第61話 仕入ミスの尻拭い

米を屋敷に持ち帰り、食べたい気持ちをぐっと押さえ、麻袋に入れて保管しておく。


コックのブリックは休日なので晩飯どうしようかな?ブリックは作りますと言っていたが遠慮しておいた。


「ミーシャ、なんかご飯作ってくれる?昼飯抜いたからお腹空いたよね」


「大したもの作れませんよ」


「簡単なものでいいから、厨房に行って何があるかみてから考えよう」


ミーシャと二人で厨房に向かう。


残ってるのは硬くなったパン、肉類と野菜は結構あるな。後は持って帰って来たベーコンの塊1つ。3キロのあばら肉でベーコン作ったのに残ったのは塊1つだけ。およそ100グラムってとこだ。どれだけ食ったんだよって話だな。


晩飯にはふさわしくないけどフレンチトーストでいいか。


「ミーシャ、卵2個割って牛乳入れて混ぜて」


しゃかしゃかと混ぜる。


パンがこれだけ乾燥してると卵液吸わなさそうだな。半分に切っておこう。ギザギザのナイフでパンを半分にしておく。


「混ざりましたよ」


「このパンを入れて上から重しをして浮いて来ないようにして」


パンが卵液を吸うのを待ってる間にオーブンを温めておく。


「次はこのベーコンを薄切りにして」


よっ、はっとか言いながらベーコンを切るミーシャ。めっちゃ厚切りだな。まぁ、いいか。


卵液を吸ったパンをオーブンで焼きながらベーコンをフライパンでじっくりと炒めていく。ほど良く油が出たら、その油で目玉焼きを作った。


ここまでミーシャの危なっかしい手つきにドキドキしたけど全て完成だ。


「ミーシャ、パンにハチミツかける?」


「かけますっ!」


フレンチトーストならぬフレンチロールパンにハチミツをかけるミーシャ。俺はパスだ。


「じゃあ、頂きまー・・・」


「あら、母さん達のは無いのかしら?」


アイナが厨房に入ってきた。どうやらベントと一緒に帰って来たらしい。晩飯も外で食ってきたら良かったのに。


あーんと口開けたままフリーズしたミーシャ。


「あ、あのこれまだ食べてませんので良かったら・・・」


めっちゃ辛そうに言う。


「ミーシャ、そのまま食べていいよ。たまにはベントのご飯を母さんが作ってあげた方がいいから」


「あら、残念ね」


「これ食べ終わったら作り方教えるから待ってて」


そう言って俺も食べ始めた。


ミーシャのおいひいでふはまだご飯を食べてないアイナの前なので自重したようだ。


ブリックがミーシャに教え、ミーシャがアイナに教えたという事にして同じものをアイナが二人分作った。


これでベーコンはすっからかんだ。また作って置いた方がいいな。ついでにハムも作ろう


食堂から「母さんって料理上手だったんだねぇ」「あら?知らなかったの うふふ」とか聞こえてきた。何がうふふだと思いながら部屋に向かう。


「ミーシャ、お疲れ様でした」


「さっき食べたパン、すっごく美味しかったです」


頬に両手を当ててフレンチロールパンを思い出しているようだ。まさか反芻してないだろうな?


「あれなら簡単に出来るだろ。ブリックに作ってもらえばいいよ」


「でもハチミツが・・・」


「ミーシャ用に買っておいて貰うよ。好きに食べたらいい」


太っても知らんけどな。


めっちゃ喜ぶミーシャ。その内ハチミツの新しい食べ方とか発見してくれるかもしれん。


「じゃ、もう風呂入って寝るから下がっていいよ」


「ふふふっ。じゃあ、今日も一緒に入りますか?」


なんだよ覚えてるじゃないか。こっちが恥ずかしいっての。


「一人で入るから大丈夫」


ちょっと残念そうな顔をしたミーシャを帰した。


その後、風呂から出てベッドに入って考える。


・ドワンに作って貰うもの

ハンドミキサー

食パンの型

卵焼き用のフライパンも欲しいな。フライ返しもいるし、バネ計りって作れるかな?ネジとかリールはどうなってるかな?あと開墾する場所も探さないとな。そうだ片栗粉の量産を商会で出来ないかな?あとドライイーストの開発とか・・・ 片栗粉は量産出来たとしても需要がないとなぁ。いっそ実演販売してみるのも良いかもしれん・・・


そんな事を考えながら寝たら会社員時代の夢を見た。どんどん新しい仕事を押し付けられて悪戦苦闘をしている昔のことだ。


「くそっ、好き勝手に無茶苦茶言いやがって」


そう叫んでいる自分がいたのは朝には忘れていた。



翌朝、朝食を食べたあと街に買い物に出掛けた。ベーコン用のあばら肉とハム用のロースを買うためだ。共に5キロ購入する。


「ザックさん、何かあったんですか?」


店員のザックが浮かない顔をしていたのでミーシャが尋ねた。


安かった白ワインを大量に仕入れたが酸味が強くアルコール度数も低めで売れ残るのが確実らしい。


「あぁ、ミーシャちゃん心配かけてごめん。このままだと大赤字になりそうでね」


「どれくらい仕入れたんですか?」


「大樽で100樽ほど・・・」


100樽?


この世界の大樽は約30リットル入りだ。合計3000リットルか。


「またたくさん仕入れましたね」


「100樽まとめて仕入れたら銀貨50枚にするって言ったから。多少売れ残っても利益が出る予定だったんだよ」


通常のワインは1樽銀貨2枚程度。約2万円だ。それが銅板5枚。5千円程度かそりゃ安いな。しかし、売れないのを承知で叩き売りしたのに引っ掛かったんだな。しかも商会長の父親に内緒で仕入れたらしい。


まあ、勝算がわからない勝負に出た方が悪い。銀貨50枚丸損になったとしてもこの店が潰れることはないだろう。勉強代だと思え。商売は甘くはないのだ。


御愁傷様と言って店を後にした。



肉を屋敷において、ブリックに塩漬けにしておくようにお願いしてからドワンの店に向かう。昨日まとめたものを作ってもらうのだ。


「おやっさんいる?」


ガチムチ親父が中から出て来る。


「坊主か、旨い酒と飯を食わせてもらったな。ありがとうよ」


まずお礼を言ってくれるドワン。


「じゃがな、あのエールはどう落とし前つけるつもりじゃ?」


落とし前って・・・


「今のところ量産出来ないから、おやっさんの所に来た時でも作るよ」


「毎日来い」


間髪いれずに命令してくるドワン。しかし、それは無理だ。


「じゃあ、新しい道具が完成する度に作るよ」


「新しい道具じゃと?」


ドワンに昨日作って貰うリストを全部伝えた。卵焼き用のフライパン、食パンの型、フライ返しはすぐに出来るだろう。ハンドミキサーも大丈夫なはずだ。バネ計りは仕組みそのものは簡単なので工夫してもらおう。リールは後回しでもいい。自分用のがあればいいから自作でなんとかなる。


問題は片栗粉の量産と開墾だな。


「おやっさん、鶏の唐揚げ旨かった?あと新しいパン」


「無茶苦茶旨かったぞ。あれはワシのとこでも作れるのか?」


「材料があればそんなに難しくないんだけど、材料売ってないから自分で作るしかないんだよね」


「じゃ、作り方教えろ」


「いいけど面倒臭いよ。いっその事大量生産出来たら楽チンなんだけどね」


「何っ?聞かせてみろ」


・・・ちょろい


こうして片栗粉とドライイーストの開発の話をした。


「そういうことか。ドライイーストやらの開発は時間が必要かもしれんが、片栗粉とやらは人を雇えば済む話じゃな。問題は使った事が無い代物が売れるかどうかじゃ。人を雇って売れませんでしたじゃ困るじゃろ」


「それは実演販売してみたら売れるんじゃないかと思ってる」


「実演販売?」


「そう、屋台で唐揚げ作る所から見せて実際に食べたら、家にも欲しくなるんじゃないかな? 他の調理用具も同じようにして使い方見せたら売れると思う」


「なる程な。よし、少し作ってみて様子を見てから人を雇うか決める」


「そうだね、大量生産も急ぐ事じゃないし、それからでもいいよ」


「一週間後に街で屋台を出すぞ。屋台の準備しとくから食材の手配しとけ」


相変わらず気が早ぇな。


「ダン、ブリック手伝えるかな?」


「アーノルド様に言えばなんとかなるだろ。鶏は狩るのか?」


「いっぺんにたくさん狩ったらいなくなっちゃうかもしれないし、鶏も買った方がいいと思う」


「そうだな。大量に狩るのは面倒だしな」


田んぼの開墾も宜しくと言って商会を出た。


「ったく、好き放題無茶苦茶言いやがって」というドワンの愚痴は聞こえなかったことにした



「ミーシャどうした?」


小屋についたミーシャが考えごとをしている。


「いえ、ザックさん大変そうだなって思って」


あぁ、白ワインの仕入れミスのことか。


「商売人はみんな通る道だと思うぞ。失敗して学んでいくんだ。そもそも父親に内緒にして勝手に仕入れたのが悪い」


「そうなんでしょうけど・・・」


「ザックも早く父親に認められたかったのかもしんねーな。息子は父親が目標だからな」


そういうもんか。サラリーマン家庭だったからピンと来ないがジョンやベントもそんな感じだな。


「安いから少し買ってもいいが使い道ないしな。ダン飲むか?」


首を横に振るダン。


アルコールも普通のより弱いって言ってたからドワンも飲まないだろうし。せめてアルコールが強ければ何とかな・・・る?


・・・

・・・・

・・・・・

確かブランデーって白ワインと同じ原料だったよな?蒸留出来たらブランデーみたいになるんじゃないか?


「ダン、一樽買ってみるわ。ちょっと試したいことがある」


「料理にでも使えるのか?」


「使えないこともないけど、あんなに大量には必要ないからね。蒸留してみるよ」


「蒸留?」


「ワインからアルコールを取り出してアルコールの強いワインを作るっていうのかな?まぁ、酒を強くすると思ってくれ」


「どうやってやるんだ?」


「口で説明するの難しいから、ワイン買って、やりながら話すよ」



ダンに白ワイン1樽と3リットル入る空の中樽を買ってきてもらう。その間に蒸留器を作ろう。


土魔法で蒸留器をセットする土台を作って、フラスコみたいな物を作ってセットする。直接火にかけると底だけワインが焦げるかもしれないから、ボウルを作って水張って湯煎みたいにするか。


ウンウン唸って土台とフラスコ、ボウルを作っていく。フラスコの上部を伸ばして管にして・・・


こんなもんか。どうせお試しだしな、気軽にやろ。


出来上がって休憩しているとダンが肩に酒樽を担ぎ、片手に中樽を持って帰ってきた。荷車借りずに自力で持ってきたのか。熊恐るべし。それとカバンには串肉が入っていた。相変わらず良く気の付く熊だ。


串肉を食べながら、買い物のことを話してくれた。たとえ1樽でも買ってくれた事にすごく感謝されたらしく、原価で売ってもらったとのこと。商売人なら感謝しつつ利益乗せないとダメだぞザック。


「ぼっちゃん。なんか、すげぇもん出来てるな?これを使うのか?」


「そうだよ、アルコールと水分は蒸発する温度が違うんだよ。その温度差を使ってアルコールを濃くしていくんだ」


「蒸発?」


そこから説明しないとダメか・・・


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