第42話 ゲイル、お前もだ

「ちょっと、アナタ何してくれてんのよっ!」


「ふはははっ 出来る 俺にも出来るぞ」


アイナの苦言にもかかわらず、魔法が使えた事に喜ぶアーノルド。


バコッ


アイナに殴られてやがる。


「びしょびしょです」


ミーシャがメイド服の裾を絞ってる。


「す、すまん」


ここでようやく皆に迷惑を掛けた事に気付いて謝った。


「父さんもダンと一緒で一気に魔力込めすぎなんだよ。闘気は上手くコントロール出来る癖に」


「なかなか水が出なかったからついな」


ボリボリと頭を掻くアーノルド。反応がダンとそっくりだな。親戚とかじゃないだろうな?


いかん、このままだとアイナもミーシャも風邪を引いてしまう。


そうだ!


「母さん、ミーシャこっちに来て」


二人を呼んで並んで立ってもらう。


ドライヤーをイメージして温かい風魔法を・・・


ファ~


お、出た出た。温度はこんなもんだな。


必要ないけどイメージしやすいから二人に両手の手の平を向けて徐々に風を強くしていく。


「わ、わ、温かい風が」


驚くミーシャ。


「ゲイル、凄いわねどんどん乾いていくわ」


ブホーっと風を送り続ける。


「はい、後ろ向いて」


ブホー


「どう?乾いた?」


ミーシャがモジモジしながら、


「ま、まだパン・・・ツが」


中まではまだ乾かんか。ならば下から風が出るイメージで。


「きゃあっ」


スカートが風で捲れ上がろうとするのを必死で押さえるミーシャ。


「こら、女の子にイタズラするもんじゃありません」


そ、そんなつもりじゃないぞ。


「ごめん、ちょっと強すぎたね」


風を弱めてスカートが捲れない程に調整する。


「はわわわわっ」


スカートの中が温風で満たされアワアワするミーシャ。しばらくそのまま温風を送り続ける。


「も、もう大丈夫です」


どうやらパンツも乾いたようだ。


「ぼっちゃんが居ると便利だな」


と、ダンが呟く。人を便利家電のように言わないで欲しい


「じゃ、鹿の解体続けるわよ。ありがとうゲイル」


「どういたしまして」


鹿の解体が再開され、血は俺が洗い流した。続けて薪に火を点けようとすると、


「私もやってみたいです」


そう言ってミーシャが近寄ってきた。


「じゃあお願いできる?」


コクコクとうなずくミーシャ。


薪に向かってじーっと念じ始める。ダンやアーノルドと違ってやり過ぎることは無いだろう。


しばらく待つとポッと火が出た。


「出来ました!」


「よく出来ま・・」


そう言いかけた時に、


「なんじゃぃ。じれってぇな、ほれ」


ボワッと一気に薪が燃えだした。


あっ・・・


呆然とするミーシャ。おやっさんが一気に火力を上げたようだ


「あぁ」


見せ場を取られたミーシャが落ち込む。


「ほ、ほら。火を点けてくれたのはミーシャだから」


慌ててフォローする。


「なんでぃ、誰が火を点けても同じじゃろが」


乙女心を無視するドワン。


ていうかドワンも無詠唱で魔法出来るじゃん。無詠唱魔法ってとんでも無いことじゃなかったのか?


「ドワン、相変わらず炎のコントロールは見事ね」


アイナが誉める。


「ドワーフは火の扱いに長けとるからな。当然じゃ。がーはっはっは」


あ、ドワーフの特性ってことになってるんだ。こりゃ、みんな気付いてないだけで無詠唱魔法って普通にありそうだな。



「そろそろ焼き始めるぞ」


親方も作業を中断してこちらへやって来た。


焼けた肉を女性二人が取り始める。ヤロー連中は骨付きのあばら肉から行くようだ。俺はヒレの柔らかそうな所をもらう。


「鹿もあっさりしてるけど赤身の旨味があるね」


「坊主、まだ分かってねぇな。鹿は旨えがちと物足りねぇんだよ。このあばら周りが一番旨いんじゃ」


口の周りを脂でべとべとにしながらドワンが言う。


「もう良い歳なんだから脂少なめの方がいいんじゃない?」


ちょっと言い返してみる。


「ワシャまだそんな歳じゃないぞ。まだ100歳にもなっとらん!」


まだ100歳? は?ドワーフの寿命ってどれくらいなんだろ?


「ゲイル、ドワーフは長生きなのよ。人間に例えたら私達と同じくらいなものよ。それとも母さんも良い歳と言うことかしら?」


ニッコリ微笑みながらものすごい圧を感じる。


「か、母さんは俺の姉と言ってもおかしくないと思うよ」


目を反らしながらそう言うとほっぺたをつねられた。


「おいひぃ おいひぃです」


ミーシャはとろけるような顔で鹿肉を頬張っている。ほんと肉好きだな。


アーノルドが肉を齧りながら話し出す。


「こうやって外で肉焼いて食ってると冒険者時代を思い出すな」


「あぁ、まったくじゃ。毎日こんな飯じゃったわい」


「あら、こんな上等じゃ無かったわ。表面だけ焦げた生肉とか、口に入れたら痺れる肉とか」


そうだった、そうだったと笑い合う3人。


「ダンも冒険者の時はこんなだった?」


「旦那様達より酷かったんじゃねーかな?駆け出しの頃は食うもんなくてゴブリンも食ったことあるぞ。もう二度と食いたくねーがよ」


「お前さん、ゴブリン食ったのか?」


ミゲルが驚いて聞く。


「もう二度と食わねー。あれほど不味い肉は初めてだった。今思い出しても吐き気がする」


そうか、ゴブリンは絶対食べないようにしよう。


「しかし、こうなんだな・・・。弟子達と食う飯よりずっと旨いな」


ミゲルが言う。


「そりゃそうだ。仲間同士で食う飯が一番旨い。ここに酒があればもっと最高じゃがな」


ドワンはご機嫌でミゲルに答える。


「兄貴もそう思うか。エール持ってくりゃ良かったな」


どわーっはっはっはとドワーフ兄弟が盛り上がる。今の会話はどこが面白いのだろうか?


「ぼっちゃま。ありがとうございます。ミーシャは幸せです」


ホロリと泣きながらお礼を言ってきた。


「ミーシャが喜んでくれたなら頑張ったかいがあったよ」


妻にはしてやれなかったことをここで果たせたようだ。そう思うと、なんとなく胸のシコリがほぐれたような気がした。



さぁ、作業再開するかと、親方とおやっさんが作業に戻った。


他は俺の稽古の見学だ。


「ぼっちゃん、今日から連続切りの稽古をするぞ」


今まで縦切り用、横切り用、斜め切り用と独立した板での稽古。今、目の前にあるのは1枚の板にすべての隙間が開いている


「まずは縦切りしたあとそのまま右斜め上に切り上げてみてくれ」


縦から右斜め上ね。


ヒュパッ ヒュパッ


一発で出来た


「お、一発で成功か。じゃ縦から左斜め上だ」


よし


ヒュパッ ガッ


あ・・・


上手く切り上げられず剣を折ってしまった。


「難しいだろ?何でかわかるか?」


「左斜め上に振り上げるのが難しい」


単独で剣を振ってる時はこれほどやりにくいとは思って無かったけど連続だと難易度が一気に上がる


「ぼっちゃん右利きだろ。剣の持ち方でやり易い方向とやりにくい方向が出来るんだ」


なるほど、利き腕の問題か。


「さ、もう一度」


ヒュパッ ガッ

ヒュパッ ガッ

・・・・・

・・・・・


上手くいかないな。既に何本か剣を折ってしまった。


「よし、俺が手本を見せてやろう」


アーノルドがやって見せてくれるようだ


フンッ ヒュパパッ


「こういう感じだ。わかったか?」


「速すぎてわかんないよ」


良いところを見せようとしてちょっと張り切ってしまったようだ。


「スマン、スマンもう少しスピードを落とすからしっかり見てろ」


ヒュパッ

ヒュパッ


なるほど、縦切り直後の剣の返し方にコツがあるんだな。幅広の剣だと分かりやすい。凄いぞダン、お前の作った木剣!


「わかった。ありがとう」


精神を統一してアーノルドの剣筋をイメージして意識を高めていく。


フンッ


ズバッ

ズバッ!


出来たっ!


「ダン、父さん!出来た・・・・よ?」


呆れた顔で俺を見る二人。


ん?と思ったら隙間とは違ったところがスッパリと切れていた。


「お前、闘気出して切ったら稽古にならんだろ・・・」


あ、無意識に身体強化してたのか。




俺もダンや父さんのこと言えんな・・・


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