第38話燃え上がる熊

ー闘気が魔法だと知った翌日の朝稽古ー


なんとなくアーノルドがそわそわしているような気がする。


「ジョン、今日もま・・、闘気の訓練をするぞ」


アーノルド、今、魔法って言いかけただろ?


こっちを見てコホンっと咳払いするアーノルド。そしてジョンが集中しだすと薄く光り出す。


「そのまま前方へダッシュしてみろ」


びゅっ


いつもよりずっと早いな。もう使いこなし始めてるのか。ジョンはやっぱり才能あるな。他の魔法も教えたらすぐに出来そうだな。


「今度はバックしながら剣を振り上げろ」


追撃を避ける練習かな?


びゅっと後ろに下がり、剣を振る前に光が消えた。


「闘気を纏ったまま同時に2つの事が出来ないと意味無いぞ。やり直し」


考えながら行動すると闘気から意識が抜ける。闘気、移動、剣を振る、この3つを意識せずに出来るように慣れる必要があるんだな。それとアーノルドはジョンの魔力切れるまでやらせるつもりかな?


そう思って見ているとジョンが光らなくなった。本能的に魔力切れになりそうなのを察知したのか?


「よし、もう無理そうだな。今日はダッシュして斬り込み、ダッシュして下がりながら剣を振り上げる事を闘気無しで繰り返せ」


ジョンがアーノルドにダッシュで斬りかかり、アーノルドが反撃をする瞬間に下がりながら剣を振り上げる。この繰り返しを続けた。


そしてこの稽古を横目で見ながら素振りをしていたベントの剣筋はブレていた。



ゲイルとダンは朝飯後に森へ向かう前に住宅街へ。


小屋を作ってることはミーシャに内緒なので、街へ行くことは内緒にして出掛けた。


あ、親方発見!


「親方!もうそろそろ出来上がるから近い内に来てもらえないかな?」


「おう、坊主来たか。いつにする?いつでもいいぞ」


「忙しいのに大丈夫?」


「どこかの奴が考えた道具のおかげでな、他に任せられる仕事が増えたからな」


そう言ってミゲルはニヤリと笑う。


そうか道具が役立ってるのか。嬉しいな。


「じゃあ、明日にでも来てくれる?屋敷に来てくれたら一緒に行こう」


「任せとけ!」


親方はドンっと胸を叩いて親指を立てた。



住宅街を後にし森へと向かう。


(あれ?ぼっちゃまとダンさんが街の方から? 朝から森に行ったんじゃ・・・)


屋敷からミーシャが見ていたことに気が付かなかった二人は屋敷を素通りした



森に着いたらまずは獲物の狩りだ。いつものようにウサギを狩り稽古場に戻る。


ウサギの解体をしながらダンが話し掛けて来た。


「なぁ、ぼっちゃん。俺に魔法を教えてくんねぇか?」


「別にいいけど、ダンは魔法使いたいの?」


「ちょっと欲しい物があってな。魔法が使えたら手に入るかもしれねぇんだ」


「そうなんだ。じゃあやってみよう」


「おぅ、頼むぜ!」


解体が終わり、いつも水で洗う所をダンにやってもらうことにした。


ムムムッ

くっ、はぁはぁはぁ


「ダメだ、ぼっちゃん水なんて出ねぇぞ」


「えっとね、魔法ってイメージが大切なんだ。よく見てて」


そう言って水を出す。


「これをよく覚えててね」


コクりとうなずくダン。


「じゃあ、水が出てた所をイメージしながら闘気を指先に流してみて」


「闘気をか?」


「そう、闘気は魔法だから、イメージを力でなくて水に変えて流すんだよ」


「よし、やってみる」


ムムムッ

ムムムッ


チョロっ


「あ、出たぞ!水が出た」


「そうそう、そのままもっと魔力流して」


じょろじょろじょろ。


「やった、出来たぞ!俺にも魔法が使えたぞぉぉお!」


踊り出す熊。


「ぼっちゃん、やったぜ」


むぎゅううう


俺に抱きつくダン


「いだだだだ・・・っ ダン痛いよ!」


抱き締めるというより熊に羽交い締めにされた感じだ。


「お、おぉ、スマン。あまりにも嬉しくてな」


「良かったけど、自分の力を考えろっ!」


殺されかけた俺はプリプリと怒ったので、ダンがボリボリ頭を掻きながら謝る。


「もういいから、今度は薪に火を点けてみて」


「よし、任せろ!」


薪に向かって魔力を流すダン。


「だぁっー!」


ぼふぅっぅうっん!


「うあっちっちっ」


薪が爆発したような感じで炎が上がった。


「ヒールっ! ヒールっ!!」


あまりの炎の熱さに軽く火傷したので慌ててダンと自分に治癒魔法をかける。


「もぅ、何やってるんだよっ!危ないじゃな・・・いか?」


ゲロゲロゲロ~


「うげぇぎもぢ悪・・・」


ダンが吐いてる。


「ぼ、ぼっちゃん、カ バンにポ ポ」


ゲロゲロゲロ~


カバンにマジックポーションが入ってるらしいので、ポーションをとってダンに飲ませる。


「はぁはぁはぁ、た 助かったぜ。これが魔力切れか。死ぬかと思ったぞ」


念のためにマジックポーションを買っておいたらしい。


「もう、一気に魔力込め過ぎなんだよっ。水出した時はこんなことなかっただろっ」


「す、スマン。ちょいとハシャギ過ぎた。魔法っておっかねぇな」


おっかねぇのはお前だよ、と思いながらバーベキューコンロを見ると薪は全部灰に、鉄網は溶けていた。


「あ~あ、もうこの網使えないじゃん」


「重ね重ねスマン」


しょげながら解体したウサギを棒に差していくダンを横目に小屋を完成させていく。


よし、もうあと少し。


「出来た!」


まんま土で出来たコンテナみたいなものが完成した。


「ダン、小屋完成したから飯食ったら鉄網買いに行こう」


もそもそとウサギを食う二人。ちなみに薪には俺が火を点けた。


そしてこの日、初めてウサギ肉が残ったのだった。

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