第63話 不正
騎士学校の模擬戦がすべて終了し、そのまま合否発表がその場で行われる。遠方から受験しにきている受験生も多い為だ。通信設備がないこの世界で発表が後日になると何日も王都で待つはめになる。
「エイブリック、発表ってこんなに時間が掛かるのか?」
観客席で待ちくたびれるアーノルド
「どうだろうな。今年は受験生が多かったから時間が掛かってるのかもしれんな」
まだかと思っていると試験官が中央に出て来た。
「模擬戦において不正があったとの申し出があり、審議の結果、再試合を行う」
イマの発表に受験生も観客席もザワザワしだす。
不正?
「ドズル・ブランクス、ジョン・ディノスレイヤ両名前へ」
「おい、エイブリック何があった?不正がなんとかでジョンが呼ばれたぞ」
「ちっ、あいつやりやがったな」
「どういうことだ?」
「恐らくジョンが不正したとかドズルが訴えたんだろう」
「闘気を使ったのはドズルの方だろ。ジョンは何もしていない」
「お前、見ただけで闘気を使ってるかどうか分かる人間がどれだけ居ると思ってるんだ。それに闘気自体は禁止されてない。というか受験生で闘気を使えるやつなんて普通いないからな。想定すらされていないのが実情だ」
「なら、何が不正だと言うんだ」
「単にドズルが負けた事を受け入れられなくてイチャモン付けたんだろ」
「審判が見てたじゃないか!」
「あの審判は軍部の人間だ」
そうか、そういうことか・・・
ダッセルの差し金か、審判がドズルの抗議を忖度したのか分からんが卑怯な手を使って来やがる。そのままにしておいても二人とも合格だったろうに。
試験官が言葉を続ける。
「尚、両者の申し出により、真剣での試合を行うものとする」
これを聞いてジョンがピクッと眉を動かした。
「試合は鐘半分後に行う。その間この2名以外の発表を行うので、名前を呼ばれたものは不合格とし、闘技場から出ていくように」
ジョンがアーノルドの元へ来た。
「お前、真剣勝負なんてなぜ受けたっ?真剣も鎧も準備してないぞ」
「自分は知りませんでした」
「何っ?」
「再試合も真剣のことも先ほどの発表で知りました」
なんてことだ。軍部かドズルかわからんが腐ってやがる。次何してくるかわからん。
「ジョン、今年の試験は諦めろ。領地の中等教育でも、また来年騎士学校受けるでもいいから」
「大丈夫ですよ父上」
「何言ってんだお前、下手したら死ぬんだぞ」
「当たらなければどうということはありません」
「しかし・・・」
「それに、ここで止めたら不正扱いされたままになりますからね」
「軍の剣より父上の剣の方が上だと証明してきますよ」と言い残したジョンは闘技場へ戻って行った。
「お前の息子は肝っ玉が座ってるな。何をしたらあんな風に育つんだ?」
「ジョンは勝手にああなったよ。俺が教育したわけじゃねぇ。俺が教えたのは剣だけだ」
「どんな強い魔物でも平然と向かっていくお前の血だな。憎たらしいくらいだ」
そう言ってエイブリックはニヤッと笑った。
「それでは再試合を行う。お互いに正々堂々と闘うように」
「おい、聞こえたか正々堂々と闘えだとよ。お前に言ってるんだぞ」
完全防備の鎧と真剣を構えるドズル。
「重そうな鎧だな。グズの貴様にはお似合いだ」
模擬戦と同じ簡易鎧と木剣のジョン。
「く、貴様・・・」
「始めっ!」
開始の合図よりフライング気味に闘気を纏った剣を振り回してくるドズル。それをひらりひらりとかわすジョン。ここまでは模擬戦と同じ展開だ。
すでにドズルの動きを見切っているジョンがドズルに剣を打ち込む。しかし審判は試合を止めることはない
「ジョンの攻撃が何度も入ってるのになぜ審判は試合を終わらせないんだ?」
「言っただろ、審判は軍部の人間だと」
くそっ!床を蹴飛ばすアーノルド。
「くっくっく、お前の攻撃など痛くも痒くもないぞ。それに比べて貴様は一度でも攻撃を食らえば終わりだ」
「鈍感なのは剣だけじゃ無かったんだな。そんなハエが止まるような剣が当たると思っているのか?おめでたい奴だ」
「貴様っ!」
挑発したつもりがジョンに言い返され激怒するドズル
「俺の本気を見せてやる!」
さらに闘気の量を上げるドズル。剣のスピードと重さが跳ね上がる
「ほらほら、当たらないんじゃなかったのか?」
木剣で闘気を纏った真剣を受けるのには無理がある。すべて受け流して耐えるジョン。
「食らえっ!」
チャンスと見たドズルが上段に剣を上げた。
その瞬間ジョンの剣がドズルの顎を横切りで打ち抜く。
ガハッ
激しく脳を揺らされたドズルは膝を突いた。
「おのれ、おのれ、おのれぇ~」
ガクガク震える膝を叩き立ち上がろうとするドズル。
「この卑怯ものがぁ~っ」
そう叫び更に闘気を出し始めた瞬間・・・
うっ
ゲロゲロゲロ~
盛大に吐いて仮面の下を汚物だらけにして気を失った。
「まだ続けたほうがいいですか?」
審判に問うジョン。キョロキョロして答えない審判。
「勝負有りだ。勝者ジョン・ディノスレイヤ。審判、これでいいな」
赤金の髪色をした男がジョンの手を上げ宣言した。
「エ、エイブリック様・・・」
「審判、お前の処罰は追って言い渡す」
「は、ははっ」
「救護兵はこの愚か者を医務室に運べ」
数名の救護兵が汚物まみれのドズルを触りたく無さそうに運んでいく。
「ジョン、お前は文句無しに合格だ」
「あなた様は・・・?」
「覚えてないか?昔会った時はまだ小さかったから無理もないか。アーノルドと同じパーティーだったエイブリックだ」
「し、失礼しましたエイブリック様。この度はありがとうございました」
「お前の実力だ。それよりドズルが迷惑かけてすまなかったな。きっちりお灸を据えておくから」
そう言い残しエイブリックは闘技場を去って行った。
「よくやった!」
ジョンを抱き締めるアーノルド。
「父さんの剣の方が上だと証明出来ましたよ」
アーノルドは息子にそう言われ、照れ隠しにジョンの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
その後、入学手続きを終え、領地に帰るアーノルドとジョン。
「父上、ドズルはなぜ吐いて気を失ったのでしょうか?剣で打ち抜いたせいではないと思ったんですが」
「あれは魔力切れだ。闘気を出しすぎたんだ」
「魔力切れ?」
「お前には言ってなかったが、闘気は魔法の一種らしい。俺も最近知ったんだがな。闘気を使いすぎて吐きそうになったらマジックポーションを飲めばすぐに治る」
「前にゲイルが吐いてたのは闘気を使ったからですか?」
「見よう見まねで試したらしい。これはベントに言うなよ」
「そうか、ゲイルが・・・。父上、ゲイルが大きくなって剣を交えるのが楽しみになりました」
「ゲイルならお前の相手が出来るようになるかもしれんな。そのうち抜かれんように騎士学校でもしっかり励め」
ハッハッハと笑いあったあと、ジョンは眠りについた。平気そうに見えていてもかなり疲労したのだろう。
ジョンが眠った馬車の中で、ポロっとゲイルの事をしゃべってしまったこと、エイブリックに借りが増えた事に参ったなと頭を掻くアーノルドだった。
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