第34話ぶちょーが世の中に出る

「おい、坊主。他に何か知ってるもの無いのか?」


「ん?大工道具で?」


「あぁ、まぁそうだな」


少し考えてみる。


「親方、丸太からあの真っ直ぐな板を切り出すのはみんな出来るの?」


「いや、出来るやつ少ないぞ」


「他の人でも線引いてあったら真っ直ぐ切れたりする?」


「線に沿って切るくらいなら出来る奴は多いな」


「線ってどうやって引くの?」


「長い板を切り出せるほどの線を引くのは無理だな」


なるほどね。


「親方、長くても真っ直ぐ線引く道具あるよ」


「何っ?」


「ただ、本当に道具だからおやっさんにお願いするようなものでもないんだ」


「いいからどんなのか言ってみろ」


「おやっさん、刃も使わないやつだよ」


「早く言え」


「こういう道具でね・・・」


墨つぼの仕組みを説明していく。


「他には?」


その他、水平器や差し金、手回しのドリルなんかを説明していった


「むぅ・・・坊主、今度アーノルドを連れて来てくれないか? ・・・・いや、ワシが行くと伝えておいてくれ。3日後の夜だ」


「ドワンのおやっさんが来るの?分かった。母さんにも言っておいた方がいいか?」


「あぁ、アイナにも頼む」


「分かった伝えとくよ」


そう言って後、ドワンの武器屋を後にした。



「なぁ、ダン。父さんまだおやっさん所に顔出してなかったよね?」


「多分な」


「怒ってるのかな?」


「いや、そうじゃなくてぼっちゃんのことだと思うぞ」


「お金の話で?」


「それもあると思うがな」


「そうか、でも、貰えなくてもいいお金だからどうでもいいや」


「ぼっちゃんは欲無いんだな」


「いや、自分で作ったものならガッポリ儲けたいとは思うよ」


そんな話をしながら屋敷に到着した。



夕食時にアーノルドとアイナにドワンが3日後の夜に来ることを伝える。


「あなた、まだドワンの所に顔出してないでしょ? シビレ切らして来るんじゃないの」


「そうかもしれんな」


と、苦笑いするアーノルド。


「そういやドワンの所に何しに行ったんだ?」


「今日、住宅街に行った時に大工の親方と知り合いになったんだ。そしたらその親方がドワンのおやっさんと兄弟って事がわかって、会いに行ったんだよ」


ジョンとベントが居るのでカンナの下りは省いた。


「ドワンに兄弟? そんなのが居たのか。初耳だな」


「凄い久しぶりだったみたいだよ」


「へぇそうなのね。その兄弟の人はこの街に居るのかしら?」


「大工の親方だから、家建てる仕事がある間はいるんじゃないかな?」


「なら、すぐに居なくなることないわね。今度うちも改装とかしてもらおうかしら」



そして3日後ドワンがやってきた。


「おう、アーノルド。どういうこった?」


いきなり喧嘩腰のドワン


「三人目が生まれた事を隠してたわけじゃ・・」


「そんなことはもういい。それよりコレを見てみろ」


ドンっとカンナを机の上に置く


「ん、なんだこれは?ドワン、この道具を売り込みに来たのか?」


「ワシがそんなケチ臭いことするかっ。それよりこれは何に使うかわかるか?」


カンナの他に墨つぼ、差し金、水平器、手回しドリルを次々と机に並べるドワン。


「なんだ、いっぱいもって来たな。これはなんだ?」


「やっぱりお前もわからんか。アイナは分かるか?」


アイナも首を横に振る。


「コイツは坊主が考え出した物を俺が作ったんじゃ」


「坊主?ゲイルのことか?」


「そうだ」


「ゲイルが考え出したってどういうことだ?」


「それを聞きに来たんじゃろうがっ!」



ゲイルは応接室に呼ばれた。


「ゲイル、なんで黙ってたの?」


「何を?」


「これのことよ」


ドワンが持ってきた道具を並べられる。


「おやっさん!もう出来たの?すっげぇ。この水平器とか完璧じゃないか。俺も一つ欲しい」


「おっ、そんなに良く出来とるか?そうかそうか」


俺に褒められて、がっはっはっはと嬉しそうに大笑いするドワン。


「ちょっとあなた達、喜んでる場合じゃないでしょ」


「そうだ、ゲイル。道具のことなんで言わなかったんだ?」


「え、だって、ジョンとベントが居たから。正確にはベントが居たからと言った方が正しいかな」


・・・


「そうか。聞かれたくなかったんだな」


「別に隠すつもりもないんだけど、ベントは色々と気にしそうだから知らない方がいいかなぁって」


「そうか、隠してたわけじゃないんだな。ダンからも報告がなかったが・・・」


「ドワンのおやっさんが直接来るって言ったから余計な口出ししない方がいいと思ったんじゃないかな?」


「分かった。で、この道具のことなんだが、どこでこんなの思い付いたんだ?」


ん~、前の世界ことは言えないし、めぐみのせいにしておくか。


「え~~、お告げのことはドワンのおやっさんにも聞いて貰った方がいいのかな?」


「お告げが関係してくるのか?」


顔を曇らせるアーノルド。


「お告げってなんじゃ?」


「あなた、ドワンには聞いといて貰った方がいいんじゃないかしら?これからのこともあるから・・・」


「そうだな、ドワンなら大丈夫だろうから説明しておくか」


「なんか複雑な事情があるようじゃな」



こうして、神様のお告げや魔法の才能があることをアーノルドがドワンに話した。


「なんとも信じ難い話じゃが、坊主には特別な何かを感じたからの。信じるしかあるまい」


目を瞑りながらうなずくドワン


「ゲイル、それでこの道具はお告げがあったのかしら?」


「お告げがあったと言うより、こういう物があると世の中の役に立つんじゃないかとひらめきがある感じかな」


何でもお告げのせいにしておくと便利なのだ。


「坊主、これからもそのひらめきは続くのか?」


「わかんないけど、なんかひらめいたらおやっさんに作って貰えると嬉しいな」


「おうアーノルド、これからどうするんじゃ?作るのはいいが、これからもっと大事になるぞ」


「そうだな、アイナはどう思う?」


「隠せるなら隠しておきたいけど、世の中の役に立つものなのでしょう?」


「アーノルド、アイナ。ワシが隠れ蓑になってやる。ワシの名前で商会を立ち上げるから、そこで発明したことにしておくのはどうじゃろ?もちろん取り分は坊主に渡すがな」


「いいのかドワン?」


「あぁ、構わん。坊主が考えた物を作るのはおもしろいからな」


「ドワンが武器以外に興味を持つなんて考えられないわ・・・」


「がっはっは!誰も作った事が無いものを一番に作れるんじゃ、やりがいがあるわい」


「そう言ってくれると助かる」


「その代わり売値はワシが決めるぞ。坊主の取り分はワシが決めた売値の1割じゃ。他の奴らが作り出していくらで売ろうが一つ当たりその金額をもらうのでいいか?」


「そのへんは任せるが、結構な金額になりそうだな」


「あぁ、坊主にガバガバ金が入るぞ。その金をお前らが取り上げんなよ」


そう言ってニッと笑うドワン。


「子供の金取り上げるわけないだろっ」


笑い返すアーノルド。


「じゃあ、決まりじゃ。商会の名前はぶちょー商会じゃ」


「ぶ、ぶちょー商会?」


な、なんでドワンが部長のことを・・・


「武器屋が作るちょーすごい道具を扱う商会。略してぶちょー商会じゃ!」


なんじゃ、そら?


「ぶちょー商会ね、いい名前だ」


え?いい名前なんだ・・・


「ぶちょー商会ね、確かにいいわ」


アイナまで・・・


「じゃ、ワシは明日にでも商会と道具の登録をしておくから坊主もひらめいた道具を遠慮なく言いにこい。完璧に作ってやる」


こうしてゲイルの商会が出来たのだった。

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