第31話閑話 ぶちょーの葬式
部長のお通夜会場
「お、おぐさん、ず、ずみません、俺が俺が飲みに誘っていなげればごんなごどに~」
同期で子会社の社長をしている広瀬が号泣しながら謝り続けている。
「広瀬さんのせいではありませんわ。たまに飲みに行ったぐらいで人が死ぬもんですか。あの人の不摂生が原因ですよ」
涙ぐみながら妻が答える。
「それにあの人、凄く上機嫌で帰ってきましたもの。最後に飲めたのが広瀬さんで良かったと思ってます」
「お、奥さん・・・」
「わ、私があの晩、イビキがうるさいからと一緒にいなかったのが・・・、あなたごめんなさい・・・」
「親父、あっけなく逝っちまったな」
長男が次男と三男に話しかける。
「お前ら親父のスマホ見たか?」
「あぁ、見た。親父のやつ死ぬ間際に何やってんだよ。あんなことする間があったら助けを呼べただろうに」
そう答える次男。
「何かしてあったの?」
事情をしらない三男。
「スマホのロック解除して、個人口座の暗証番号をメモに書いてあった」
「なんでそんな事を?」
「多分、本人が死ぬと口座凍結されて、預金引き出すのに時間かかるようになるから、先に出せるようにしたんじゃないかな?」
「そんなことを・・・ 他には何か書いてないの?」
「後は遺言みたいなものがあったけど、三人揃ってから見ようと思ってな、まだ見てない」
「じゃあ、いま見てみる?」
「そうだな・・・このメモだ」
スマホに残されたメモを見る三人
息子達へ
退職金は母さんに全額
家は母さんの面倒を見てくれるやつに
あとは適当に分けてくれ。母さんをよろしく
「なんだよ、これ、業務連絡みたいじゃんか」
泣き笑いしながらメモを読む三人であった。
葬式当日
「友人代表の人って、一番大きい子会社の社長ですよね」
部下であった新入社員が課長に尋ねる。
「あぁ、部長の同期の広瀬社長だ」
「それに本社の会長や社長まで来られてますね」
「部長は有名人だったしな」
「どういう事ですか?課長」
「お前ら、この会社がめちゃくちゃブラック企業だったこと知ってるか?」
「いえ。そうなんですか?」
「部長がな、入社した時はサービス残業当たり前、休日って何? みたいな状態だったらしいぞ。時給換算したら300円無かったとか言ってたからな」
「そんな会社許されるんですか?」
「時代が違うからな。そういう会社が多かったのも事実だ。うちはとくに酷かったみたいだが」
「・・・」
「あと、この会社の評価制度は結構公平だろ?」
「これが当たり前かと・・・」
「そうだな。でも昔は違ってな。仕事が出来る出来ないとか関係なく、上司に気に入られる奴や上役と同じ学校を出た奴が出世したんだ」
「酷いですね・・・」
「それを部長がサービス残業は元より残業そのものを減らしてな、頑張った奴がキチンと評価されるように変えて行ったんだ」
「そんな事が出来るんですか?」
「当時は死ぬほど揉めたらしいぞ。部長はそんな上役達に嫌われてな、赤字部門にばっかり飛ばされてた」
「・・・」
「でもな、これでは会社もダメになるし、社員もどんどん腐っていくと社長に直談判して改善をして行ったんだ」
「そんな事が・・・」
「赤字部門に行っては腐ってる社員の面倒見て建て直しを繰り返し、そして業績を上げ、陽の目を見ない社員を評価されるようにしていったんだよ」
「・・・」
「俺も面倒を見て貰った一人だな」
「課長も・・・」
「おい柴田、お前プロジェクトリーダーの打診が部長からあっただろ?」
「はい、断ってしまいましたが」
「部長はな、お前のことを評価してたんだ。しかし、お前みたいなタイプの奴を誰もが理解してくれるとは限らん」
「はい・・・」
「いまだに仕事も出来んのに上役に気に入られてただけで役職についてる人が残ってるんだよ。部長が異動になった後にそんな奴が上司にきたらどうなると思う?」
「部長が異動に?」
「あぁ、今年か来年には異動になってたと思う。その前にお前の評価を上げて自分で仕事が出来るポジションに上げたかったんだよ」
「そんな事は一言も・・・」
「仕事の出来ない上司が来たら、お前みたいなタイプは評価されない可能性が高い」
「・・・」
「まぁ、お前は評価とか気にしないかもしれないが、なんも仕事出来んやつが訳のわからんことをアレコレ口出してくるのは確実だな。そんなことされたらムカつくだろ?」
「はい」
「部長は細かい事を指図せずに仕事を任せて、なんかあったらケツ拭いてやるってスタイルなんだ。成功しても失敗してもその方が伸びる奴が多いんだと言ってたな」
「はい、アドバイスをくれたことはありますが、途中で何かおっしゃる事はありませんでした・・・」
「新入社員のお前ら、部長に飯に誘われなかったか?」
「はい・・・」
「行かなかったのはなんか用事でもあったのか?」
「いえ、残業代は出ますかと尋ねたら出ないと言われたので・・・」
「かぁーっ、お前らそんな事言ったのか?」
「は、はい・・・」
「それで部長落ち込んでたんだな・・・」
「部長の一番下のお子さんがお前らと同じ新入社員なんだよ。そんな子供みたいなお前らが会社で暗い顔してたから心配になって話を聞いてやろうと思ってたんじゃないか?」
「・・・・」
「普通、部長クラスの人が新入社員を心配して飯誘うなんて考えられんぞ。それをお前らは・・・」
「いや、俺のせいか・・・。俺が何も出来てないから部長は・・・代わりに・・・ まだケツ拭いてもらってたんですね・・・俺は」
部長の想いはそれぞれの心にくさびを打つのであった
その後、どう変わって行くのか部長は知らないまま異世界に異動して行ったのである。
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