第26話心を駆け巡る言葉

「ぼっちゃま、1度見ただけで治癒魔法を・・・」


「出来ちゃったみたいだね」


「やっぱり神様の使徒・・・」


「違うって、母さんの血を引いてるからじゃないかな? なんか聖女様って呼ばれてるみたいだし」


「そ、それでもすっごいです」


「まぁ、使えるってもこれくらいの小さい傷しか治せないと思うよ」


「ぼっちゃまは本当に何でもすぐに出来てしまいますねぇ。ホントにホントに・・・」


褒めちぎりながら潤んだ目のミーシャに見つめられ、なんか照れ臭くていたたまれない


コンコン ガチャ


「おーい、そろそろ稽古に行こうか?」


助かった。ダンが入って来た。


「あ、ダンさん。もうそんな時間なんですね。では、ぼっちゃまを宜しくお願いします」


「おう、分かった。さ、ぼっちゃん行くぞ」


ひょいっとダンに抱き上げられる。ミーシャは家の仕事があるので、稽古はダンと二人だ。


朝稽古をする庭に向かわず、大通りを西側に向かって歩き出す。


「どこ行くの?」


「他に人がいたらやりにくいだろ?こんな小さい子どもに何させてんだ?とか俺が怒られちまうわ」


それもそうか。


「でもしばらくはダンが剣を扱うところを見るだけなんじゃないの?」


「朝、アーノルド様の剣さばきを見て凄いと思っただろ?俺とやる稽古は実際にやってみることだ。自分で剣振ってみると、アーノルド様の凄さがもっとわかるぞ」


「そうなんだ」


「ということで街の外まで出て人目のつかないとこへ行くぞ」


そう言われて街の外まで出た。


おぉ、草原が広がっていてその先には森が見える。


「あっちの森はまだ危ないから、こっちの近くの森だ。街に近い分魔物も小さいのしかいないし、薬草なんかも刈り尽くされているから人もほとんど来ないしな。稽古にはうってつけだ」


その森に入り少し歩くとちょっとした広場が見えてきた。


「よし、着いたぞ。早速稽古を・・・と言う前に一つ約束をしてくれ」


「約束?」


「あぁ、俺かアーノルド様が見ていない所で剣の練習をするのは禁止だ」


「危ないから?」


「それもあるが、基本が固まっていないときの練習は無駄というか、かえって下手になることが多いんだ」


「どういうこと?」


「実際に体感した方がいいだろ。ほら、この木剣を使え」


草むらに隠してあった木剣を渡される。昨日ダンが作ってくれていたようだ。刃渡り30cm程でやけに幅広の剣だ。


「変わった形の剣だね!?」


「あぁ、正しく剣を扱えるようになるための特別製だ」


「正しく扱うため?」


「そうだ。剣ってのは真っ直ぐに振れないと斬れるもんも斬れなくなるし、下手すりゃ折れる」


「そりゃそうだね」


「理屈で分かっていても真っ直ぐ剣を振るのは難しいんだ。幅広くしてあるのは自分が真っ直ぐに剣が振れてないことを自覚するためのもんだ」


「どういうこと?」


「自分ではな、真っ直ぐに振りおろしたつもりでも真っ直ぐに振れてないってことだ」


???


「口で言っても解んないだろ?ちょっとやって見せるから、同じようにしてみろ」


そういうと丸太を二つ並べて置いてある前に移動する。

丸太と丸太の間には剣が通る程の隙間が開いている。


「この丸太の前に立ってな、剣を上段に構えて・・・フンッ」


シュパッ


「ほら、剣が真っ直ぐに振れたら丸太には当たらんのだ。丸太に当たると剣は振り下ろせないからすぐに分かる」


へぇ、わざわざこんなの用意してくれてたんだ。


「じゃ、試しにやってみろ。真っ直ぐ剣を振り下ろすだけだ。簡単だろ? 初めっからスピード上げなくてもいいぞ。ゆっくりでいいから真っ直ぐ振り下ろす事だけを考えてやってみてくれ」


「へっへ~、簡単簡単!!」


丸太の前に立って上段に構える。


こうやってみると隙間狭いな。ほんと剣ギリギリだ。


「えいっ!」


コツン


「あ!?」


「ほら隙間にすら入ってないぞ」


クソっ!


えいっ! コツン、えいっ!コツン

えいっ!コツン、えいっ!コツン


はぁはぁっ、何度やっても丸太に当たる。


「カッカッカ!簡単そうに見えて難しいだろ? 隙間の少し上からゆっくり通してみろ」


これくらいなら出来る馬鹿にすんな


隙間に刃先を合わせてゆっくり振り下ろす・・・


ぐっ


あ、剣が途中で引っ掛かった


「剣の面が丸太に当たるだろ? ゆっくりでも真っ直ぐ振れてない証拠だ」


何これ?剣ってめっちゃ難しいじゃん


「な、早く強くなりたいからって見よう見まねで必死に剣を振る奴が冒険者には多くてな、努力は認めるが剣筋がめちゃくちゃなんだよ。そういうやつは中々強くなれんし、なまじ力だけ強くなるから剣もしょっちゅう折る」


なるほど


「これが一人で練習するのを禁止する理由だ。変な癖が付いたらなかなか直らんしな」


「分かったよ。一人で練習はしない」


「よし、いい子だ。基本動作の稽古道具をいくつか用意してあるから、全部完璧に出来るようになったら、自分で練習していいぞ」


そう言われて周りを見ると、縦切り以外にも横切り、右斜め、左手斜めに隙間が開けられた丸太が並んでいる。


「よーし、すぐに全部出来るようになってやるぞ」


「カッカッカ、その意気だ。ドワンのおやっさんに見込まれた才能を見せてくれ」


よっし!やるぞ!








「そろそろ帰るぞ!」


「は、はひ・・・」


その後、木剣を振れども振れども、一度も剣が隙間を通ることが無かった。


心の中に「ぼっちゃまは本当に何でもすぐに出来てしまいますねぇ」と言うミーシャの言葉が虚しく駆け巡っていたのだった。

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