第91話 ウィスキーの教育
ミゲルはあの後すぐに屋敷に来て、ウィスキーとハートの小屋も作ってくれ、翌日の朝からオーバルコースの柵作りをしてくれた。
「親方、地下室の工事はいいの?」
「他の奴にやらせてるぞ。ワシ以外にも出来るようにしとかんとまた置いていかれるからな」
釣りに置いていかれた事を根に持ってるな。
「坊主、ウィスキーがワシに懐くいい方法はないか?」
ウィスキーはミゲルを怖い人と認識してしまったようで、近寄って来ようとしなかった。
「黒砂糖をあげると喜ぶんだけど何もない時にあげるとワガママになるかもしれないよ」
「た、試しにやってみていいか?」
「明後日くらいに農機具出来るでしょ。ウィスキーに作業させて、仕事終わったら誉めてあげてご褒美にあげるといいと思うよ」
「今少しだけやってみるのもだめか?」
「ウィスキーをダメ馬にしてもいいならどうぞ。親方の馬だから任すよ」
「ダメ馬になる?」
「何もしなくてもおやつだけ欲しがるようになると思う。まだ子供だからよけいにね」
「くっ、そうか。ウィスキーがダメ馬に・・・」
「おやっさんから、<ほらみてみろお前には無理だったんじゃ>とか言われそうだね」
「明後日じゃな?」
「おやっさん次第だよ」
「絶対に明後日には作らせるから、ウィスキーをたらしこむなよ」
ミゲルがそんな風に言うからウィスキーを構わないようにしてるけど、かわいそうなんだよね。仲間外れにしてるみたいで。
「わかってるよ」
トムも来た事だし任せとくしかないか。
ー2日後ー
「おやっさん、農機具出来てる?」
「ミゲルがうるせぇからな、出来てるぞ。おい持ってきてくれ」
商会の従業員が8人がかりで農機具を持ってきた。めっちゃ重そうだ。
試しにウィスキーに一旦取り付けてみる。
「こんなもんじゃろ。どうやって持って行く気じゃ?」
「一応荷車持って来たけど無理そうだね」
鉄で出来た農機具は100キロを超えてそうだ。人が引く荷車だと無理だな。
「おやっさん、これに取り外せる車輪付けれないかな?そうしたら引っ張って帰れるんだけど」
「そうじゃな。そうすれば荷車もいらんようになるな。ちょっと待っとれ」
いま作ってくれるんだ。さすがだ。
しばらく待ってると2輪だけの台車みたいなのを持ってきた
「もっとちゃんとしたのはまた作っとくから今日はこれで我慢しろ」
簡易版でも大丈夫そうだな。
ウィスキーに農具をセットしてからみんなでよいしょっと台車に乗せてもらった。
台車に乗った農機具をガラガラと引っ張って戻るところを皆が見ていた。大きな馬が何を引いているんだろうと興味津々だ。これも宣伝だな。
屋敷に戻るとオーバルコースにする所で台車を外そうと試みる。
「ダン、これどうやって外す?」
「お、出来とったか」
ミゲルがやって来た。
「親方、台車外すのに人手貸してくれない?ダンだけだと無理そうなんだよね」
おう、と言って5人程の職人を連れて来て農機具を台車から外して貰った。
「じゃあ試してみようか」
ウィスキーを歩かそうとするが、台車を外した農機具は今まで引いたことがない重さがあり、ウィスキーは動こうとしない。
「どうした、ウィスキー。頑張って引いてみせるんじゃ!」
ミゲルがそう言っても動こうとしない。
「シルバーとハートで先導してみたらついてくるんじゃねーか?」
ダンが提案する。
「そうだね、シルバー、ここをゆっくり歩いて。ウィスキーが付いて来れるように」
俺に言われてウィスキーの前に出るシルバー。そしてゆっくりと歩きだす。
ウィスキーも付いて来ようとするが、農機具が重くて嫌そうだ。
「ウィスキー、頑張って付いて来い。シルバーそのまま歩いて」
ウィスキーからだんだん離れるシルバー。
置いていかれると思ったウィスキーはようやく歩き出した。土に刺さる農機具をウィスキーが引くともりもりと土がほぐれて行く。
ウィスキーが追い付けるか追い付け無いかくらいのスピードでシルバーを歩かせるとそのままウィスキーは土を掘り返しながら歩くようになった。
いきなりたくさんやらせてもダメなので、午前中はコースを一周させて休憩に。
「親方、頑張ったウィスキーを誉めてからこれあげて」
ミゲルはぜーぜー言ってるウィスキーによく頑張ったといいながら黒砂糖をあげる為に近付いた。よほど疲れたのか逃げようとしないウィスキー。
「ほら、ご褒美じゃ」
ウィスキーの顔の前に手の平に乗せた黒砂糖を差し出すとウィスキーはフンフンと嗅いでから食べる。
ぶんぶんぶんと首を縦に振り喜ぶ仕草を見せるウィスキー。
「坊主、見ろ!ワシの手から食べよったぞ!」
めっちゃ嬉しそうなミゲル。
「親方、水も飲むと思うからこの桶をウィスキーの前に持って行って」
ミゲルが持って行った水をガブガブ飲み、カイバもあげてもらった。これを繰り返していけばウィスキーもミゲルに懐いていくだろう。
昼飯を食べた後にもう一度同じ事をさせた。ウィスキーが完全に慣れるまでこのパターンを繰り返そう。
ウィスキーが農機具を引き出してから3日経ち、先導はトムとハートに任せて俺達は森に行くのを再開した。
「ダン、そろそろ皆でボア鍋パーティーしないとダメなんだけど、この辺にもボアいるかな?」
「そうだな、今まで狩りをした場所じゃ見なかったからな。一度アーノルド様に来て貰って探そうか」
俺は剣の稽古をしながらダンと相談していた。ジョンはシルバーに乗る練習を続け、だいぶ上手く乗れるようになっていた。
屋敷に戻って晩飯を食べながらアーノルドに聞く。
「父さん、そろそろボア鍋パーティーをしたいんだけど、あの森の近くにボアいないかな?」
「そうだな、もう少し奥に入ればいると思うぞ」
「じゃあ次の6の付く日に一緒に探しに来てくれない?」
チラッとアイナを見るアーノルド。アイナはしょうがないわねみたいな顔をした。
「わかった、6の付く日だな」
アーノルドはしょうがねーなぁと言いながら嬉しそうな顔をしたのだぁた。
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