第73話 ソーセージ

ジョンのお祝いから数日経ち、森へ行く途中にドワンの元へ向かった。


「おやっさん、蒸留酒は上手く行ってる?」


「おう、1日に30樽が限界だな。初めの100樽はもう終わっとるぞ」


やっぱりデカイ蒸留器だと早いな。もう次の樽待ちか。こっちはぼちぼちと1日2樽のペースだがら春までに蒸留完了。


「おやっさん、そんなペースで蒸留してたら冬の仕事なくなっちゃうんじゃないの?」


「いや、地下室を作るのに手間取っててな。結構深く掘らにゃならんし、掘り出した土も捨てにいかにゃならんから冬の仕事には困らんぞ」


もう武器屋でも商会でもなく、土建屋だな。職人もまさか土を掘らされるとは思って無かっただろう。人力で大量の樽を保管する地下室を作るのは容易じゃないし、またゾンビ集団になるのは間違いない。合掌。



「おやっさん、唐揚げの屋台どうする?来年にしてもいいよ」


「そうだな。これに片栗粉づくりが始まったらどうしようも無くなるからな。坊主はそれでいいのか?」


「屋敷で使う分くらいはこっちで作れるから大丈夫だよ。その代わりまた作って欲しいものがあるんだ」


「何を作らせるつもりじゃ?」


嫌な顔をするドワン。


「肉を細かく潰す機械を作って欲しいんだよ」


そう、ミンサーが欲しいのだ。これがあれば簡単にミンチが作れるから、ハンバーグとか冬のお鍋用鶏ツクネとかをブリックにお願いしやすくなる。


仕組みはさほど難しくない。図に描いて説明する。


「わざわざ肉を潰さんでもそのまま食えば済む話じゃろが?」


「おやっさん、分かってないねぇ。これがあるとまだ食べた事無いのが作れるよ。エールとかにも合うと思うんだけどなぁ・・・」


「よし、2日後に取りに来い。次の酒が届く前に作っておく」


相変わらずチョロいドワーフ。


「なんだ坊主来てたのか?」


ミゲルが地下掘ってるとこから出て来た。


「あれ、親方も土掘らされてるの?」


「ワシは掘ったところの補強工事じゃ。掘る度に補強しとかんと崩れて来るかもしれんからな」


木の枠で補強してるのか。昔の鉱山トンネルみたいになるんだろな。


「あ、そうだ。今度小屋で鉄板焼する予定だからテーブルを改造してくれないかな?」


「ん?この前作った専用の台だといかんのか?」


「小屋はそんなに広くないし、あの台はめちゃくちゃ重くなるから動かすのも大変なんだよ。テーブルの中央部分をくり貫いて鉄板埋め込んだら兼用でいけるでしょ。使わない時はくり貫いたテーブルはめて隠せるようにしとけばいいし」


なるほどなと頷くミゲル


「近々小屋に行くからちょっとだけ待っとれ。今はこの工事から手が離せん」


「了解、鉄板焼テーブルが完成したらまた宴会しようと思ってるから」


「わかった。すぐに行くように兄貴と話しとく」


ミゲルもチョロい。



商会を出たあと、


「ゲイルは職人たちといつもあんな話をしてるのか?」


一緒に来ていたジョンが聞いてくる。


「ジョンもこの前おやっさんが屋敷に来た時に話したんじゃないの?」


「あの時はジロジロ身体を見られて手を握らされただけだ。特に話はしてない」


なるほど、おやっさんはジョンに剣を作ってやるつもりなんじゃないかな?それでジョンも呼んどけと言ったのか。


もし違ったらまずいから黙ってよ。


「職人と言ってもおやっさんと親方だけだよ。おやっさんは父さんの元パーティーメンバーだし、親方はおやっさんの弟だし、身内みたいなもんだよ」


職人が身内・・・


まだ少しカルチャーショックが残るジョン。


「ジョンが王都に行ってる時に小屋でパーティーしたんだよ。その時、一緒に飯食って寝泊まりしてるし、もうお互いに遠慮とかないよ」


遠慮なんて初めっから無かったような気もするが。


「そういうものなのか・・・」


そうそう、そういうことにしておく。



「ジョンが話しにくいようなら、今度宴会するときにおやっさんに盾役やって貰って、斬り崩す稽古させて貰ったらどうだ。話すきっかけにもなるし、元英雄パーティーの盾役だから勉強になるぞ」


ダンがアドバイスする。


「そうか、話す用件が無くてもそういう稽古が出来るのか」


そう言ってフンフンっと鼻を鳴らすジョン。ダンも盾役みたいなことしてたとか言ってたけど、また違うのかな?大剣持ってるのも見たことないし。


まぁなんか理由あるかもしれんし、ダンのことだから何か考えてるんだろ。触れずにおこう。


話を変えてダンに聞く。


「あとは宴会に呼ぶメンバーなんだけど、父さんはどうしたらいいと思う?父さんだけ呼んで母さんは無しとか気が引けるんだよね。母さんも誘うならベントだけ呼ばないって訳にもいかないし」


声かけるメンバーを相談してみる。


「そのへんはぼっちゃんが考えるより、旦那様と奥様に任せたらどうだ?自分で考えるの面倒だろ?」


「そうだよね。こっちで考えるより任せてしまった方がいいね」


ダン、ナイスアイデアだ。それ採用!


そんな話をしながら森に到着し、俺は蒸留酒の保管小屋と地下室作りに精を出し、ダンとジョンは狩りと剣の稽古に精を出した。



翌日、ミーシャを連れて街に買い物に出た。最近王都経由で香辛料の類いが入荷していると聞いたからだ。


「ザック、香辛料が入荷してると聞いたんだが」


「これはゲイル様。その節はありがとうございました」


笑顔と苦い顔を同時にするとは器用な奴だ。


「香辛料って何が入って来たんだ?」


こちらでございますといくつかの壺を持って来た。


ふんふん、これは胡椒と唐辛子だな。この粒々の小さいものは何だろう?


「ぼっちゃま、この赤い野菜みたいなのはなんですか?」


「これは唐辛子だな。これだけで食べるんじゃなく、細かく潰して料理に加えたりするんだ。辛いから囓るなよ」


「さすがゲイル様、よくご存知で」


「ザック、この小さい種はなんだ?」


「これは辛い種でございます」


辛い種?からし菜の種か?


「これ、黄色い花が咲く草の種か?」


「そのように伺ってます」


やっぱりからし菜の種か。このまま植えても発芽しそうだな。


「ぼっちゃま、この干からびた豆はなんですか?」


ミーシャが違うツボを覗きこんで聞いてきた。


どれ?と思って覗くと甘い香りが漂っている。ミーシャはこの匂いにひかれたのか。って、こ、これバニラビーンズじゃないか!元の世界だとバニラビーンズはめっちゃ高い 。


「ザック、これなんだか知ってるか?」


「こいつは匂いが良かったんで仕入れたんですが、苦味があって旨くもなんともない豆でした。また残りそうです」


そうか、使い道がわからないものは売れないからな。値段も安いみたいだ。


「ここにあるものは定期的に入るのか?」


「胡椒はだいぶ値段が下がって来たのでこれから定期的に仕入れますが、唐辛子や辛い種と苦い種は売れなさそうなので・・・」


「分かった。ここにあるの全部買う。また入荷するようなら仕入れといてくれ。香辛料の類いは俺が買うから売れ残りは心配すんな」


「あと、砂糖もあるか?」


「塊で仕入れてます。どれくらい必要ですか?」


「それもあるだけ全部買う。砂糖も定期的に仕入れてくれ」


砂糖と言っても黒砂糖の塊だ。このままでも使えるが、試しに精製して白砂糖も作ってみたい。


売れ残りも覚悟したものが全部売れたことでホクホク顔のザック。


王都経由で仕入れたと言っていたがここには無いものがある可能性が高いな。一度王都に買い物に行ってみたいものだ。


ミーシャ用のハチミツを買い足し、全部屋敷に配達して貰うことにした。


「ぼっちゃん、なんか色々買ってたがどうやって食べるのかわかるのか?」


「あぁ、味のバリエーションが一気に増えるぞ。特に胡椒は重要だ。ジョンの祝いの時にあれば良かったんだけどね」


「ぼっちゃまにお任せしておけば美味しいものが出て来るので楽しみです」


「そういや、あのハチミツトースト考えたのミーシャだろ?よく思いついたな」


「えへへ、分かりました?パンにハチミツ掛けたら美味しかったのでブリックさんに教えてみました」


「うん、美味しかった。みんな喜んでたしね。今度もっと美味しくしてあげるよ」


バニラビーンズも手に入ったからな。バニラアイスを作って乗せてやろう。


「あと肉屋に寄ってから帰る」


「まだなんか買うのか?」


「羊か豚の腸が売ってないかな?と思って」


「腸って内臓か?そんなもん食うのか?」


「腸そのものを食べるというより、いや腸も食べられるんだけど、今回は入れ物に使うんだよ」


入れ物?


ダンとミーシャの声が揃う。


「おやっさんところで肉潰す機械を頼んだだろ?あれを使うんだよ。腸の中に肉入れるんだ」


「そんな物が旨いのか?」


「それは食べてからのお楽しみ」


「ぼっちゃまがそういうならきっと美味しいです」


フフフとミーシャは楽しそうにした。



肉屋で羊の小腸くれと言ったら驚かれたが、用意してくれるとのことなので2日後に取りにいくことにした。


2日後におやっさんところで出来立てのミンサーを受けとり、肉屋で羊の腸と豚肉を購入して屋敷に戻った。


「ブリック、今からソーセージ作るから手伝って」


「ぼっちゃん、ソーセージってなんですか?」


「肉の腸詰めだよ。今から説明するから」


「まずこの機械、ミンサーって言うんだけどね、ここへぶつ切りにした豚肉入れて、上から押さえてて。ダンはこのハンドル回していって」


言われた通りにする二人。


「わ、肉が潰れて出てきました」


「この潰れた肉はミンチって言うんだよ。鶏で団子作ったろ?あれが簡単に出来る機械なんだよ」


「凄いです。こんなに簡単に潰れた・・・ミンチが出来るなんて」


「包丁でやると時間かかるからね。大量に作るにはこういう機械があると便利でしょ」


コクコク頷くブリック。


「じゃ、このミンチに塩と胡椒を入れて粘りけが出るまでひたすらこねて」


大量のミンチをせっせとこねるブリック。これは重労働だ。人にやって貰うに限る


「こ、こんなもんでどうでしょう・・・」


ハァハァと息切れしながらブリックはやりきった。


次はミンサーの歯の部分を外してこいつを取り付ける。空洞になった金属の棒でケーシング棒と呼ばれるものだ。


「今こねたミンチをミンサーに入れて。空気が入らないように隙間なくね。後はさっきみたいに上から押さえてて。ダンはこの棒の先から肉がちょろっと出るまでハンドルを回して」


ダンがハンドルを回すとにょろっと肉が出た


「はい止めて」


俺はケーシング棒に綺麗に洗われた羊の腸を靴下をはかせるようにセットしていく


ダンに少しだけハンドル回してもらい肉が出たところで腸の先端をくくった。


「ダン、今からゆっくりハンドル回していって」


腸の中にミンチがぎゅっと入っていく


10cmくらいの長さでくるくるとソーセージを回して形を作っていくのを繰り返す。


「よしっ完成!」


2本の腸を使い、大量のソーセージが出来た。


出来たソーセージを軽く茹でて、棒にひっかけて表面を乾燥させていく。


「ブリック、前に塩漬けして貰ってた豚ロースとあばら肉持ってきて。今から森に行って燻製にしてくるから」


塩漬けしてあった肉もいい感じに熟成されているようだ。腐ったような変な臭いもしない。


「じゃ、森へ行こうか」


「え、今作ったの食べないんですか?」

ショックを受けるミーシャ


「しょうがない、燻製前だけど茹でて味見するか」


各自2個ずつ食べられるように切り、茹でてみる。


「噛んだら熱いの出てくるから、火傷しないように食べて」


こう言っとかないと確実にダンはやらかす。3人がせーので一緒に茹でたてのソーセージを噛んだ。


ぷつっという音と共に3人が一斉に、


「うまーい!」


と叫んだ。


どれ、俺も一口・・・ カプッ


小気味良い歯応えと共にジューシーな肉汁が口の中に入ってくる。ソーセージを食べたの久しぶりだ。燻製前でも充分旨い。


「な、羊の腸に肉入れたら旨かっただろ?」


3人とも大きくうなずいた。


さ、森の小屋に燻製しに行かねば。と、ルンルン気分で向うのであった。





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