第59話 ジョンの成長

ー試験二日目ー


今日もエイブリックが来ていた。


「どうやら昨日勝ったもの同士に組み合わせてあるみたいだな」


とアーノルドに話しかける。


「ある程度実力を合わせるつもりなんだろ。実力差が大きいとすぐに終わって内容が見れんからな。で、エイブリックの息子はどこだ?」


「あそこの赤い髪の毛のやつだ」


「ほう、遠目で見てもお前と似てるのがわかるな」


「3番目はもっと似るかもな」


「なっ!お前にも3人目の子供がいるのか?いつの間に?」


「もうすぐ3歳だ。まだお披露目してないから内緒だ」


「あぁ、そうか。そうだな」



ー試験開始ー


「始めっ!」


ジョンは危なげなく戦いだした。初戦と違って正統派の剣を使う相手だが問題無さそうだ。エイブリックの息子も問題なさげだな。しかし、自信満々の剣の振り方もこいつそっくりだな


「おっ、豪快な剣の振り方してるやつがいるな。力業だけに見えるがなかなかに素早いぞ」


アーノルドが一人の受験者を見て言う。


「あいつはダッセルの息子だ」


「ダッセル?軍の総帥のか?」


「そうだ」


「と、言うことは・・・」


「ああ、甥だ」


エイブリックの姉の夫がダッセルだ。ダッセル・ブランクス。侯爵家当主でもあり、王都軍部の総帥でもある。


アーノルドは好戦的なダッセルの事をあまり好きでは無かった。ゲイルが軍部に連れていかれるのを心配していたのはこいつが居たからでもある。


「そうか、ジョンと同じ歳の息子が居たのか」


「このままだと同級生だな」


「ああ。厄介だな・・・」


吐き捨てるように呟くアーノルドであった。



午前の試合は問題なく勝ち、午後の部が始まる。ジョンの出番は最後の方になるようだ。


「そういやお前の息子・・・、名前はなんていうんだ?」


「アルファランメルだ」


長ったらしい名前だなと思ったアーノルドは全部言うのが面倒になる。


「アルの出番はいつだ?」


「ここだから構わんが、人前で略して呼ぶなよ」


「それぐらいわきまえてるさ」


「アルも最後の方のようだな。ジョンと当たるかもな」


「かも知れんな。ま、どちらが勝っても合格は間違いないだろう」


「なんだ、もう勝ちを諦めてるのか?」


「だっ、誰が諦めてるかっ!ジョンは強えんだ」


「やってみりゃわかるさ」


自信たっぷりのエイブリック。


コイツのこういう所が昔から嫌いだったんだよなと冒険者時代を思い出していた。


「ん、ダッセルの息子も最後の方のようだな」


「みたいだな」


アーノルドはなんだが嫌な予感がする。



ジョン達の集団が呼ばれた。


嫌な予感は当たるものである。ジョンの相手はダッセルの息子だ。



ー模擬戦の現場ー


「お前が英雄アーノルドの息子か?どんな奴かと思ってたが大したことなさそうだな」


ダッセルの息子、ドズルがジョンに語りかける。


「どんな風に見えるか知らんが、確かに父はアーノルドだがそれがなんだ?サインでも欲しかったのか?」


ジョンが切り返す。


「なにをっ?たかが元冒険者のサインなぞ欲しがるもんか。俺の父親は侯爵で軍の総帥だぞ」


「お前の父親がなんであれお前の実力に関係なかろう。それともお前の代わりに父親が出てくるのか?」


「こ、コイツ・・・」


「始めっ!」



「食らえっ!」


開始の合図と同時にドズルの大振りの剣がジョンを襲う。


それをスッとかわすジョン


「そんな見え見えの剣が当たると思ってるのか?少しは歯応えがあるのかと思ってたら、立派なのは家柄だけだったか」


冷静そうに見えたジョンだがアーノルドをたかが呼ばわりされ怒っていた。



ー観客席ー


「あいつら模擬戦中になんかくっちゃべってやがる」


アーノルドがぼやく。


「ドズルがなんか言ったんだろ。父親に似て傲慢な性格してるからな。剣にも表れてるだろ」


ダッセルの息子はドズルというのか。確かに父親譲りの強引な剣だ。



ー試験会場ー


力任せに剣を振ってくるドズル。それをヒラリヒラリとかわすジョン。


「ちょこまか逃げ回りやがって。お前も男なら正々堂々と打ち合え」


そう言われたジョンは瞬時に懐へ飛び込みドズルに一撃を食らわす。


「しゃべってる暇があるのか?お前の攻撃は口だけか?」


「くそっこんな奴に・・・許さんっ」


そう叫ぶとドズルは闘気を纏って上段に剣を構えた。



ー観客席ー


「おい、アーノルドっ!」


エイブリックが叫ぶ。


「あぁ、間違い無い。 闘気だ」


両手の肘を付いた手に顎を載せてそう答えるアーノルド。


「何を落ち着いてるんだ。早く試合を止めないとっ」


「大丈夫だ。ジョンにも闘気は教えてある」


「しかし、あれを食らったら木剣とはいえ死ぬぞ」


「いいから見てろ」



ー試合会場ー


ドズルがさっきとはまったく違うスピードとパワーで剣を振り下ろす。


ジョンはバックステップで躱す。バックステップしたジョンにドズルが振り下ろした剣を切り返しながら近付いて振り上げる。


「危ないっ!」


エイブリックが叫ぶ。


キンッ


木剣とは思えない音がし、ジョンがドズルの剣を弾き飛ばした。そのままドズルの首筋に剣を当てたところで、


「それまでっ!勝者ジョン・ディノスレイヤ」


わあぁぁぁ~


観客席から歓声が上がる。たくさんの受験生がいる中でも注目を浴びていたようだ。



「アーノルド、今、お前の息子は何をしたんだ?闘気を纏った剣を弾き飛ばしたぞ」


「切り上げた剣を下から弾いただけだ。散々稽古したからな」


「お前が稽古付けてるのか」


「当たり前だろ。アルと当たらなくて良かったな」


「ぐっ」


ジョンの見事な剣技に悔しそうな顔するエイブリック。その隙にアルファランメルは順当に勝っていた




「卑怯だぞ!お前なんかしただろう」


剣を首に当てられて叫ぶドズル。


「何かしたかだと?お前の未熟な剣を弾いただけだ」


ジョンはそう言ってまだ卑怯だなんだのと喚くドズルを無視して闘技場を後にした。




「よくやったなジョン。見事だったぞ」


「父上の稽古のおかげです」


「最後、相手は闘気を纏ってたんだ、お前も闘気纏っても良かったんだぞ」


「父上ほどの圧力を感じなかったので問題ないと思いました」


「そうか」


ジョンの成長を心から嬉しく思うアーノルドであった。




その陰で、


「あれがアーノルドの息子か・・・」


模擬戦を見ていた男が誰にも聞こえないような声で呟いてた。


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