第30話心の鏡

「さ、もう少し話を聞かせてくれるかしら」


しばらく親子で抱き合った後に話が再開された。


「ゲイル、あなたは話せる以外に魔法も使えるのよね!?」


「はい、まだどんなことが出来るかよくわからないけど」


「今まで何が出来たんだ?」


「水が出せるのと手を使わずに物を動かせること、自分を浮き上がらせること、それと治癒魔法が出来ました」


「水魔法と物を動かしたり浮いたりするのは念動力かしら?それは誰かが使ってるところを見たの?」


「いえ、お告げで魔法の才能があると言われたので、とりあえず水が出るかなと思ったら出ました」


「あの水びたしで気を失った時ね?」


「そうです」


「やっぱりあの時気を失ったのは魔力切れだったのね・・・」


「浮いてみたとはなんだ?」


「ドアを開けたくてドアノブまで届けと思ったら浮きました」


「そうか、どれも無詠唱なんだな」


コクコクと頷く。


「ミーシャも念じただけで火が出せるんだな?」


「はい」


「魔法は呪文を通じて神様の力を借りるものだと教わったけど間違いなのかもしれないわね」


「あぁ、俺は魔法を使えないからさっぱりわからんがな。ミグルにでも聞いてみた方がいいかもしれん」


「ミグルに?あの娘に聞くの問題ないかしら?」


「アイツはアレだが、魔法に関しては一級品だからな。ジョンが騎士学校の試験を受ける時にでも会ってくるよ」


「そう、分かったわ。それじゃ私も行った方がいいわね」


「そうだな、アイナが聞いた方がいいかもしれないな」


「よし、聞きたいことはこれぐらいだ。それでこれからの事なんだが・・・」


これからのこと・・・ごくっ


「今まで通りにしてもらう」


(やった!)


「但し、許可なく人前で魔法を使わないと約束してくれ。ゲイルだけでなくミーシャもな」


ミーシャも?


「無詠唱で魔法が使えるってことは前代未聞なんだ。それにこんな小さい子供が使える事を知られたらどんな騒ぎになるか想像もつかん。ミーシャは女の子だから事件に巻き込まれるのも心配だしな」


「はい、わかりました旦那様」


「ゲイルは剣の稽古を続けて少しでも早く自分を守る術を身に付けてくれ。何かあったときに一瞬でも防御出来たら俺やダンがなんとか出来る確率が上がる」


「分かった。頑張るよ」


「頼むぞダン」


「わかりやした」


「以上で話は終わりだ。また何か変わった事があれば話をしよう」


思ったより簡単に話が終わり解散となった



一旦3人で部屋に戻る


「ダンありがとうな。心のつっかえが取れたよ」


「良かったなぼっちゃん、さっそく剣の稽古に向かうか」


ダンと話してるとミーシャがグスグスと泣いている


「ミーシャ、母さん怒ってなかっただろ?そんなに泣くな」


「いえ、ち ち 違うんです」


「ほっとして泣いてるのか?」


「ぼっちゃまが私のことをほ、本当の家族と言ってくれたことが嬉しくて・・・」


そう言うと、ミーシャはうわーっんとさらに泣き出してしまった。


早くに母が亡くなり、そして父も亡くし家族がいなくなってしまったミーシャに俺の言葉が胸に刺さったようだ


「ミーシャ、嘘じゃないぞ。俺はお前の事を本当の家族だと思ってる。お前が居なかったら俺の心は不安で壊れてしまってたかもしれない」


「あ、ありがとうございますぅ」


ぎゅっ~~うっ


「うゎ~んっ お父さーん」


と泣きながら俺を抱きしめるミーシャ


違うぞっ!と言いかけたがそっと抱きしめ返した。


「よう、盛り上がってるところ悪いんだが、なんでぼっちゃんが父親なんだ?前にもそんな事言ってたな?」


「ぼっちゃまのしゃべり方がお父さんそっくりなんです」


ヒック ヒック


「なんだそういうことか。それでも2歳の子供を抱きしめて父さん呼ばわりはどうかと思うぞ」


呆れた顔でミーシャを見るダン。


「そろそろ泣き止んだか?じゃあぼっちゃん、剣の稽古に向かうぞ」


ミーシャが落ち着き出したのを見計らってダンが動きだした。


「ミーシャ、剣の稽古に行ってくるよ」


「はい、スミマセンでした。行ってらっしゃいませ」


ミーシャを残してダンと森へ出掛けた。



「なぁ、ダン。ジョンとベントの稽古見たことあるんだよな?」


「たまに見てるぞ」


「ジョンの方が圧倒的に強いじゃない?」


「そうだな」


「1年違うとはいえ、同じ稽古をしていて結構差が出るものなの?」


「まぁ、朝は同じ稽古してても、その後の稽古が同じとは限らんだろ?」


ん?


「それぞれ自分でも稽古してると思うぞ。そうでなきゃあの歳であそこまで剣は振れん」


「そうなんだ」


「ジョンとベントの剣は力強さとスピード以外に何が違うかわかるか?」


「あぁ、ジョンは綺麗に真っ直ぐ振れてるけど、ベントは少しぶれるね」


「ほう、そこまで見えるんだな」


「何となくだけどね」


そこまで話すと森の広場に着いた



「さっき言ってたことの答え合わせをやろう」


答え合わせ?


「まずは自分で剣を振って隙間に通してくれ」


「よし!今日こそやってやる」


エイっ コツン

エイっ コツン

エイっ・・・


やっぱり何度やっても通らない。初日と違って時々隙間に剣先が入るものの完全に通ることはない


「難しいだろ?」


「うん、何度やっても出来る気がしてこなくなった」


「1日や2日で出来るようなもんでもないぞ。ただスジはめちゃくちゃいいぞ」


「え?そんな気を使わなくてもいいよ・・・」


出来て無いうちに褒められても嬉しくないのだ。


「いや、世辞じゃねぇ。まだ一度も剣折れてないだろ?」


「俺の力じゃ折れたりしないよ」


「この剣は特別製だと言っただろ?変に当てると折れるように作ってあるんだよ」


ほれ、と何本もの予備の剣を見せるダン


「ポキポキと折ると思ってたから予備をたくさん作ってあったが、こんなにいらなかったな」


とカッカッカっと笑う


「じゃあ、どうして通らないんだ?」


「ぼっちゃんは、どんな気持ちで剣を振ってる?」


「そりゃ、剣を通してやると思って振ってるよ」


「だよな? 実はな、剣が隙間に通ろうが通らまいがどっちでもいいんだ」


は!?


「隙間に剣通してみろって言ったじゃないか」


「いいから、いいから。剣は隙間に通さなくてもいい。ただ真っ直ぐ振り下ろすことだけしてみてくれ。剣が折れてもいいぞ、予備はいっぱいあるからな」


カッカッカ


なんだよ? 訳がわからんぞ。


まぁ、いいか。振り下ろすだけ、振り下ろすだけ・・・



シュパッ



あれ!?今隙間に通った?


「出来たじゃねーか」


「え?今隙間に通ったの?空振りじゃなくて?」


「あぁ、綺麗に振り抜けてたぞ。見事なもんだ驚いたぞ」


「あんなに振ってもまったく出来なかったのになんで??」


「別に隙間はどうでもいい、振り抜くだけと言われて余計な力抜けただろ?」


確かに。


「上手くやってやろうとか良いところ見せようとか、剣を振るのに余計な感情が入ると剣がぶれるんだよ」



「これが答え合わせだ。森に来るときにベントの剣がぶれる理由を知りたがってたろ?」


あぁ、なるほど。


「ベントは他のことや人の事がすごく気になるタイプだろ?それが剣によく出てるんだ」


「そっかぁ、剣って心の鏡みたいだね」


「お、さすがだなぁぼっちゃん。その通りだ剣は心を表すんだよ。誰かにその言葉聞いたことあるのか?」


「いや、そう思っただけで誰かに聞いた訳じゃないよ」


「そうか、剣を振り始めてすぐにそこに行き着いたか。さすがはドワンのおやっさんが魔剣を渡すだけのことがあるな」


ベタ褒めされて照れ臭くなった俺はその後もシュパッシュパッっと隙間に剣を通し続けたのだった。

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