第53話 元通り

「おやっさん、急ぎで作って欲しいんだけど」


「坊主、またか。今度はなんじゃい」


「泡立て器と金網になってるお玉、油切りバットだよ」


「何を言っておるのかさっぱりわからん」


「錆びにくい鉄とかない?」


ドワンはぶつぶつ言いながらなんかの金属のインゴットを持ってきた。


「これは合金じゃ。色々な金属を混ぜて作ってあってな、ほとんど錆びんやつじゃ」


こんなのあるんだな。真鍮みたいなもんかな?


「じゃ、作っていくからおやっさん見てて。その内量産することになると思うからから」


「なんに使う道具じゃ?」


「調理器具だね。おやっさんに作って貰うときはもう少し複雑なやつ頼むけど、今日は急いでるから簡単なやつだけね」


魔法でイメージして針金を作っていく。


「おやっさん、これくらいの長さで4つに切って」


金切りハサミでパチンパチンと切ってくれる。


「ダン、この針金をこうやって曲げて根元をこの針金で巻いて」


「こうか?」


「そうそう。いい感じ」


泡立て器の頭部分が出来た。


持つところを魔法で作って頭部分と同化させて完成だ。


「坊主、これはどう使うんじゃ?」


「玉子とか色々混ぜる時に使うんだ。玉子の白身だけこれで混ぜると泡になるから泡立て器って言うんだよ」


玉子を泡にしてどうするんじゃとか呟いているのを無視して、金網のお玉、油切りネットとバットを完成させる


「これは何を・・・むぐっ・」


昨日作った唐揚げを1つ残しておいて持ってきたのだ。それをおやっさんの口に突っ込む。


「こ、これはっ!」


「じゃまたねー!」


「こ、こら待たんかっ!こ、これはもう少しないの・・・」


「ダン走って。おやっさんに捕まったら間に合わなくなる」


街中で幼児を抱っこして走る大男。今、助けて!とか叫んだら捕まるだろうなぁ。



屋敷まで戻ってきたら即厨房へ向かう。


「お待たせ。早速作るよ」


「ブリックはゆで卵作って」


玉子の大きくなってる方を少しヒビを入れてと指示し、ボウルに氷水を作っておく。


昨日買った新鮮な玉子に念のため洗浄魔法を掛けてから黄身と白身に分ける。今回は白身の出番が無いので捨てるかどうかをブリックに任せておく。


黄身に酢と塩少々入れて、


「ダン、これさっき作った泡立て器でしゃかしゃか混ぜて」


「ぼっちゃん、これが泡立て器ですか?」


ブリックがなんだろうこれ?みたいな感じで聞いてくる。


「そう、物を混ぜるときに使うんだ。玉子の白身をこれでよく混ぜると白い泡の塊になる。今日はしないけどね」


「混ざったぞ」


「じゃあ、そのまま混ぜてて。少しずつ菜種油を入れるから」


「ぼっちゃん、油は混ざりませんよ」


「酢と油だけなら混ざらないけど、玉子が入ると混ざるんだよ」


???のブリック


まぁ見ててと言ってダンがしゃかしゃかしている所に少しずつ油を入れていく。


しゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃか


おっ、ねっとりしだした。


「ダン、もう少ししたら出来上がりだから。ブリック、ゆで卵出来た?」


「もう出来ます」


「出来たら、玉子を氷水に漬けておいて」


「氷水にですか?」


「そうだよ」


不思議な顔して玉子を氷水に漬けるブリック。


「ダン、もう出来たみたいだから混ぜるの止めていいよ」


「はぁ、はぁ、ぼっちゃん、これキツイぜ」


「だろ?今度おやっさんにもっといいの作ってもらうから」


おやっさんにはハンドミキサーを作って貰うつもりにしている。


「玉子冷えたら、ブリックとミーシャで殻を剥いてみて」


「私、殻剥くの下手くそです・・・」


いいから、いいからと言って二人にやってもらう。


「わっ、するんと全部剥けます」


喜ぶミーシャと驚くブリック。


「じゃ、ブリック、今剥いたゆで卵を細かく潰してくれる?」


「えっ、こんな綺麗に剥けたのに潰してしまうんですか?」


悲しそうな顔をするミーシャ。


「これはソースに使うからね。昨日食べた唐揚げがもっと旨くなるぞ」


そういうとブリックと一緒に玉子を嬉々として潰し出した。


「ではこの潰した玉子にダンが混ぜたソースを加えて混ぜて」


出来上がったのはなんちゃってタルタルソースだ。


小皿に分けてみんなで味見。


マヨネーズに使った酢がワインビネガーなのでいつも食べてたのと味が違うが、これはこれでいける。


「これは何て言うものですか」


ちょっと震えながら聞いてくるブリック。


「ダンが作ったソースがマヨネーズ。それとゆで卵を混ぜたのがタルタルソースだよ。本当はこれに酢漬けにしたキュウリと玉ねぎを混ぜるんだけど、間に合わなかったからちょっと物足りないけどね」


「い、いやこれは革命です・・・」


味のバリエーションが無いこの世界には衝撃だろうな。あと醤油や味噌、ウスターソースなんかを増やしていきたい。


「ブリックは昼飯作ったら、今日の晩御飯にパン、唐揚げ、鶏のつみれ汁を作ってもらわないといけないから忙しいよ」


「やりますっ!やりますともっ!」


ブリックのコック魂に火がついたようだ。めっちゃ燃えてる。


皆でブリックを手伝いながら晩飯の時間になった。



一旦、部屋に戻り、ダンとミーシャの3人で話す。


「ぼっちゃん、何をするつもりか不思議だったんだが、全部ベントの為だったんだな」


「あのままだとベントがどうにかなっちゃうだろ。後は父さんと母さんが上手くやってくれるかどうかなんだけど」


「奥様にはぼっちゃまの想いが伝わっていますから、きっと上手くいきますよ」


と、ミーシャがニッコリと微笑んだ。


ちょっとヨダレをすすったのは見なかったことにしておこう。



そして晩御飯。


ここ数日の通り無言のまま全員がテーブルにつく。給仕のメイドが食事を運んできた 。先ずはパンとつみれ汁だ。


全員が運ばれて来た食事をじっと見てるとアーノルドがさぁ食べようと声がけする。


ジョンとベントがつみれ汁を一口すすった。


!!!!

めっちゃ驚いた顔をして、次にパンを口にする。


ベントが、


「うわっ柔らかい」


思わず声を上げる。


やった!声出した。


次に唐揚げとタルタルソースが運ばれて来た。持ってきたのはブリックだ。


さらに驚く兄弟二人。


「こちらはこのままでも、このタルタルソースを付けてでもお好きなようにお召し上がり下さい。唐揚げは熱いので気を付けて下さい」


「唐揚げ?タルタルソース?」


キョトンとする二人。


「さ、食べてみなさい」


アイナが二人に促し、二人が唐揚げを口にする。


「あちっ!でもすっごい美味しい!」


ベントが満面の笑みを浮かべる。


さ、アーノルド、出番だぞ!


「ベント、ここ数日お前と話せなかったのが父さんと母さんは悲しかったんだ。お前に元気を出して貰う為にブリックに新しい料理を頼んで作って貰ったんだ。どうだ?気に入ってくれたか?」


・・・

・・・・

・・・・・


「と、父さん達がぼ、僕の為に・・・?」


ぼろぼろとベントが泣き出した。


アーノルド、完璧だ。何言い出すか心配だったけど完璧な内容だ。


「ベント、あなたは私達の子供なのよ。何か言いたい事があったら遠慮せずに言って頂戴。頼りない二人で悲しい思いさせてしまったみたいでゴメンね・・・」


アイナもポロポロと涙を流す。


「父さん、母さん 僕のほうこそ心配かけてご、ごめ・・んな・・」


ベントはうわーっんと大声で鳴き出した。


ずっと家族と話さなかった辛さや心細さがあふれだしたのだろう。これでまた元の家族に戻れるなと安堵したのと同時に、どこか他人事のように見ている自分に気付き少し悲しかった。


「さ、料理が冷めない内にお召し上がり下さい」


そう言ってブリックは下がって行った。


ベントが泣き止んだ後は全員が全ての料理をがっついて食べた。俺は自分用によそわれたつみれ汁しか食べられなかったけどみんなが喜んでくれたみたいなので良しとしよう。


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