第55話 パーティーの準備

アイナが泣き止んだ後、


「毎週6の付く日は休みとかにするといいと思う」


俺はアイナに告げた。この世界は毎月1週間6日、5週30日固定だ。曜日というものが無く、1の付く日とか2の付く日とかで呼ぶ。6の付く日とは元の世界の日曜日みたいなものすればいいんじゃないかなと思ったのだ。


「分かったわ。アーノルドが帰ってきたら相談するわね」


「じゃ、次の5の付く日と6の付く日にブリックを休ませて。5の付く日に小屋の完成パーティーして泊まってくるから」


「あら、泊まってくるの?」


「多分。おやっさんとか飲み潰れるから帰ってこれないと思う」


「あぁ、ドワンならやりそうね」


「でしょ?親方もいるしドワーフ兄弟が揃ったらどんな事になるかだいたい想像が付くんだよね」


「あら、ミゲルの親方も呼んだの?母さん達は仲間外れかしら?」


ちょっと不服そうな顔をするアイナ。


「母さんだけ呼んで、ベントは呼ばないとか出来ないでしょ?小屋にベントを連れてったら、俺の秘密を教えないといけないし。母さん秘密教える気があるの?」


「ベントにはまだ教えられないわね」


「だから母さんとベントは二人で出掛けたらいいんだよ。試験とはいえ、父さんもジョンと二人で出掛けてるんだから」


「そうね、でもどこに行こうかしら?」


「街の宿屋に泊まるとかでもいいと思うよ。こんな機会じゃないと自分の街の宿に泊まること無いだろうし、お客さんの目で自分達の街を見てみるのもいいと思う」


「なるほど。ベントはこの屋敷以外に泊まったこと無いし、いい経験になるかもね」


こうして次の5の付く日が完成パーティーと決まった。



パーティーに向けて食材の買い出しに出た。酒とか大量に必要だから1回の買い出しでは無理なので数回に分けてやる必要がある。


「ブリック、チーズとか売ってるかな?」


いつもの3人に加えてブリックも連れて来た。


「王都から入って来ていたらありますが、何分高いので入ってくる量が少ないんですよ」


チーズは高級品らしく、この領に持って来てもなかなか売れないので入荷することが少ないらしい。


「これから屋敷で使うこと増えると思うから定期的に仕入れて。父さんには言っておくから」


「ぼっちゃんがそうおっしゃるのなら・・・」


チーズの仕入れを指示しつつ、街の商店に着いた。


「お、ミーシャちゃん。今日は大勢だね。また見学かな?」


「今日は買い物ですよ。たくさん買って帰りますから」


ニッコリ微笑むミーシャ。こいつは前に来た時も声掛けて来たやつだよな?


「チーズは入荷してますか?」


「チーズですか?ちょうど1かたまり入って来てますけど、どれくらい必要で?」


「全部」


俺がブリックに告げる。


「ぜ、全部下さい」


「え、全部ですか?構いませんが値段が・・・」


チーズの塊、直径40cm、高さ5cmほどの塊だ。


「いくらですか?」


「銀板10枚でして・・・」


10万円か。めっちゃ高いな。


「ぼ、ぼっちゃん。この塊で銀板じゅじゅ・・・」


「ダン、まだお金あるよね?」


「たっぷり残ってますぜ」


「じゃ、塊ごと買う」


どうせ足りなくなるくらいだろうから買ってしまえ。


驚くブリックと店員をよそに次々と注文をしていく。特にエールとワインは大量だ。


「こんなにたくさん・・・」


6人で消費しきれるのか疑問になるほど買い込んでしまった。特にエールとワイン。


「あ、豚のあばら肉だけ追加して」


「肉は狩りでいいんじゃねーのか?」


「下準備するからこれだけ買っとく」


「そうか、じゃ豚のあばら肉3キロくれ」


想定外の買い物にホクホク顔の店員。


「ぜ、全部で銀板27枚・・・、25枚にサービスさせてもらいます」


内訳はよくわからんが、2万円ほどまけてくれたようだ。


何回かに分けて取りにくると伝えたら荷物を運ぶ荷車を貸してくれた。これなら一回で運べる。


「ありがとうございました。またお待ちしてます」


店員に見送られて店を出る。


荷車を引くダンを見ていると熊の引っ越しみたいで面白い。俺も荷車に乗せて貰った。


途中でパーティーの日を伝える為にミゲルの所による。それにもしかしたら持ってるものに期待して。


「親方!パーティーの日が決まったよ」


「おう、坊主。お、見慣れない顔がいるな?」


「うちのコックのブリックだよ。パーティーで料理を作ってくれる」


「おぉ、そうか。俺は大工のミゲルだ。旨いもん頼むぞ」


ドンっと胸を叩かれてよろめくブリック。


「ぶ、ブリックです。精一杯頑張ります」


お互い挨拶も済んだのでパーティーの日を伝えた。


「親方、扱ってる材木でヒッコリーってある?」


「あん?あの硬いやつか?もう使っちまって切れ端しかねーぞ」


やった!やっぱり持ってた。


「切れ端が欲しいんだ。捨てるならあるだけ頂戴」


「こんなもの何する気じゃ?」


「それはお楽しみに」


けっ、またかと言いながらヒッコリーの端材を山盛り持ってきてくれた。


「次の5の付く日の夕方から始めるからねぇ」


と言ってミゲルと別れた。次はおやっさんの所だ。


「おやっさん、パーティーの日決まったよ」


「おう坊主。それとこいつはお前んとこのコックだっけか?」


「ご無沙汰してます。ブリックです。今度のパーティーで料理を任されました」


昔、顔を合わせたことがあるようだ。


「料理の腕は上がったか?」


「あれから多少は・・・」


昔、なんかあったのか?


「まあいいワイ。坊主がいるからちったぁマシなもんが作れるようになったんじゃろ。まだ不味いもん食わせやがったら包丁取り上げるからな」


そう言われて苦笑いするブリック。やっぱりなんかあったらしい


「おやっさん、軽くて丈夫な金属で6人分ジョッキとこれくらいの酒樽作っておいてくれない?」


「ジョッキと樽なら木のやつがあるじゃろ?」


「別におやっさんがそれでいいならいいよ」


「またコイツは意味ありげな事を言いおってからに」


「さぁ、俺はどっちでもいいんだけどね」


クソッたれがと言いながら作っておいてくれるようだ。酒樽と聞いて何か感じ取ったのだろう。



森に到着し、小屋まで移動する


「も、森の中にこんなものが・・・」


ブリックが小屋を見て驚き、中に入ってキッチンを見てさら驚く。


「ブリック、すっげぇだろ。ほとんどぼっちゃんと親方で作ったんだぜ」


「この小屋を?いったいどうやって・・・」


木造建築が主のこの領地で土で出来た建物が信じられないようだ。


「魔法でね。結構時間掛かったけど」


「魔法で?ぼっちゃんは魔法も使えるんですか?」


「ぼっちゃんは何でも出来るぞ。俺もまだ下手くそだけど魔法を使えるようにしてもらった」


「ダンが魔法を?・・・」


「ブリックも魔法教えてもらうか?」


「いや、俺は魔法より料理を教えて欲しい。ぼっちゃん、俺にもっと料理を教えて下さい」


「もちろんそのつもりだよ。どんどん覚えて美味しいもの食べさせてね!」


はいっ、と嬉しそうに返事するブリックだった。


「今日は荷物運ぶだけで何も出来ないな。荷車も返さなきゃいけないし街へ戻ろう」


そう言って街に戻ることにした。


「屋敷に寄ってから街に戻るよ」


「屋敷に何を?」


「ブリックは今日の昼飯作らなきゃだめだろ?」


「あ、そうだ。ヤバい」


「朝にパンは焼いてあるんだろ?」


「パンは朝昼兼用でたくさん焼いてあります」


「じゃ、適当に肉焼いて、葉野菜とか一緒に挟んで出せばいいよ」


「パンに挟む・・・ですか?」


「簡単だから一緒にやろう」



ー厨房ー


「パンをこうして真ん中で切って。あ、全部切ったらダメだよ」


次々にパンを切るブリック。


「ミーシャは茹で玉子作って。この前と同じだから崩れてもいいよ」


「ダンはマヨネーズを・・・」


そう言いかけたらとっても嫌そうな顔をするダン。おやっさんにハンドミキサー頼むの忘れてたな。


「ぼっちゃん、マヨネーズならたくさん作ってあります」


お、自分でも作ってみたんだ。偉いぞブリック。横を見るとほっとした顔の熊が居た。


「じゃ、ダンは切ったパンを広げて中を軽く炙っておいて。焦がすなよ」


別にそのままでもいいんだけど、ちょっと炙っておいたほうが美味しいのだ。


「ぼっちゃま、茹で玉子出来ました」


「じゃあ、マヨネーズとあえてタルタルソースにしておいて。心持ち塩入れてこの前より味濃くしておいてね」


はいっと嬉しそうな返事をするミーシャ。何が出来るか楽しみなのだろう。


「ぼっちゃん、肉は何を?」


「あるやつでいいよ。中身は何でもいいから」


じゃあと牛肉の塊を出してきた。


「それを薄切りにして炒めて」


「はいっ」


ブリックはさすがに炒めるのは知ってたな。


「出来ました!」


「じゃあ、葉野菜でレタスある?」


「ここにあります」


「それを手で適当な大きさにちぎって」


「手ですか?包丁でなく??」


「レタスは包丁で切るより手でちぎったほうが旨いんだよ」


また驚いた顔をするブリック。なんか最近この顔しか見てない気がするな。


「じゃ、パンの内側にマヨネーズ塗って、レタスと肉、レタスとタルタルソース挟んだら完成だ」


一人2個で足りるだろう。ロールパンも元の世界より倍くらい大きいし。


出来たロールパンサンドをあわてて食堂に持っていく給仕メイド。ギリギリ昼御飯に間に合ったようだ。


使用人達のは厨房においておく。


さて、俺たちも食お・・・


ダンはすべて食べ終わり、ミーシャは口にいっぱい頬張っておいひいおいひと言い続けていた。


「ぼっちゃん、こ、この料理は・・・」


「料理って程のもんじゃないよ。ロールパンのサンドイッチだね」


「サンドイッチ?」


「パンに具材を挟んで食べる料理だ。今日はロールパンでしたけど、食パンで作ることの方が多いね」


「食パン?」


ああ、そういや食パン用の型無かったな。これもおやっさんに作ってもらうか。


「まだ道具が無いから作れないパンだね。味はロールパンとそんなに変わらないから型作ってもらったらまた作ろう」


はいっと嬉しそうな顔をするブリック。


「足りねぇ・・・一瞬で無くなっちまった」


悲しそうな顔をするダンに俺のを1つあげた。タルタルソースの方だ。熊に餌付けしてるみたいでちょっと楽しかったからよしとする。


「ブリック、さっき買った豚のあばら肉にたっぷり塩して布でくるんでおいてくれる?パーティーに持っていくまで毎日布は替えて欲しいんだ」


「干し肉でも作るんですか?」


「いや、ベーコンを作ろうと思ってね。ちょっと時間が足りないから塩漬けで作るよ」


「ベーコンって何ですか?」


「まぁ、そのうち分かるよ。あばら肉をこれくらいのブロックに切って、塩漬けしておいて」


幅10cmくらいのブロックに切り分けてもらい、フォークでプスプスと穴を開けてもらったら塩漬けだ。


どんどん汁気が出て布がべちゃくちゃになるから、食事の準備するときにでも確認してねと伝えた。



ブリックはこのまま屋敷に残り、ミーシャと3人で商店に荷車を返しにいく。


「ザックさーん、荷車返しに来ました」


ミーシャが店員に声かける。こいつザックって言うのか。


「ミーシャちゃん、もう返しに来てくれたの?明日でも良かったのに」


「もう用事は済みましたのでお返ししますね。ありがとうございました」


「いや、ミーシャちゃんのお役にたてれて良かったよ」


ニッコニコのザック。


こいつ、ミーシャに気があるんじゃないだろうな?お前にはやらんぞ


「おい、ザック」


俺に声をかけられてビクッとするザック。


「な、なんでしょうか?」


「チーズは定期的に仕入れることは出来るか?」


「毎月決まって買ってくれるお客さんがいるなら仕入れることは出来ますが・・・」


「じゃ、毎月1塊を買うから仕入れといてくれ」


「わ、分かりました」


2歳児に高級品であるチーズを定期購入する言われて驚くザック。ゲイルはちゃっかりと定期購入ということで銀板8枚にまけてくれるように交渉していた。



「ぼっちゃま、あんな高級品を毎月買うんですか?」


「あぁ、多分ミーシャが一番喜んで食べると思うからね」


「えっ、今度のパーティーだけじゃなく、屋敷で私達も食べさせてもらえるんですか?」


「そうだよ。美味しいものはみんなで食べるほうがいいからね」


もし、アーノルドがダメだと却下しても毎月結構なお金がはいってくるから自分で払えばいい。


「やったぁ!」


このミーシャの喜び様を見れるだけでチーズを買うかいがあるってもんだな。うんうん。


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