第87話 衝撃的な出会い

まだぷりぷり怒ってるアーノルド。


「もう、ごめんってば」


「わかったからもういい。ダン、熊はどこだ?」


「旦那様、熊はそんなにたくさんいませんぜ」


「お前らは狩ったじゃないか」


分かってる癖にダンに八つ当たりするアーノルド。


「ダン、子供はほっておいて鹿の血抜きしよう」


倒した鹿を数えるとちょうど10頭いた。7~8頭かと思ってたけどそれよりも多かった。首を切って血を出してラオのソリに乗せていく。


「父さん帰るよ」


「明日も狩りに行くからな」


「父さん領主の仕事あるでしょ?」


「セバスがいるじゃないか」


セバスだけ働かせて自分だけ楽しむ気満々だ。ドワンと同類だな。よくパーティーメンバー同士もめなかったもんだ。



村に帰ると大勢の村人が集まっていた。ダンの調査通り美人揃いで黄色い歓声が上がる。


きゃー!領主様ご一行様がたくさんの獲物を狩って来てくれたわっ!領主様ばんざーい ばんざーい。


鳴り止まない歓声にアーノルドの機嫌がみるみる直っていく。ラオに股がったアーノルドが手を上げるとまた歓声が上がる。嬉しそうなアーノルドをそのままにして、ダンが獲物を村人に渡していった。


いつの間にか持ってきてあった台や板に乗せて一斉に解体が始まる。人形みたいな美人が平然と鹿を解体するシーンはシュールだ。



晩御飯は村人が集まっての大宴会になった。まだ地面には雪が残っているが村人達は平気だ。北の方の出身とあって寒さには強いようだ。


鹿は焼き肉に、熊は鍋になったようだ。熊肉は癖が強くて俺には無理だった。みんなは旨そうに食ってる。


「ぼっちゃん、熊肉だめだろ?」


「うん、臭くて固くてダメだ」


「だろうな、羊でも臭いって言ってたくらいだからな」


カッカッカと笑うダン。


「ベーコンには劣りますけど、熊も歯ごたえがあって美味しいですよ」


トムは美味しいと言う。おそらくミーシャが来てたらおいひいでふが聞けただろう。


「ゲイル様、こちらをどうぞ」


シルフィードが焼けた鹿肉を持って来てくれた。他のみんなにも村の人達が鹿肉を渡していた。


ありがとうと言って受けとると二皿あり、それぞれの肉の色が違った。


「これは何が違うの?」


持って来てくれたシルフィードに聞く。


「こちらのは今日の鹿で、こちらが前に獲れた鹿肉を村で作った調味料に漬け込んでおいたものです」


へぇ特産の調味料があるんだ。


その肉を口元まで運ぶと懐かしい香りがする。口に入れると焼けた香ばしさに胸が詰まる。


こ、これ・・・


「あの、すいません・・・、お口に合いませんでしたでしょうか?」


おろおろするシルフィード。


「シルフィード、この調味料見せてっ!」


いきなり大声でそう言った俺に驚くシルフィード。怒られたのかと思ったのか目に涙を貯めてすいません、すいませんと謝る。


「ゲイル、女の子を泣かしちゃだめだろ?」


「あ、あ、ごめん。怒ったわけじゃないんだよ。この調味料がすごく美味しくてどんなのか見せて欲しかっただけなんだ」


「ん?ぼっちゃんが食った奴はこれか?確かに変わった匂いがしてたけど旨かったぞ。臭いがするからダメだったのか?」


「いや、違う!違うんだよ!」


一人でパニックになるゲイル。


「シルフィード、頼むから早く見せて」


ゲイルの剣幕に驚いて、慌てて家に走っていくシルフィード。


「ゲイルどうしたんだ、そんなに興奮して」


ぶつぶつぶつ


アーノルドの声もゲイルの耳に入らない。


「あ、あのこれです・・・」


シルフィードの持って来たツボを開けて中を確かめる。この匂い間違いない、味噌だ。


「これ、豆から出来てるんだろ?」


「そ、そうです・・・」


あぁ、この世界にも味噌があったのか。もっと南の方ならもしかしてと思っていたけどまさか北にあったとは。


「おい、ゲイルっ!ゲイルっ!」


味噌のツボを持ったまま呆然としている俺の肩を激しく揺らすアーノルド。


「あ、何?父さん」


「お前どうしたんだ、魂が抜けたみたいになってたぞ」


大声で俺に呼び掛け、心配そうにするアーノルド。ゲイルは味噌と出会えた衝撃でトリップしてたようだ。


自分のせいだとおろおろするシルフィード。何事かとダートス夫妻も駆け寄ってきた。


「領主様、何か不始末でもありましたでしょうか」


慌てるダートス夫妻。


「騒がせてごめんなさい。この調味料の事がどうしても知りたくてシルフィードを驚かせてしまいました」


素直に騒ぎになってしまった事を謝った。


「シルフィード、驚かせてごめんね。この調味料を作りたくて色々試したけど作れなかったやつなんだ。それがここにあったから慌てちゃって」


そう言われてほっとした様子のシルフィード。


「この調味料は元々亡くなった母が作ったものなんです。み、み、?」


「味噌だろ?」


「あ、そうです。そんな名前で呼んでました。ぼっちゃんはご存知なんですか?」


間違い無い、シルフィードの母親は転生者だ。しかも日本人と思われる。アジアには色々な味噌があるがこれは日本の味噌だ。記憶を持ったままの転生者が他にもいるんだ。


「まぁね、詳しくは父さんと話してからにするよ」


色々な事が脳裏を駆け巡り、気持ちの整理が付かない。アーノルドと相談してどこまで話すか決めてもらおうと、宴会もそこそこにして切り上げ、アーノルドに相談することにした。


ダンとセバスにも席を外してもらった。


「父さん、今日のこと色々聞いていいかな」


「あぁ、いいぞ」


「ハーフエルフって珍しいの?」


「あぁ、ほとんどいないな。人間、エルフ、ドワーフ。姿は似ているけど微妙に違うだろ?」


「うん」


「種族が異なるとな、めったに子供が生まれないんだ。でもドワーフとのハーフはぼちぼちいる」


「なんで?」


「ドワーフはな人間と一緒の場所に住んでる奴がエルフに比べて圧倒的に多いんだ」


そういやエルフは見たことがない、


「エルフは森の奥深くに住んでる事が多くてな、あまり人間に近寄ろうとしない。エルフには美形が多くてな、大昔の人間がエルフ狩りをやったことがあるらしい。それまではそれなりにエルフも一緒の場所に住んでるのも珍しいことじゃ無かったみたいだ」


悲しい歴史だな。


「それ以来、人間を嫌って近寄ろうとしなくなったと聞いた」


「そんな大昔の事がまだ尾を引いてるの?」


「人間にとっては大昔だがな、エルフに取ってはそうでも無い。あいつらは長寿だからな」


なるほど。


「ハーフエルフはエルフ達からは人間の血を引くと迫害され、人間からは珍しさと美しさから狙われるんだ。特に女のハーフエルフはな」


グズダフもその口か。


「ハーフエルフをめぐって争いがあった事からいつしか災いを呼ぶという噂になってな、狙われるか迫害されるかのどちらかになった」


そんな歴史だったのか・・・


「父さん達のパーティーにハーフエルフがいたって言ってたけど」


「パーティーの魔法使いがハーフエルフだったんだ。エルフは魔法が得意な奴が多くてその血を強く引いたんだろうな。このハーフエルフの歴史もそいつに聞いたんだ。魔法で自分で自分を守り抜いて生きてきたと言ってたよ」


「ありがとう父さん、だいぶ疑問が解けたよ」


「ゲイルはシルフィードに自分の秘密を話したいのか?」


「うん、あの調味料は味噌っていうものなんだけど、お告げに出てくる調味料なんだ」


転生の事はお告げに変換して話す。


「シルフィードの母親が作った調味料って言ってたろ?多分お告げを受けて作ったとしか思えないんだよ」


「シルフィードの母親がお告げを?」


「そう、だからシルフィードとダートスさん達にお告げの事を話したら他にも情報があるんじゃないかと思って」


「そうか、ダートス達もシルフィードの事を打ち明けてきたくらいだからこっちの秘密も守ってくれそうだしな。よし、ダートス夫妻とシルフィード、俺とお前の5人で話をしてみよう。内容に問題が無ければダンとセバスにも話す」


「わかった」


後はダートス夫妻とシルフィードの返事次第だな。



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