第46話 高いマス

朝稽古、朝飯が終わって部屋に戻る


「うふふ うふふふ」


ミーシャが嬉しそうに頭をツルツルと撫で続ける。


朝飯後にさんざんアイナに撫でられた後にこれだ。いい加減頭皮が擦りきれそうだ。


「ミーシャ、そろそろ出掛ける」


あぁっ、と名残惜しそうな声を上げる。


「もうミゲルが来るからっ」


手をパシっとはたいたらシュンとするミーシャ。



ミゲルが来たので屋敷を出る事が出来た。アーノルドが付いて来たそうだったが無視して出た。


「おい、坊主頭」


坊主に頭付けんな。


「兄貴の所に寄ってからいくぞ」


そうミゲルが言ったので商会へ顔を出した。


「坊主・・・頭?」


ドワン、お前もかっ。もういい。それより釣具の相談だ。


「まったく、お前は次から次へと色々な物を考えよって。まだ便器も量産の目処が立っておらんちゅうのに」


と言いつつリールに興味津々のようだ。板切れにスピニングリールの絵と構造を描いていく。


「こいつぁ、難しいな。作れん事は無いと思うがかなり時間がかかりそうじゃ」


スピニングリールの構造は結構複雑だ。小さな部品やギアがたくさん入っている。シンプルなベイトリールの方が早いかな?


「じゃあこんなのはどう?」


ベイトリールの構造を描いていく。


「こっちの方が早そうだが、このバネって奴とネジって奴がなぁ」


この世界にはまだバネとネジが無かった。特にリールに使うバネとネジはかなり小さい。手作りで同じ物を作るには相当難しいだろう・・・


本当はベアリングも欲しいが、真球を作るのにはかなりの精度が必要になる。元居た世界でもボールペンのボールとか作れる国は少ないのだ。


「そうだよねぇ。でもバネとネジは色々な物に使えるから頑張って作ってみて欲しいな。馬車とかの乗り心地もよく出来ると思うよ」


「何?馬車にも使えるのか?」


「馬車の構造は知らないんだけど、馬車見たら改造するところ分かると思う」


木の車輪にノーサスペンション、おまけに舗装されてない道を走る馬車がどれくらい衝撃あるかなんて乗らなくても分かる。たぶん尻が割れる。


いかん、今日はリールの話だった。


もっとシンプルなリールはフライリールなんだけど、この世界にテーパーラインなんて無いだろうし、もしあったとしてもこの身体ではフライロッド振って飛ばすの・・・


あ、魔法で飛ばせばいいんじゃないか? それならロッド振らなくていいじゃないか!


名案だ!


「おやっさん、馬車はまた今度にしてこんなリールなら作れる?」


フライリールの構造を描いた。


「これなら簡単に出来るぞ。今度作っておいてやる。竿もな」


「ありがとうおやっさん」


かなり話込んでしまった為、もう昼だ。森へ向かう前にその辺で食べる事に。選んだのは宿屋に併設されてる食堂だ。


「いらっしゃい、なんにするんだ?」


冒険者相手の商売なのか敬語とか使わないんだな。


「今日は何があるんだ?」


「オークのステーキ、マスの塩焼きの2種類だ。どっちもパンとスープが付いてるぞ」


「オーク?」


「豚みたいなもんだ。味も変わらんぞ」


そうなのか。

それとマスってグッドタイミングじゃん。マスにしよっ・・・・


ん?と思って店に書いてある値段を見てみる。マスはオークに比べて倍以上の値段が付いていた


「マスってこんなに高いの?」


ダンに聞く。


「坊主、ぼったくってるの言いたいのか?」


だんより先に店主が返事した。


「店主、ぼっちゃんは食堂で食べるの初めてなんだ。悪気はねぇ」


「なんだそう言うことか。坊主、マスってのはここから離れた所で釣れるんだ。だから早く持って来ないと腐っちまう。釣れる数も少ないから高くなるんだ」


そう言うことか。


「ぼっちゃん、どうするオークにするか?」


「いつも肉だし、せっかくだからマスにする」


「そうか、親方はオークでいいか?」


ああ、と返事したのでオーク2つとマス1つを注文した。




食べ終わって森をへ向かう途中、


「ぼっちゃん、マスはどうだった?旨かったか?」


「あんまり・・・」


付け合わせの固くてぼそぼそのパン、塩味の干し肉スープ。パンとスープは屋敷で食べるのとあまり変わらないが生臭いマスとはまったく合わないのだ。マスが小さかったのが幸いだ。


「そうだろ?冬ならまだしもまだ暑いこの季節のマスは生臭いんだよ。冬なら寒いから新鮮で旨いけどな」


「冷やして持って来ないの?」


「氷魔法使えるやつ少ないからな。そのまま箱に入れて持って来るだけだ」


鮮度管理とかあったもんじゃないな。


「クーラーに入れて持ってくればいいのに」


「クーラー?なんだそれ?」


あ、クーラーも無いのか。


「えっとね、初めに冷やす必要はあるんだけど、一度冷やしたら冷たいままになる箱だよ」


「冷たい水入れておいたらそのままってことか?」


「そうそう」


「ぼっちゃん、それもお告げか?」


「そうお告げ」


お告げバンザイ。


「また兄貴に相談すること出来たな」


そうだね、と言いながら考える。

この世界に発泡スチロールはないしな。さすがに真空パネルはおやっさんでも作れないだろうなぁ。魔法で作れたらいいんだけど・・・


稽古場所に着いたら作業再開だ。ミゲルとダンは木材の準備するから何しようかな?一人で剣振るなと言われてるし、まだ壁くり貫く必要もないし。


小屋だけでなくここら辺一帯を柵で囲んだらもっと安全になるな。そうだ柵を作ろう。


小屋から稽古場を中心に考えてここぐらいから円形で柵作っていこ。


イメージするのは壁ではなく杭だ。壁だと圧迫感があるし、魔力が心配だ。ゴブリンが通れないくらいの間隔で2m程の杭をどんどん建てていこう


うにょん うにょんと等間隔で杭を建てていく。ちょっとやそっとでは倒されないように地面に固く固定する


うにょん

うにょん

うにょん


ずいぶん慣れてきたな

どれ、魔力はどれくらい減ったかな?


【魔力】32/85


こんなもんかと思って魔力値を眺めてると、


【魔法】33/85


あ、1復活した。


時計が無いのでだいたいの感覚でカウントする。


1、2、3、・・・58


【魔力】34/85


だいたい1分で1回復するのか。

魔力ほとんど無くなっても1時間半程で全快するな。これくらいの作業なら休みながらしたらポーション必要ないな。急ぐ必要も無いし。


うにょん

うにょん

うにょん


しばらく休んで


うにょん・・・


1日で完成してしまった。やっぱり同じ作業して慣れてくると魔力をあまり使わずに出来るようだ。


今日は魔法の事2つ発見したな。


ふぅ、と満足してると帰るぞっと呼ばれた。



「おい、坊主。なんだこれ?」


「万が一ゴブリンとかが来ても入って来れないように柵を作ったんだ!」


フフンと自慢気に胸を反らした。


「そりゃいいが、どうやって外に出るんだ?」


あっ


「ったく、柵作るのはいいが出入口くらい必要だろ。一生ここに閉じ籠るつもりか?」


結局4箇所程出入りする扉を付ける事になり、作業する日が伸びた




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