第69話 俺達はパーティー

「旦那様、あっしらの勝ちのようですね」


「あぁ、負けちまったな」


負けたことに悔しそうではないアーノルドとジョン。苦労して初めてウサギを狩れた事の喜びのほうが強いようだ。


4人で小屋に戻ると、お帰りなさいとニコニコしながら出迎えてくれるミーシャ。


ジョンはメイドが笑顔で出迎えてくれる事に驚いた。ジョン付きのメイドのローラは丁寧に挨拶してくれるが笑顔で接してくれる事が無かった。またジョンもそれを当然と思っており、ジョンからも笑顔で接する事はなかったのだ。


「さ、解体するぞ」


アーノルドがジョンに言う。


「えっ?自分でするんですか?」


驚くジョン。


「当たり前だろ?自分で狩った獲物は自分でやるんだ」


何言ってんだコイツ?と言った顔のアーノルド。元冒険者のアーノルドと生まれた時から貴族として育って来たジョンの常識は異なるのだ。


アーノルドが血抜きをしながらウサギをさばくと、血を見てウッとなるジョン。


「ジョン、よく見とけ。俺達はこうして生き物を殺して食っているんだ」


俺もダンに命をもらって生きていることを教えてもらった。知ってはいても実際に目で見て体感することは大切だ。


「ゲイル、お前は平気なのか?」


「初めて見た時は吐きそうになったよ。内臓とかぐちょぐちょして気持ち悪いし、ウサギは可愛いいから心も痛かったよ」


「可愛い?」


この世界に動物を愛でる文化はまだ無いから可愛いは理解できないか。


「毎日のことだからね、慣れたよ」


見たく無い物を嫌々見るジョン。その横で平然と手伝うミーシャ。


「お前もこれを見ても平気なのか?」


ジョンがミーシャに尋ねる。


「平気って何がですか?」


獲物を解体するのが当然の環境で育ったミーシャにはジョンの疑問が理解出来ない。


「ぼっちゃん、洗ってくれ」


「あいよ」


じょぼじょぼと魔法を出して血を流す。


「ゲイル、こっちもだ」


アーノルドの方もじょぼじょぼと洗う。


当たり前の様に魔法で水を出して血を流す事に目を見張るジョン。



肉の解体が無事に終了したので、バーベキュー用コンロに薪をくべて火を点ける。


「私やります!」


ミーシャが火を点けてくれるようだ。この前はドワンが途中から火を点けたからリベンジするつもりなのだろう。


ムムムっと念じながら魔力を込めると、ポッと火が点いた。


ダンがフーフーしながら火を大きくする。成功だ。満足そうな顔をするミーシャ。


ダン達に火の管理を任せて、ミーシャと俺で調理をすることに。


手のひらサイズにしたウサギ肉に軽く塩をしてオーブンで焼いておき、その間に、


「このウサギ肉を塩を入れた油でゆっくり煮てくれる?」


「油で煮るんですか?」


そうだよと言って、ゲイルは潰してあったジャガイモにマヨネーズを混ぜてポテトサラダを作った。


油で煮えたウサギ肉を取り出して冷ましておく。


「この肉が冷めたら手でホロホロにほぐして」


ゲイルは食パンを薄切りにしていく。


オーブンのウサギ肉も焼けたようなので、コイツにマヨネーズを塗ってもう一度軽く焼いて・・・ ウサギ肉のマヨネーズ焼きだ。


「お肉ほぐせました」


「じゃあ、マヨネーズと混ぜて」


ウサギ肉のマヨ焼きサンド

ウサマヨサンド

ポテトサラダサンド


3種類のサンドイッチが完成だ。ミーシャ用のマヨ焼きサンドには隠し味にハチミツを入れておいた。残ったウサギ肉はバーベキューコンロで焼きながら食べよう。



ーゲイル達が調理している間のアーノルド達ー


なっ!ミーシャが火魔法を使った事に驚いたジョンは小屋に入っていくのを呆然と見ていた。


「父上、なんなんですかこれは?」


「何がだ?」


「メイドが火魔法を使って・・・」


「ミーシャは子供の頃に竈に火を点ける為に独学で覚えたらしいぞ。俺も初めて見た時は驚いた」


「独学で・・・? えっ?」


「それはそうとダン、お前はどうやってウサギを狩ったんだ?お前の体格だと剣のみでウサギは狩れないと思ったんだがな」


「やっぱり旦那様の意地悪だったんでヤスね?」


「はっはっはっ、そう言うな。ジョンは初めての狩りだぞ。いつもの狩りをされたら勝負にならん」


「そりゃそうでヤスが」


「それに2羽も狩るとは驚いてたんだ」


「いや、もう1羽はぼっちゃんが狩ったでヤス」


「ゲイルが?どうやって?」


俺があんなに苦労した狩りをゲイルも出来たのか?疑問に思うジョン。


「後でやって見せて貰ったらいいでヤスよ。あっしはぼっちゃんが考えた方法で狩りやした」


「ゲイルが考えた?」


ヘイと返事したダンはウサギを狩ったやり方を見せた。


「なるほどな。上に跳ねるウサギを狩る方法か・・・」


「父上、どういうことですか?」


「ダンはデカイだろ?立ったまま小さいウサギを切るには無理があるんだ。だからしゃがんで切るしかないのはわかるか?」


コクッと頷く


「アッシはこうやって水平に切るしか思い付きやせんでした」


しゃがんで水平切りを見せるダン。


「これで試してウサギが上に跳ねて逃げられやした。それを見ていたぼっちゃんが突いたらどうだと」


「突きの方が速いからな」


「突きでも跳ねて上に逃げられるかもしれないってことで上に逃げても切れる方法を考え出してくれたでヤス」


「上に跳ねたらそのまま切り上げればいいだけではないか」


ジョンがダンに向かって言う。


「ジョン、お前しゃがんで突きをしてから上に切り上げてみろ」


アーノルドが実際にやってみろと言うので、ジョンが剣を持ってしゃがみながら突いてみる。しかし、しゃがんだままスピードのある突きをすることすら難しい。そして切り上げようとしてもまったくスピードが乗らない。


「それであのすばしっこいウサギを切れると思うか?」


ウサギの逃げ脚の早さを体感してきたジョンは首を横に振った


「ダン、ゲイルが考えたやり方をジョンに教えてやってくれ」


そう言われたジョンは腕に木をくくりつけられてやり方を教えられた。


しゃがんで、剣を木に当てながら突きをして持ち手をクッと下げる


「あっ」


さっきはまったくスピードが乗らなかったのに、一連の動作がスムーズに出来た。突く時も木に剣を当てることでブレもせずにまっすぐ突ける。


「ゲイルは一度見ただけでこんなやり方を考え付いたと言うのですか?」


「テコの原理が何とかの言っておりやした。支点がどうのこうのとか。闘気で腕を纏ったら木はいらないけどズルしたとか言われるのが嫌だからとか」


「テコの原理?支点?その辺はさっぱりわからんな。しかし、闘気で腕をカバーするやり方はいいな」


「ヘイ、ぼっちゃんの言う事はわからない事が多いでヤスが上手く行くのは確かでヤス」


何がなんだかわからないまま混乱するジョン。



「お待たせ~」


ゲイルとミーシャが何やらパンを大量に運んできた。新しいパンだ。


「はい、これがマヨ焼きサンド、これがウサマヨサンド、これがポテサラサンドだよ。マヨ味ばっかりになっちゃったけど、みんなマヨ好きだからいいよね?」


コンロで塩焼きもするから勝手に焼いて食べてと言うゲイル。


ゲイルが何を言ってるかさっぱりわからない。それに勝手に焼いて食べる?メイドが焼いてくれるんじゃ無いのか?


「ぼっちゃん、どれが旨ぇんだ?」


またタメ口で・・・


「ダンはマヨ焼きサンドとか好きそうだよね」


「すっごくおひいでふ」


それにメイドが一緒に食べ始めた?なんなんだこれは?


「父上、ゲイルがいくら小さいと言え、使用人の口のきき方や態度というものが・・・」


キョトンとするミーシャ。ダンはポリポリと頭を掻いて俺を見る。


「ジョン、ミーシャとダンには普通に接してくれと俺から頼んだんだ」


えっ?と驚くジョン。


「ジョン、ゲイルはなミーシャやダンを家族と思って接してるんだ」


使用人が家族同様?


「コイツら見てて楽しそうとは思わないか?それに雰囲気が暖かい」


確かに自分とローラの雰囲気とはまるで違う。


「だって、ダンの敬語って変で気持ち悪いし、ご飯も一緒に食べた方が美味しいし」


「ジョンぼっちゃん、ゲイルぼっちゃんが変わってるだけで、領主様のご子息としてはジョンぼっちゃんの方が正しいでヤス」


戸惑うジョンにフォローを入れるダン。


「なんだダン、お前敬語使ってるつもりだったのか?てっきり方言かと思ってたぞ」


「旦那様、酷いでヤンス・・・」


「お前も俺も元冒険者だ。敬語は苦手だろ。俺にも普通に話してもいいぞ。気持ち悪かったのは俺も同感だからな」


「なっ、父上にまで・・・」


「もう冒険者じゃないが、俺達はパーティーメンバーみたいなもんだしな」


「アッシがアーノルド様のパーティーメンバー・・・」


パーティーメンバーと言われて感動にうち震えるダン。


「ジョンどうする?お前もパーティーメンバーに入るか?」


「えっ?俺もこのパーティーに?」


まだ状況を上手く飲み込めないジョン。


「早く食べないとウサギ肉も焦げるよ」


そうだそうだと食べ始めるアーノルドとダン。


ダンはまずおすすめのマヨ焼きサンドをほお張った。


「旨いっ!ぼっちゃんの飯はいつも旨いが今日はまた格別に旨いっ!」


めっちゃご機嫌のダン。よっぽどパーティーメンバーと言われたのが嬉しかったのだろう。


アーノルドはウサマヨサンドからいった。コンビニのまん中にしか具が入ってないようなペラペラなサンドイッチではなく、具が山盛りだ。


「これがウサギ肉か?パサついてるかと思ったがめっちゃ旨いぞ」


「これはね、ウサギ肉を塩入れた油で煮てマヨネーズでまぜたんだよ。鶏の胸肉とか魚で作っても美味しいと思うよ」


これは全部ゲイルが考えたのか?ベントの時の飯はブリックに作らせたと言っていたが、もしかしてあれもゲイルが?


「ほら、ジョンも食え。自分で狩った獲物は旨いぞ」


ジョンはゴブリンを切った後から食欲が無かった。今朝少しだけパンを噛るのが精一杯だったのだ。


自分で狩った獲物・・・

他の命を頂く・・・


その言葉が脳裏によぎる。


ジョンはアーノルドが食べたウサマヨサンドイッチに手を伸ばす。そして小さく噛んだその口にウサギの命が入って来たような気がした。


「旨い・・・」


ジョンは呟く。


「ジョンはこの前マヨネーズを気に入ってただろ?これなら食べられるんじゃないかと思って」


「これは俺の為に・・・」


なぜか涙が溢れてくる。泣いているつもりは無いのにただ涙がジョンの頬を伝っていた。それからはマヨ焼きサンド、ポテサラサンドを次々と口に入れ、ウサギの塩焼きも頬張った。


「ゲイル、どれも旨いよ」


そう言いながらどんどん食べた。


ジョンの食欲も戻って良かったな。後はゴブリンを戸惑いなく切れるようにならないとな。


ジョンを見ながら次の事を考えるゲイルなのであった。

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