第43話 目からウロコ

練習用の板を壊してしまったので今日の稽古は終了。ダンがまた作ってくれるらしい。まだ小屋は出来ないので、英雄パーティーのアーノルドが来ているからと、3人で森の奥へ探索に出掛けた。



「ダン、スライムはどこで捕まえて来たの?」


「まだもう少し先だな。この辺りからポチポチと魔物が出だすぞ」


いつも狩ってるウサギなどと違うスライムやゴブリンといった元の世界には存在しない魔物がいるらしい。


「ほら、見てみろ」


水溜まりの近くにスライムがいた。


「わ、わ、やっつけないと」


「ゲイル、スライムは森や洞窟の掃除屋なんだ。死にそうなくらい腹が減ってない限り襲ってはこないから無闇に討伐する必要ないんだ」


そうなのか。


そう言われて見てみるとポヨポヨしたまま水溜まりのそばから離れようとしない。


「ぼっちゃん、スライムは乾燥に弱いから水辺にいることが多いぞ」


なるほど、有機物なら何でも食うし、水辺にいるなら浄化槽はうってつけの場所なんだな。トイレに落とされたスライムを見た時にちょっとかわいそうと思ってたけど、そうでもないようで安心した。


「素手で触るなよ。襲う気が無くても溶かされる可能性があるからな」


ちょっと触ろうとして手を出した時にダンから忠告を受けた。触った手を溶かされるのか、スライム恐るべし。



「ボアだ」


アーノルドが俺を手で制止する


「旦那様、どうしやすか」


「この時期のボアは臭くて不味いからな。向こうは気付いてないようだしやり過ごそう」


ボアと呼ばれた魔物はイノシシみたいなやつだ。元の世界のイノシシよりデカいけど。


「ぼっちゃん、ボアは冬前から旨くなるんだ。寒くなったら狩って食おう」


その辺はイノシシと同じだな。ボタン鍋とか食いたいけど味噌が無いしなぁとか思ってたら急に木の上に登れと言われたのでフワフワっと浮いて太めの枝に座る。


アーノルドとダンが見ている方向には汚い緑色した小さめの人のようなヤツがいた。アーノルドがくいっとダンに何かを指示している。


すっと消えるように動くダン。


アーノルドが剣を構えておぉーっと声を出して緑色の前に出ると、ぎぎゃぎゃみたいな声を出してアーノルドを見た瞬間ごろんと頭が落ちた。ダンが後ろから切ったようだ。


「もういいぞ」


アーノルドが俺を呼ぶ。


「ゲイル、こいつがゴブリンだ。ダンの好物ってやつだな」


そう言ってニヤリと笑う。


「勘弁してくだせぇ」


すごく嫌そうな顔をするダン。


「これがゴブリンなんだね」


落ちた頭を見ると醜悪な顔をしている。人ならざるものって感じだ。顔を見ていると嫌悪感がわく。これなら躊躇なく攻撃できそうだ。


「ゴブリンは群れを作る。弱いが数で来られると苦戦するんだ。と言っても連携もくそもなくただ突っ込んでくるだけだから冷静に対処すれば問題無いけどな」


「ぼっちゃん、数が多くても問題無いのはアーノルド様だからだ。冒険者になり立ての新人が怪我したり死んじまうのはゴブリン相手が多いんだ。舐めてかからない方がいいぞ」


そうだよね。窮鼠猫を噛むってやつだ。それに俺にはまだ倒せないだろうし。


「そ、そうだな。舐めない方がいいな」 


慌てて取り繕うアーノルド。


そろそろ皆の所へ戻るか。そう言って歩き方出した時にグギャっと声がした。


「ゲイル、後ろだ」


アーノルドが叫ぶと20m程後ろからゴブリンが走ってきた。


ダンが俺をかばうように抱き寄せた時に思わず火魔法を使った。そしてボッと全身を火に巻かれたゴブリンはその場で倒れた。


既にゴブリンまで到達しかけたアーノルドが驚く。


「熱っ、なんだコイツいきなり燃えやがった」


「ぼ、ぼっちゃん?」


「なんだ、ゲイルがやったのか?」


「ごめん、びっくりして火魔法使っちゃった」


「ファイヤボールでも撃ったのか?」


「旦那様、違ぇやすよ」


「違う?」


ん?という顔をするアーノルド。


「と、取りあえず戻りやしょう」


「そうか、戻るか」



稽古場まで戻ってきた3人をアイナとミーシャが出迎えてくれる


「ずいぶん早かったわね。何かあったの?」


「あぁ、ゴブリンがいた」


「あら、結構遠くまで行ってたのね?ゴブリンくらいなら問題無かったでしょ」


「あぁ、怪我とかはないが・・・」


キョトンとするアイナ。



「おーい、完成したぞ!」


おやっさんが呼びに来た。


「やった!見に行こう」


ミーシャを連れて小屋に向かう。


「わぁ、立派な扉が付いてます」


本当だ。頑丈そうな扉だ。


中に入るとガラスの入ってない窓とトイレの扉も完成していた。ミーシャもキャッキャと喜んで見ている。


「どうだ?気に入ったか?」


親方が聞いてくる。


「さすが親方だよ。見違えちゃった。ありがとう」


ゲイルがお礼を言うと、そうかそうかと笑うミゲル。


そこにアーノルド達もやって来て、小屋の感想を述べる前にドワンに話しかけた。


「ドワン、ちょっとこっちへ来てファイアボールを撃ってみてくれないか?」


「なんじゃい、敵でもいるのか?」


「いや、ちょっと確認したいことがあるんだ」


???顔のドワン


「ゲイルも一緒に来てくれ」



全員でぞろぞろと稽古場に戻る。


なんだよ、小屋が完成した喜びに浸りたかったのに。



アーノルドが広場に丸太を2つ並べる


「ドワン、左側の丸太にファイヤボールを撃ってみてくれ」


「丸太にか?なんのつもりかわからんが・・・」


ぶつぶつと呪文を唱え出す。


あっ、今度は呪文使うんだ?


「ファイヤボールっ!」


そういうとドワンの前に出来た火の玉が丸太に向かって飛んで行った。


火の玉がぶつかりボワッと燃える丸太。それをアイナがぶつぶつと呪文を唱えて水魔法で火を消した。


「つぎ、ゲイル。さっきゴブリンにやったみたいに右の丸太を火魔法で攻撃してみてくれ」


「わかった」


丸太に向かって火魔法を撃つ。


ボワッと燃える丸太。


唖然とするみんな。


あれ?どうした?


「お、おい坊主。無詠唱で魔法使えるのは分かってたが、ボールはどうした?」


ボール?


「これの事?」


ボウッと火の玉を出す。


「そ、それじゃ!さっきは火の玉が見えなかったが・・・」


火の玉を消して答える。


「え?火の玉飛ばす必要あるの?」


「なんじゃと?」


「だって、火の玉飛ばそうと思ったら、火の玉作ってそれを風魔法か念動力使って飛ばさないとダメだよね?面倒臭いし避けられるかもしれないじゃない。避けられたら他が燃えちゃうし」


そういうとミーシャ以外固まってしまった。


「あれ?さっきくらいのスピードなら父さんやダンなら避けれるよね? あれ? 違うの?」


「ぼっちゃん、攻撃の火魔法ってのは、ファイヤボールやファイヤアローを使うもんなんだ。いきなり敵が燃える魔法じゃねぇ・・・」


「え?だって薪燃やす時に火の玉出した?出さずに火を点けてるよね? 何が違うの?」


はっとする5人。目から鱗が落ちたような顔をしている。


「そ、そうか。ワシも火を点ける時にワザワザ火の玉出してるわけじゃねぇ・・・。しかし・・・」


「ね? 要するに敵が燃えればいいわけだよね?薪と一緒だよ。魔力の込め方で威力が変わってくるだけで・・・」


「薪と一緒・・・」 


ぶつぶつと呟くダン。


「坊主を敵に回すといきなり燃やされるってわけか・・・恐ろしい・・・」


ブルッと震えるドワン。



いきなりダンが丸太に向かって念じ始めた


だあっー!

だあっー!


「ダメだ、ぼっちゃん燃えねえぞ」


「俺もやってみる」


アーノルドもやりはじめた。


だあっー!

だあっー!


「くそっ俺も出来ん」


「ワシもやってみるぞ」


今度はドワンだ。


ぶつぶつ・・・


「ファイヤ・・・じゃねぇ」


ぶつぶつ


「ファ・・・」


「ダメじゃ。ファイヤボールが身に染み付いてしまってるわい」


あぁ、そうか。皆火魔法での攻撃はファイヤボールやファイヤアローだってのが強くイメージされてしまってるんだな。


「多分ね、攻撃=ファイヤボールってイメージが強いんだよ。ブレた剣筋のまま長い間素振りを続けたような感じ?」


「わ、ワシのファイヤボールがブレた剣筋と同じ・・・」


あ、追い討ちを掛けてしまった。


「え、英雄パーティーで問題無かったからいいんじゃないかな!? それにもう冒険者引退してるわけだし・・・」


ゲイルは悪いことを言ってしまったと取り繕うとする。


「そういう問題じゃねぇ!」


あ、3人の声が揃った。


なんか重い雰囲気になっちゃったな。もういいや、ミーシャと小屋が完成した喜びを分かち合おう。


「ミーシャ、あと小屋に必要なもの一緒に考えよう」


「はいっ」


無邪気なミーシャにホッとする。


「机とか椅子とかもあればいいですね」


「そうだね。8人くらい座れるテーブルと椅子があるといいかも。なんだかんだで皆来そうだし」


「それと小屋の中にも竈が欲しいです。寒くなったら暖炉がわりにもなりますし」


「お、いいねぇ。竈とオーブンみたいな奴もあればパンも焼けるしね」


「焼きたてのパンをお肉と一緒に食べたいです」


「それいーねぇ!」


二人でキャッキャ言ってると親方が入ってきた。


「お前らは新婚夫婦か。ったく。机と椅子はいいとして、竈やオーブンだとかどこに入れるんだ? 8人テーブルにしたら場所ねーぞ」


あっ


元々ミーシャの安全確保の為の小屋だったからそんなに大きく作ってないんだった。これはキッチンスペースを増築しないとな。


ゲイルは増築構想にふけるのであった。





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