第32話新商品の予感

森での稽古が終わり、帰り道でダンに尋ねる。


「なぁ、ベントに剣がぶれる理由を教えてやらないのか?」


「俺はぼっちゃん担当だからな。余計な口出しはしない」


「いや、そうだけどさ」


「アーノルド様もとっくに気付いてると思うぞ」


「そうなの?じゃあなんで教えてやらないんだろ?」


「ジョンがよく言ってるからじゃないか?お前は他に気を取られ過ぎだ、己を磨けと」


「確かにジョンにバシッと言われてるな」


「だろ? そこにアーノルド様まで心の弱さを指摘したらベントの心の逃げ場が無くなる」


「心の逃げ場?」


「あぁ、そうだ。耳の痛い言葉は人を成長させることもあるし、傷付けることもある。自分の弱い部分に触れられた時、それを受け止めるには強い心が必要なんだ」


「それでベントの心はそこまで強くないと・・・」


「そうだな、まだ子供だし出来ない事を色々な所から指摘されるのは心が折れるか下手すりゃ壊れる。アーノルド様の何も言わない優しさがベントの心を守ってるんだ」


「そうか、何にもしてやれないか」


「そうだな、ぼっちゃんが何かすると余計にこじれるぞ」


ダンと話しながら会社員時代を思いだしていた。頑張ってるのになかなか成果が出ない社員をガンガン怒鳴って潰していく奴が上役にいたことを。


ゲイルはベントに何もしてやれないこの小さな身体と年齢に物足りなさを感じるのであった。



それから1ヶ月ほど過ぎた朝稽古に変化があった。


「ジョン、今日からこれを着けて稽古しろ」


アーノルドが騎士見習い用の鎧をジョンに渡す。


「騎士学校の試験は学問より剣の実力で合否が決まる。試験の時は鎧を着けるから今から慣れろ」


「はいっ!ありがとうございます父上!」


ジョンめっちゃ嬉しそうだな。


「ぼ、僕も鎧着てみたいな・・・」


「ベント、お前は騎士学校を受験するかどうかまだわからんだろ?」


「そ、そうだけど・・・」


「お前も来年騎士学校を受けるつもりになったら用意してやるから」


「はい・・・」


やっぱりベントは人の事が気になるんだな。



さすがに着なれない鎧を着けたジョンの動きは悪く、ベントに2本取られていた。ベントは2本取れた事にまんざらでも無いようで笑顔になっていた。



朝食後


「最近、稽古ばっかりだから、久々に町に散策に行こう」とダンが言い出した。


「はい!私も行きたいですっ」


稽古が始まってからミーシャを放置気味だったからな。そうしよう。


「じゃあ、昼飯も屋台がいいな」


剣の稽古の時はパンと干し肉といった冒険者スタイルだったのでいい加減飽きていたからちょうどいい。


「わかりました!お昼ご飯いらないって言ってきます」


嬉しそうにミーシャが出ていった



「さて、今日はどこへ行く?」


「まだ見てない住宅街とか見てみたいな」


「お、そうか、ならそうしよう」


東西に伸びるメインストリートから、人の住む区域に歩いていく。この街は父さん達が領主になってからどんどん住人が増えている。住宅街も建築ラッシュだ。


「あちこちで住宅建ててるね」


「そうだな、土地は早いもの勝ちだから我先に建ててるんだ」


「早いもの勝ち?」


「そうだ。商店街とかは領主様の土地として決めてあるんだが、住宅街は家を建てた奴に権利があるんだ」


「だったら土地広く確保した方が得だね」


「それがそうでもなくてな、土地の広さに応じて税金が掛かるんだよ。それが払えないと家が没収されちまう」


「なるほど、自分の収入にあった家にするしかないんだ」


「そういうこった。領地も同じだぞ」


「領地も?」


「そうだ、ここからここまでが領地とハッキリ決まってないんだ」


「どういうこと?」


「領地も獲ったもん勝ちだな」


「じゃあどんどん広げてもいいの?」


「ああそうだ。しかし王都への税金が上がる」


「なんだ、住宅街と同じ原理か」


「そうだ。国もそうなんだぞ」


「え?国って?」


「ここが俺の国だ!って言えば国だ」


「・・・そうなの?」


「ただ、せっかく開発しても他の国から攻められて奪われるはめになるけどな」


「今の国もそうやって出来てきたんだ。大昔は小さな国がたくさんあってな、少しずつ力のあるところに飲み込まれて大きな国になっていったらしい」


ほう、戦国時代みたいなもんか


「ぼっちゃんも大きくなったら自分の国作ってみたらどうだ。但し自分で国を守れる力もいるがな」


そう言いながらカッカッカといつものように笑うダン。


「やだよ面倒臭い」


そんな話をしていると建築中の家から大声が聞こえてくる


「バカヤロー、こっちの木はまだ切るなって言っただろうがっ!」


「す、スミマセン親方」


親方と呼ばれるちっこいガチムチのおっさんが怒鳴っている


「なんじゃい坊主、ここは子供の遊び場じゃねーぞっ」


俺まで怒鳴られた。ちょっと見てただけじゃないか。


「すまないな親方、街中を見学してただけなんだ、邪魔しないからちょっと見てていいか?」


「なんじゃ、お前の子供たちか?」


「私は子供じゃありませんっ!ぼっちゃまのメイドですっ」


フンスっとミーシャが答える。


「ぼっちゃんにメイドだと?なんじゃ、お前ら貴族かなんかか?」


「あぁ、俺は違うがこのぼっちゃんは領主様の息子だ。いま街中を見て回ってる」


「ちっ、領主かなんだか知らねーが怪我しても知らんぞ」


「スマンな邪魔せずに見てるよ」


コソッ

(すまねーなぼっちゃん。気を悪くしないでくれ、ドワーフはみんなあんな感じでな。悪いやつらじゃないんだ)


確かにドワンのおやっさんもあんなんだったな。


分かったと頷く。


しばらく見てると親方が丸太からノコギリで板を切り出す。手作業であんなに真っ直ぐな板を切り出せるのか、凄いな。


「あんなに綺麗に切り出せるんだね。凄いや」と思わず呟く


「なんだ坊主、分かるのか?というかお前しゃべれるのか?まだ2歳くらいだろ?」


「あぁ、ぼっちゃんはすっごいんだ普通にしゃべれるぞ」


「そうか、そりゃすげぇな。それに坊主、この板の美しさがわかるのか?」


「凄いよ。あんなスピードでこんな完璧な板を切り出せるなんて」


「へっへっへ、坊主お前よくわかってんな、大工界で一番の腕前ってやつよ。おい、お前ら板に砂かけろ」


そういわれた大工見習いであろう人達が切り出された板に砂をかけてこすり出した。


「何してんの?」


「こいつぁな、板の表面を滑らかにしてやるんだ、そしたら手触りもよくなるし長持ちもする」


ヤスリがけの代わりか。


「こすったあと、何か塗るの?」


「いや、なんも塗らんぞ」


ペンキやニスを塗らないのか。


「これ、外壁用の板?」


「そうだ」


「板に水染み込まないの?」


「木に水が染み込むのは仕方がないだろうが」


ふーん。


「カンナ掛けしたら水弾くのに」


ぽそっと呟く。


そう、木に塗装する時はヤスリを、そのまま使うと時はカンナで表面を削って滑らかにすることで木が長持ちするのだ。


「カンナ掛けってなんだ?」


あ、聞こえてた。カンナがないのか?いや、単語が違うのかもしれん


「ダン、その剣で今からいう通りにしてみてくれる?」


親方に余ってる木切れを貰ってダンに渡す。


「剣なんぞ出して何するつもりだ?」


頭を傾ける親方。


「ダン、木切れを台に置いたら剣で表面を薄く削ってみて」


「刃を寝かせて木の表面を平行に滑らせて・・・そうそう上手い!」


しゅるしゅるしゅるっと木切れの表面が削れていった


削った断面を親方に見せる


「こ、これは・・・」


「こうすると水もはじくよ。ずっとじゃないけどね」


「ぼ、坊主、どこでこんなやり方を・・・」


やべ、この世界やっぱりカンナ掛けって無かったのか。どう説明しようか・・・


つるつるになった木をあちこちに傾けながら見ている親方。


「な、ぼっちゃんはすっごいんだよ」


すっごいで済ませられるのか?


「そうか、すっごいのか・・・」


あ、納得した。


この世界ごまかすの楽勝だな。


「坊主、このやり方教えてくんねーか?」


「別にいいけど、本当は剣じゃなくてカンナってのを使うんだ」


「それは今無いのか?」


「作ってもらわないと無いよ」


「いつ出来る?」


いつ出来るって・・・


「なぁ、ダン、ドワン作ってくれるかな?もの自体は単純なものだから簡単に出来ると思うけど」


「おやっさん、がんこだからなぁ、武器以外作ってくれるかどうかは・・・」


「おい、お前ら。今ドワンって言ったか?」


「あぁ、武器屋のおやっさんのドワンが作れるかもしれんが、作ってくれないかもしれん」


「そうか、ドワンの野郎、ここに居やがったのか」


「親方、知り合いか?」


「そうだドワンは俺の兄貴だ!」


兄貴?


「よしっ、今から行くぞ」


ちょっちょっちょっ


親方に引きずられるように武器屋に向かうことになってしまった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る