第62話 まだ飲めない

蒸発の説明からか・・・


「水は固体、液体、気体という状態があってね」


????


やって見せるほうがいいか。


魔法で氷を作る。


「これが固体、水が固まったものが氷だね。氷が溶けたら液体になって水になる」


ここまではわかってくれたようだ。


水蒸気は目に見えないから分かりにくいのかもしれないな。鍋に水を入れて火にかけて説明するか。


「水がお湯になってボコボコしだしたろ?水が気体になって出て来てるんだよ」


皿を鍋の上にかざして。


「だんだん皿に水滴が付いてきただろ。この鍋が温めてられて空気みたいに目に見えなくなったのが気体、水蒸気と呼ばれるものだ。目に見えなくても皿に当たったら冷えて水になっただろ」


ぼんやりと理解したようなして無いような二人だが続けよう。


「さて、問題です。水は100度まで温めると気体になる。アルコールは80度くらい迄温めると気体になる。ワインを80度まで温めたらどうなりますか?」


「はいっ!温かくなるっ!」


・・・ミーシャ。正解だ。正解だが斜め上の正解だ。


「アルコールだけが空気になるのか?」


良くやったダン。


「そうだよ、アルコールだけが先に空気になるから、濃くすることが出来るんだ」


百聞は一見に如かずって奴だ。取りあえずやってみせよう。


「ダン、このワイン味見しておいて」


一口飲むダン。


「飲めなくは無いが旨くはないな。酒は酒なんだが酸っぱいブドウジュースみたいだ」


ザックの言う通りの味のようだ。通常のワインはアルコール度数が12%程度だから、半分くらいの6~7%ってとこだろうか?30リットルのワインから3リットルを取り出せたらアルコール度数60~70%の蒸留酒が出来るかもしれない。


土魔法で作ったフラスコに穴を開けてダンにワインを入れて貰ったら、フラスコの下にあるボウルに水入れて薪に火を点けてと。


水が沸騰してもフラスコは沸騰するまではいかないだろう。温度計が無いから勘でやるしかない。蒸留されたものを見ながら火力調整だな。


ボウルに水を少しずつ足しながらフラスコから出ている管を見る。微かにシューっと音が出ているけど、水分に戻ってないな。管が短いのかもしれないので管を長くして折り曲げる。


ポチョ ポチョっと水分が出て来た。その水分をコップで受けてダンに味見させる。


冷ましたあと。


「ダン、これ味見してみて」


コップに半分程の蒸留酒と思われる物を味見させる。


「舐めるくらいで・・・」


いきなりぐいっと飲むダン。


ガハッ グホッグホッ ゲホッ


一気にいきやがった。


「なんだこいつは?喉が焼けるようだ」


ガハッガハッ


どうやら蒸留出来ているようだな。と、何回言っても考え無しに行動するダンをほっておいて管の先に中樽をセットする


ゴホッゴホッ


「ぼっちゃん、なんだこれは教えてくれっ!毒かっ?」


ガハッ


「人の話を聞かずに一気にいくからだろ。安心しろ蒸留出来てるみたいだからすっごく強い酒だよ」


「これが酒?喉が焼けるみたいになるぞ」


おれも初めてウィスキーを飲んだ時、喉が焼けるかと思った。それよりもっとアルコール度数が高いのだからそうなるわな。


「このまま飲むもんじゃないからな。樽に入れて何年も置いておくんだよ。そうすると旨くなる」


・・・はず


まぁ、信じられんだろうから、少しコップに取り出して、この前のアルミジョッキに炭酸水と氷、レモンの絞ったやつとハチミツ少々入れてやる。


「これ飲んでみて」


今度は恐る恐る舐めるような仕草をする。


「これは普通に飲め。炭酸水で薄めてあるから大丈夫だ」


そう言われてダンは飲んだ。


「ぼっちゃん、これは旨いぞ。エールみたいな苦さが無い分爽やかだ」


この飲み方を気に入ったダン。ミーシャもじっと見てるがお前には飲まさん。


その代わりアルコール抜きのなんちゃってレモンスカッシュを渡しておいた。


「このワインで蒸留酒を作れる事がわかったな。残りの樽も全部買うか?あれだけの量を蒸留するのは手間だけど」


「ぼっちゃん、買い占めようぜ。これ売ったら儲かるぜ」


「いや、売るとなると自分でやるには手間がかかり過ぎるし、これからも同じワインが仕入れられるとは限らないしね。仕入れ出来たとしても売ったら中毒になるやつが出てくるかもしれないから売るつもりはないよ」


「中毒?」


「そう、アルコールは飲み過ぎると中毒症を起こすんだよ。飲まないと手が震えたりしてずっと飲み続けないといけなくなって、そのうち死ぬ」


「それってエールやワインでもなるのか?」


「アルコールはアルコールだからね。飲み過ぎるとなるよ」


「じゃあ、問題ないじゃねーか。飲み過ぎる奴が悪い。コイツを売らなくても起きる問題だろ?」


「アルコールがきついと中毒症になるの早いんだよ。さっきコップで飲んだ分だけでエール10杯以上飲んだのと同じだからね」


「じゃあ、めっちゃ高くして、おいそれと飲めないようにすりゃ、ちびちび飲むだろ」


んー、なんか言い負けた気がするな。


販売するとなるとドワンに蒸留施設作ってもらわないとダメだけど蒸留酒教えたらえらいことになりそうな予感がするんだよな。でもそのうちバレるかもしれないし。バレたらもっとヤバい気がする。


「ダン、勝手に酒作って売ったら犯罪になったりしないか?」


そんな決まりはねぇと言うダン。


まだ発展途上のこの世界は決められたルールが少ないんだな。


「分かった。販売するかはまた考えるから、取りあえず残ってる樽は全部買おう。あとはザックに仕入れ先を教えてもらって、同じワインが作れるか確認しよう」


「ザックさん大喜びですね」


「まぁ、勝手に仕入れて失敗したことを反省したほうがいいから買い叩くけどね。全部捨てるよりマシだろ」


「ぼっちゃん、全部買うのは良いとして、運ぶのと保管する場所どうする?」


その問題があったか。保管は土魔法で地下室を作れば済むけど運搬が問題だ。他の人間をここに連れてくるのはまずいな。


「一旦、屋敷に運搬してもらって、毎日蒸留する分だけ自分達で運ぼうか?荷車買えばなんとかなるかな?」


「馬車もここまで入れんから、そうするしかねーなぁ。で、保管場所は?」


「土魔法で地下室作るよ。どうせ蒸留した酒を何年か寝かす必要があるから、温度差が出にくい地下室が必要だしね」


「じゃ、決まりだな」


そう言ってる間に中樽がいっぱいになっていた。管からもあまり液体が垂れてきてないので計算通りに蒸留できたみたいだ。


火を消して、フラスコに穴開けて中身を捨てて洗浄魔法を掛けておいた。


明日は父さん達が帰ってくるし、ジョンの合格祝いもしないとな。


ゲイルはジョンが落ちるとは全く考えてない自分に気付いていないのであった。



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