第35話命を頂く

ドワンのおやっさんが帰った翌日のダンと森へ向かう途中、


「ダン、大工道具のこと父さんに報告してなかったのなんでだ?」


「おやっさんはアーノルド様の元パーティーメンバーだろ。俺が余計な口を挟むより直接聞いた方がいいと思ってな。上手い具合に話が進んだんだろ?」


やっぱりそうか。ダンのやつ機転も利くよな。


「うん、おやっさんが商会を立ち上げて、そこで発明した事にして商品売り出すことになった」


「で、ぼっちゃんにも金が入るようにしてくれたんだな」


「よく分かるね?」


「そりゃそうさ。おやっさんは賢いが、ずる賢いわけじゃないからな。一番いい方法を見つけてくれるのは当然さ」


「ずいぶんとおやっさんの事を信頼してるんだね」


「まぁな、冒険者時代も世話になったし、冒険者を辞めた時にアーノルド様の所へ行ったらどうだと言ってくれたのもおやっさんなんだ」


「あれ?たまたま募集してたからって言ってなかった?」


「あぁ、たまたま募集してたのは本当だぞ。おやっさんがそのたまたまを知ってたかどうかはわからんがな」


とカッカッカと笑う


そうか、おやっさんがダンの為に裏で動いてくれたのかもしれないな



剣の稽古は順調に進んでおり、縦切りはほぼ完璧に出来るようになってきた。


「よし、次の段階に進む前に飯にするか」


「え?早くない?まだ昼になってないぞ」


「今日からは獲物を狩って食うぞ」


「獲物を狩る?」


「そうだ。この辺には食える奴がいるからな」


そういうと俺を抱き上げ、森の中へ進み出だした。


「獲物って言っても襲って来ないような奴だから心配すんな。ただもしもの為に木の上で見ててくれ」


「俺、木なんて登れないぞ」


「大丈夫だ。ほれ背中に捕まれ」


ダンが俺をおんぶするような形で木をするすると登っていく。そういや熊って木登り得意だっけか。


「絶対落っこちんなよ」


そう言って木の枝に俺を座らせて降りて行った。


近くの茂みをしゃがみながらすすっと器用に進んで行くダン。小さめの弓矢を準備してきたようだ。


シュンッ


いきなり矢を撃ったかと思うとすくっと立ち上がり、矢が飛んでった所に歩きだした。あ、ウサギみたいな奴を持ち上げてこっちに見せてる。


俺を木から下ろしてダンが話かけてくる。


「コイツは臭くなくて鳥みたいな味だからぼっちゃんも食えると思うぞ」


わざわざ俺が食えそうなのを選んでくれたのかな?


「どうやって食べるの?」


「塩振って焼くだけだ。干し肉よりいいだろ?」


確かに干し肉はもう飽きた。



稽古場に戻ってウサギをさばきだそうとしたダンが手を止める。


「しまったな」


「どうしたの?」


「俺としたことが水持ってくんの忘れてたわ」


確かに飲み水くらいしか持って来ていない。


「俺が出そうか?」


「魔法でか?」


「そう。そんなにたくさん出せないかもしれないけどね」


「まぁ、ここなら人も来ないし、問題ないか。ぼっちゃん頼むわ」


うん、とうなずくとウサギをさばきだした。


うっ、ぐ、グロい・・・ 思わず目をそらす。すでに死んでるとはいえ、見た目が可愛いウサギだ。忌避感もある。


「ぼっちゃん、魔物さばくところ見るの初めてか?」


コクコクとうなずく。


「人はな、物を食わなきゃ生きていけねぇ。魔物も食わなきゃ生きていけねぇ。戦いに勝った奴がその命を得るのは生きて行く為の仕組みだ。俺達も強い魔物に食われる事もあるからな。弱肉強食ってやつだ」


それは分かってるけど。


「それにぼっちゃんがこの前食った串肉も誰かがこうやってさばいてくれてたんだぞ。肉食うなら知っといた方がいい」


正論だ。命を頂くありがたさを知るのは必要だな。


「ほれ、わかったら良く見とけ。その内自分でも出来るようにならなきゃな」


「分かった。ちゃんと見とくよ」


ちょっとオエッとしながら解体作業をじっと見る。


「よし、この血を洗い流してくれ」


そう言われて、じょぼじょぼっと水を出す。


「見事なもんだな」


ダンが感心しながら薪に火を点けようとする。


「火も点けるよ」


ボッと薪に火が点く。


「ぼっちゃんがいると便利だな」


カッカッカと笑うダン。食べやすいように部位毎に切って塩を振り、木の枝に差していく。これで火の周りに並べて焼けるのを待つだけだ。


「ここにも竈みたいなものあったら便利だね」


「そうだな。これから獲物さばいて食うことも増えるしな」


何かいい方法ないかな。


「ちょっと試してみるね」


イメージするのはレンガで組まれたバーベキューコンロだ。土で囲いが出来るように盛り上げて固める


盛り上げて固める。

盛り上げて固める。


イメージを強く持って魔力を込める。


ぐっと地面が盛り上がってきて囲いになった。


これを固める固める固める。


イメージしながら魔力をさらに込める


「出来た!」


「ぼっちゃん、こんな事まで出来るのか?」


イメージ通りのバーベキューコンロを見て驚くダン。


「あと、薪を地面から離せて置くように出来たら完璧だな」


あ、そうか。


「分かったけど、もう魔力がやばいかもしれないから、また明日だね」


「おぅ、十分だ。それに今日はもう使わんしな」


そうこうしている内にウサギが焼けた。


「ほんとだ、鳥よりあっさりしてるけど、臭くないし美味しいよ」


「だろ?それに新鮮だし、ぼっちゃんが綺麗に血を洗ってくれたからだな」


二人でウサギ一匹平らげた。


少し休んだ後、稽古再開する。縦切りの次は横切りだ。右から左へ、左から右へと剣を振る


シュパッ

シュパッ


縦切りと同じように隙間に剣を通していく。


それを見たダンが「こりゃ、稽古内容の難易度上げてかにゃならんな」と呟いた。



稽古が終わった帰り道。


「あのコンロで肉焼くのに鉄網あったら便利だよね」


「そうだな、網があれば肉切って乗せるだけでいいからな」


「おやっさん、網作ってくれるかな?」


「さすがに網は普通に売ってるからな、それを買えばいいんじゃないか?」


「じゃあ、明日にでも森へ行くときに網買って持って行こうよ」


「そうしよう。明日から楽しみだな」


明日は何を狩って食おうかと盛り上がる二人であった。

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