第47話 マジで?

屋敷に戻ったら満足するまでミーシャに頭を撫でられた。


ー翌朝の稽古ー


「ベント、今日からこれを使って稽古をするんだ」


板も準備出来ている。アーノルドがベントにダンが作った木剣を渡す。俺が使ってる剣より倍以上長いな。当たり前だけど。


「この剣を振り下ろして、この隙間に通すんだ。下手に当てると剣が折れるからな、気を付けてやれ」


分かったよ父さんと嬉しそうに返事するベント。


ジョンは今日からアーノルドと試合形式での稽古だ。ジョンは身体強化したまま、アーノルドは強化無しだ。


たぁーっ!

とぅーっ!


ジョン、気合い入ってんな。しかし、アーノルドは強化されたジョンでも平気で相手している。ジョンが強化されてる分ケガの心配も少ないから切り方も激しい。あれでもだいぶ手加減してるんだろうけど。


おっ、アーノルドの追撃をバックステップで切り上げて躱した。そこからすぐさまダッシュして切り込みだ!すごいぞジョン!


見ていてすごく楽しい。


しばらく見いってるとベントが剣を振っていない事に気が付いた。あいつ、うつむいたまま動かないな。どうしたん・・・


ゲイルは一瞬ベントに目をやったが、ジョンとアーノルドの対決の方が気になる。あっおしい!ジョンの剣が当たりそうになった。ますます鋭くなっていくジョンの剣。目で追うのが難しくなってきた。アーノルドも楽しそうになってきている。


ガッ


あ、アーノルドの一発が入った。ジョンの鎧の下から血が出ているのが分かる。


「すまん、ジョン。つい力が入って寸止め出来なかった」


「いえ、父上が真剣に当てに来て下さったことが嬉しいです」


おぉ、アーノルドをちょっと本気にさせたのか。凄いじゃないか。


「今日の稽古は終わりにしてアイナに治癒魔法をかけて貰ってこい」


「はい、ありがとうございました」


怪我をしても清々しく礼をして走り去るジョン。いやあ、今日は見ごたえあったなぁ。俺も頑張って剣の稽古しよう。



「ベントどうだ?隙間に剣を通せたか?」



「父さん・・・剣が折れてしまいました」


「なに?予備があっただろ?次の剣使ってもいいぞ」


「全部折れました」


は?


「10本全部折れてしまいました」


「この短時間で全部折ったのか?」


「この木剣は何ですか?幅広くて変な形してるし、すぐ折れるし。こんなの剣じゃないっ」


あ、逆ギレした。


「そうか、この木剣の意図がわからんか・・・」


「ベント、お前の稽古方法は改めて考える。明日からは昨日までの稽古を続けてくれ」


こうして、重い雰囲気のまま稽古が終了したのだった。



朝食が終るといつものように学校へ行く二人。アーノルドがアイナに話し出す。


「今日はゲイルの稽古場に行く」


「あなた、この前行ったとこじゃない。ダメですよ」


まるで遊びに行く子供を叱る母親のようだ。


「いや、今日はベントの事でダンに相談することがある」


理由を付けて押し通そうとするアーノルド子供


「なら、夕食後に執務室に来てもらえばいいじゃない」


それを阻止するアイナ母親


「執務室じゃダメなんだ」


理由がダメなら感情で押してみる。


「ダメったらダメです」


でたっ!母親の必殺技だ。


次は、

みんな行ってるじゃないかっ

みんなって誰よ。その全員の名前言ってみなさいとか言われそうだな


ここらで助け舟出すか。アーノルドにアイナのダメを突破する能力は無さそうだ。


「父さん、午前中に仕事片付けて、昼から来ればいいじゃない」


「ちょっとゲイル」


「そ、そうだな。午前中に全部片付けるぞ」


「母さん、父さんはベントが心配なんだ。遊びたいわけじゃないと思うよ」


「何よソレ?」


「ほら、今日からベントの新しい稽古を始めたけど上手くいかなかったんだよ。父さんは今ジョンの試験対応でベントを見てやれないだろ?だから稽古場でダンと色々と試しながら話す必要があるんだ。ねぇ父さん」


「あ、あぁそうだ。ゲイルの言う通りだ」


「何よ。それならちゃんと言いなさい」


「すまん」


お許しが出たようだ。アーノルドよ、一つ貸しだぞ。


「じゃ、さっさと仕事に行って来なさい。お昼ご飯はどうするの?」


「ゲイル達と食べる」


そう言って仕事に走って行った。こっちで飯食うつもりか。ダンに言っとかなきゃな。



ミゲルが来たのでこちらも出発した。


「今日父さん昼めし食べに来るって」


予めダンに伝えておく。


「わざわざ森まで飯を食いにくるのか?」


言い方が悪かったなと、今朝の稽古の出来事から話した。


「ぼっちゃんより剣折るだろうと思って余分に作ったんだがな。そんな短時間で全部折っちまったか。重症だな」


「ダンもそう思う?」


「あぁ、アーノルド様が見ていないところで一生懸命素振りしてたんだろ。変な癖ついちまってるんだな」


「前俺に言ってたやつだよね」


「あぁそうだ。真面目に稽古するやつほど却って下手になるって奴だ」


「ベントはサボったりする性格でも無さそうだけど、サラがずっと見張ってるようなもんだしね」


「サラに剣の心得があれば良かったんだろうけど、多分素振りの回数だけやらしてたんだろうな」


「あぁ、やりそう」


「それにアーノルド様の剣は魔物を倒す剣だからな。騎士になる稽古と違うからあまり細かく見てなかったのかもしれん。アーノルド様の剣は騎士と同じくらい綺麗だがな」


「騎士になる稽古?ダンは騎士用の稽古してたの?」


「まぁ、そんなとこだ」


「それよりアーノルド様が来るならウサギじゃないやつの方がいいかもしれんな」


少しごまかし気味に話題を変えたダン。まぁ、人に聞かれたく無い事は誰にもあるもんだ。ダンも俺のこと深く追及して来ないし、俺も気付かなかった事にしておこう。


「あ、そうだ。おやっさんの所に寄っていい?」


「構わんが何か用があるのか?」


「ちょっと分けてもらいたいものがあるんだ」



そう言って商会による。


「坊主、まだ出来ておらんぞ」


「違うよ。ちょっと分けてもらいたいものがあるんだ」


「何が欲しいんじゃい?」


「なるべく軽い金属があれば欲しいんだけど」


「何に使うんじゃ?」


「ちょっと試したいものがあってね。まだ出来るかどうかわからないから出来たらおやっさんにも見せるよ」


「なんじゃい。もったい付けよってからに」


ブツクサ言いながら何かの金属のインゴットを持ってきた。


「こいつは希少でな、ワシの所にも今これだけしかないわい」


「おやっさん、これミスリルじゃないのか?」


ダンが驚く。


「そうじゃ。一番軽い金属って言ったらこれじゃろう」


コソッ

(ミスリルって高いの?)


コソッ

(あれだけで金貨10枚はする)


日本円価格でいっせんまんえん!?


「お、お、おやっさん、そんな希少な金属で無くていいからもっと普通にあるやつで」


慌ててそう言うと、一番軽い金属って言いおったくせにとブツクサ言いながら奥に探しに行ってくれた。おやっさんはあれくれるつもりだったんだろうか?


「ほれ、これならどうじゃ?」


そう言って違うインゴットを持ってきた。これはアルミニウムか?


「こいつはアルミってやつでな。ちと加工が難しいのと強度はあんまり高くねぇが軽い金属だ」


やっぱりアルミか。たしか他の金属と混ぜると強度が増したりするんだっけな?

熱伝導率も高かった気がする。


「おやっさん、ありがとう。これで試してみるよ。いくらぐらいするの?」


「金はいいから作ったらすぐに見せに来い。何を作るかしらんが、ワシの知らんものじゃろ?」


ニヤリと笑うドワン。


「ありがと、忘れずに見せにくるよ」


そう言って店を出た。


「ぼっちゃん何作る気だ?」


「クーラー作ってみようかなって」


「昨日言ってた魚冷やす箱か?」


「魚だけじゃないよ。エールとかワインとか冷やしといた奴入れといたら出掛け先でも冷たいのが飲める」


「すぐ作れ!」


えっ?


「絶対成功させろ。それを俺にも売れ」


ミゲルがフンフンと鼻息荒く言ってくる

しまったな。酒を例えにしたのがまずかった。ジュースとか肉で例えたら良かった。



小屋に着いたミゲルはすぐに作れよと言って作業に入った。


はぁ、やったことないからあんまり自信無いんだけどな。土魔法の要領で金属を加工出来ないかなと思ったんだよな。


さて、目指すは6面真空パネルの高級クーラーだ。元の世界でも5万円以上する。夏の釣りに是非とも欲しい品だ。


まずは蓋になる部分の1面パネルだ。


アルミを1対5くらいの割合で分割する

ムムムッ プツンっ

やった、切れたって言うよりちぎったみたいだがまぁいい。これで金属も魔法で加工出来る事が分かった。


小さい方の塊を風船を膨らますようなイメージで・・・ぷくっと膨れてくる。均一に広がるように大きくして60cm×40cm、厚さ2cmくらいの長方形になるように変形させて・・・


やった、出来た!


第一段階は成功だ。ここから真空に出来るかだな。


出来たパネルに1cmくらいの穴をうにょんと空ける


穴に指突っ込んでみるとちゃんと空洞になってる。この穴から強烈な掃除機で空気を吸うイメージで・・・ 吸って 吸って 吸って もう無理か? いやまだだ 吸って 吸っ・・・


ベコンッ


あっ!?


パネルの真ん中がひしゃげてしまった。せっかくここまで出来たのに・・・


念のため魔力の確認しておくか


【魔力】32/85


1枚パネルでも結構魔力使ってるな。


狩りに行ってる間に回復するだろうから、それからやり直そう。


「ダン、狩に行こう」


「そうだな、アーノルド様の分も狩らないといけないから行くか」


「今日は鳥がいいな。キジとかいないかな?」


「この前鳴き声聞こえてたからいるとは思うぞ」

 

「キジ食べたこと無いんだよね」


「じゃあ、目標はキジ。抑えでウサギでいいか?」


「それで行こう!」


まずウサギを2匹狩り、続いてキジを探す。なかなか見つからない。キジはほとんど地面にいるが黒っぽいから見つけにくいのだ。


「あっちで鳴いたぞ」


俺には聞こえなかったがダンの耳には鳴き声が届いたようだ。


「ぼっちゃん、木の上で待っててくれ」


そう言ってダンは消えていった。


キジも鳴かずば射たれまいに・・・


しばらくするとダンが黒っぽい鳥を掲げて帰ってきた。カラスじゃねーだろうな?


「よし、帰るぞ。言っとくがカラスじゃねーからな」


なんでバレた?声に出してないのに。



稽古場に戻るともうアーノルドが来ていた。


「狩に行くの待っててくれても良かったのに」


と恨めしそうな事を言われる。


いや、アンタ遊びちゃう言うたやん。


いかん、思わず関西弁で突っ込むところだった。


「父さん、仕事もう終わったの?」


「お、終わったぞ・・・」


おいっ、アイナに叱られてもフォローしないからな。


ダンとアーノルドでウサギとキジをさばいていく。ダンはウサギ、キジはアーノルドだ


「あ、父さん。キジの羽は捨てないでね」


「何に使うんだ?」


「それはまたのお楽しみ。父さん仕事で来れないかもしれないし」


「絶対行くからな。教えろ」


その時来れなくても知らないからな。


「釣りに使うんだよ。毛針っていう物を作る材料に使う」


「鳥の羽根で釣れるのか?餌は?」


「毛針が餌の代わりになるんだよ。フナは無理だけどマスは釣れると思う。ナマズも釣れるかもしれない」


「お前、釣りしたことあるのか?」


「お告げ」


「そ、そうかお告げか」


お告げバンザイ。


「さっさと焼くぞ」


ミゲルが痺れを切らしてきた。


「ほれ、火点けてあるからどんどん乗せろ」


ミゲルも火魔法使えたんだね。


4人でウサギとキジを堪能する


キジは野性的な味がするけど旨い。焼き鳥は塩派だけどキジは照り焼きとかに合いそうな味だ。やっぱり醤油欲しいな。


ちょっと聞いてみるか?


「父さん、醤油って知ってる?」


「それも釣り道具か?」


ダメだまったく知らないみたいだ。


「坊主、魚醤の事か? ありゃ生臭くてワシは苦手じゃ」


魚醤はあるんだ。海のそばの国かな?


「ミゲルの親方、魚醤ってのは食い物か?」


「調味料って奴だ。塩の代わりにスープに入れたりするんじゃが、どうも苦手でな」


ミゲルはあちこちに移動しながら大工仕事をしてきたんだそうな。この街みたいに建築ラッシュのところもそうそう無いだろうから、仕事を求めて移動するのか。


「で、ぼっちゃん。その醤油ってのはなんだ?」


「魚醤は魚を塩漬けにして作るんだけど、醤油は大豆を塩漬けにして作る調味料だよ。肉にも魚にも合うよ」


「そりゃどこに売ってるんじゃ?」


「それを聞きたいの!」


「ゲイル、王都でも醤油っての聞いた事がないな。これもお告げか?」


「そうだね」


「大豆は売ってるけど作れるか?」


さすがに醤油は作ったことがない。大豆、塩、小麦と麹が原料だったよな。麹ってどうやって作るんだろ?米からだっけな?


米か・・・米食べたいな・・・


ゲイルの意識が醤油から米に移る。


「米って知ってる?」


「は?醤油はどうした?」 


あ、そうだった。


いや、醤油を作るにしても米がいる。


「醤油作るのには米から麹ってのも作る必要があるんだよ」


「さっきの魚醤作っとる国で米食ってたぞ」


「マジで?」


ま、まじ・・・? 一同に注目される 。


「いや、本当に?米があるの?なんて国?」


「サウスランド王国じゃ、セントラル王国経由で行けるが、馬車使って2~3週間くらい掛かるぞ」


馬車で最短2週間。1日8時間馬が走るとして、時速10キロくらいかな?だとすれば1日80キロ。14日で1120キロか。


博多~仙台くらいの距離になるのかな?セントラル王国経由と言ってたから、直線距離だと800キロくらいかもしれん。飛行機だと2時間もあれば行けるな。飛行機作れないかなと無駄な妄想にふけってると・・・


「どうした坊主?」


「いや、そんなに離れてるなら無理だなぁと思って」


「米なら近くにも生えとるじゃろが」


え?


「栽培されとらんが生えとるぞ」


「マジで?」


ま、まじ?


あ、いかん、いかん。


「今度連れてって!生えてるところに連れてって!」


スキンヘッド2歳児の剣幕に驚くミゲル。


季節的に収穫時期が近付いてるはずだからなんとしてもいかねば。


「あ、あ、分かった。必ず連れてってやる」



昼飯を食べ終わるとミゲルが聞いてきた。


「それでクーラーっちゅうのは出来たのか?」


「まだ」


「早く作れ!」


ヘイヘイと返事し、アーノルドとダンは稽古場に行ったのだった。


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