第64話 策略
「ザックさん、買い物に来ました」
翌朝に残りのワインを買いにきた。
「ミーシャちゃんいつもありがとう。今日は何を買ってくれるのかな?」
「あの白ワインはあと何樽残ってるんだ?」
「あの白ワインですか? ダンさんが1樽買ってくれただけで全部残ってます・・・」
「やっぱり売れないんだな」
「はい、もう捨てるしかないかと」
「条件次第では全部買ってやってもいいけどどうする?」
「ぜ、全部ですか?そりゃ願ってもないことですけど、本当にいいんですか?」
「だから、条件次第だぞ」
「ど、どんな条件で・・・?」
「残り99樽を銀貨25枚と菜種油1樽付けてくれたら買ってもいい」
「そ、それでは・・・赤字が・・」
「じゃ、この話は無しだ。今日はハチミツ1壺だけでいい」
「ダン、次は肉屋で鶏を予約しに行くぞ」
「ちょっ、ちょっと待って下さい。ぎ、銀貨40枚と油1樽でどうでしょう?」
「だから条件次第って言ってじゃないか。条件が合わないんだから今日はハチミツだけでいいよ。頑張って白ワイン売ってくれ。ダン行くぞ」
「わ、分かりました。銀貨25枚でいいです。油も付けますから。お願いします買って下さい」
「ん?赤字になるから無理なんじゃ無かったのか?」
「いや、赤字でも買って頂いた方がマシなんです」
「無理しなくていいぞ。ミーシャが心配してたから、少しでも手助けしてやろうかと思っただけだから。じゃな」
「ま、待って、待って下さい。お、お願いしますぅ、買って下さい。そのハチミツも付けますからぁ。お願いしますぅ」
「ったく、初めからそう言えばいいのに。白ワインと油は屋敷に運んで置いてくれ」
「はひ・・・・」
「あと、これ売ったやつ教えてくれ。話聞くから」
ザックによると白ワインは作ってるところが直接売りにきたらしい。まだ西の宿に泊まってるみたいなので会いに行ってみることに
「ぼっちゃんえげつねぇな」
「ん?ザックも丸損するよりいいだろ?始めから素直に感謝すればもう少し色付けても良かったんだがな、中途半端に色気だしやがったからお灸だよお灸」
「ザックさん少し可愛そうでしたね」
「ミーシャがそう思うならさっきの話は無しにしようか?ハチミツはミーシャ用にあげようと思ってたんだがそれも返そう」
「いえ、ザックさんが悪いんです。お灸ですね、お灸」
ハチミツを取り上げられそうになってサッとこちらに寝返った。
ワインを売りにきた男はシドというらしく、宿屋の受付にシドを呼んでもらう。
「自分がシドってもんですが、どちら様でしょうか?」
「こちらはこの領地のご子息でゲイル・ディノスレイヤ様だ。お前が売ったワインの事で聞きたい事があって訪ねて来たんだ」
「りょ、領主様のご子息様っ!?」
土下座しそうな勢いのシド。
「そんなに畏まらなくていいぞ」
「こ、こんな小さな子がしゃべった・・・」
「それも気にすんな。それよりあのワイン・・・」
「す、すいません。騙すつもりは無かったんですっ。お許しを・・・」
シドはとうとう土下座した。
「騙す?なんかしたのか?」
「へ?美味しくないとのお叱りでは・・・」
顔を上げてキョトンとするシド。
話を聞くと、ここから馬車で3日程のところでブドウの栽培からワインの醸造まで自分達だけでしていて、元々は村だけで消費していたのをブドウ畑を拡張して売りに出して村にお金を入れるつもりだったらしい。その土地では当たり前の味が、ここではえらく不評でどうしようかと悩んでいたとのこと。
「なるほどね。それで騙したと怒られると思ったわけだ」
「そうです」
「で、外に売り出す予定だったワインはどれくらいあるんだ?」
「全部で500樽ほどです。頑張ってあちこちに100樽ほど売り、こちらの商店で100樽まとめ買いして頂きました。残りは300樽ほど村に残っております」
「商店に100樽銀貨50枚で売ったそうだが、本当はいくらで売るつもりだったんだ?」
「金貨1枚で売るつもりでした」
「分かった。残り全部買ってやる。来月になったら屋敷に持って来てくれ」
「え、全部買って下さるんですか?」
「もう畑も拡張してしまったんだろ?借金して畑作ったんじゃないのか?」
「はい、村は大したものも作れず、このままだとどうにもならないので、ワインに賭けました」
「借金はどれくらい残ってるんだ?」
「金貨2枚ほどです・・・」
ど田舎は基本自給自足だが、土地によっては作物が思ったように育たない。一回不作になっただけで干上がるところもある。村が無くなるか存続するかの一か八かに賭けたんだろう。負けたら全員死んでしまうかもしれない綱渡の賭けだ。ワインも売れず、帰るに帰れずこの安宿に泊まってたのか
「よし、残りの300樽を金貨3枚で買ってやる。毎年同じ量を作れるか?」
「え、希望の値段で全部買って下さるんですか?」
「そうしないと村の人達はどうなるんだ?奴隷商とかに売られるんじゃないのか?」
奴隷制度はこの領地では禁止だが、他にはあるかもしれない。
黙るシド。どうやら図星らしい。もしかしたら借金自体仕組まれたものかもしれない。
「お前、奴隷商から金借りたんじゃなかろうな?」
「その通りで・・・」
こりゃ嵌められたくさいな。
「村には女が多いのか?」
「うちの村の事をご存知で?」
あぁ、確定だ。この村の女目当てで奴隷商に嵌められたんだな。
「いや、事情が分かった。約束通りワインは買う。来月に持って来てくれた時に支払いするから、その奴隷商を連れて来い。支払いを直接借金返済に充てる」
「分かりました。ありがとうございます。ありがとうございます」
シドは泣きながら土下座してありがとうを言い続けた。
「ぼっちゃん、同情であんなにワイン仕入れて大丈夫なのか?」
「ザックさんのところはすごく安くするように言ったのに、シドさんには安くするように言わなかったのはなぜなんですか?」
二人同時に聞いてくる。
まずはダンに答える。
「まずワインの量だが、おやっさんに蒸留酒の話したらどうなると思う?それにこれから冬に向かって大工仕事も冒険者の活動も減るだろ?」
「あぁ、仕事が減るな。今は人を雇ってるから仕事がないとな」
「そういうこと。冬の仕事をやってもらうと思えばちょうどいい。300樽蒸留するのに2~3カ月掛かるだろ」
「作るのは良いが、すぐに金入ってこないだろ?」
「この前飲んだ炭酸入れた酒どうだった?」
「旨かったぞ」
「あれ蒸留したての酒1リットルでグラス100杯くらい作れるんだ。濃い目に作っても50杯は作れる。1リットル銀貨3枚だったら買うか?」
「100杯も作れるのか?だったら銀貨3枚でも充分安いな」
「元のワインが1樽で銀貨1枚。蒸留したら銀貨9枚になる。ワイン300樽で金貨27枚だ」
「そんなになるのか・・・」
「おやっさんのところだと、この冬に売上無くても耐えられるだろ?そのあとはウハウハだ。売るよりおやっさんが飲む分の方が多いかもしれんがな」
「それはあり得るな」
カッカッカとダンが笑う。
「安くしろと言わなかったのは元々安いのもあるけど、物自体が良いんだよ。ちゃんと作られた物には正当な値段を払わないと作り手がいなくなっちゃうからね」
「あのワインがか?」
「ダン、あのワインの匂いどうだった?」
「そういえば良い匂いしてたな」
「そう、蒸留しても良い匂いが残ってたんだよ。資金確保に蒸留してすぐ売る分と数年寝かしてから飲むのに分けた方がいいと思うんだ。寝かした奴は王様に献上するくらいの代物になるんじゃないかと思ってる」
「それは本当か?」
「実際には数年経たないとわかんないけど、可能性は高いと思うよ。ザックから買った分はほとんど寝かすつもりだ。どこにもない極上の酒が樽で10個もあったらどうなるだろうね?」
「どこにもないもの・・・」
「金では買えない物があると強いと思わないか?」
・・・
考えこんでしまったダン
「そういうことであの値段で全部仕入れても勝算があるんだよ。万が一売れなかったら蒸留酒をドワーフの国に売りにいけばいいんじゃないかな?」
「ぼっちゃまは色々と考えるんですねぇ」
ほーっと感心するミーシャ。
「あと、奴隷商とかなんとかってなんだったんですか?」
「多分だけど、あの村は奴隷商に嵌められたんだよ。純朴な村人達をそそのかして借金漬けにしたんだ」
「なんの為にですか?何も無いところだと言ってましたよ?」
「村に若い女の子が多いんだろ。借金返せなくて奴隷落ちさせて娼館とかに売るつもりなんだと思う」
「そんな・・・酷い」
「契約で金貸して返せない時は奴隷落ちするのは違法じゃないからな。難しいところなんだよ」
「ダン、悪いんだけどシドの村の事を調べておいてくれない?どこの領地かわかんないし、貴族が絡んでる可能性がある。最悪、領主か貴族がお目当ての女を手に入れる為に仕組んだとすれば父さんを巻き込むかもしれない」
それを聞いて怖い顔をするダン。
「分かった。念の為にアーノルド様に確認を取った上で調べるよ」
ダンにシドの村の事をお願いしてからおやっさんところに向かったのだった。
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