第57話 シラフは辛い

あらかた料理を食べ尽くした面々。エールも飲み尽くしたようで赤ワインを飲みながら談笑している。


少し酔ったドワンが凄んできた。


「坊主、とんでも無いもん飲ましてくれよったな」


あれ?なんか怒ってる??全部飲み干したよね?


「気に入らなかった?」


「そうじゃねぇ。あれはお前さんしか作れんのじゃろ?」


魔法使えたら出来ると思うけど、窒素や二酸化炭素がとか言っても理解出来なさそうだから無理だな。


「多分ね」


「ワシはこれから何を飲めばいいんじゃ?あのエールを知ったあと、何を飲めばいいんじゃっ!」


「ぬるいエールを飲めばいいと思うよ」


そう答えると、ペンッと頭をはたかれた。


「エール作る時に木の樽じゃなくて金属性の密封性が高い樽で発酵させたら今よりはシュワシュワすると思うけど、自分でエール作ってるわけじゃないからよくわかんないや」


どうやってビールを作るのかよく知らない。上面発酵とかは聞いたことあるけど、どれがエールでどれがラガーとかすら知らんからな。後はエール作ってるところで相談してみてくれ。


「ぼっちゃん。なんかワインに合うつまみってないか?」


「ダン、まだ食べるの?」


「ワイン飲んでるとな、もうちょっとなんか食いたくなるんだよな」


はぁ、なんかもうコレ以上いらんってなるような料理か・・・


アレ出して勝手に食べてもらおうか。


「ブリック、酔ってない?」


思いついても自分で作れないからな、コックに任せよう。


「あ、大丈夫です」


エールを少しずつ飲んだだけで、今日作った料理の作り方を忘れないようにしていたらしい。


「じゃもう一品作ろう」


小屋の中はドワンが魔導ランプを持ってきてくれてたので、そこそこ明るい。裸電球を点けてるくらいの明るさだ。


「牛乳に小麦粉入れて混ぜて」


始めに作ったシチューとほぼ同じのだ。

とろみが付くまで温めて混ぜる。


「ここへチーズを削ってどんどん入れて混ぜて」


チーズを山盛り入れていき、混ぜて混ぜてドロドロになったら白ワインを少し入れて柔らかく伸ばす。


パン、湯がいたじゃがいも、ベーコンを一口より小さめに切ってもらう。


「もうこれでも大丈夫。鍋ごと持っていって、バーベキューコンロで温めながら食べてもらおう」


「なんていう料理ですか?」


「チーズフォンデュって言うんだよ。具材は好きなものでいいよ」


ブリックに運んで貰って、食べ方の説明をする。


「ワインに合うの持ってきたよ。好きなもの串に差して火で炙ってからこれ付けて食べて。ブリックも食べといて」


「ぼっちゃん、これ買ったチーズか?」


「そうだよ。温め過ぎたら焦げるからね」


「うぉっ!こりゃ旨ぇ」


「パンをカリカリに炙ったら旨いぞ」


「じゃがいもとベーコンを一緒に差して食ってみろ!」


それぞれが自分好みの組合せで楽しみ出した。あれだけ食った後によくチーズフォンデュなんて食えるな。作っておいてなんだけど、と思いながらその場を離れた。


あー、これは遅れて二次会に参加したシラフの時みたいだ。酔っ払いの中に入ってるのがしんどい。このままだと泊まり確実なので自分のしたい事をする。


小屋に土魔法でハシゴをかけて屋根に上がる。ここに湯船を作るのだ。


土魔法でバスタブを作って魔法でお湯を貯める。魔法ってほんと便利だな。バスタブに8割くらいお湯が貯まったら服を脱いで・・・


サブん!うぉぉぉ、めっちゃ気持ちいい

露天風呂はたまらんな。月明かりだけってのも風情があっていい。


あああああ と声にならない声をあげて風呂を堪能する。下からはがっはっはやカッカッカといった聞きなれた笑い声が聞こえてくる。ただの飲み会になってしまったけど、パーティーして良かったなと、ゲイルはしみじみと感じていた。



「ぼっちゃまー ぼっちゃまどこですかー」


ん、ミーシャが階段を登って来た。こんなに暗いのによく階段に気がついたな?さっきまで無かったんだぞ!?


「あ、ぼっちゃまがこんなところでお風呂に入ってます。ズルいですねぇ~」


と、クスクス笑いながら近付いてくる。


なんか様子がおかしい。そう思った瞬間、おもむろに服を脱ぎ出した。


「こ、こらミーシャ、服を脱ぐんじゃないっ!」


「私もお風呂入りたいです~」


クスクス笑いながら全部服を脱いで風呂に入って来た。お前、酒飲んだのか?ブドウジュースとワインを間違えたのかわざと飲んだのか分からないが確実に酔ってる。


「ぼっちゃまが赤ちゃんの頃は私がお風呂に入れることも多かったんですよ~」


覚えてるけれども、それは覚えてるけれども。


「お前、もう成人しただろ。人前で脱ぐな」


「お風呂に入るのに服脱ぐのは当たり前です~」


微妙に会話が成り立たない。


「ツルツルの時も良かったですけど、この坊主頭の触り心地もたまりませんね~」


風呂で後ろから抱きしめられて頭をワシャワシャされる。ダメだ酔った奴に理屈は通じん。誰か来る前に風呂から上がらねば。


俺とミーシャの服に洗浄魔法をかける。風呂出た後に脱いだ服を着るのに抵抗があるのだ。


「ミーシャ、出るぞ」


風呂から出て一気に温風の風魔法で乾かす。


「ほれ、服着ろ!服!」


ほにゃほにゃ言いながら服を着ようとしない。


あーもうっ!


まさかこんな年頃の女の子のパンツはかすはめになるとは思わなかった。暗いのがせめての救いだ。


「はい、万歳して」


服も順番に着せる。


やっと着せれた。誰も来なくて良かったよ。さて、半分寝ているようなミーシャに階段降りろってのも危ないな。この身体じゃ抱き上げることも出来んし。仕方がない、魔法で浮かせて連れて行こう。


ムムムっ


意外と重いな。どんだけ肉食ったんだと思いつつ、フワフワ浮かして下まで降り、そのまま小屋の中に連れて入る。


布団とか無いしどうしようかな。地面に寝ると冷たいし・・・


「ほれ、これ敷いてテーブルで寝たらどうだ」


と、考えているとダンが毛布を持って来てくれた。


コイツしれっと良く気が付くな。まさかミーシャと風呂入ってたのも見てたんじゃなかろうな?


「ありがとう。ミーシャも寝てしまったし、俺も寝るよ。後は宜しくね」


ダンにお礼を言って寝転ぶと、うふふ、うふふと寝てるのか起きてるのかわからないミーシャに頭をワシャワシャされながら寝たのであった。







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