第56話 パーティーという名の飲み会

ダンと二人で森に来た。


「ぼっちゃん、たまには剣の稽古しておいた方がいいんじゃないか?」


「そうだね」


最近、剣の稽古がおろそかになっていたな。


「じゃ、稽古してるからダンは親方から貰った木の端材を刻んでおいてくれる?」


「不思議に思ってたんだが、この木は何に使うんだ?」


「これはね、スモークっていって肉や魚を煙で燻す為に使うんだよ」


「燻す?」


「煙で匂いを付けて風味を良くするんだ。干し肉程じゃ無いけど、生肉より長持ちするようになるしね。ダンも酒飲むんだろ?気に入ると思うよ」


そうか楽しみだなと言って端材を削り出した。


じゃ、俺は剣を・・・


コツン

あれ?


コツン


あれ?簡単に出来るようになってた縦切りが出来ない。しかし、何度かやってだんだん出来るようになってきた。


剣は1日にしてならずか・・・

ちょっとサボっただけで感覚が鈍るもんだな。これからサボらないようにしよう。


縦、横、斜め切りが出来るようになって稽古を終えた。まだ今日は他にやることがある。


「ダン、土魔法を覚えて」


「俺が土魔法を?」


「そうそう、俺が魔法使えるのが公になるまでダンにダミーになってもらおうと思って」


「どういうことだ?」


「森だけだと問題ないんだけど、どこかに出掛けた時に必要になるんだよ」


いつ必要になるんだとぶつぶつ言うダン。


俺は小屋から少し離れた所にスモーク小屋を作る。イメージは家庭用物置だ。


壁は薄くていいのでさっさと作る。排煙の為に小さめの煙突付けて、下に空気穴開けてと。あ、扉どうしようか?これだけの為にミゲルに作ってもらうのもなぁ・・・


ええーい、土で作っちゃえ。多少重たくてもダンに開け閉めして貰えばいいか。壁をくり貫いて、中に土で網棚を3段ほど作ってと。壁にあけたところに土で扉を・・・


ありゃ、蝶番もないし開け閉めどうする?取りあえず嵌め込み式の扉にして今度改良していこう。


さ、こんなもんか。


ダンを見るとうんうんと唸ってたが土魔法は発動してないようだ。


ダンが唸ってる横に行き、小さめのドーム型の釜を作る。


「ダン、これと同じの作れるようになって」


「土なんざ全く動かんぞ」


「闘気と同じだって。この釜をイメージして土に魔力を徐々に流し込めば動くよ」


「わかったもう一度やってみるぞ」


ムムムっ


ムムムムムムっ


徐々に土が盛り上がっていく


「ちゃんと釜をイメージし・・・」


「だぁーっ!」


「あ、馬鹿っ」


ドバンッ


土が爆発した。


「お前なぁ・・・」


「スマン・・・」


「徐々に魔力つぎ込んでって言ったじゃんっ!」


ペッペッと口に入った土を吐き出す。


こいつの魔力は大昔のターボエンジンみたいだな。いきなりドッカンだ。


「やり直し!もう俺は離れて見てるからねっ」


コイツの側にいるのは危険過ぎる。


その後、2回程土を爆発させただけで終わった。


「ダンに魔法は向いてないかもしんないね」


「そんな事言うなよ。俺には目的があるんだ」


「どんな?」


「魔法を使えるようになっておやっさんに魔剣作ってもらうんだ」


そういや俺が魔剣貰った時に「俺にも」とか言ってたな。そんなに欲しかったのか。


「ダン、おやっさんが魔剣作ってくれたとしても、今のままだと一瞬で魔力切れおこすぞ」


へっ?という顔をするダン。


「ちょうどいいから、土魔法で魔力のコントロール覚えて。そうしないと魔剣なんて危なっかしいからダメっておやっさんに言うから」


「そ、そんな・・・」


実際、危ないもんは危ない。ダンには魔力コントロールを課題にしておこう。




ーパーティー当日ー


ブリックは今日と明日の連休にしてもらった。アイナとベントは昼から街に出て買い物とお泊まりをするようだ。ベントよ、2日間アイナを貸し切りだ。せいぜい甘えとけ。


ブリックに仕入れてもらっておいた牛乳をダンが担いで森へ向かう。今日は朝から準備がたくさんあるのだ。


「ブリック、この前のあばら肉の塩漬け出して」


日にちが少なかったから熟成は浅目だが仕方がない。水分が出て周りの塩も無くなっているから塩辛い事は無さそうだ。


「ブリック、これからこの肉をベーコンにするから、こっちの小屋に持ってきて、中の網棚に乗せて」


2歳児に言われた通りにするブリック。


運転室の下にダンが切り刻んだヒッコリーチップをがさがさと入れて火をつける。


「あ、ブリック。肉はもう少し端に寄せて」


熱せられてあばら肉の脂がチップに落ちると燃え上がる可能性があるからな

念の為にチップの上に脂避けの棚作っておくか。


うにょんと棚を作ると目を見張るブリック。


「ぼ、ぼ、ぼっちゃん今何したんですか?」


「肉を端に寄せても脂がチップの上に落ちるかもしれないから脂避けの棚作ったんだよ」


「いや・・・あの・・・」


土魔法で棚が出来た事に驚いたのか。


「こんなのに驚いてたら、身が持たんぞ」


ダンに言われてビクッとするブリック。その内慣れるだろ。


チップに火を点けて煙が出だしたのを確認してダンに扉を閉めてもらう。


「じゃ、俺とダンは狩りに行ってくるから、ブリックとミーシャは野菜の準備とタルタルソース作っておいてね」


そう伝え、ボールに氷を出し、調理場の水瓶を満タンにして出掛けた。


「ぼっちゃん、今日は何を狩る?」


「鶏と出来れば子鹿がいいな」


「この時期は生まれたてのはおらんぞ」

鹿が子供生むのって夏前だったか?


「じゃあなるべく小さめので」


「了解」


まず鶏を2羽狩り、小屋に置きに戻る。解体はブリックがやっておいてくれるようだ。


「小さめの鹿いるといいな。どんな料理にするつもりなんだ?」


「ローストビーフだよ。鹿だからビーフじゃないけど」


「どんなのだ?」


「見た目は生肉に近いよ。ちゃんと熱は通すけど」


「生焼けの肉を食わすのか?」


「肉は低温でゆっくり熱を通すと柔らくて美味しくなるんだ。生焼けとは違うよ」


「ほう、だから子鹿なのか?」


「そう、なるべく柔らかいのがいいからね」



親子連れの鹿を見つけて子鹿を狩る。


まだ可哀そうな気がするけど、ずいぶんと慣れた。親鹿も子鹿も同じ命だと割りきることに。


「ただいま。肉揃ったよ」


「あ、子供の鹿・・・」


ミーシャが子鹿を見て反応する。見せないほうが良かったかな?


「柔らかそうです」


あ、喜んだ。冒険者の娘に可哀そうとかの感傷はなさそうだな。


「ぼっちゃん、鶏の解体終わりました。次はどうすれば?」


「次は骨で出汁取って、肉を一口サイズにぶつ切りにしておいて、半分は唐揚げにして半分はスープに使うから」


「スープ用は切って潰しておきますか?」


「今日はつくね汁じゃないからそのままでいいよ」 


はいと返事したブリックは作業に取りかかった。


「おーい、血を洗ってくれ」


鹿もさばけたようだ。


じょぼじょぼっと水で血を洗いながし、ダンに肉を切り分けてもらう。ロース部分はブロックにそれ以外は焼肉用に一口サイズにしてもらう。


子鹿でも結構な肉の量だな。食べきれるかな?まぁ、余ったら干し肉にしてジャーキーにでもすればいいか。


さて、下準備は出来たな。次はブリックにスープを教えよう


「ブリック、スープ作るぞ」


はいっ!と元気なブリック。新しい料理に期待満々だ。


「鶏肉、じゃがいも、ニンジン、玉ねぎを鶏の脂で軽く炒めて」

ジャージャーと小気味良い音で炒める。脂身はミーシャの口へ


「次はさっき取った骨がらスープに炒めた肉と野菜入れて入れて煮込んで。ミーシャ、出てくる泡を取りながら沸騰しすぎないように」


煮込むのはミーシャに任せる。


「ブリックは牛乳に小麦粉入れて溶かして」


「牛乳に小麦粉ですか?」


「そう、クリームシチュー作るから小麦粉を入れるんだ。小麦粉の量で他の料理にも使えるから覚えておいて」


小麦粉をバターで炒めたものを牛乳で伸ばしていくのには時間がかかるので、予め小麦粉を溶かすなんちゃってホワイトソースだ。


「小麦粉の塊が出来ても気にしなくていいよ、金網のお玉で濾すから」


ブリックはしゃかしゃかと混ぜていく。


「ミーシャ、どんな感じ?」


「じゃがいもは煮えたと思います」


「わかった。じゃ、一旦その鍋は火から下ろして」


ミーシャだと危ないので、ブリックに鍋を下ろしてもらう。


「ブリック、小麦粉を溶かした牛乳を金網のお玉で濾しながら、入れていって」

じょぼじょぼと小麦粉を溶かした牛乳を入れる。


「今度はこれを弱火で煮ていくよ。焦げるから丁寧にかき混ぜてね」


お玉で野菜が潰れないように丁寧にかき混ぜ続ける。


「なんか重たくなってきました」


「そうそう、いい感じ。今からすぐ焦げるようになるから鍋の底からかき混ぜて」


ぐるぐるぐるぐるとかき混ぜる。


塩を入れて味見する。ちと物足りないな。少しだけハチミツを入れて甘さを加える。んー、もう少しだな。チーズを削って少しずつ入れる。


よし、コクがでたな。キノコのバター炒めとか入れたらもっと美味しくなるんだけど、残念ながら無いしな。これでよしとしよう。


味付けを興味津々で見ていたブリックに味見をさせてみると目をまん丸にしてこちらを見てくる。もうこの顔にも慣れた。


次はローストビーフ、いやディア?鹿肉はヴェニスンだっけか?まぁどうでもいいや。


「ブリック、この肉にプスプス穴開けて塩してからオリーブオイルを塗って」


言われたままのことをするブリック。


「次は肉全体の表面を強火で炒めて」


じゅうじゅうと表面だけ焼く。


焼けたら葉っぱでくるんで紐で縛って、極弱火のオーブンに30分程入れておく。


「さ、これで準備は完了だ。後はおやっさんと親方が来てからだね」


もうお昼時間を大幅に過ぎているので全員昼飯抜きだ。ひと休みしているとドワンがやって来た。


「坊主、言われたもの作って来たぞ」


酒樽とジョッキだ。アルミ合金で作ってくれたらしい。鈍い銀色の光を放ってる。


「ありがとうおやっさん。きっと良いことあるよ」


「もう何か聞かんわい」


聞いても教えてくれないだろうと拗ねるドワン。


「兄貴もう来てたのか?」


ミゲルもやってきた。手持ち無沙汰だけど、晩飯にはちと早いしなぁ。おつまみでいっぱいやってもらうか。そろそろベーコンもいい感じだろう。


「ダン、スモーク小屋の扉開けて」


煙突からはもうほとんど煙が出ていない。扉を開けるとキレイにベーコンが出来ていた。燻してすぐに食べると渋いので風魔法で風乾させる。



「おやっさん、親方、ご飯までもう少しかかるから、これでも食べてて」


ベーコンを炙ってつまみに出す。


「なんじゃ干し肉か?」


不服そうな顔をするドワンそりゃ、パーティーで干し肉を出されたら俺でも嫌だ。


「この干し肉なんかいい匂いがするぞ」


フンフンと匂いを嗅ぐミゲル。それを指を咥えて見てるミーシャ。昼飯抜いたからな


「ミーシャも食っとけ」


そう言ったらすぐさまチンとドワンの横に座った。


「こ、これはなんじゃ?」


炙りベーコンを食べて驚くドワンとミゲル。


「エールじゃ、エールを持って来い!」


あ、もう飲むの?まだ普通のしかないのに。この世界のエールと言われるビールは常温の気の抜けたやつだ。俺はあんなの飲むまでもなくいらない。


取りあえずエールの入った木の樽を渡すと、作って来たばっかりのアルミジョッキでグイグイ飲みだした。


ダンもそわそわして落ち着かないようなので、勝手にやってくれとベーコンの塊を渡した。


「ブリック、始まっちゃったから、本番の料理を仕上げて」


シチューを温めながら唐揚げを揚げてもらう。さて、俺はコイツをやろう。ドワンが持って来たアルミ樽を見ると酒用と確信してたのか注ぎ口が付いている。


注ぎ口は木栓をはめるようになってるな。これだと飛んでいくかもしれん。


魔法で注ぎ口をスクリュー式にはめられるように加工する。


「ブリック、この金属の樽にエールを入れて」


重くて持てないので、調理中のブリックに頼む。


エールが木の樽2つ分入った。10リットルくらいか入るのかこの樽?


これを魔法でキンキンに冷やし、魔法で強炭酸にしてやる。強炭酸にならなくても冷えただけでずいぶん旨くなるはずだ。空気は8割くらいが窒素で残りが酸素、炭酸の原料となる二酸化炭素は1%あるかないかぐらいだったな。空気中の二酸化炭素だけを集めるイメージで・・・CO2がムムムっ


なんか元素記号のイメージが空気中に浮かび上がってくる。これを冷えたエールにどんどんどんどん吸い込ませるように圧力を掛けて。


今だ!


スクリュー式の注ぎ口を急いでぎゅっと締める。力がたらなかったらダメなのでブリックに最後まで押し込めて貰った。


「ダン、この樽をそっちに運んで。ミーシャは料理を運ぶの手伝って」


小屋の完成パーティーだと言うのに外のバーベキューコンロの周りで始まってしまったからもう全部外に運ぼう。


次々と唐揚げとシチューを運んでいく。ローストビーフ?鹿肉?を出すタイミングを失ったな。ま、後でもいいか。


なし崩し的に始まったパーティー。


誰も何もしゃべらずに唐揚げ、シチュー、ベーコンを貪り続ける。


「ブリックももう食べなよ」


ブリックに声をかけて一緒に食べ始める。


「おぅ、てめぇ腕上げたじゃねーか」


ガツガツ食いながらドワンがブリックを褒める。


「いや、これはぼっちゃんが・・・」


「んなぁこた解ってる。だが実際に作ったのはお前さんじゃろ?もう包丁返せとは言わねぇよ」


褒められてポリポリと苦笑いしながら頭を掻くブリック。


「わ、わひゃもてふだい・・・ハフハフ」


だからミーシャは頬張りながらしゃべるな。


「おい、坊主。渡した樽どうした?」

ドワンが聞いてくる


「さっきダンがそこに運んだよ」


「何を入れたんじゃ?」


「エールが入ってるから飲んでみて」


そう言われたドワンはジョッキを注ぎ口にあて一気にひねった。


じょわわわわっ 泡だらけになるジョッキ。


「な、何しやがったんだ!」


「入れ方が悪いんだよ、見てて」


泡を捨ててジョッキを注ぎ口に当てる。


「こうやって始めに泡だけ入れて、その後ゆっくりと注ぐんだ」


自分は泡無くてもいい派だが、王道に注ぐ。


「はい飲んで」


ドワンは渡されたジョッキをグッと飲む。一旦止まったかと思ったらゴッゴッゴッと一気に飲んだ。


「なんじゃあこれはぁぁぁ!これがエールか?口の中で爆発しよったぞ。しかしなんて旨さじゃ?」


それを聞いてミゲルも自分で注いで飲む。


「わ、ワシは今まで何を嬉しそうに飲んでおったのか・・・」


今まで生温い気の抜けたエールで満足していたミゲル。ダンも飲み始める。


「ブリックも飲んでみなよ。酒に合う料理を考えるのもコックの仕事だからな」


そう言われてブリックも飲んだ。またあの顔だ。


「ミーシャはダメだよ。まだ15歳だからね」


ほっぺをプクッと膨らませるミーシャ。


代わりに白ブドウジュースをジョッキに入れて炭酸にしてやった。木のジョッキだと圧力掛けた時に壊れるかもしれないからから金属で作ってもらってたのだ。俺も同じのを作って飲む。なんちゃってシャンパンだ。色気の無い入れ物だけど。


「はわわわわっ」


炭酸に驚くミーシャ。


「これを飲むとお肉がどんどん進みますっ!」


さらにガツガツと唐揚げを食うミーシャ。普通ノンアルコールの炭酸を飲むと腹が膨れるんだけどな・・・


ブリックが酔っぱらう前にローストビーフならぬロースト鹿肉を仕上げてもらおう。


「ブリック、酔う前にオーブンの肉仕上げるぞ」


ブリックを厨房まで連れていく。いい感じに冷めた肉をフライパンの上で葉っぱから取り出す。こぼれた肉汁をソースに使う為だ。


刻んだニンニクをオリーブオイルで炒めて香り付けした後、少し赤ワインを加えて煮詰める。塩で味付けしたらソースの完成だ。ここにすりおろした玉ねぎを加えても旨いぞと教える。


「肉を薄く切って」


ブリックに肉をスライスさせる。


「まだ中まで火が通ってませんよ」


バッチリ出来てるが初めて見たブリックには生焼けに見えるようだ。


「肉は高い温度で焼くと固くなるんだよ。低温でじっくり熱を加えると固くならずにこんな感じになる。ソースをかける前に食べてみて」


生焼けのように見える肉を恐る恐る食べるブリック。あの顔はもう見飽きたぞ。


「旨いだろ?牛肉のモモ肉とか固いだろ?ローストビーフにすれば柔くて美味しく食べられるぞ。あとはこのソースを掛けたらよりうまくなるから味覚えておいてね」


そう言ってロースト鹿肉を皆に出した。


腹いっぱいで食えないんじゃ無いかと思ってたけど、生焼けじゃないとわかったらガツガツ食べた。こいつには赤ワインだ!とかいいながら。


そして、ミーシャはもうスライスでなく、塊でもそのままいくんじゃないかという勢いだった。




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