第50話 子育て
翌朝の稽古からベントは本当に顔を見せなくなってしまった。アーノルドとアイナが話した結果、ジョンの試験が終わるまでそっとしておく事になったようだ。
あれから数日経っても稽古には来ない。そしてベントが稽古に来なくなってから誰も話そうとしない食事が続いている
ベント次第でこの状態が続くのだろうか?
可能性は3つ
1:ベントの機嫌が直って元通り
2:剣は辞めるけど今まで通り
3:このままの状態が続き、ベントだけが家族の輪に入れなくなる
アーノルドとアイナの子育て方法は基本放置だ。仕事が忙しいのもあるが、食事の支度、身の回りの世話など子供と自然に取るスキンシップが使用人任せだ。よって側付きのメイドによって性格が変わるかもしれない。
俺が見る限り、ジョンは叱って伸びる、ベントは褒めて伸びるタイプだ。しかし、日頃のコミュニケーションが使用人任せだとこういうことも見えてはこない。特に子育ての当事者であればなおさらだ。どうしても比較対象が自分の子供時代になるから、自分と違う環境や性格だとわからないのだ。
今後の我が家は1か2になれば望ましいが、恐らく3のベントが浮いてしまう結果になるだろう。
2歳児の俺が口出せる問題でもないしどうしたものだろうか。このままずっと兄弟1人だけが浮いた家族というのは嫌だし、何かいい方法がないか考えてみるしかないか・・・
ーいつもの森ー
とうとう小屋にテーブルと椅子が入り、ついでに食器棚まで付けてくれた。
ミゲルに聞きながら、流し等の水回り、竈とドーム形のオーブン、いわゆるピザ竈ってやつも土魔法で作った。水回りはそのうち魔石で水が出るようにする予定だ。冬を越えたら魔道具の冷蔵庫を買って持ってこよう。安全対策の魔物避けの柵にも扉が付いた。ミゲルの親方は今日でここに来るのは終わりだ。
「親方、長い間ありがとう。お陰で此処で生活出来るくらいになったよ」
「なぁに、ワシもここの仕事は楽しかったワイ。休み日には遊びにくるからな」
「もちろん!みんなの休みが揃う日に完成パーティーをしよう!」
「おぅ!楽しみにしてるぜ。酒忘れんなよ」
翌日、ようやくミーシャを小屋に連れてくることが出来た。
「うぁ、凄く素敵になりましたねぇ」
うふふ、うふふとあちこちを触って回る。
「今日はブリックさんにスープの材料とパンも貰ってきましたから、お肉だけじゃ無いですよ」
ブリックとは屋敷のコックだ。
「まるで新婚家庭にお邪魔したみたいな感じだな!」
ダンが冷やかす。
「スープも作ってくれるの?あ、準備するの狩りから帰って来るまで待っててくれるかな? ダン、先に狩りに行こう!」
「そりゃかまわんが何かするつもりか?」
へっへーん、と笑ってごまかす。
「ぼっちゃんがもったいつけるのはいつもの事だしな。何かいいことありそうだから先に狩り行くとするか」
「ミーシャ、狩り行ってくるから柵の外に出ちゃだめだよ」
そう言って狩りに出掛けた。
「ダン、出来れば鳥を狩りたいんだけど、ニワトリみたいな奴いるかな?」
今までニワトリは狩ったことが無いのだ。
「そうだな、じゃあいつもの狩り場じゃ無いところに探しに行こう」
いつもの場所とちがう所へ狩りに行く。
「お、やっぱりここに居やがった」
でかっ!元の世界で知ってるより3倍くらいデカイニワトリみたいな奴が何羽かいる。肉硬そうだなと思っている間にダンがさっさと仕留めて戻って来た。
「こいつはぼっちゃんが好きな串肉の奴だぜ」
ああ、あの地鶏っぽいやつか。あの焼き鳥旨かったな。野生のニワトリだったのか。
「おーい、ミーシャ帰ってきたよ」
「わー、今日はぼっちゃまの好きな鳥肉ですね」
「ミーシャは野菜切っておいてくれる?」
ミーシャが持って来た野菜はじゃがいも、ニンジン、玉ねぎの根菜の王様3種だ。
ダンに鳥をさばいてもらう。
「あ、骨と余分な脂捨てないでこっちに頂戴」
「何するんだって聞いてももったいつけるんだな。分かった」
ここまでの付き合いで俺の性格もよく理解されてきたようだ。
この世界のスープは基本塩味だけだ。慣れたとはいえ、物足りないのは事実だ。
しかし、今日は違う!
クックック、今日は鶏ガラで出汁取ったスープを楽しむのだ!
「ミーシャ、先ずはお鍋にこの脂身入れて炒めて。焦げないように弱火でね」
「炒める?」
「えっとね、この脂身を入れて弱火でゆっくり焼くと油になるから」
「わかりました」
じゅうじゅうといい匂いがし始めた。
「じゃあ、この脂身取り出して切った野菜入れてくれるかな」
「この脂身はどうするんですか?」
「え?油取ったから捨てるよ」
「捨てるんですか・・・?」
ちょっと残念そうな顔をするミーシャ。
「もしかして食べたい?」
コクコクとうなずく。
そういや、すき焼きでも油ひいた後の牛脂好きなやつが居たな。俺には理解出来んけど。
「じゃあ、このまま入れておこう。野菜入れてまた炒めるよ」
「あの、炒めるってなんですか?」
「油でこうやって焼くことを炒めるって言うんだ」
「そうなんですね。知りませんでした」
「お肉と玉ねぎだけ炒めても美味しいよ」
「明日そうしましょう」
ソッコーで答えるミーシャ。
「だいたい野菜に火が通ったら水と骨を入れます」
時間が掛かるので時短鶏ガラスープだ。
「骨も食べるんですか?」
「骨は食べないけど、いい出汁が出るんだよ」
「出汁ってなんですか?」
「旨味って言うのかな?骨から美味しい味が出るんだよ」
「へぇ、骨は齧っても硬いだけで味しませんけど」
「しばらく煮てやると味が出てくるんだよ」
「どんな味か楽しみです」
「グツグツ煮えて来たらこの泡々をお玉で掬って捨てる。この泡には不味いのが入ってるから全部取ってね」
アクを掬い続けるミーシャ。
「じゃあ、そろそろいいかな。骨を取り出して塩で味付けしよう」
「おーい、スープはまだか?肉はそろそろ焼けるぞ!」
タイミングばっちりだよダン!
ミーシャに大きめのお椀に野菜たっぷりの鶏出汁スープを3人分運んで貰った。
「お、いつものスープとは匂いが違うな。旨そうな匂いがする」
ダンの鼻はいいようだ。熊だしな。
「じゃ食べよ!」
先ずはスープを飲む。
旨ぇ。この世界に来て初めてまともな味の汁物だ。野菜も鶏脂で炒めたので香ばしくてホクホクだ。
スープをすすって無言の二人。
ありゃ?口に合わなかったか?と思ったらものすごい勢いで食べ始めた。
「旨い!なんだこのスープは?」
「お、おひいでふ」
ミーシャ、頬張りながらしゃべるんじゃない。
「おいおいぼっちゃん、スープに何入れたんだ?このじゃがいももいつもと違ってめっちゃ旨いぞ」
フッフッフ、初めての味を十分堪能するがよいぞ。
さて、俺は地鶏の焼き鳥を堪能しよう。ムグムグ、やっぱり硬いけど旨いな。この鳥は味が濃い。寒くなったら水炊きもいいな。そう思いながら付け合わせのパンを食べる。相変わらず固くて不味いパンだ
「なぁ、ダン。このパン不味いよな。もっと旨いパンないかな?」
「ぼっちゃん、ブリックに殴られるぞ。やつの作るパンは旨い方だぞ。街のパンはもっと硬い」
これでもマシな方なのか?このぎっちり中身が詰まったパンて無発酵なんだろな。ドライイーストとかないとふんわりしたパンは焼けないか。
そういや、イースト菌って作れるんじゃなかったっけ?
「なあ、ミーシャ。ブリックの厨房に干しブドウは置いてある?」
「確かあったと思いますよ」
「明日来る時に小袋いっぱい分貰って来てくれないかな?」
「ぼっちゃまの依頼であれば貰えると思いますよ。ぼっちゃまの名前出していいですか?」
「あぁ、いいよ。もし足りなくなるようなら父さんにも言っておくから」
我ながら良いことを思いついてしまった。ジョンが試験に行くまでに間に合うといいんだけど。
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