第58話 試験が始まる

ゲイル達がパーティーの準備をしていた日、ジョンの騎士学校の試験が始まった。


試験は2日間。初日の午前中に筆記試験があり、昼から剣の模擬戦が1試合。翌日午前と午後に1試合ずつ行われ、合計3回の模擬試合で合否判定が行われる。


今年の合格者は100名前後が見込まれ、受験者数は300名を越えていた。



「ジョン、筆記試験はどうだった?」


「思ったより簡単でした。ほとんど出来たと思います」


「騎士学校の筆記試験はよっぽど悪くない限り落とされないからな。まぁ問題無いだろう。それより午後からの模擬戦が重要だ。頑張れよ」


「はい。全力を尽くします」


筆記試験で10数名ほど不合格になり、合格者は模擬戦へと進んだ。


模擬戦は王都の闘技場で行われる。


「では始め!」


掛け声と共にターっ、とーっといった声が聞こえ始め、木剣のぶつかる音がする。簡易鎧と木剣での模擬戦だ。


「お前の息子も騎士学校受けてるのか?」


観客席にいたアーノルドに後ろから声を掛けてきた金髪に赤いメッシュの男。


「エイブリックか、久しぶりだな。こんな所に居て大丈夫なのか?」


男の顔を見て苦笑いするアーノルド。


「息子の試験を見に来ただけだ。問題なかろう」


「そうか、お前の長男はうちと同じ歳だったな。わざわざ騎士学校に入るのか?」


「あぁ、我が息子ながら剣の腕がいいんだ。それもあって社会勉強の一つとして騎士学校へ入れることにした。お前の所の息子はどうだ?今年は試験を受けるやつが多いと聞いたが」


「うちも問題無いと思うぞ。俺と同じ歳の頃より強い」


「ほう、どいつだ?」


「あそこで戦ってる髪の色が明るいほうだ」


「あれか。ん?なんだありゃ?対戦相手の剣筋がむちゃくちゃだな」


「剣を教えたのが冒険者なんじゃねーかな?綺麗な剣じゃないがなかなか強い」


「全く心配してなさそうだな」


「あれくらいなら大丈夫だろ。それに勝ち負けより剣の内容だろ。相手の剣は騎士向きじゃねーから落ちるだろ」


「あぁ、そうだな。魔物討伐隊ならいいかもしれんな」


「お前のとこはどこだ?」


「もう終わってるぞ。一撃で終わった」


そうかエイブリックの子供も相当やるようだな。ま、当然か。


「エイブリック、お前今晩時間取れるか?」


「晩飯でも食いにくるのか?」


「いや、飯は息子と食うからいい。話があるんだ」


「じゃ酒だな。人に聞かれたく無い話か?」


「あぁ、内密で頼む」


「だと外はまずいな。俺の所で話そう」




ー試験日初日終了後の夕飯ー


「ジョン、今日の模擬戦どうだった?」


アーノルドとジョンが宿で晩飯を食べながら試験について話している。


「変な剣筋だったので驚きましたが、力任せに振ってくるので隙も多かったです」


「あの手のタイプは模擬戦だとあれだけどな、何でも有りの実戦だと手強いぞ」


「はい、心しておきます」


「父さんはこれからちょっと友人の所に顔を出してくるから、先に寝ててくれ。明日も試験なんだから夜更かしするなよ」


「大丈夫ですよ」


晩飯を食べ終わったアーノルドはエイブリックの元へ出掛けた。


相変わらずデケぇ屋敷だな。そう思いながら、屋敷の門番に名前とエイブリックと約束があると伝える


「お待ちしておりましたアーノルド様。こちらでエイブリック様がお待ちでございます」


執事に案内され、エイブリックの私室に向かう。


コンコンッ


「アーノルド様をお連れ致しました」


「入れっ」


エイブリックの声がして中に入った。執事は頭を下げて退室する。


「相変わらずデケぇ屋敷だな」


「お前も領主になったんだから、これくらいで驚くな」


「うちは前のやつが使ってたところをそのまま使ってるからな。お前からしたら犬小屋みたいなもんだ」


「アイナにそんな窮屈な思いさせてるのか?新しいの建ててそっちへ移れ馬鹿者が」


「うちは新興領地だからな。あんなもんでいいんだよ」


「ったく、お前は昔から・・・」


ぶつぶつ言い続けるエイブリック。



「で、話ってなんだ?重要な話であれば事前に連絡するだろうから、大した話じゃ無いんだろ?」


「いや、極めて重要な話なんだ」


「は?極めて重要?俺が闘技場で声掛けなかったらどうするつもりだったんだ?」


「いや、ここに来たら居るなと思ってだな・・・」


「お前ってやつはホントに昔から・・・どうしてアイナがこんなやつに・・・」


ぶつぶつが止まらないエイブリック。


「すまん、事前に連絡しなかったことは謝る。本当に重要な話なんだ」


「わかった。早く話せ」


「実は三男の事でな」


「何っ?三人目が出来たのか?いつだ?」


「もうすぐ3歳になる」


「ホントにお前ってやつは」


ぶつぶつぶつぶつ


「でっ?」


すっごい不機嫌になったエイブリック。


「ゲイルって名前なんだが、魔法が使える」


「3歳くらいから魔法使える子もいるだろ。水でも出したか?」


「いや、治癒魔法が使える」


「治癒魔法か。アイナの力を受け継いだのか・・・」


「あと、火、水、土魔法も使える」


「そりゃ凄いな。将来魔法学校に入れろ。出世するぞ」


「全部無詠唱でだ」


・・・

・・・・

・・・・・


「は?何て言った?」


耳を疑うエイブリック。


「ゲイルは全ての魔法を無詠唱で使える」


「な、なんだと・・・そんな事が・・・」


ぶつぶつぶつぶつ


「実はな・・・」


アーノルドは神のお告げの事をエイブリックに話した。


「信じられん・・・。アイナの子供が神の使徒・・・。いや、アイナの子供だから使徒に選ばれたのか!」


「オホンっ。俺の子供でもあるんだがな」


軽く咳払いをしてエイブリックをいさめる。


「い、今すぐにでも宮廷魔導師か軍に・・・・・・・・ って、心配ごとはこれか?」


「あぁ、そうだ。ゲイルの能力がバレたら軍が動くだろう。無詠唱で治癒魔法が使えるとなったら尚更だ。なぁエイブリック、俺とアイナはゲイルをこんな小さい内から軍にやりたくないんだよ」


「しかし・・・」


「頼む、何か動きがあったら止めてくれ。お前にしか出来ないことなんだ」


深く頭を下げるアーノルド。


「お前が俺に頭を下げるのか。それだけ本気ってことだな」


ああ、と頭を下げたまま返事をするアーノルド。


「わかった。俺が責任持って対処しよう」


「ホントか!? 恩に着る」


「しかし、成人した後はどうするんだ?」


「成人した後は本人の意思に任せるつもりだ」


「跡継ぎにするつもりは無いのか?」


「うちは男3人兄弟だからな、ゲイルが成人した時に全員の意思確認をしてから決めるよ」


揉めそうだなとエイブリックは呟いた。


そして、しばらくワインを飲みながら談笑し、冬の社交シーズンくらい王都に来いと散々言われたアーノルドは苦笑いをしながら宿に帰ったのだった。


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