第92話 鍋パーティーの準備
6の付く日、アーノルドを連れて森に来た。
森の奥までシルバーを連れていけないのでトムにハートと一緒に小屋の所で見ておいてもらうことに。トムは小屋や蒸留器を見て、こんな森の中にすごいですねと驚いてた。
「ゲイル、ボア鍋パーティーはいつするんだ?」
「次の5の付く日がギリギリじゃないかな?」
「今日ボアを見付けたら狩るのか?」
「もう寒くなってるし、肉も腐らないと思うから、見付けたら狩ってしまった方がいいね」
ボアの居る場所を探すつもりだったが、当日狩れないかもしれないのでいたら狩ることに決まった。
「だいぶ奥まで来やしたが、いやせんね」
「ダン、普通にしゃべれと言ってるだろうが」
「そうでやん・・だな」
だんだん何を言ってるかわからなくなるダン。
「ジョン、ゴブリンがいるぞ、狩れ」
ダッシュで近付き一撃で首をはねる。
「だいぶ慣れたな」
「おかげ様で」
ニヤっと笑うジョン。ゴブリンを切るのに抵抗が無くなったようだ。
「あそこにドングリの木があるな。実もまだ落ちてるからここで待つか。やみくもに歩くより可能性が高いだろう」
「人数多いから気付かれそうだね。魔法で隠れる場所作る?」
「そうだな、4人が入れるギリギリの大きさで作ってくれ」
俺は4人が入れるくらいのドーム型の小屋を作った。かまくらみたいでちょっと楽しい。
息を潜めてずっと待つ。
・・・
・・・・
・・・・・
アーノルドもダンもよくこんな長い間集中出来るな。かれこれ4時間くらい経ってるぞ。お腹も空いたし、トムも心配してるかもしれない。
「一旦、帰ろう・・・」
「しっ!デカい奴が近付いて来てるぞ」
まったくわからないけどアーノルドがそういうなら近くにいるのだろう。
じっと息を潜めて待つ。
「来たぞ」
うおっ、デカい。この前狩った熊くらいあるぞ。あんまりデカいと肉固いかもしれないな。そんな事を思ってる間にアーノルドとダンが動き出した。
コソッ
(ジョンとゲイルはここで待ってろ)
そう囁いたアーノルドはフッと姿を消した。
弓を構えたダンが金色に光り出す。身体強化をして矢を射つみたいだ。そしてボアがドングリを食べようと頭を下げた瞬間に矢を放つ。
ガキンっ
ボアが矢に気付いて牙で弾いた。身体強化されて放たれた矢がボアの牙をへし折っただけで、身体には当たっていない。
「ちっ、やりやがる」
ダンが次の矢を構えた時にアーノルドがボアの背後から斬りかかった。
ザシュッ
首を切られたボアはその場に倒れた。
「俺の弓いらなかったな」
「お前の弓で隙が出来たんだよ。拗ねるな」
ダンは矢をはじかれた事が悔しかったようだ。
「でっか!」
倒れたボアはやはりこの前の熊と同じくらいの大きさだった。
アーノルドが首を切ったのでだいぶ血が抜けている。本当はぶら下げてもう少し抜きたいところだけどな。
ボアの足を木にくくり付けてアーノルドとダンが担いだ。
「僕も狩りに参加したかったです」
俺と一緒に留守番させられたジョンが拗ねたように言った。
「お前とはしょっちゅう狩りしてるだろ」
「大物はまた別です」
デカい獲物は男のロマン。ジョンもしっかりアーノルドの血を引いているようだ。俺は小さくて柔らかい奴の方が良かったんだけどね。
「わ、遅いと思ったらこんな大物を捕ってきたんですか」
馬達と待ってたトムがボアを見て驚いている。ハートは怖がっているようでボアから距離をとった。シルバーはへっちゃらみたいでボアを無視して俺のお尻をつんつんしてくる。この欲しがりさんめ。
ふわりと浮いて乗ってやると満足そうな顔をした。
「今からやることあるからまた後でね」
首をポンポンと叩いてふわりと降りる。アーノルドとダンが手分けしてボアを捌いていく。横で血をじょぼじょぼ洗い流していった。
「後ろ足は今回食べずに置いておくよ」
「何するんだ?」
「塩漬けにしておいて生ハムにしてみるよ」
「生ハム?」
「そうだよ。生で食べられるハムにしてみる」
「置いておくってどれくらいだ?」
「春までかな」
「そんなにか?」
「本当はもっと長い間置いておきたいんだけどね。乾燥してる場所じゃないと難しいかな」
みんなよくわかってないみたいだったので、これ以上説明するのをやめた。
「鍋パーティーだけど、ボロン村で食べたスープもいる?それとも味の違う鍋にする?」
「味の違う鍋?」
「味噌味ダメな人いるかもしれないから違う味があってもいいかなと思って」
「そうだな、食べ比べもいいな。スープはやめて違う鍋にしてくれ」
「じゃあそうするよ。味噌に漬けた焼き肉は食べる?」
「あれも旨かったな。それも頼む」
「じゃ、焼き肉の分だけ切り分けて」
焼き肉の分だけでも結構あるな。全部漬けたら味噌無くなるじゃん。薄めよ・・・
蒸留酒で味噌を伸ばして漬け込んだ。保存用じゃないしこれで充分だな。
「旦那様、昼飯どうする?」
「おっと、そうだな。今から狩りに行くのは時間がないからこいつを食うか。どうせ余るだろうしな」
確かに大型のボアだったぶん肉も大量だ。
人数分を切り分けてバーベキューコンロで焼いて食べた。思ったよりも柔らかく脂身に甘みがあって旨い肉だった。恐らく冬を越す為に大量にドングリを食ってたのだろう。
「帰りにおやっさんのところに寄って帰ろう。ボアパーティーの日を伝えないと」
ーぶちょー商会ー
「おやっさん、パーティーの日が次の5の付く日に決まったから」
「わかった」
「ドワン、アイナと次男のベントも連れていくから宜しく頼むぞ」
例の口裏合わせの件だ。
「わかっとるがいつまでも隠せると思わん方がいいぞ。話すタイミングが狂うと取り返しがつかんからな」
ドワンの言うことはもっともだ。ベントがサラに隠し通せるならアーノルドも話してるだろう。
「あぁ、分かってる」
なんとなく重い雰囲気になったので話を変える。
「おやっさん、おろし金作ってくれない?」
「なんじゃいそれは」
いつものごとく絵に描いて説明する。
「大き目の穴と小さめの穴が空いたやつを鍋パーティーの時に持ってきてね」
これで大根とニンニクをすりおろせるな。
帰り道にアーノルドに農地の事で尋ねた。
「父さん、春までに農地を開発しようかと思ってるんだ」
「お前が農地を持つのか?」
「前に採ってきた米の栽培をしたいんだよ。商会が開発したら商会の土地になるんだよね」
「今のところはそうだな。農地の開発は大変だぞ。どうやってやるんだ?」
「ボロン村でやろうとしている馬を使っての開発だよ。馬と農機具の宣伝を兼ねて開発しようと思って」
「なるほどな。税金は物が売れるようになってからでいいからちゃんと払えよ」
「森の小屋はどうなるの?あそこまで色々作ったらほぼ家だよね?」
「そうだなぁ。お前、あそこで酒の貯蔵もするんだろ?」
「そうだね。だからまだまだあそこは使うからね。そろそろ誰か来そうなんだよね。色々運びこんだりして人目に付きだしてるから」
「そうだな、住宅として登録してしまうか。お前なら税金払えるしな」
ダンが商会からの取り分をおやっさんから貰って全部預かってくれてるからいくらあるかわかんないけど、問題ないだろう。
「じゃあ、あそこは俺の土地ということで」
「わかった。セバスに言っておくから、近々連れて行く」
これで秘密基地から隠れ家に昇格だな。
さて、明日は鍋パーティーだ。今から仕込んでおきたいものがある。
ブリックとダンに手伝って貰う。
「明日食べる麺を今から作るよ」
「麺てなんですか?」
この世界には麺が無いのだろうか?うどんやラーメンが無いのは分かるけど、パスタくらいありそうなんだが。
「説明は後にして取りあえず作ろう」
小麦粉に水、卵、塩、かんすい代わりの重曹と思われるもの。
確か塩水に二酸化炭素を混ぜたら重曹になったと思うんだよね。レモン汁を掛けたらシュワっとしたからアルカリ性になってると思う。これを混ぜてこねこねしていく。
「パンよりもよくこねないとダメだから、疲れたらダンと代わってね」
ビニールシートがあれば足踏みでもいいんだけどないから嫌だ。熊毛とか入りそうだしな。
「そろそろいいよ。これを麺棒で薄く伸ばして、それをこう折り畳んで、これくらいの細さで切っていくんだよ。板を上に乗せて少しずつずらしていけば切りやすいから」
出来た麺を試食だ。この麺はパスタかラーメンかわからんから、試食用に湯がいてオリーブオイル、塩、ニンニク、唐辛子で味付けする。
「さ、食べてみようか。こうやって細く切ったものを麺というんだよ。色々な食べ方があるけど、取りあえずこれで」
「ぼっちゃま、なんかこれ食べにくいですね」
ミーシャがフォークで掬おうとしている。
「これはこうやってくるくると巻き付けて食べるといいよ」
皆でくるくる巻いて食べる。
かなりもっちりとして硬めの麺だな。パスタとして食べるにはもう少し薄く伸ばして細く切ったほうがいいな。でも、明日の鍋の〆に煮込むにはちょうどいいかもしれない。
「ぼっちゃん、変わった食べ物だけど旨いな」
「いま一番簡単に味付け出来るものにしたからね。明日は鍋に入れるからもっと美味しくなると思うよ」
「ぼっちゃん、これをスープに入れるんですか?」
「麺は色々な食べ方が出来るんだよ。食べ方にあった細さとか工夫するところたくさんあるからね、また研究しておいて。今日作った分は明日まで寝かすから、湿らせた布でくるんで冷蔵庫に入れておいて」
ブリックに課題を与えておいた。どんな料理にするか楽しみだちなみにミーシャは肉の入ってないなんちゃってペペロンチーノにはおいひいでふを出さなかったのだった。
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