第74話 スルーパス
森の燻製小屋でハム、ベーコン、ソーセージを燻製にしていく。
じっくり燻製にしたいところだけど、冷燻だと泊まり込みで何日か燻製し続けないといけないので、その為にソーセージも湯通ししてから温燻にする。ヒッコリーチップからモクモクと煙が出だしたら後は放置するだけ。
「ゲイル、これは何をしているんだ?」
森にはジョンも一緒に来ていた。
「燻製を作ってるんだよ。肉とか魚の保存性を高める為にするものなんだけど、普通に焼いて食べるより風味が増して美味しくなるよ」
「保存食作りか。冬の準備か?」
「これはそんなに持たないから、すぐに食べるよ。今日燻製にして、1日置いたら出来上がり」
「こんな量を食べるのか?」
「近々ここで宴会するからすぐに無くなると思うよ。好評だったらまた作ればいいし」
ジョンは厨房での試食会には参加してないのでソーセージの味をまだ知らない。
ふーん、と言いながらダンとの稽古に向かった。もう俺のしていることにいちいち驚かないようだ
俺はせっせと蒸留酒の保管小屋と地下室作りだ。思ったよりも時間が掛かってるので蒸留は進んでいない。
そろそろ陽が暮れて来るな。ずいぶんと陽が落ちるのが早くなってきた。少し燻製の時間が短いが仕方がない。燻製小屋から肉達を取り出して小屋の中に干しておく。小屋に煙の臭いが付いてしまうがクリーン魔法でなんとかなるから気にしない。
「ダン、帰ろうか」
屋敷に戻り、晩御飯を食べたあとにアーノルドの執務室に向かった。
コンコンッ
「父さんいる?」
ガチャっとドアが開いてアーノルドが出て来た。
「どうした?なんか用か?」
「近々小屋でおやっさんと親方呼んで食事会する予定なんだけど、父さんどうする?」
宴会とは言わない。
「何作るんだ?」
「この前のジョンのお祝い料理をダンとミーシャにも食べさせてやろうと思って。ついでにおやっさんと親方も一緒に呼ぶつもり」
「鉄板焼というやつか。あの肉旨かったな」
アーノルドはミディアムで焼いた肉を気に入ったようだ。今度は胡椒もあるしさらに旨くなる予定なのはまだ黙っておく。
「屋敷と違って、テーブルに鉄板をセットして自分で焼いてもらおうかと思ってるから、好きな食べ方してもらう予定だよ」
「アイナ達はどうするんだ?」
「ジョンは呼ぶけど、母さん呼んだらベントだけ誘わないわけにいかないから相談に来たんだ」
「そうだな、ベントを呼ぶとお前のこと話さないといけないからな」
「どうするかは父さんに任せるよ」
早めに返事してねとスルーパスして部屋を出た。
「ったく、ゲイルの奴面倒なことを押し付けて行きやがった。どうするかアイナに任せるか」
アーノルドもスルーパスする気満々だった。
2日ほど経った時にドワンとミゲルが森にやってきた。ドワンは鉄板と何かを担いでいる。
「坊主、テーブル改造しに来たぞ」
もう少し時間が掛かるかと思ってたが、もう来たのか。よっぽど宴会が気になって仕方がないんだな。
「ほれ、こいつも必要だろ?」
そう言ったドワンの手には鉄板以外に魔導コンロがあった。すっかり忘れてたな。鉄板だけあっても使えないとこだったな。
ノコギリでギコギコとテーブルをくり貫き、鉄板と魔導コンロを取り付けて行くミゲルとドワン。さすがに兄弟だな。息ぴったりだ。
鉄板の試運転を兼ねてダンとジョンが狩って来たウサギを焼く事に。部屋が煙で充満されてしまったので、天井をうにょんとくり貫き換気扇代わりの煙突を作った。それに鉄板が馴染んでないので少々くっつくが仕方がない。宴会まで何度か焼いて油を馴染ませないとな。試運転しておいて良かったと一人でうんうん頷いていた。
「おい、坊主。このぶら下がってるのはなんじゃ?」
部屋で風乾させていたソーセージを見て質問してくるドワン。
「これはソーセージだよ。この前おやっさんに作って貰った肉を潰す機械で作ったんだ。羊の腸に潰した肉を詰めて燻製にしてあるんだよ。今度の食事に出すから今日はお預け」
「なんじゃい、またもったいぶるのか?」
「まだ食べるには早いんだよ。もうすぐ食べ頃になるからね」
ったくお前はいつもいつも・・・ ぶつぶつが止まらないドワン。
「宴会の日をどうする?次の日5の付く日がいいかなと思ってるんだけど」
これは早々に宴会しないと不味いなと思って早めに設定する。アーノルドにはまだ返事貰ってないけどいいや。来るか来ないかわかんないし。
「俺達は構わんが他の奴は来るのか?」
「ここにいるメンバーとミーシャは確定。父さん達はわからない」
「そうか。じゃ5の付く日で決定じゃ。酒を準備しとけよ」
「あ、おやっさん、この前のエールの金属樽をもうひとつ作っといて。あとジョッキも余分にあると嬉しい」
「分かった。当日持って来るぞ」
酒忘れんなよと言って帰って行った。
その後、剣の稽古と保管小屋作りをして俺達も帰った。
夜にアーノルドとアイナの寝室へ向かう。
コンコンッ
「あらゲイルどうしたの?」
「父さんに話があるんだけど、父さんは?」
「アーノルドは執務室にいるわよ」
まだ仕事してんのか?大変だな。
分かったと言って寝室を後にして執務室へ。
「父さん、食事会の日が次の5の付く日に決まったけど、どうするの?」
「アイナと相談したんだが、俺だけ行く」
「母さんたちは?」
「また街にベントと泊まりに行くんだと。まだベントにはお前の事を話せないから仕方がないと」
「本当は母さんも来たかったんじゃないの?父さんもベントと泊まりに行った方がいいんじゃない?」
「あぁ、ちょっと怒ってたかもしれん。しかし、ベントはアイナと二人だけの方が嬉しいみたいだからな。俺はそっちに参加する」
ホントに大丈夫か?夫婦のスレ違いはこういうことの積み重ねだぞと思いつつ了承した。
しかし、気にもなるのも事実なので、アーノルドの執務室を出てからもう一度アイナがいる寝室に向かった。
コンコンッ
「母さんいる?」
「あら、ゲイルどうしたの?アーノルド居なかった?」
「もう話は済んだよ。今度の森で食事会する件なんだけど、父さんだけ来るって言ってたから」
「そうなのよ、アーノルドは私にどうする?とか聞きながら、自分は森に行く気満々だったのよ。ベントにはまだ話す気ないくせに」
やっぱりちょっと怒ってるな。
「ベントに話せたらいいんだけどね、まだ無理そうだからごめんね」
「ゲイルが気にすることないのよ。アーノルドが子供なのが悪いのよ」
それは否定出来ないな。楽しそうだと我慢出来ないみたいだし。初めからベントと街の宿屋に泊まる気はさらさら無かったのがアイナにバレてる。このままだと毎回アイナとベントを仲間外れにしてアーノルドだけ来るだろう。それは夫婦の危機につながる恐れがある。
「じゃあ今度さ、家族で湖に行かない?小屋じゃなければベントを誤魔化せると思うし。皆で楽しめるよ」
「まぁ、ゲイルは優しいわね。母さん達も楽しめるように考えてくれるのね」
それに比べてアーノルドは・・・ぶつぶつ
いかん、また怒りの矛先がアーノルドに向かってしまう。
「さ、さっき父さんがちょろっと言ったんだよ、母さん達も一緒に楽しめる方法はないかなぁって。だからね、僕がちょっと行ってみたいところを母さんに話してみただけ」
あら、本当かしら?と少し機嫌が治るアイナ。
「僕、新鮮な魚が食べたいんだよね。前に西の食堂で食べた魚が美味しく無かったから、釣りたてのが食べてみたいんだよ」
これは事実だ。
「あら、そうなの?じゃあ、あの湖がいいかしら? 釣りもするなら冬になる前がいいわね。冬前だとジョンも王都にまだ行かないし」
前向きになるアイナ。この様子だと湖に行く日は近そうだ。アーノルドと口裏合わせておかないと。
「さっき、家族だけと言ったけど、ダンとミーシャ、ブリックも連れて行っていいかな?俺だけだと料理の準備も無理だし、俺が作っても変でしょ?」
「そうね、そうしましょ。馬車2台で行かなきゃね」
そう言って嬉しそうに笑うアイナ。
話はまとまったな。たくさん釣れたら屋敷の皆にもお土産として魚持って帰ろう。クーラーもあるしばっちりだ
寝室を出て再びアーノルドの元へ行く。今アイナと話をした事を伝えるとぎゅっと抱きしめられ、お礼を言われた。どうやら怒ってるアイナがいる寝室に行くのが嫌だったらしい。アイナの言う通りアーノルドは子供だな。
翌日、ブリックに食事会用の牛肉を仕入れて貰うように言いに行く。
「あの小屋でまた宴会するんですか?」
「そうだよ。次の5の付く日にやるから宜しくね」
「ぼっちゃん以外に誰が参加されるんですか?」
「ダンとミーシャ、父さん、おやっさん、親方だね。母さんとベントはまた街に泊まりに行くって」
「あ、あの・・・」
「ん?どうした?なんか問題でもある?」
「わ、私も行きたいです。だ、ダメでしょうか?」
思い切ったように言ってくるブリック。
ん?ブリックはこの前のお祝い料理の練習で吐くほど牛肉食ってたのに嫌じゃないのかな?
「メインは牛肉だぞ。嫌じゃないのか?」
「いえ、嫌ではありません。それよりも新しい料理が・・・」
「新しく料理っていってもソーセージくらいしか・・・」
あっ、ハニバタトーストにアイス乗せるんだった。
「分かったけど、仕事どうするんだ?」
「晩御飯は温めるだけでいいようにしておきますので」
アイナ達もいないし、使用人の食事だけだしな問題無いだろう。
ブリックも来ることになったので、追加で牛乳、砂糖、食パンとその他香辛料を持って来て貰うことにした。そして、夜にマスタード作りを教えると約束しておいたのだった。
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