第51話 パン騒動

無言の朝食を終え森に向かう。


小屋に着いたらミーシャが持ってきた干しブドウを煮沸消毒したツボに水を入れて蓋をする。


これで1週間ほどしたらブクブクと泡が出てくるはず。それが酵母菌でパンの発酵に使えると昔々本で読んだことがある。ネットがあれば調べられるのにな。


この日はウサギ肉と玉ねぎの炒めものだ。スープは具材無しのウサギ骨スープ。3人ともガツガツと食べた。


「ダン、帰りに商会に寄って帰ろ。ちょっと欲しいものがあるんだ」


「何が欲しいんだ?」


「鉄鍋なんだけどね、普通のじゃないんだ。おやっさんが作れなかったら鉄の塊を売って貰って作るよ」


「そうか、鍋作れって言ったら怒りそうだな」



そうこうしているうちに商会に到着した。


「おやっさん、作って欲しいものがあるんだけど、無理なら自分で作るから鉄を分けて」


「なんじゃい藪から棒に。ワシが作れんもんじゃと?」


「おやっさんが作れないんじゃなくて、作りたく無いだろうなって物」


「言ってみろ!」


「鉄鍋」


「鉄鍋?それなら街の道具屋で売ってるじゃろ。それとも坊主が欲しがるもんじゃから特殊なやつか?」


「そんなに特殊じゃないんだけど、多分無いと思うんだ」


「どんな奴じゃ?」


「これくらいの大きさで鍋自体がもっと分厚いんだ」


そう言って指で厚さを説明する。


「それに蓋がきっちり嵌め込むように閉まって同じ厚さが必要なんだ」


「蓋もそんなに分厚いのか?なんに使うんじゃ?」


「バーベキューコンロでパン焼くんだよ。パン以外にも色々使えるけど」


「よし、作っておいてやる。いつまでにいるんだ?」


「6~7日後には使いたい」


「じゃあ、4日後に取りに来い。問題があれば1日あったら直せるから間に合うじゃろ」


「おやっさん、本当に鍋作るのか?」


ダンが驚く。


「坊主が欲しがる物には興味があるからの」


「こいついつももったいつけるからな」


「そうじゃ」


二人で笑いあう。


上手く出来るかわからんから先に言えないだけなんだけどな。


じゃ4日後にと行って商会を出た。


「ぼっちゃん、パン焼くのか?」


「今度は本当に上手く出来るかわかんないんだよ。オーブンの方が難しそうだから鉄鍋で出来るか試そうと思って」


「あの干しブドウを水に漬けてたのも関係するのか?」


「干しブドウとかを水に漬けておくとブクブクと泡が出来てくるはずなんだ。その泡にパンを柔らかくするものが入ってるはずなんだよね」


「今度は本当に自信無さそうだな」


「酵母菌から作るのは初めてだからね」


「他のやり方はやったことがあるような言い方だな」


やべっ


「お告げがね」


ありがたや 万能お告げ。


「そうか、上手くいくといいな」


「うん、ダンも手伝ってね」


「もちろんだ。固いパンなら作れるぞ」


「作り方は似たようなもんだから宜しくね」



4日後、鉄鍋の試作品2つ出来てた。直径30cmくらいのと25cmくらいの大きさ違いだ。


「おやっさん、さっすが完璧だよ」


「当たり前じゃ。出来たパンは持ってくるんじゃぞ」


「成功したらね」



鉄鍋はくそ重いのでダンに持って貰って小屋まで来た。


干しブドウを入れたツボ見るとブクブクと泡だち、ブドウが浮かんでワインのような香りがしていた。毎日シェイクした甲斐があったな。ちゃんと出来てる。


これなら明日にも試せそうだ。材料買ってこなければ。


「ダン、明日試せそうだから、午前中は材料買いに行こう」


「そうか。じゃあ、ミーシャも買い物に連れて行って一緒に来よう」



翌日の午前中に小麦粉とザル、サラシのような布数枚、革手袋、バター(めっちゃ高い)とオリーブオイル等を買って森に向かった。



まずは天然酵母を取り出す


ザルに布敷いて干しブドウの入った水を濾す。布に残ったブドウも絞って残り汁まで無駄にしない。


「へぇ、なんかバッチいなと思ったが、ワインみたいな匂いがするんだな」


「これが臭かったら失敗だったんだけど、ワインみたいな匂いだから成功だと思う」


「じゃ、綺麗に拭いたテーブルに小麦粉を出してくれる?」


「どれくらいの量出すんだ?」


分量全くわからんな。


「取りあえず適当に出して。いつも食べてるパンが10個くらい作れるくらいの量で」


「じゃあこんなもんか」


ドサドサっと粉を出す。


山形になってる粉の上を窪ませて酵母液をじょろじょろっと掛け塩少々と水を足してと。


「ダン、均等に混ざる様に混ぜてからこねていって」


「よっしゃ」


「ミーシャは作り方覚えといてね」


「はい!」


こねこね、ちょっと水が足らないかな?ほんの少し足す。


おっ、いい感じにもっちりしてきたな。


「ダン、丸めてこのボールに入れて」


ボトンと生地を木のボールに入れたら湿らせた布を被せておく


「これで倍くらいに膨らんだら第一段階は成功だね」


「これが膨らむのか?」


「そうだよ」


しばらく待って布を取る。


「うわ、さっきと大きさがぜんぜん違います」


ミーシャが驚く。


「じゃ、この生地をもう一度空気を抜くようにこねて」


「これくらいでいいか?」


こねこねされた生地を触ると耳たぶくらいの柔らかさだ。ここまではあってるよな?


「生地を半分に分けて、片方に溶かしたバター入れてもう一度こねて」


こね終わったバター入りの生地を3人で仲良く丸めてお皿に乗せて、湿った布かけてまたしばらく放置。


バターを入れてない残りの生地は湿らせた布にくるんで、この前作ったクーラーに入れる。小さめのツボに氷を入れて一緒に入れておこう。冷蔵庫代わりだ


待ってる間に薪に火を点けておく。強火だとすぐ焦げるからある程度燃えきってから焼くのだ。


ダンに取ってきてもらった大きい葉っぱにオリーブオイルを塗って鉄鍋に敷く。


火と鍋の準備している間に生地の2次発酵も済んだようなので、鉄鍋を暖めておいてパン生地を詰めていく。蓋をしてその上に炭になった薪を乗せる。


「これで焼けるの待つだけだよ」


鉄鍋2つ分焼いてみる。


後から失敗した時の為に酵母おいときゃ良かったと思ったが後の祭りだ。


焼く時間大体15分~20分くらいだったよな?


タイマーも時計も無いので完璧に勘だ。これが米炊いてるのなら、蓋に薪当ててグツグツが収まるタイミングとか分かるんだけど、パンはグツグツしないからな。


そろそろかな?


「ダン、小さい方の鍋を火からおろして蓋開けてみて」


よし任せろ、とダンが鍋を降ろす。


パカッと蓋を開けると何とも言えない甘い香りが漂ってきた。


「ちょうどいい焼き具合だね。じゃあ大きい方もおろして」


大きい方もばっちりだ。


「すっごいいい匂いがします~」


目を閉じてふんふん匂いを嗅ぐミーシャ、犬みたいだぞ。


「おい、ぼっちゃん早く食べてみようぜ」


せかすダン 。動物園の熊が餌くれくれしてるみたいだぞ。


「じゃあ、葉っぱごと出してくれる?無理そうならひっくり返してもいいよ」


薄焦げた葉っぱがぼろぼろになりそうだが、葉っぱの匂いも良いアクセントだ。ダンは上手くズボっと葉っぱごと抜けたようだ。


葉っぱを剥がして、せーのでパンを頬張る。


「やわらけぇ」

「フワフワでおいひぃです」


やった!成功!


一口食べてみると元の世界のパンには劣るが、この世界のパンよりはるかに旨い。これでなんとかなりそうだ。


残りの小さい方の鍋のパンをダンとミーシャの二人で平らげた。


「ダン、まだ早いけど、おやっさんの所に寄ってから屋敷に帰るよ。このパンをブリックに覚えて貰うんだ」


「屋敷でもこのパンが食えるのか?」


「その為の実験だよ」


「よし、帰ろう」


いつもこのパンを食えるようになると聞いた二人は早足で森を出た




商会に寄ってパンを1つおやっさんに渡す


「これがパンか?」


「そう、おやっさんに作って貰った鉄鍋で作ったんだよ」


「何?鉄鍋だとこんな旨いパンが焼けるのか? 鉄鍋も量産するぞ」


「あ、鉄鍋だけだとダメだよ。今度作り方教えるね」


「なんだと?おい待て!まだ話しは・・・」


ドワンの話の途中で飛び出して来た。今は作り方を教えている暇はない。



屋敷に戻るとコックのブリックの所へ行く。


「おい、ブリックいるか?」


「どうしたダン、まだ飯出来てないぞ・・・。ミーシャとぼっちゃんも一緒か。何かあったのか?」


「あぁ、コレを食ってみてくれ」


・・・

・・・・

「これはパンか? なんて柔らかくていい匂いがするんだ」


「ほら、早く食え」


さすがコック。すぐパクつくダン達と違ってじっくり観察している。


「急かすなよ。 モグッ ウっ こ、これがパ・・・ン!?」


「どうだい旨ぇだろ。こいつを今からお前が作るんだ」


「だ、誰がこのパンを作ったんだっ!まさかお前が・・・。えっ?俺が作る?」


混乱するブリック。


「ブリック、これからこのパンを作ってもらいたいんだ。あと新しい料理も」


「ぼ、ぼっちゃんがこのパンを・・・」


呆然とするブリック。


「お前はよく知らないだろうが、ぼっちゃんはなすっごいんだよ」


久しぶりに聞いたな すっごいって。







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