第82話 幻想的な湖と熊とドワーフのスープ
ふぁ~良く寝た。まだ暗いけど準備しなきゃな。
まず馬の様子を見に行くと起きていた。
「おはよ、寒くなかったか?」
ブルルルンッと返事する馬に温めの水を入れてやる。がっふがっふと飲みだしたので、カイバも足しておいた。さて、ドワンとダンを起こすか。
荷馬車に向かって、
「朝だぞ~起きろ~!」
あれ?返事がない。酔い潰れて寝てるのか。荷馬車を覗いてみたら二人ともいなかった。
もしかしてもう釣りに行ったのか?
水辺にも居なかった。どこ行ったんだろ?
水辺まで探しに行くと、ドワンとダンが二人して風呂に入ったまま寝てた。凍死してんじゃないだろうな?もちろん追い焚き機能なんて付いてないので水になってるはずだ。。
「おいっ!ダン、おやっさん生きてるか?」
返事がない。
「おいっ おいっ 大丈夫かっ!」
ペチペチと小さな手でドワンのほっぺたを叩く。
「なんじゃもう朝か?」
ドワンが返事する。良かった生きてた。
「うわっ冷てっ!なんだこれ?」
ダンも生きてた。
急いで水を魔法で温めていく。
「何やってんだよ、もう!死んだかと思ったじゃないか!」
一晩中冷たい水に裸で浸かっててよく平気だったな。冷てっで済むんだから。
冷めたスープを温めるかのように温度を上げると、ドワンとダンが程よく煮えたみたいで風呂から出てきた。
「ぼっちゃん、面目ねぇ。アーノルド様がいなくて気が抜けてたようだ」
「普通死んでるからね」
ダンは服を着ながら、これくらいでは死なんとカッカッカと笑った。
ドワンはしれっと着替えてた。
持って来たベーコンとタマネギ入れ、とき卵のスープを作って飲ます。中からも温めてやらないとまずいかもしれないからな。そしていつの間にかジョンも起きて来てスープを飲んでいた。
スープを飲み終わる頃にだんだんと辺りがしらんでくる。夜明けが近い証拠だ。水面にはモヤが立ち込めて幻想的な雰囲気を醸し出す。
モヤで見えないがパチャパチャとマスが小魚を追ってるような音が聞こえはじめた。
「おやっさん、ジョン。チャンスだよ早く仕掛け持って来て」
餌用の針からフライに結び直して、音のする方向へ飛ばした。
「昨日教えたみたいにやってみて」
ドワンとジョンがシュッシュッと糸を引っ張りフライを動かす。
「来たぞ!」
ドワンの竿が大きくしなった。デカそうだ。
ぬおっ!とか言いながら魚と格闘を始めるドワン。ジョンは50cmくらいのマスを釣り上げている。
「なんじゃ、この引きはっ!」
細いビッグスパイダーの糸をドワンの指に食い込ませて縦横無尽に逃げる魚。
かれこれ30分はドワンと魚の格闘が続いている。
「こいつめっ!いい加減諦めてこっちへ来やがらんかっ!」
更に力を入れて引っ張っるドワン。
糸が切れるんじゃ無いかとハラハラしながらドワンと魚のやり取りを見続ける。魚との格闘をすること1時間くらいが経過したころ、ようやく魚体が見えて来た。
なんじゃこりゃっ!
2mは越してるであろう魚が寄ってくる。ダンが水際にジャバッと入り、その魚を抱き抱えて上がってきた。
なんて美しい・・・
形はマスみたいだか、全身が銀色に輝いている。
「やったぞ!ワシがこいつを釣ったんじゃ!」
小躍りするドワーフ。
美しい魚を近くで見ると銀色かと思った魚体はうっすらと金色も帯びていた。
「ダン、この魚は何?」
「俺も見たことがねぇ」
「おやっさんは知ってる?」
「知らん」
二人とも見たことが無い魚・・・
この神秘的な輝き・・・
この湖の主なんじゃないのか?ふと、そんな事を思った。
「おやっさん、この魚逃がそう」
「なんじゃと? こんなに苦労して釣った獲物じゃぞ!」
「多分、この湖の主だよこの魚。こいつは逃がさないとダメだ」
俺は真剣な顔で強く言った。
「魚は屋敷にたくさんあるし、これを食べなくてもいいでしょ。こんな神の使いみたいな魚殺しちゃダメだよ」
神の使徒と思われている俺の言葉にしぶしぶ頷くドワンをみてダンはそっと水の中に魚を離した。
神秘的な輝きを放つ魚はすぐに逃げようとせずチラッとこっちを見たような気がした。
ぐるっと身体を反転させ、ばしゃんとジャンプすると沖の方へ泳いで行った。
ジャンプした時に水しぶきが俺の顔にかかり、1枚の大きな鱗が顔に張り付いていた。
「お前が逃がせと言った礼じゃないか?お前さんが持っとけ」
鱗を渡そうとしたら、俺が持っておけとドワンに言われた。
今起きた事が夢のようだったが、手には美しい鱗が残っている。夢じゃないようだ。鱗を見つめてぼーっとしている俺にドワンが釣りを続けると言ったので、魔法で二人のフライを飛ばし続けた。
60cmクラスを筆頭に二人で40匹くらいのマスを釣り、納竿となった。魚の処理を3人に任せて、簡単な昼飯を作り後片付けをする。
冷え込んだせいかザリガニの姿は見えなかったので、ドワンが盾役になりジョンが斬り崩すという稽古をやった。ドワンはハンマーでもなんでもないただの棒を持ち、ジョンは真剣だった。ドワンのどっせいっ!どっせいっ!の掛け声にコロンコロンとはね除けられ悔しそうなジョン。それに対してドワンはワシを抜こうなんざ100年早いわいと笑っていた。
ドワーフの100年ってどれくらいの感覚なんだろね?しかし、引退したとは言え、さすが元英雄パーティーメンバーだ。ジョンがあんなに子供扱いされるとは思わなかった
ダンが稽古を見守っているので、俺は馬の様子を見に行く。俺を見てブルルルンッと嬉しそうに首を上下に振る馬。
ずっと小屋に閉じ込められてる馬がかわいそうだったので、
「逃げちゃダメだよ」
そう言って小屋から出してやった。小屋から出た馬は前脚を曲げて、頭を下げる。
乗れってことか?低い姿勢を取ってくれたんだろうが、それでも乗るのは無理だ。
「立ってくれていいよ。浮かんで乗るから」
そう言うと普通の姿勢に戻る馬。ふよふよと浮いて馬の背中に股がると別世界の目線になる。
脚で馬を挟む事が出来ないので、股がっただけで安定しないが、落ちかけたら魔法で浮けばいいやと気が付いた。
たてがみを持つとポコポコと歩き出した馬に行く方向を言葉で伝える。
「あっちに皆がいるから、連れてって」
指さした方向に歩き出す。本当にこいつは賢い。
「おーい!ダン。すごいだろ」
「お、いつの間に馬に乗れるようになったんだ?」
「こいつめっちゃ賢いんだよ。言えば行きたい方へ行ってくれるんだ」
「は?言った方向に行く?どういうことだ? あれ?手綱はどうした?」
荷馬車用の馬に乗馬するための手綱は付いていない。単に小屋から出しただけだ。
「荷馬車から外したままだよ。こいつが乗れって姿勢を下げてくれたから乗ってきた」
ダンが驚いた顔で馬をじろじろ見ていると。
「どうした?」
ジョンがへばったみたいで休憩していたドワンもやってきた。
「お前、どうやって馬に乗ったんじゃ?届かんじゃろ」
「馬が前脚曲げてしゃがんでくれたんだけど、それでも届かなかったから魔法で浮いて乗ったんだ」
ほうっと下顎を撫でるドワン。
「こっちのデカいやつがダン、ちっさいのがおやっさんだ。むこうで倒れてるのがジョンだよ。皆俺の仲間だよ」
馬にメンバー紹介をしてみる。
「そんなこと馬に説明してもわからんじゃろ」
馬にメンバー紹介をした俺を笑うドワン。
「こいつめっちゃ賢いんだよ。見てて。あっちに倒れてるジョンの所まで行って」
馬に言葉だけで伝える。今度は指差しも無しだ。
ポコポコとジョンの元へ向かう馬。
はぁはぁ言って仰向けに倒れてるジョンの顔を覗き込む。
「起きれないみたいだから、起こしてあげて」
そう言うと馬はジョンの服の胸元を噛んでぐっと持ち上げる。目を開けたら馬に噛まれている自分を見て悲鳴をあげるジョン。
「た、助けてくれ!食われる」
「倒れてるジョンを起こしてくれただけだよ。安心して」
俺がそう言うとジョンの服を離してブルルルンッと返事した。
馬に放され走ってダン達の元へ行くジョン。
「俺たちもダンの所へ行こう」
ポコポコと戻る馬。
「おやっさん、言った通りだろ。こいつは言葉を理解してるんだ」
信じられない顔で俺を見るドワン。
「坊主、凄いじゃないか。お前、テイマーの素質があるんじゃないか?」
テイマー?なんだそれ。
「俺が凄いんじゃないよ。こいつが賢いんだよ。あとテイマーって何?」
「ぼっちゃん、テイマーってのはな、魔物と契約して自分の仲間にする奴のことだ。数は少ないが冒険者にもいるぞ」
「俺、馬と契約なんてしてないぞ」
俺がそう言うとドワンが馬のあちこちを見る。
「確かに契約印は見当たらんな」
「契約印って?」
「魔物を使役するとな、契約した証に魔法陣みたいな印が出るんじゃ。詳しくは知らんが、魔物を屈服させて契約するみたいじゃぞ」
「俺は馬を屈伏なんてさせてないしね。単にこいつが賢いだけだと思うよ」
「そうだな。来るときからぼっちゃんに懐いてたみたいだし、相当気に入られたんじゃねーか?」
それは黒砂糖のせいだろう。
しかし、テイマーか。面白い話を聞いたな。俺も使えたらウサギの曲芸とかしてみたい。ダンスを踊るウサギとか可愛いだろな。
夕食まで馬に乗ってダンと湖の周りを散策して次に来た時のために良さげなポイントを見付けておいた。ジョンとドワンは稽古の続きだ。
晩飯にマスのムニエルを食べて、ダンとドワンの小屋を二つ追加して寝た。
やっと明日帰れるな。めっちゃ疲れたから早く帰りたい。
俺は湖の主に貰ったきれいな鱗を眺めながら眠りに落ちたのだった。
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