第79話 家族旅行 後編
翌日帰るのかな?と思ってたら、もう一泊するとのこと。アーノルドは俺達が釣った方法をやってみたいらしい。
こそっ
(父さん、魔法使ってフライを飛ばすからベントが居たら出来ないよ)
(何っ!何とかならんのか?)
(母さんに頼んで、ベントを何処かに連れ出して貰えたら出来るけど)
(お前が頼んでくれ)
(夫婦じゃないか、自分で言いなよ)
(しかしなぁ・・・)
自分で言えと言ったら煮え切らないアーノルド。
「何こそこそ話してるのかしら?」
ひそひそ話をする俺達をアイナが怪しんで近寄って来た。
(ほら、早くっ!早く言わないと釣れる時間過ぎちゃうよ)
(いや、しかし・・・)
まだもじもじするアーノルド。昨晩仲良く手繋いでどっかに行ってたじゃないか、とは言えない。
「ダン、昨日行けなかったキノコ狩りに行きたいんだが、連れて行ってくれないか?」
ジョンがキノコ狩りに行きたいと言い出した。
「いいぜ、小屋の管理人に採れる場所聞いて行けばいいしな」
「じゃ、頼む。ベントも一緒に行くぞ」
えっ?と言う顔をするベント。
「あら、そうなの?たくさん採って来てね」
しれっと自分は行かないことを主張するアイナ。
母さんも・・・と言い掛けたベントをジョンが引っ張って行った。恐らくこちらの話が聞こえてたのだろう。いいやつだ。
「あなた、ゲイルがやってた釣りをしたいんでしょ?ジョンが気を遣ってくれたわ」
「なんか色々スマン・・・」
自分が一番子供だった事を理解したアーノルドはポリポリと頭を掻いた
アーノルドとアイナに釣り方を教えてフライを飛ばしてやる。
「こんな魔法の使い方があるのねぇ」
とアイナは感心していた。
きゃっきゃっと釣りをする二人をほっておいて、ブリックと魚の処理をしていく。小さいマスは全て内臓を出してから開き、軽く塩をした後に燻製にしていく。
囲いに入ってる魚はダンがいなくなってしまったので、隙間を土魔法で埋めてから水魔法で水を抜く。皆濡れるのは嫌だし、泳いでる魚を捕まえるのは至難の技だ。ぽいぽいと取れるのは熊だけだ。
大きいのは内臓と鱗だけ取ってクーラーへ入れようとするが、
「ぼっちゃん、入りきりませんね。どうしますか?」
燻製にした魚を除いても、クーラーに入りきらない。今もアーノルドとアイナが追加しているくらいだ
「ミーシャ、小屋の管理人に木箱が無いか聞いて来てくれないか?」
クーラーじゃ無いけど仕方がない。ザリガニも大量に入るし、魔法で冷凍しよう。
「ぼっちゃま、魚を出荷する用の木箱を譲ってくれるそうです」
よいしょよいしょと見本を一つ持ってミーシャが帰って来た。このサイズだと5~6箱で全部入りそうだな。
「ありがとうミーシャ、全部で6箱を譲って欲しいと言っておいて。ダンが帰って来たら取りに行って貰うから」
はーいとミーシャがまた小屋の方へ走って行った。
ようやく満足したのか、アタリが無くなったのかアーノルドが釣りを止めた。頻繁にフライを飛ばすのに呼ばれてうんざりしてたところだ。
「ゲイル、これは凄いな。こんなに大物ばかり釣れたのは初めてだぞ」
アイナも楽しそうだ。元冒険者だっただけに何かを狩るのが好きなようだ。
「あなた達いつも自分達ばかりこんな楽しいことしてるのかしら?」
アーノルドにチラッと嫌味を言う。
「釣りは初めてだったけど、ウサギ狩りとかはほとんど毎日だね。俺は見てるだけだけど」
アーノルドの代わりに答える。
「そろそろ、ボアも美味しくなってくるシーズンだし、私もたまには狩りに行きたいわ」
ボアって猪のデカいのだったな。
「それなら鍋にしたら美味しそうだね。おやっさんとか呼んで小屋で鍋パーティーでもする?」
「鍋って何かしら?」
「大きな鍋でね、野菜や肉をスープで煮込みながら自分で好きに食べるんだよ」
身振り手振りで説明する。
あら、遠征の時みたいなものねとアイナは言った。そうか冒険者パーティーは一つの鍋で食ったりするわけだ。
「懐かしいわね。じゃあ、次はベントをアーノルドに任せて私が行こうかしら」
「なっ、アイナそれはズル・・.」
「アナタは何度か行ったわよね。ジョンにお酒飲ま・・・」
「俺がベントと留守番しよう」
ジョンに酒を飲ませたことをまた怒られそうになり、自ら留守番を言い出した。しかし、これからもベントだけ仲間外れにするのも心苦しいな。いっそ皆で来れるようにするか。
「父さん、小屋作ったのも、蒸留器作ったのも全部おやっさんがしたことにすればいいんじゃない?おやっさん、親方、ダンが全部やったこと。俺は知らない」
「そんなことしてバレたらどうするんだ?」
「それは父さんが考えればいいんじゃない? それよりずっとベントだけ仲間外れにしておくのは心苦しいんだよ」
「そうね、これからも小屋で色々やるつもりなんでしょ?」
「そうだね、帰ったらマス料理をおやっさんにご馳走しないといけないし、これからも度々あると思う」
「アナタどうする?毎回留守番してる?」
「えっ?毎回俺が留守番なのか?」
当然でしょと言われるアーノルド。
「何でもおやっさんのせいにしとけばいいんだよ。元パーティーメンバーだからお願い出来るでしょ?上手く口裏合わせておいてね。それが無理なら父さん留守番だよ」
「分かったドワンに頼もう」
ずっと留守番と言われてすぐさまドワンに借りを作ることにしたアーノルド。きっと見返りに蒸留酒の納品数値切られるだろうな。
「戻ったぞー」
ダン達が山ほどキノコを持って帰って来た。毒キノコとか混ざってないよね?
昼飯は焚き火でマスの塩焼きだ。嫌な予感がしながら皆に任せる。
そんな火の近くに置いたらだめだって、あーあ、ヒレとか真っ黒だよ。きっと中はまだ生だ。
途中からヤバいと思って自分の分とミーシャの分をそっと火から離してちょうど良く焼けるように調整した。先に焼き上がる魚を見てミーシャが火に近付けようとしたが、手を握って横に首を振っておいた。
「なんか塩焼って美味しくないんだね」
ベントが外黒焦げ、中生焼けのマスを食べて昨日の料理の方が旨かったと言っていた。元冒険者の3人は魚の塩焼きってこんなもんだろと思っているようだ。
ふとジョンとブリックの魚を見ると火から離してあった。俺が火から魚を離すのを見て真似したようだ
そろそろ焼けたぞとミーシャに教える。
「うわぁ~、身がフワフワで香ばしくておいひでふ」
感想を言いながら頬張り続けるミーシャ。ジョンもブリックも食べたし、ウンウンと頷いている。
俺も食べよ。
パクっとな。やっぱり、外で食べる塩焼きは旨いわ。ガスで焼いた魚と全然違う。不便なこの世界でも良いところはあるもんだ。しみじみとそう思った。
魚を食べた後、昨日食べた奴は何だと聞かれ、ザリガニを見せた。驚いていたが、昼間でも釣れるのを知り一斉に釣り出した。木箱をもう一つ追加しないといけないかもしれない。
魚を処理し終わり、木箱に詰めてバンガローに運んで貰う。ベントが見ていない所で急速冷凍しておいた。俺って便利♪
クーラーには生のマス、木箱5箱に満タンの冷凍マス、冷凍ザリガニは2箱だ。全部クリーン魔法をかけてからの冷凍だ。これで寄生虫とバイ菌の心配がない。
晩御飯は持って来た食材の残りを食べたべ、その入れ物に燻製したマスとキノコを詰めることに。続けて魚ばっかりも嫌だしね。
早朝から馬車に揺られて帰ったが、疲れてたのか慣れたのか、ゴットンゴットン揺れる馬車の中で爆睡してたようで、あっという間に屋敷に着いていた。
アーノルドとダン、御者お疲れ様でした。
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