第39話 お前は嫁さんか?

早めに森での稽古を切り上げ、また街にやってきた。熱で熔けてしまった鉄網を買う為だ。


「へい、何をお探し・・・で!?」


ん?


「この前買った鉄網と同じやつあるか?」


「あ、あぁ、前にも買ってくれたお客さんで・・・すね!?」


なんかジロジロ見ながら前と同じ大きさの鉄網を持ってきてくれた。



「なぁ、ダン、店の人なんかおかしくなかったか?」


「つ、続けて鉄網買う客が珍しかっただけじゃないか・・・な?」


そうかな?やけにジロジロ見られたけど・・・  それにダンの様子もおかしい。


ま、いいか。



「明日、親方が来てくれたらようやくミーシャを呼べるね」


「そ、そうだな、扉付けてもらって、トイレ作ったら一緒に連れて行こう」


「よし、じゃ2~3日後くらいにはいけそうだね。ミーシャ喜ぶよ」


俺はワクワクしながら屋敷に帰った。


(また街の方からぼっちゃま達が・・・)



「ぼっちゃん、晩飯後にアーノルド様にミーシャを森に連れていく許可もらいに行くからと言っておいてくれ」


「了解。執務室で待ってて貰うように言っておくよ」


頼むなと言いながらダンは自分の部屋へ走り去った。ずいぶん慌ててたな?



「お帰りなさい、ぼっちゃま」


ミーシャが出迎えてくれた。けど、なんか元気ないな。


「ミーシャ、調子悪いの?」


「大丈夫です・・・」


あまり目線を合わせないミーシャ。やっぱり調子悪いのかな?


「もう自分で食堂に行けるから、休んでていいよ」


そう言ったらダッと走り去ってしまった

どうしたんだろ?サラに怒られたのかな?ミーシャの事が気になりながら食堂へ向かう


「ご馳走さまでした」


「ねぇ、ゲイル。その頭はどうしたのかしら?」


アイナが聞いてきた。


ん?頭?


「髪の毛がチリチリになって前髪なくなってるわよ」


そう言われてバッと頭に手をやる。


な、無いっ!


前髪が無くなっているっ!?


あ、ダンの火魔法のせいか。ヒールで火傷は問題無かったけど、髪の毛は焼けてしまったままなんだ。だから、店の人もジロジロ見てたし、ダンの様子もおかしかったんだな。


あの熊ヤロー


「何やってるか知らないけど、ほどほどにしておきなさいよ」


呆れた顔のアイナ。


くっそ、ダンのやつ。明日、毛をむしってやる。あ、そうだ!


「父さん、ダンが報告あるから後で執務室に来るって」


「わかった。誰かダンに飯食い終わった事を伝えておいてくれ」


「ゲイル、あなたはミーシャに前髪整えて貰ってから寝るのよ。みっともないからそのままにしないでね。ミーシャお願いね」


「はい、奥様・・・」


一言もしゃべらないミーシャと部屋に戻って来た。


無言で前髪を整えてくれるミーシャ。


「なぁ、どうしたんだ?やっぱり変だぞ」


無言の状況に耐えられずミーシャに話し掛ける。


「ぼっちゃまは・・・」


ん?


「ぼっちゃまはもう私のこと必要じゃ無いんですか・・・?」


はぁ?何言い出してんだ?


「も、もう必要ないならハッキリ言って下さい」


ポロポロと泣き出すミーシャ。


えっ?えっ?えっ?


「ぼっちゃまにはダンさんがいればそれでいいんですよねっ」


な、な、ななんで?


「ど、どうしたミーシャ?誰かに何か言われたのか?」


「だって、いつも二人だけで・・・」


「いや、森の稽古は危ないからって・・・」


「今日、街に二人で行ってたんじゃないんですか?街だったらわ、私も連れ・・て・・・」


うわぁーんと泣き出すミーシャ。

しまったな、親方に頼みに行ったあと屋敷を素通りしたのを見てたのか。


「あ、あのなミーシャそれには理由が・・・」


「もういいですっ」


泣きながら走り去ろうとするミーシャ。


「待てっ・・・」


これはまずい。俺の足では追い付けない。仕方がない。


「えいっ」


魔法でミーシャを持ち上げ、浮かせてこっちに連れてくる。ベッドにストンと座らせると、ミーシャは驚いて泣き止んだ


「い、今何をしたんですか?」


「話を聞かずに逃げようとするから魔法で捕まえた。驚かせてごめん」


泣き顔と驚いた顔を同時にする人初めて見たな。


「ミーシャ、落ち着いて話を聞いてくれ。お前を仲間外れにしてたわけじゃない」


「だって最近は森ばっかりで・・・、お休みも取らず・・・ 二人だけでお肉も食べて・・・」


やっぱり肉焼いて食ってるのも気になってたのか というかそれがメインじゃないだろうな?


「ぼっちゃまの秘密を知る人が増えるほど私だけ除け者に・・・」


グスグスとまた泣き出す。


「いや、俺はミーシャのために・・・」


「もう、いいですっ」


話を聞こうとしないミーシャにちょっとイラっとし、言い返そうとしたところで昔を思い出した。



ー黒岩啓太の記憶ー


あれは結婚して間もない頃。仕事が忙しくて新婚旅行にも連れて行ってやれなかった妻の為にまとまった休みを取ろうとしていた。


3ヶ月間休みを取らず、仕事を前倒しでこなしてようやく休みが取れそうになった時に妻が切れた。


「なんで、仕事ばっかりなの?結婚した意味無いじゃない!」


妻の怒鳴り声に、連日の深夜までおよぶ残業で疲労のピークが来ていたのと、まとまった休みを取る為に頑張ってたのにという思いが重なり、つい怒鳴り声で言い返してしまった。


「誰の為に休みも取らず仕事してると思ってるんだっ!」


「もういいっ!あなたなんて仕事と結婚すれば良かったのよっ!」


妻と出会ってから初めての大喧嘩だった。


ムキになってしまった俺は結局まとまった休みを取らず、旅行も行かないままだった。


いまだに後悔している思い出だ。



・・・・・


いかん、いかん。あの時ずっと後悔したじゃないか。同じ過ちを繰り返すところだった。


ふぅ、と深呼吸をしてミーシャに話しかける


「ミーシャ、淋しい思いをさせてごめんな。ミーシャが一緒に森へ来れるように準備してたんだ。今日、ダンが父さんにミーシャを森へ連れていく許可を取ってくれる予定だ。多分、今話してると思う。」


「ほ、本当ですか?」


「本当だ。ミーシャを驚かせたくて内緒にしてたんだ、ごめん」


「ぼ、ぼっちゃま・・・」


また泣き出したミーシャ。



落ち着いた頃を見計らって話しかける


「明日ミーシャも一緒に森へ行こう。まだ見せたいもの完成してないけど、明日完成予定だから、一緒に完成パーティーで肉を食おう!」


「はいっ!」


良かった。ミーシャの機嫌は直ったようだ。


しかし、親子や兄妹みたいな関係というより夫婦みたいになってきてしまったな・・・



一方その頃の執務室


「何?それは本当か?」


「へい、旦那様。ぼっちゃんに魔法を教えて貰ってあっしも魔法が使えるようになりやした。ちょいとハシャギ過ぎて失敗しやしたが」


「くそっ、お前だけズルいぞ!明日は俺も行くからな」


ベントの俺も俺も病はアーノルドの遺伝のようだった。

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