダンの言う通りだ。俺達は同じパーティーメンバーだろ。ベントも入ればいいじゃないか。パーティーメンバーには身分も種族も関係無い。そうだろ? 」


ジョンも以前は身分の事を気にしていたがパーティーメンバーに加わりそういう事を吹っ切った。


「僕がパーティーメンバー?」


ベントは俺に殴られ鼻と歯が折れてたみたいだがアイナが治癒魔法で治していた。


「そうだ、俺も初めはダンやミーシャのゲイルに対する態度が気になっていたが、同じパーティーメンバーになってそんなことはどうでも良くなった。それにおやっさんには剣の腕も敵わん。親方の計算能力に至っては競べるのもおこがましいくらいだ」


「ジョンが剣で敵わない?」


「そうだ。俺はおやっさんから一度も一本を取ることが出来なかった。そんなすごい人達にお前は取り返しの出来ない失礼な事を言ったんだ。お前はそれ程すごい人間か?」


「・・・・・・」


「お前は父上と母上の何を見てきたんだ?父上と母上が誰かを蔑んだり見下したりしたことがあるか?」


「・・・・ない」


「それにゲイルを見てみろ、使用人であるダンとミーシャとすごく仲がいいだろ? お付きのものだけでなくコックのブリックや新しく入ったトムとも。見ていて羨ましくないか?」


「・・・・・それはまだゲイルが小さくて貴族のことをよく分かってないから・・・」


「小さいからじゃない。ゲイルはダンやミーシャ達を家族と思っているそうだ」


「家族?」


「そうだ。それだけ皆との絆が深いってことだ。貴族とか平民とか関係無しにな。それにゲイルはなんでも知ってるぞ」


コソッ

(おいジョン)


アーノルドがジョンを止めようとする。


「何でも知ってる?」


しかし止めないジョン。


「あぁ、ゲイルは天才だ。それに俺やお前より強いしな」


「俺達より強い?」


「お前、さっきゲイルに殴られても抵抗すら出来なかっただろ?俺もまともに戦ったら瞬殺されるだろうな。父上でもやられたくらいだ」


そう言って大笑いしだした。カエルアーノルドを思い出したのだろう。


「ジョンは何を言って・・・」


「ここからは俺が話そう」


アーノルドはベントに俺の事を話した。



「そんな・・・」


「黙ってて悪かったな。お前に隠してたというより、サラに知られたく無かったんだ。ゲイルは軍部に目を付けられる可能が非常に高い。本当に信頼出来る者にしか話せなかったんだ。すまん」


「ドワンやミゲルも知ってるの?」


「あぁ、護衛ではないが色々なものからゲイルを守って貰っている。とくにドワンにはな」


「・・・・・」


「お前が貴族うんぬん言い出したのはサラに言われたからか?」


「・・・うん」


「そうか。サラの言うことが全部間違いだとは言わんが、俺は種族が違うからと言って見下すような教えは間違っていると思う。違いはあるがただそれだけだ。どちらかが上でどちらかが下とかそんなものではない。分かってくれるか?」


「・・・・うん」


「そうか、だったらさっき言ったことをドワンとミゲルに謝ってくれ」



「ごめんなさい」


「ドワン、親方。すまなかった。どうかベントを許してやってくれないか」


「わかった。俺達は聞かなかった事にする。それでいいか坊主?」


ずっとドワンの服を掴んでいた俺にドワンはそう言った。


ゲイルはただ頷くだけだった。



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