第33話特許料

「待った 待った 待ったっ!」


「なんじゃい?」


「俺、まだそんなに早く歩けないって」


「むっ、そうか。それじゃワシがおぶってやる」


待てと言ってるのに親方が背中に無理矢理乗せて走り出す。


「待てってば!」


ぎゅっ


「がっ」


言うことを聞かないので後ろから首絞めてやった。


ゴホッゴホッ


「な、何するんじゃいっ!」


「だから待てって言ってるだろ」


「まぁ、まぁ。ほら、親方も落ち着いて」


ダンがなだめる。


「カンナ作るのに木とか必要なんだよ」


「なんじゃ、それを早く言え!」


「いきなり引っ張ってくからそんな暇無かっただろっ!」


ちょっと怒鳴る俺。それを見てミーシャがおろおろしている。


「ほら、ミーシくャも怖がってるじゃないか」


「す、スマン」


2歳児に怒られるドワーフってのもシュールだな・・・


「えっと、親方、これくらいの木を何種類かと木をくり貫く道具はある?」


「ノミとかか?」


あ、ノミはあるんだ。


「そうそう、ノミも何種類か持ってきて」


「分かった。これでカンナとやらが作れるんだな?」


「ドワンのおやっさんが作ってくれたらね」


「よし、持ってくるぜ」


親方が作業場に走って行った。


「なぁ、ダン。ドワーフってみんなあんなんなのか?」


「そうだな、だいたいあんなだ」


職人って奴か・・・

慣れるしかないな


「ぼっちゃま、こ、これからどこに行くんですか?」


「スマン、話の流れで西側にある武器屋に行くことになった。ミーシャはどうする?途中で屋敷の前を通るから先に帰るか?」


「えっと・・・」


「ぼっちゃん、飯どうするんだ?屋敷に帰ってもミーシャの昼飯無いぞ」


「あ、そうか。ごめんミーシャ。飯の事を忘れてた。じゃあ一緒に行って向こうでなんか食べよう」


「はいっ」


ミーシャは外で食べるの楽しみしてたからな。ダンに言われなければ帰してしまうとこだった。


「持って来たぞ。こんなもんでいいか?一応ノコギリもあるぞ」


「バッチリだよ」


「じゃ、行くぞ」


やや早歩きでドワンの店に向かう




店に着くなりバーンッと店のドアを開ける親方。


「ここか!おいっドワンいるか?」


「なんだ騒がしいな、うるさいぞ!誰じゃ・・・ お、お前・・・ ミ、ミゲルか?」


「おぅ、兄貴久しぶりだな」


「ミゲルじゃねーか、どうしたんだおいっ」


へぇ親方はミゲルって名前なんだ。


「よ、おやっさん」


「お、ダンに坊主じゃねーか、それにその女の子は?」


「ミーシャと言います。ぼっちゃまのメイドです」


「ずいぶんと可愛らしい嬢ちゃんじゃねーか、坊主やるな」


「ミーシャは可愛いだろ?やらんぞ」


「かぁーっ、ませてやがる。まぁいいわい。どうした妙なメンツで来やがって」


「おやっさんにちょっとお願いがあって・・・」


ダンが説明しかけると親方ががなりだした。


「おい、兄貴、カンナだ、カンナを作ってくれ!」


「おいおいおい、なんだ藪から棒に。それにカンナってどんな武器だ?」


「ちょっとちょっと親方、ドワンのおやっさんはカンナとか知らないから」


「おっと、そうだな」


「もう、俺が説明するから」


「おおお、そうか頼む」


「ドワンのおやっさん、ごめん、カンナって武器じゃないんだ」


「武器じゃない?」


途端に不機嫌そうな顔をするおやっさん


「大工道具なんだけど・・・」


「かぁーっ!?何言ってやがるんだ、ここは武器屋だぞ、大工道具が欲しけりゃ道具屋に行けってんだ!」


おやっさん激おこ。


「おやっさん、ちょっと落ち着いてぼっちゃんの話を聞いてやってくれないか?」


「話は終わりだ帰った帰った!」


「あ、兄貴・・・」


「そっか、おやっさんには作れないか・・・。ごめんね、親方。おやっさん作れないって」


「何ぃ? 作れないだと?」


「おやっさん、邪魔して悪かったね。作れないもの頼もうとして」


「ワシに作れないものだと?フザケやがって!!」


「だって作れないんでしょ?カンナ」


「なんだとぉーっ? どんなものか言ってみろ!」


チョロい・・・


「ダン、さっきやったみたいに木を削ってみて」


ダンがしゅるしゅるしゅるっと木を削る


「今、ダンに剣で削ってもらったんだけど、こうやって木の表面を削る為の道具を作ってもらいたいんだ」


「兄貴、この木を見てくれよ」


削られた表面をマジマジと見つめるおやっさん


「これ、削る技術も必要なんだけど、何よりも重要なのが歪みが無くて鋭い刃なんだよ。でもおやっさん無理みたいだから諦めるよ。親方、期待させてゴメンね。もう帰ろう」






「作れるぞ」


「え?」


「作れるって言ったんだ」


「ホント?おやっさん?」


「あぁ、刃が重要なんだろ?」


「そうそう、下手な刃だと綺麗に削れないんだよ」


「ったく、坊主は末恐ろしいな。まんまと乗せやがって」


「いやぁ、親方が求めるような刃を持つ道具はおやっさんしか作れないと思って」


「コイツ調子良いこと抜かしやがって。さっさとどんな道具か教えやがれ」


早速、板切れにカンナの絵と仕組みを描いていく。


「この刃は固定するのか?」


「いや、この刃も押さえる金板も全部外せるようにして、この木からどれだけ刃を出すかで木の削れる厚さが変わるんだ。良い道具と大工の腕があれば木が透けて見えるほど薄く削れるんだ」


「向こうが透けて見える?」


「そうだよ、それくらい綺麗に削れたら木の表面がつるつるになって水も弾く」


「水を弾くか・・・。おいミゲル、この木を絵の通りにくり貫け。道具持ってきてるんだろ?」


「ああ、兄貴持って来てるぞ」


「あ、親方、全部くり貫いたらダメだよ」


ここはこうなって、こうやって・・・


絵に補足を付けて説明をする。


「土台は出来たな。これに刃と金板あわせりゃいいんだな?」


「そう、ここに刃をはめて金板でどれだけ刃先を出すか調節出来るようにして」


「分かった。試作品を作っておくから飯でも食ってこい」


え?


「お前らが飯食ってる間に作っといてやると言ってるんだ。早くいけ」


ダンとミーシャの3人で屋台のあるところまで来た。親方のミゲルはドワンのおやっさんとこで出来上がりを待つようだ。


「ダン、飯食ってる間に出来るもんなのか?」


「小さな刃と金板くらいだからな、おやっさんなら作れるんじゃないか」


「へぇ凄いな」


「俺はぼっちゃんの方が凄いと思ったがな」


「ドワンさんとのやり取り怖かったです」


「ミーシャには刺激が強かったな。やっぱり女の子が来る場所じゃないな」


そんな話をしながら屋台前をうろつく。


「ぼっちゃん、羊肉ダメって言ってたな。何がダメなんだ?」


「あの独特の臭いがダメなんだよ」


「羊美味しいのに・・・」


ミーシャが呟く。


「じゃあ、あの肉食ってみるか。ダメだったら俺が残り食ってやるから」


「分かった」


「オヤジ、とりあえず3本くれ」


「あいよ、銅貨3枚だ」


串1本100円か。安いな。何の肉だろう?


「ほれ、ぼっちゃん。これを食ってみろ」


口に突っ込まれることなく串を渡される。


むぐむぐむぐ


「旨い!」


「おいひいでふ・・・」


ミーシャ、食いながら話すとみっともないぞ。


「そうか、これは食えるか」


「なんの肉?」


「ビッグカウという大型魔物の肉だ。冒険者にも人気の串焼きだぞ」


ま、魔物?いや、この世界は羊や鳥も魔物だったな。


ん?カウ?牛肉か?そういや塩カルビだなこれ。


「ダン、これ旨いよ。鳥と同じくらい好きだ」


「そうか、じゃ追加でたのむか。オヤジあと20本くれ」


結局、ダンのおごりで俺とミーシャは串2本。ダンが合計9本食った。結構デカイ串肉なんだけどな・・・

残りの10本はおやっさん達へのお土産らしい。相変わらず気の利くやつだ。


串肉でお腹いっぱいになったお腹をさすりながら、おやっさんの店に戻る


「おぅ、戻ったか。出来てるぞ」


早ぇ、もう出来たのか?


出来上がったばかりの試作品を見てみる

元いた世界で見たのとそっくりだ


「良さそうだね。親方試してみて」


おやっさんが2m程の長さの木材を用意してくれてある。


「じゃ、親方、カンナから刃が出てるかどうかわからないくらいに調節してみて」


カンナの後ろを軽く叩いて刃の位置を調節してもらう。


「木材の上にカンナを置いて滑らせるように動かしてみて。おやっさんが打った刃なら力いらないと思うから」


「よし、任せとけ!」


しゅるしゅるしゅるっ~


カンナから極薄の削りカスが流れるように出てくる。おぉ、すげぇ一発であんな薄さで成功するとはさすが一流職人。


「上手く行ったみたいだな」


「おやっさん、やっぱり凄いよ。このカンナ芸術品だよ!」


「へっ、当たり前だ。刃物を打たせたら右に出るもんおらんわい」


おやっさんも上機嫌だ。


「兄貴、見てみろよこの木の美しさ」


「あぁ、こんな美しい木材見たことねぇ。おいミゲル、近い内にカンナの土台100個ばかし作って持ってこい」


「100個・・・?」


「お前、これからカンナ使って行くんだろ?それ見た大工はどうする?」


「あっ!」


「だろ?」


「おい坊主、このカンナ銀貨3枚で売るから取り分は銅板3枚でいいか?」


取り分?


「どういうこと?」


「あぁ、知らねぇのか。新しい道具は考えた奴が登録することで、売れた分だけ取り分貰えるんだよ。アイデア料って奴だ」


特許みたいなもんか。


「登録は坊主の名前でしておくのと、ワシがしておいて取り分を坊主に渡すのとどっちがいい?」


元々俺が考えたものでもないのに金もらうのもなぁ・・・


「おやっさん、別に取り分いらないよ」


「そういう訳にはいかん。これは仕事だ。貰うもんはきっちり貰え」


そういうもんか。


「分かった。名前はおやっさんでお願いしていいの?」


「坊主の名前だといらんことに巻き込まれるだろ?ワシの名前でやっておくから時々金取りにこい」


「おやっさん、何もかもありがとう」


「いや、ワシも十分儲けさせてもらうから気にすんな」


「坊主、カンナ教えてくれてありがとうな。これからもっと良い家バンバン作るからな。それにお前が家建てる時になったら遠慮無く言え。最高の家を建ててやる!」


「まだまだ先だと思うけどその時は宜しくね」


こうして思わぬ所で不労所得を得ることになった2歳児であった。


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